不思議の国 Ⅴ-イカレタお茶会‘-
-ホワイトラビット-
彼の望んだタイミングではなかったであろう。
彼の敵を助けるために彼の名前を叫ぶ。
その声に反応するように懐中時計がから白い光が漏れ始める。
するとその光が足へと集まりブーツのように覆う。
その足で力いっぱい地面を蹴る。
予想を超えた力に意識が置いて行かれる。
50メートルはあったはずが一瞬で埋まりすぐ目の前にアリスが現れる。
早すぎる。
というか怖すぎる。
なんとかアリスを掴み抱えるとさらに地面を蹴り飛ばし化け物を置き去りに場から離脱する。
「このまま離れよう。しっかり捕まって。」
そういうとアリスが抱き着くように寄りかかる。
アリスの片手に握られた大剣の重みが背中にかかる。
重い。
こんなものを振り回しているのかこの細い腕で。
重さに押しつぶされないように、少女を落とさないように渾身の力を込めて体を支える。
そして、その速度に怯えながら駆け抜ける。
闇の中を先へ、先へと。
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「ねえ、もう離れていいんじゃないかな?」
白い光が消え速度が落ちたところで足を止め休憩を取っていた。
毒を受けていたはずのアリスの顔色はだいぶ良くなっており、むしろさっきよりも血色がよく見えるくらいだ。
「ええ、だって私病人だし~。あんまり身体を冷やさないほうがいいと思うな~。」
アリスが再び体を寄せると重みを感じる。
正直言うとツライ。
何が辛いかというと腕が痛い。
先ほどまでアリスと大剣を支えていた腕は疲労で限界となりもたれ掛かるアリスを支えるだけで悲鳴をあげそうになる。
足の方は白い光のおかげか疲労が一切なく今からでも走れそうだ。
しかし不思議だ。
夢の中だというのに疲労感を感じたのは初めてのことだ。
いや、むしろ夢から覚めたら覚えていないだけでいつも疲労を感じてるのだろうか。
「でも、アリス。これからどうするの?」
「うーん、ひとまずお茶会の邪魔しに行こうかな。あいつらの中にいるかもしれないし。殺さなきゃ。」
胸元で甘えながらかわいい声で恐ろしいことを言う。
やはり助けたのは早まっただろうか。
「どうしても殺さなきゃダメなの?」
「うん。改めて確信したよ。このままじゃダメなんだよ。もう戻れない。」
先ほどまでよりも力強く、確信を持ってアリスが答える。
さっきと何が変わったのだろうか?
迷いのない瞳が見つめてくる。
「そういえば白うさぎさんとの待ち合わせ場所だ。帽子屋のところだよね?」
「うん、そうだよ。ならちょうどいいね。目的地決定。でも、ちょっと心配だなーあいつら変態の集まりだから油断しないでね。食べられちゃうよ。」
食べられる?
そんな凶暴なキャラクターたちだっただろうか?
いや、確かに変態っぽいキャラだった気がする。
だとするとこの場合は別の意味だろうか。
先が不安になりながらため息をつく。
いつになったらこの夢は覚めるんだろうか・・・。
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「あ、ドードーだ。お昼ごはんにしよっか?」
いい笑顔で指さしながらアリスがほほ笑む。
食べるってあれを?
指さされたドードーはしまったというような表情で今にも逃げ出そうとしている。
「動いた瞬間に斬るよ。カイは煮るのと焼くのどっちが好き?」
「どっちにしたって殺す気じゃないかー!!」
涙を流しながらドードが地面に伏して泣き叫ぶ。
まあ、誰だって殺されたくない。
しかも、自分をどう食べるかを目の前で話されるんだ。
泣きたくもなるだろう。
「帽子屋もうすぐなんでしょ?別に今食べなくてもいいんじゃない?」
「そう?ドードーおいしいんだけどなあ。まあ、カイがそういうならいいか。じゃあドードー、私たちを運びなさい。」
「嫌だよ。アリスの剣めちゃくちゃ重いんだよ?更に2人も載せるなんてごめんだ・・・」
言い終わる前にアリスの剣がくちばしの前を横切る。
「首なくてもいいかな?うるさいよね?」
「どうぞお乗りください。。。」
涙を流しながらドードが地面に膝をつく。
なんだかかわいそうになってくる。
トボトボと歩きながら1時間もすると大きな家が見えてきた。とても広い庭には花が咲き乱れ庭先には何人かがテーブルを囲んでいるのが見える。
「おや、お客さんかな?ああ、アリスじゃないか。暴れまわってるらしいね。元気なのはいいことだ。おや、そちらの君はどちら様だい?」
長い帽子をかぶった男が尋ねる。
「カイよ。マッドハッター。いかれ帽子屋さん。私たちお腹空いてるんだけどお茶を頂けるかしら。」
アリスが割って入り、代わりに紹介する。
すると、テーブルに寝伏しながら三月ウサギが答える。
「残念残念。満員満員。暴れん坊アリスの席はないよ。どうぞおかえりくださいな。」
「黙りなさい。マーチ。どうみても席ならあるじゃない。いい加減なこと言うとその首飛ばすわよ。」
アリスが大剣を地面へと突き立てる。
その音にマーチは怯えたのか耳が空に向かって起立していた。
「踏む、君は人間みたいだね。いやあ楽しみだ。さあさあ、座りたまえ。よかったら屋敷の中で少し休んでいかないかね?」
帽子屋が腰に手を回してくる。
思わぜ背筋がぞっとする。
舐めまわすような目つきにもぞもぞとなでまわしてくる腰の手。
ああ、こいつは危険な奴だ。
「マッド、その手を今すぐ離さないと斬るわよ?」
「おっと、これは失礼。アリス嬢のお手付きだったか。はっはっは。アリスも色を覚えるころだもんね。ベッド使うかい?」
アリスの剣が空を斬る。
そこにいたはずの帽子屋の姿はなかった。
「おお、怖い怖い。口は災いのもとだね。さあ、席に座りなよ。」
いつの間に移動したのか帽子屋は席に座りお茶を啜っている。
「全く相変わらずのイカレ野郎ね。」
アリスが乱暴に席に着くと給仕が即座にお茶をカップに注ぎだす。
その横に腰かけると同じようにカップを差し出される。
紅茶はとてもおいしく疲れた体が癒される。
「さて、せっかくお客さんがいるんだなぞなぞを始めようか?」
「なぞなぞですか?」
「また?まあいいわ。あんたなぞなぞなら嘘つかないしね。」
「じゃあ、まずはこの帽子屋からだね。私はだれでしょう?」
は?
