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第十七話 女王の訪問2

戦闘機二十機。随伴の降爆が十三機。護衛飛行艦三隻。


それに取り囲まれて悠然と飛行するのは、王室御召艦「セ・リータス」であった。


地上では盛大な歓声が上がり、人々は誇らしげに空を見上げる。純白の飛行艦は正に、王国復活の象徴。そして、崇ノ国の支配から解放されたという実感も、彼らの胸に沸き起こった。


「パナスブラン王国、万歳!」


誰かが叫ぶと、それは波紋のように辺りへ広がっていった。




「陛下、あと数分で着陸です。ベルトをお締め下さい。」


ノイスがそう言うと、座席に座るユーラシエが戸惑った声を上げる。


「あの……これ、一体どうなっているんでしょうか?」


「それは、片方の金具を……そうです、そちらをもう一方の金具へ。」


「成程。」


ユーラシエは飛行中、全てが珍しくてならない様子で、辺りをキョロキョロと眺めていた。何となく、落ち着かないのである。帝都からユーラ島へ飛んだ時は普通の旅客機。彼女にとって初めての空は、緊張するばかりで終わってしまった。それに比べ、この「セ・リータス」の内装の絢爛ぶりは、(当然だが)並大抵では無い。


個室が十室も用意されており、他にもバスルームやら寝室やら、小さなバーまで完備されていた。勿論備品は最高級で、革の張られた座席でさえユーラシエには眩しい。動力は客室から離れた場所に設置され、音は殆ど聞こえなかった。


「さて、本日の日程ですが。」


「……本当に、嫌なんですけど。」


何やら不満げな様子のユーラシエ。ノイスは心中で深々と溜息を吐くも、彼女の気持ちに共感できないでもない。


「甥にも、陛下は散々言っておりましたな。」


諦観のこもったノイスの様子に少し後悔するも、ユーラシエは強く主張した。


「私は戴冠して、日が浅すぎます。勉強は頑張っているつもりですが……正直、空の種族の歴史や地理とか、作法とか。まだよく分かりません。でも、そんな私についてきてくれる人達がいて……。」


ユーラシエは、視線を膝の上に落とした。セガンの用意したスピーチ用の原稿。見事な美文に仕上がっており、そこには空の種族への熱烈な愛と、王家の者としての覚悟が込められている。どの場面でどういった身振りをすべきか、という事まで細かく記されていた。


「……こんなの、私の本心じゃないです。これを臆面も無く人前で話せたら……大嘘つきじゃないですか。信じてくれている人を騙すなんて、したくありません。」


ノイスは思わず苦笑いする。やはりこの人は、女王なんかに向いていない。


「陛下。残念ですが指導者とは、そういうものです。国民とは友達になれない。分かりますな?時に欺き、時に切り捨て……そうする必要が、今後どうしても出てきましょう。その場面で冷酷な決断をせねばならないのが、陛下なのです。」


「私が。」


「そうです。先王……陛下のお父様ですな。あのお方も、始めはそれでお悩みになられた。自分の手が、どんどん穢れて行くのですから。そして、国王の権力は絶大です。それだけに、使い道を誤れば多大な犠牲を生む。……先王は、後悔する時間も無かった。」


ユーラシエは、亡き父に思いを馳せてみた。自分に両親が居て、遊びから帰ったら二人が暖かく迎えてくれるような……そんな毎日を送っていたら。

しかし、それを想像するのは困難だった。そんな時、彼女を出迎えたのは冷たい目の「先生」と、カビ臭い牢屋のような集団部屋だけであった。


「今陛下が入りこまれているのは、指先一つで何百人もの血が流れる……そんな世界ですぞ。陛下はお優しい。ですが、それでは戦争などやっていられません。」


ノイスは断言する。


「……私は、その覚悟ができているのでしょうか。」


「それは、ご自身で判断なさってください。」


ユーラシエは、手元の原稿をもう一度見やった。




「セ・リータス」の高度が下がるにつれ、人々の歓声は大きくなる。





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