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第十五話 パナスブラン

新生パナスブラン王国、首都スバル。


「嫌ですよ、そんなの……まるでお芝居じゃないですか!」


「ですが、どうしても必要な事です。今の我々には、そのお芝居がね。」


仮の王宮は元々役所で、外観に華やかさの欠片も無い。それでもポールに掲げられた王家の紋章は、空飛ぶ種族の威厳を示している。


そんな建物の内側、「謁見の間」。

ユーラシエと宣伝相セガンが、押し問答を繰り広げている。その横で溜息を吐くのはノイスであった。最近、彼は頭痛にも悩まされている。この「謁見の間」で、ユーラシエは客人に対応していた。とは言っても、彼女の仕事は今のところそれしか無い。


「セガン殿、お止め下さい。陛下も執務でお忙しいでしょうし……。」


「何を仰います。執務でお忙しいのは、ノイス殿の方では?」


セガンはノイスの甥っ子に当り、それ故の馴れ馴れしい態度であった。……しかし、女王の目前で。これもノイスの悩みの種である。


「……ですが、ユーラシエ様の振る舞いが女王たる者として相応しいとは言い難い、というのもありますな。」


「え?」


キョトンとした顔をするユーラシエ。


ノイスはまた、溜息を吐いた。

王室の者として教育を受けてきたのなら兎も角……ユーラシエはついこの間まで、普通の市民として育ってきたのである。女王としての気品だのは求めようも無いし、第一余りに幼すぎる。


「まあ、それが却って国民の人気を高める要因になっているのですが。」


セガンが口を挟む。

実際その通りだった。女王としての務めを果たす傍ら、農家の子供達と仲良く遊ぶ姿などが新聞に掲載され、その姿勢は良くも悪くも評価されている。「庶民的な女王」という文字が、紙面を飾る事もあった。


「ですが、それでは不足です。女王たる者、国民に慕われるばかりで無く、統治者たる威厳をみせねばならないのですから。……いえ、要は「この人に付いて行きたい」……という気持ちですかね。」


この宣伝相は、旧王国時代はその軽薄な態度から避けられ、出世の道を踏み外していた。


「それで、あのお芝居なんですか?」


矢張り不満げなユーラシエは、頬を膨らませる。


「そうですとも。ですから是非、陛下はカズール島へ……。」







カズール島。

ユーラ島、マヴル島と共に、新生パナスブランを構成する空飛ぶ島である。東西約九キロメートル、南北約五キロメートル。人口は千人程で、戦前は温泉目当てに多くの観光客が訪れていた。


そんなこの島に、一つだけ存在する飛行場。軍と民間が共用しており、始終賑やかな場所である。新生パナスブラン空軍……ひと月前まで崇空軍所属であった傭兵集団……は、そこで「空の種族」操縦士見習いの教官をさせられている。今日も駐機場に総勢百六十人が集い、野外教室が行われていた。


名目は旧王国空軍と新生王国空軍の意見交換。しかし、旧王国側は飛行艦出の者が多数を占め、飛行機に関しては新生王国軍の方が先輩。自然、そのような形になっていた。更に、旧王国軍は戦争でベテラン搭乗員が消耗し、今ここに居るのは召集に応じてきた若者のみである。使用する機体は、瑯郷連邦の「マグ87」降爆。


「何度言えば分かる!エルロンの操作は速度計の動きに注意せんと、失速の原因になるのだ!」


ガミガミ怒鳴り散らすこの元飛行将校のように、場馴れしていれば問題は無い。だが……。


「は、はい。急降下時、この機は複葉機ですので、ダイブ・ブレーキは……。」


しどろもどろになっているのは雄一である。そもそも彼は、「同僚」の面々から完全に浮いていた。厳しい選抜を潜り抜けた百名の搭乗員は、どれも歴戦の勇士といった面構え。彼らが「大会」で見せた飛行は見る者を熱狂させ、ノイスにとって喜ばしい結果を残している。

一方の雄一はというと、実戦は一応経験しているが、航空学校を出たばかりという事もあり、出撃回数は他より少ない。正直、基地で爆撃と飢えに震えていた経験の方が豊富であった。地獄のような戦場を生き延びた、とも言えるが。


ユーラシエからの手紙の内容は、敢えてここでは触れまい。雄一はそれを読み、大いに迷った。兎に角会って話を、と少なからず思い、その都度手紙の真摯な言葉に胸を締め付けられた。一体何がどうすれば、ユウが王族の末裔などという話に、とも思った。


(だけど僕は結局……ユウさんを止められないだろうな。それに、もうその積もりも無い。)


それでも、今の彼は迷っていなかった。新生空軍の一員として、彼女の身を支える事に。






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