何を言ってるんだろうこの人は。
答えと同時に問題を出している。
「帽子屋・・・ですよね?」
「正解。ふむ、馬鹿ではないようだ。では、続けて問題だ。君はだれだい?」
「カイです。」
「正解正解。自分のことだもんね。平和なのに武器があります。なぜ?」
「えっと、自衛のため?」
「ぶっぶー不正解。こんなのもわからないのかい?アリス君は分かるよね。」
「殺すためよ。」
「正解。まったくこんなサービス問題を。」
これはなぞなぞなのだろうか?
ただの問いかけに聞こえる。
「さて、更に聞こうか。君は人間だ。なぜこのワンダーランドへ?何をしに?」
それはむしろ自分が聞きたい。
それ以前に夢を見た理由なんて問われても答えようがない。
「そんな質問答えがないよ。夢を見る理由なんてわからない。」
「夢?ははは、夢か。君はこれが夢だと思ってるのかい?アリス聞いたかい?夢だってさ。」
アリスの方を見るとアリスも驚いた顔をしている。
「カイ、これ夢だと思っていたの?」
なんだこの反応は?
夢の世界だろう?
それ以外にこの世界を説明しようがない。
「夢じゃないっていうの?」
「ううん、これは現実だよ。カイのいる世界とは別のワンダーランドっていう現実だよ。ある意味では夢って表現は正しいのかもしれないけど。夢じゃない。この世界で死ねばカイは死ぬよ。だって、カイは人間だから。ワンダーランドの住人じゃないからね。私たちには役割があるから物語が終われば死んだとしても蘇るけど外から来たカイは蘇らない。うーん、そもそもどうしてカイはここに来たんだろう。ここに来る前に何かしてた?」
特に何もした覚えがない。
確か今日は外に出かけて本屋に行って、でも何も買わなくて。
あれ、そのあと何をしたっけ?確か公園に行って・・・そこからの記憶がない。
誰かに会って話をした気がする。
だれだ?
「じゃあ、これは夢の中のできごとじゃないっていうの?そんなの信じれないよ。」
「ははは、ははは、夢だってさ。バカだねえ。そんな認識で今のワンダーランドを歩き回るなんて馬鹿なんじゃ・・・」
机と下からマーチが両断される。
その死体にアリスが近寄ると切断面から血を付け、こちらに歩み寄ると血に濡れた手を頬に当ててくる。
その手についた生温く、さっきまで動いていた生命のぬくもりを伝える。
「この温もりが夢に思える。」
リアルな夢。
今までみたどんなリアルな夢でも感じることはないであろう温もり。
これが現実?
異世界というやつなのだろうか?
理解が追い付かない。
「ああ、テーブルが・・・お茶会が台無しじゃないかアリス。」
「お茶会は終わりよ。元々、特異点探しに殺して回ってたところだし。一応聞こうかな?ねえ、マッドハッターあなたは特異点が誰か知ってる?」
「ははは、それはなぞなぞじゃないなー。じゃあ、ヒントをあげよう。不思議の国の始まりはなんだい?ぼくが教えたのは内緒だよ。みんなで内緒にしてたんだから。」
不思議の国の始まり?
女王ではなかったと言っていた。
他に不思議の国を作った人物がいるのだろうか?
「不思議の国の始まり?だから前回、女王を殺したんじゃない。でも、外れだったわ。」
「はっはっは。アリスは馬鹿だなー。そもそも勘違いしてるんだよ。まあ、これ以上考えなくていいよ。口を滑らせたからね。あと始末しなくちゃ。この帽子屋が君を止めよう。」
帽子を投げ捨てるとマッドハッターの体が膨張してゆく。
その姿はみるみると膨らみ巨大な化け物へと変貌していく。
「さあ、早く終わらせてお茶会を再開しようか。」
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ルール②特異点が死なない限り、物語はいつも通り繰り返す。物語を繰り返す度に殺された登場人物たちは蘇る。
お読みいただきありがとうございます。