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第二十八話 ズナーク島戦2

ナチャーロ艦隊旗艦 空母「クニャージ・クラソートキン」


ゴラン・チェレプニン中将は瞠目し、艦橋の指揮官席に陣取っている。彼は皇帝から、中央海艦隊の総指揮官を任されていた。帝国が三つ保有する大艦隊の内の一つを操り、皇帝の望む全ての土地を制圧し、また領土を守護する大任である。貴族出身であるが故に頑固な態度で有名だったが、過去に起きた紛争では抜群の戦功を立て、その優秀さが証明されている。


「……本当に宜しかったのですか。」


決戦に備えてどっしりと構えるチェレプニンとは対照的に、副司令コスタヤ・ベリヤは落ち着かない様子だった。チェレプニンを盲信している一部を除けば、大半の参謀も同じような雰囲気である。


「何を恐れている。我々の仕事はここで敵を迎え撃ち、小賢しい東洋人の戦略を叩き潰すだけの事だ。成功すればパナスブランの亡霊どもは後ろ盾を失い、中央海は帝国の内海となるだろう。その為に忌々しい魔術師に空母を貸し与え、敵艦隊の合流を防いだのでは無いのか。」


馬鹿な敵の司令官は艦隊を二分してくれた。おかげで、敵と味方はほぼ同数。


「そうでは無く、艦隊を港から出した事ですよ!対空火器を使用するなら密集していた方が良いし、港を防衛するにせよ、元々の設備に戦艦や空母の火器が加わって断然有利でしょう。」


「……また、その話かね。今回の戦術は単に奇をてらったのではなく、入念な事前調査から立案した物なんだぞ。」


航空主兵論についてもだが、チェレプニンは自分の考えが中々理解されない事に悩んでいた。


「定刻です!」


参謀の一人が報告する。チェレプニンは鷹揚に頷き、低い声で告げた。


「作戦開始。モーリェ・ヴォルク全艦へ。行動を開始せよ。」






五カ国同盟軍A艦隊旗艦 戦艦「塔城」


「ヒョング司令。攻撃隊全機、発艦完了致しました。」


「うむ。敵影は?」


「今のところ、ありません。」


部下が生真面目に答えるのを聞き、ヒョングは心中で「だろうな」と呟いた。あったら、真っ先に自分へ報告が来るはずだ。しかし、彼はどうにも落ち着かなかった。


(当初の作戦通り、敵艦隊を洋上におびき寄せたは良いが……どうも落ち着かんな。今回のナチャーロ軍の動きからするに、我が艦隊の動きと意図には薄々感づいていたのだろう。

それなのに、我々の奇襲を知り、何故敵艦隊は港を出た?航空機での攻撃など所詮は補助的な物に過ぎん。戦艦でなくては、同じ戦艦へトドメをさせんのだ。ズナーク島は強力な海岸砲を備えているから我が艦隊は近寄れず、従って戦艦同士の撃ち合いもできん。

つまり、港に閉じこもっていれば防御側にとって圧倒的に有利なはず。向こうがB艦隊を本隊と誤認し、攻撃を加えようとしているのならば兎も角……防御時に港を出る理由は?)


ヒョングはたいして期待していない航空部隊を見送りつつ、自慢の戦艦の主砲塔で心を落ち着かせる。


(気掛かりだが、まあいい……ハエ共に爆弾を落とされ、決戦前に大事な艦が傷付いては敵わんからな。)


「対空警戒を強化せよ!敵は近いぞ!」





海中 ナチャーロ海軍潜水艦部隊「モーリェ・ヴォルク」


「よし、潜望鏡降ろせ。雷撃深度まで浮上。」


「了解。雷撃深度まで浮上します。」


艦長が小声で命令を発し、部下が復唱。乗員たちは流れる水のように各々の作業を開始した。ナチャーロ海軍でも唯一無二の練度を誇る旗艦「S455」の乗員に、無駄な動きは見られない。ここは海の底、一人が仕事を怠れば、任務失敗どころか艦の沈没すらあり得るのだ。それに今回は状況が特殊で、より一層精鋭が求められた。


「聴音手、僚艦の様子は?」


「はっ。「S22」「S161」「S162」は問題なく本艦に追随しております。ただ、先日「機関不調」と伝えてきた「S311」はかなり遅れている模様。」


「仕方無い、「S331」は置いて行こう。とにかく時間が惜しい。」


本来は単独で運用されるべき潜水艦を、水上艦のように複数で運用しようというのである。


(ったく、上も無茶を言いやがる。)


敵艦隊への奇襲攻撃。当然無線封鎖が必要だが、そうすると艦同士の連携が難しくなる。海中は絵具で塗ったような暗闇なので、窓から外を見る事もできなければ、手旗信号も使えない。頼れるのは僚艦と敵艦の機関音に耳を澄ませる聴音手のみ。


濁った音。バラストが放出され、艦が僅かに傾き、浮上を開始したのだ。船体が金属的な悲鳴を上げる。艦は古いが、兵もまた古い。


「やけに静かだが……敵艦隊に動きはあるか?」


「いえ、依然として隊列を保ったまま、直進を続けています。」


ろくに警戒していないらしい。


「旗艦と思われる「塔城」級戦艦を狙う。雷撃用意。」






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