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第二十七話 ズナーク島戦1

士気が崩壊するのに、さほど時間は掛からなかった。空母、戦艦がそれぞれ一隻ずつ失われたのは確かに痛手だが、この精強な艦隊なら十分に戦闘を行える。しかし、司令官ブラウナーの戦死は、彼のカリスマ性も有ってか、艦隊に強いショックを与えたのである。


統制を失ったB艦隊はバラバラに潰走し、ツァ環礁航空隊は殿として「巨人」を食い止めるハメになった。


「くそうっ、アイツを味方に近付けるな!降爆隊は全機突入!第一中隊、第二中隊は俺に続け!残りは掩護だ!」


ハオは叫び、母艦を沈めた古代兵器を睨み付ける。「光星」が鈴なりになって急降下するのに続き、彼は操縦桿を倒す。


「頼むぞ、上月!」


降爆隊を率いる指揮官機が、ハオの呼びかけに応えるようにして爆弾を投下した。上月に続く「光星」も、同じ進路で爆撃を加える。たちまち、「巨人」の上半身に全弾が命中した。黒煙を掻い潜り、戦闘機隊も機銃掃射を加える。振動で暴れる愛機をいなしつつ、ハオらはすぐさま離脱、再攻撃に移る。


が、


(やはり効果は無いか……いや、向こうがこちらの相手している分、足止めにはなっているはず。)


平気の面で進行する「巨人」と、団子になって全速力で逃げる味方との距離は確実に開きつつあった。


「降爆隊、ご苦労だった。帰投せよ。」


「シュトラッサ」は沈没したが、艦隊の空母が引き受けてくれるだろう。動きの鈍い「光星」は早めに下げ、戦闘機隊のみで食い止めるつもりだった。


「意見具申致します。隊長、我が隊には敵に背を向けて逃げる臆病者は居ません。補給を受け、再出撃させてください。」


しかし、上月は毅然として命令の変更を求めた。ハオはその言葉に、口元を僅かに吊り上げる。


(そうだ、俺には頼りになる部下が居る。足止めと言わず、すっ転ばせる勢いでやらなければ。)






ズナーク島近海、五カ国同盟軍A艦隊、聖堂空母「セイント・マキシム」


崇海軍やオッヘンバッハ海軍の空母に混じって、一際目立つ艦が一隻。周りの空母が短艇か何かに見え、崇ノ国の誇る戦艦「塔城」も、この空母の前ではまるで駆逐艦だった。


先程までの弛緩した空気とはかけ離れ、巨大空母は喧噪に包まれている。後部甲板に並べられた降爆や雷撃機は既に暖機を終え、戦闘機は格納庫で出撃を待っていた。乗員たちは気分の高揚を隠さず、いきいきと動いている。何せ、初の実戦だ。


「攻撃隊、発艦準備宜し。」


「了解。本艦は予定通り、他の航空部隊と連携し、敵艦隊を叩く。」


老艦長ヴィクトーは淡々と応じつつ、内心では周りと同じように闘志を燃やしていた。もう、退役まで幾らも無い。水兵から這い上がって艦長にまで上り詰めたが、これが最高階級になるだろう。長く軍に在籍しているが、さして有能でもなく、そんな彼に対する同僚(十数年近く年下)の目は冷たい。

年中港に引き籠っているだけ、半ば閑職のようだったこの職務に、彼は今まで絶望していた。しかし今回の作戦で、戦功を挙げる機会がやっと巡ってきたのである。


「オイゲン・デ・ソルド」の艦長と立場は違えど、ヴィクトーもはやる心を抑えられずにいた。


「増速開始、二十まで上げろ。艦首を風上に向ける。右舵三。」


「ヨーソロ。」


ゆっくりと動きを変える「セイント・マキシム」の動きは鈍い。


「それにしても、一時はどうなるかと思いましたよ。」


副長が、疲れた様子でそう言った。緊張を解すためだろう。ヴィクトーは長い付き合いからそう判断し、親しげな笑みを浮かべる。


「ああ。貴様の慌てふためく姿など、いつぶりかな。」


「同盟国経由の情報」で、ズナーク島に敵艦隊が不在だと分かり、偵察をやり直すハメになった。このタイミングでの出港、奇襲が露見したと見て間違い無い。一時は作戦が全て水泡に帰すかどうかという騒ぎだった。結局、外洋に整然と展開する敵艦隊を間もなく発見。港の破壊と並行し、これを撃破する事となった。


(敵の懐に飛び込むようで、気味が悪いが……。)


ヴィクトーは薄ら寒い思いだったが、艦の両舷に並べられた新型の対空兵器を思い出し、気を落ち着かせる。


マズルナズとオッヘンバッハが共同で数年かけて開発し、今日ようやく日の目を見る「VT信管」である。これは砲弾がレーダー波を発し、敵航空機を補足。直撃しなくても近くを通れば爆発する、砲手たちにとっては夢でも、パイロットたちにしてみれば悪夢のような兵器だ。これにより、今までの時限信管とは比べ物にならない命中精度を叩き出した。


「偵察機六号より詳細報告!敵は空母八、戦艦十三、重巡十七、軽巡二十、補助巡洋艦、その他多数!」


(一国でそれほどの大艦隊を……五カ国同盟の総戦力とほぼ同数ではないか。やはりナチャーロは化け物だな。)



艦隊決戦が、今まさに始まろうとしていた……。




















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