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第十一話 世界情勢

唐突な空飛ぶ島々の独立。それは休戦の情報と共に、崇国民に驚きと当惑を持って迎えられた。崇ノ国は植民地を丸々喪う事になるし、中央海からの撤退は、実質シウアン島を諦めるに等しい。誰も、政府が何故それを援助するのか初め分からなかった。


それでもさして反発が起こらなかったのは、新生パナスブラン王国が崇ノ国の傀儡であり、資源採掘などの権益は崇ノ国が維持していたからだった。それに、女王の大衆小説じみた即位が伝わると、俄然人々は興味を引かれたのである。


「はあ……。」


そんな、期待の新興国の仮首都。東大陸に最も近い空飛ぶ島、ユーラ島の都市スバル。

宰相たるノイス・ハッタの溜息は、「宮殿」内の彼の私室に重く響いた。勿論、新生王国の山のような問題が原因である。独立から三週間が経とうとしていた。


こんな傍から見れば無茶苦茶な独立が、何故成り立ったか。それは二つの国の、大規模な資本提供や技術援助、その他諸々の救済があったから。


崇ノ国。彼の国には、新生王国の独立に際し、得する事が色々とある。

この国はハッキリ言うと、戦争にうんざりしていた。正確に言うと、それに投入される湯水のような金と、近代戦争のしんどさに。


崇ノ国は二百年前の独立戦争以来、格下のパナスブランとしか銃火を交えていない。その為、ナチャーロとの戦争でどの位カネがかかるか、全く想像がついていなかった。


ある上級将校は、「一か月で砲弾三百発くらいだろうから……。」と発言している。戦争が起きてみると、それは一日で消費する数だった。結果、崇ノ国の国庫は大変な状況となる。

更に、敵の強さ。東大陸では比類する者の無い超大国でも、井の中の蛙大海を知らず、自分より強大な文明との戦いは、勝手が違う物である。


特に苦しかったのは物量の差。崇ノ国は総動員令を出してまで航空機や戦車の生産に心血を注いでも、それはナチャーロ帝国「東征軍」に匹敵する程でしかない。


こんな話がある。

Gu6が戦場に現れた時、崇ノ国は慌てふためいた。開発中の「蛟龍」を試験打ち切りで実戦投入、しかも艦載機型初号機は空母の中で組み立て……という凄まじい事態になったのも、全ては国力の差。(尚、当然トラブルが続出した)

ナチャーロ帝国ならば、試験も試作初号機、二号機、三号機が余裕で続け、各地方の生産ラインをフル稼働すれば、数週間で完成品を輸送船に乗せる事ができる。


本気で渡り合えば、負けるのはこちら。しかし、同じ帝国主義を採る国……。


そんな国とは、崇ノ国としては関わりたくない。領土を巡って対立、常時一触即発の状態……なんて、それこそ最悪。ようやく、今回の戦争で気が付いた。


よし、マズルナズと手を組んで空飛ぶ島々を独立させよう。緩衝地帯を作ってやるのだ。その内自前の軍隊を持って、数千キロに渡る中央海をカバーしてくれれば、めっけもの……。しかし、空飛ぶ島の資源だって喉から手が出る程欲しいし、影響力も残して置きたい……。そんな理由で、多大に恩を売りつつ新生王国を承認したのだった。


では、マズルナズ宗旨国が新生王国を支援する理由は?……勿論、教義を本流に戻す為。更に彼らの視点から考えると、ナチャーロ=悪、マズルナズ=救世主という分かり易い構図を出現させ、大陸での権威を増す事にも繋がる。

現在、ナチャーロと同じ「聖なる土地の救済」を掲げるのはナチャーロの他五カ国。

マズルナズ側はオッヘンバッハ王国の他二カ国。その三国はマズルナズ正教会の言いなりに近く、属国扱いになっている。


さて、そんな四カ国が連合しても、どうしても逆らえないのがナチャーロ帝国。ならば、と思い切って東大陸の強豪と手を組む事にした。いくら超大国でも、これならば対抗できるだろう。……だが、肝心が劣勢になっている。


そこで、オッヘンバッハ「反乱軍」が騒ぎを起こし、圧力をかけて休戦に追いやったのである。ちなみに、「反乱軍」を「止めに入った」オッヘンバッハ兵を「故意に銃撃」したというのが、こじ付けに近いものの、正規兵突入の理由であった。


そしてこの五カ国が仲良く同盟の運びとなれば、新生パナスブラン王国は何ものにも邪魔されず、成立の運びとなる。そうしてナチャーロと同程度の規模を持てば、流石に逆らう国は少なくなるだろう……。実際には、ナチャーロ側も連合を結成して対抗するのだが。兎に角、マズルナズは大義名分と共に力を手に入れる未来を、本気で信じていた。



では、そんな頼もしい(?)味方のついた新生パナスブランに、どういった問題があるのか。


「独立に応じてくれたのは、この三島のみか……。」


ノイスの一言が、全てを物語っていた。

そうなのである。滅びた王国は最期まで戦ったが、結局国民を守れなかった。そんな国に、どういった理由でもう一度信頼を寄せるのか?



