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ディアボロの証言

 召喚陣が眩い光を収め燃え尽きた。その中心には十五、六の男女二人が膝立ちでいる。

 やはり失敗したか、とディアボロは思った。

 王の大叔父ぐらいに当たるロジニア公が、勝手に起動させた魔方陣は、まだ未完成だった。そのことをここにいる全員が知っていたが、王族の権威を振りかざして動かさせたのだ。

 黒髪、黒瞳はめずらしくも無いが、二人とも見たことも無い服装をしていた。傍らにはなぜか書物が積み上げられており、少年の方は武器らしき木の棒を持っている。

 ああ、こりゃ責任問題だな、と人事のように思った。

 ロジニア失脚しないかな~。

 したら嬉しいな~。しっきゃく、しっきゃくと節をつけて心の中で思う。

「おまえ達はなにものだ! なぜリリー様がいるべきところにいる!」

 ロジニア公が喚いた。失敗したからに決まってんだろ?

「リリー様ではないぞ」

「失敗か」

「無理矢理未完成のものを動かしたからな」

 兵士たちが騒ぐ、いまさらだ。

 二人はなにやらこそこそとしゃべっていたが、言葉が分からない。どうやらナリスの言っていたように異世界とやらに繋がっていたようだ。

「なにをしゃべっている! 貴様ら敵国の間諜か!」

 ロジニア公が少女のほうの肩をつかんで振り向かせた。その顔を見てディアボロも少し驚いた。

(リリー様に似てる?)

「む、どこかで見た顔だな。どこの国のものだ? 素直に言わねば痛い目を見るぞ」

 どこかって、この国だよ。髪型や服装はともかく、顔がリリー様に生き写しじゃねーか。肩までしかない袖とか、膝ぐらいまでしかない丈ってあり得ねえけど。

 少女が何事か叫んだ。

「~~~~~~」

 やはり分からない。

「この! 痛い目を見せてやるわ!」

 ロジニア公が少女の服に手をかけた。

「~~~~」

「~~~~!」

 少年の方がかばうように割って入った。まあ、女が辱められそうなら当然の行動ではあるが、これだけの兵士に囲まれながら、なかなかの気概である。短く切られた髪など奇異だが、よく見れば男女の差があるもののよく似た顔をしている。血縁かなにかだろう。

「わしに逆らうか! 衛兵、こやつを始末せい!」

 兵士の何人かが剣を抜き少年に対峙した。とめようかとも思ったのだが、少年も持っていた棒を構えた。が、棒と剣では勝負は見えている──ただ、少年の構えは見たことが無いし、棒もどうやら意図的に形が整えられている。稽古の時に使う木の模造刀のようなものかもしれない。

 ディアボロは少しだけ興味がわいた。

 雄叫びをあげた兵士が切りかかり──少年はすべるような足取りで持っていた棒を喉に突き込むように前に出す。

 ディアボロは目を見開いた。見たことも無い技だった。

 一人が喉を押さえて悶絶し──もう一人が防具の隙間を棒で突きこまれ、腹を押さえて倒れた。

 間違いなく意図してやっている。

 考えてみれば振りかぶるより直線的な動きの方が早い。理にかなった攻撃である。足さばきも変わっている。

(異国の剣術か……)

 面白いと思う。どのようなものか確かめてみたい。

「なにをしている! ディアボロ、こやつを討ち取れ!」

 指名されてディアボロは肩をすくめた。残念だと思う。見たところ相手は十五、六。まだ子供だ。このまま精進し大人になったらどれほどの腕になっただろう。異国の剣術といい、さぞ手ごたえのある相手になっただろうに。いまここで倒してしまうのは、本当にもったいない。

 ディアボロは剣を抜いた。

 少年も棒の先をディアボロに向けた。体の中心あたりに棒をまっすぐに構えディアボロを見据える。いい目だ。おそらくは実戦を体験したことも無いだろうに、こんな絶対的な危機に臆することなく立ち向かう──実に惜しい。

 だが、負けてやるつもりなどディアボロには無かった。

「なにをしているのですか! やめなさい! わたしの研究室ですよ!」

 この部屋の主宮廷魔術師のナリスの声が響いた。慌てて振り向くと兵士の人垣を押しやり部屋に入ってきたところだ。

 ナリスが目を見開き二人の異邦人とその足元を見た。

「あああああ! わ、わたしの召喚陣があああ!」

 走りよって陣の状態を確かめ、絶望的な状態だったのかさめざめと泣き出した。

 きっとロジニア公を睨み涙ながらに抗議した。

「ロジニア公! これはいったいどういうことですか!」

「いや、その」

 ばつが悪そうに顔を背ける。

「なぜ、わたしの召喚陣が崩壊しており、見知らぬ男女がいて、よりによって貴重な魔法の品があるわたしの研究室で立ち回りが行われているのですかー!」

 回りの品物は壊していないはずだったが、怒りのオーラが目に見えるようだった。おさえきれない感情の発露が魔力となって火花を散らしている。

 いやあ、怒るよな。三ヶ月かけて調査研究した召喚陣がちょっと目をはなした隙におしゃかだ。

「ナリス殿、魔法が洩れてるぞ、おさえてくれ」

「ディアボロどの! なにがあったのか説明!」

 びっと指差し指名されてしまったディアボロは仕方なく説明した。

「あ~、突然ロジニア公がやってこられて、召喚陣を起動させろと強要なさいました。まだ未完成ですので、いま動かしたらどうなるか分からないと進言したんですが、王族の血に連なるものの権威を振りかざしまして起動させたと」

「とめなさい!」

「俺にどうしろと? で、見事に失敗。関係ないこの二人を召喚しちまったようです」

「で、この高価で貴重な品物に囲まれたところで暴れているのはなぜですか? こととしだいによっては」

 バチバチと火花と雷光が洩れ出る。魔力、洩れてますぜ。

「いやぁ、宮仕えなもんで、お偉いさんに戦えと言われれば、やるしかないんで」

 必殺責任転換。

「先に手を出したのは?」

「文字通りロジニア公です。婦女子の服に」

 しれっとディアボロはこたえた。

 ぎっとナリスがロジニア公を睨んだ。

「こ、こちらの質問に素直に答えぬやつらが悪いのじゃ!」

「ああ、どうやら言葉が通じないようですぜ。よっぽど異国からきたんですなぁ」

 ロジニア公の必死の言い訳を一言で叩き潰したディアボロだった。

「王命によって造っていた召喚陣を壊した責任は後ほど。こちらのお二人に償いをしなければなりません」

 王命をわざと強調し、ナリスが召喚された二人に歩み寄って言った。

 これでロジニア公が失脚すればいいな~と思うディアボロだった。

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