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第二十話 シウアン島戦1

時計の針が、午後零時を指した。

停戦期間、終了。ナチャーロと崇の戦闘は再開、全ての連合国、同盟国は互いに宣戦布告した。


「ついにか……。」


輸送機の内部で、一人の兵士が呟く。しかし、部隊を同じくする兵士達は誰一人それに答えず、握りしめた歩兵銃を見詰めていた。歯を鳴らす者、故郷へ想いを馳せる者、念仏を唱え続ける者……皆、己の運命を呪っていた。


「降下用意!!」


分隊長が叫び、機内の空気が張り詰める。後部の扉が開け放たれ、兵士達は自分らの死地を確認した。シウアン島。薄い雲の向こうに見える空飛ぶ島は幻想的でもあり、地獄への入り口のようでもあった。黄緑色の軍服を着た崇兵は、雑念を捨て一斉に立ち上がる。生への執着を絶ったその立ち姿は、鬼神のようであった。


「降下、開始!!」


鬨をつくり、彼ら空挺部隊の白い花々は、熱帯夜の空に咲き誇る。地上からは花火の代わりに高射砲弾が、スポットライトの代わりにサーチライトが送られた。





「味方、目標への上陸を開始!予定通りです!」


B艦隊旗艦「シュトラッサ」に響く、伝令兵の声。シウアン島の真下に展開した五カ国同盟連合艦隊は、所属する五隻の空母から輸送機を放ち、シウアン島への奇襲攻撃を行っていた。赫赫たる二列縦陣の中央。「シュトラッサ」を中心としたそれらの空母から、またもや海鷲が飛び立とうとしている。


増援の戦闘機隊だった。第一波攻撃隊の帰還前に飛び立ち、制空権の確保と地上部隊の掩護を行うのである。機種は崇軍の「蛟龍」が大多数だが、オッヘンバッハの「FE99」も交じっていた。


「先行した崇軍空挺部隊、上陸地点に仮拠点確保。被害軽微。」


「第一波攻撃隊、飛行場への爆撃を完了。滑走路、施設の破壊を確認。味方の被害は十二機。」


「イヨマンテ隊、マズルナズ隊、オッヘンバッハ隊、上陸開始。モーネ隊から故障機、上陸見合わせ。」


「敵航空機部隊確認、艦隊へ向かってきます。帰還中の第一波攻撃隊と戦闘開始。」


「後続の上陸部隊、被害甚大。」


次々と送られてくる戦況報告。その内容に、司令官ブラウナー小将は不満げだった。


「思ったより味方の被害が大きい。奴ら、対応が早いな。」


ブラウナーがそう言うと、「シュトラッサ」艦長のシビス大佐が不敵な笑みを浮かべた。


「敵も、ある程度は予想していたのでしょうね。我々の任務は囮。できるだけ粘り、本隊の時間を稼ぎましょう。」


対空陣地と哨戒活動の様子から、ナチャーロ軍も攻撃に備え、準備を進めていた事が分かる。しかし、停戦期間終了と同時に大規模攻撃を仕掛けるとは、さすがに思わなかったらしい。


「……まあ、あの面倒な隠密活動にも、意味は有った訳だ。ズナーク島の敵艦隊は、出てきてくれるだろうか?」


ひっきりなしに偵察機を飛ばし、航空機や船舶を見れば変針し、スコールに紛れ、夜間は灯火を消し……その時の苦労が思い出された。


「ええ。ナチャーロ帝国は、伝統的に諜報を疎かにする国……これが本隊と信じ込み、誘い出されるはずです。」


「敵の大将はチェレプニン……相当の切れ者だ。用心しておこう。」


チェレプニンは、貴族将校が殆どのナチャーロ軍にしては珍しい、平民出身の将だった。周囲の無理解、差別の中でのし上がった実力は凄まじいものであり、同じ平民である水兵達からの信頼も篤い。希少な航空機主兵論者で、「戦艦など時代遅れであり、無用。全て空母に改造してしまえ」などの奇抜な発言が目立っていた。


「さて……囮といえど、二方面作戦に近いこの戦い。どう進めるかな。」


正直、この島を占領できたとして、ヒョング大将が喜ぶだけ。五カ国同盟軍にとっては僅かな利益にしかならないが……崇ノ国を西大陸の地上戦に参加させるには、それが条件である。故に、(本来の目的は囮なのに)手を抜く訳には行かなかった。


艦橋のすぐ傍を、「斑鳩」が通り過ぎる。


「奇妙な機体ですね。あだ名を付けるとしたら「長っ鼻」でしょうか?やはり、極東人の美的センスには難がある。」


シビスが小馬鹿にしたように吐き捨てた。


「仮にも、同盟国だ。そういった視点で考えるべきでは無い。」


不快そうな表情を浮かべるブラウナー。シビスは口を開きかけたが、そこから言葉が出る事は無かった。


「哨戒機十五番より、緊急入電!読み上げます――敵艦隊見ユ。航行序列、三列縦陣、小型空母三、巡洋艦二、補助巡洋艦十、給油艦一。上空ニ直掩戦闘機多数、我追尾ヲ受ケツツアリ。位置……」


本隊から敵出現の報告は無い。つまり、ズナーク島の艦隊とは別物である。


「別働隊……?ズナーク島に艦隊を集結させておいて、中途半端に艦隊をどこかの港に置いていたのか?どう考えても、怪しい。」


ブラウナーは躊躇した。奇襲を警戒しての事なら、戦力の少なさが気になる。強力な敵の前に小型空母が三隻では、わざわざ餌をくれてやるようなもの。大胆な作戦が売りのナチャーロ軍にしては、不可解な行動だった。


「十五番からの通信、途絶!撃墜された模様!……最期に、何か言いかけていましたが……。」


ともあれ、彼の選択肢は一つしか無い。


「第二波攻撃隊から、半数を引き抜け。敵機動部隊への攻撃に当てる。」







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