この三島のみでは、確固とした経済基盤を築く事も、軍事的な抑止力を持って中央海の安寧を保つこともできない。崇ノ国は暫定的に空飛ぶ島々を「独立」させたが、それで全てがパナスブランになびく訳もない。最悪、独立に応じた三島以外は「○○共和国」としてバラバラに建国してしまう可能性もある。


要は、人望が無かったのである。


「何か、アクションを取らねば……。」


ノイスの苦悩は、募るばかりだった。


丁度、彼が机の上の紅茶を飲みほした時。ドアがノックされた。


「誰ですかな?」


「おう、儂だ。」


「ああ。入ってください。」


ドアが音を立てて開く。義足のコツコツという音を立てて入って来たのは、新生軍総司令長官……。元藩王ムハンマド・レーバ。


「それにしても。貴殿の生命力は異常ですな、藩王レーバ。四十年前の内紛でもそうだったでしょう。」


「何だ藪から棒に。ご挨拶だな。それと、今は藩王ではない。領土は熊野郎に奪われた……まあ、近々取り返しに赴くが。」


レーバが豪快に笑う。

とは言っても、ノイスの言葉は尤もでもある。


旧王国滅亡の際、レーバはナチャーロ軍の捕虜となった。暫く、そのままシウアン島の捕虜収容所で過ごしていたが……。建国が発表されるや、脱走。その途上で左足を失う大怪我をしたが、無事崇領にたどり着いた。そして、新生パナスブランの中枢に加わったのである。

味方の援助を受けられたのは幸運だったが、レーバの高齢を考えると、奇跡のような話だ。


「貴様、何を蛆虫のように苦悩しておる。唸り声が廊下まで聞こえたぞ。」


「聞いていたのですか。……旧王国領の、反応の悪さですよ。このままでは……。」


「崇ノ国の支援が途切れるかもしれない、か。」


ノイスの言葉を、レーバが引き継ぐ。

崇ノ国が、平時ならば兎も角、何故このような時に、重要な戦略的拠点である空飛ぶ島々を手放すのか。それには一つ大きな理由がある。


ズバリ、島民を協力的にする為。


今までは植民地軍の悪評が大きく、暴動や反抗が度々起こっていた。しかし、次の統治者は自分らの仰いでいた王家の者。同じ崇本国の指示でも、新生王府を通した指示の方が受けがいいだろう。何せ新生王国は崇ノ国の傀儡、利益は多少下がろうとも、そちらの方が軍を増強するより穏便だ。


だが、独立に応じたのが三島だけでは、そうした事が見込め無い。そうすると、崇ノ国が新生王国を見捨てるかもしれないのだ。


フム、とレーバが思案する素振りを見せる。

やがて、こう言った。


「いや、実は儂にも悩みの種があってな。」


「軍の戦力、ですかな?」


「そうだ。特に航空戦力が酷い。」


パナスブラン王国は発足して三週間。色々な事で手一杯、勿論軍が充実しているはずも無いが、崇ノ国占領下のパルチザンなどが少しずつ集まっている。現在、総戦力は二千人程。後は接収されたまま放置されていた小型空中艦が一隻ある。

人は後々集めるとして、戦車その他は後々二国から支援を受ける予定。


唯……。どうしても目途が立たないのが航空機。それも飛行艦ではなく、ちゃんとした物だ。マズルナズと崇は、ナチャーロに対抗すべく協力関係を強めつつあるも、それでも生産力はナチャーロに劣る。

だからこそ、今回の戦争で重要視されつつある航空機は、輸出しようにも手が回らないのだった。


「そこでだ。儂は今、貴様と儂の悩みを一度に解決する方法を思いついたのだよ。」


「ほう……。どのような?」


レーバが、口端を釣り上げる。


「崇ノ国で足りないのは、人員ではなく機体。内地では、暇を持て余したパイロットが大勢いるらしい。我々が欲しいのは人材。そこから引き抜いて貰えば良いが……。」


「それでも総数が足りない以上、少数精鋭で形を整えたい。空の種族でも即急にパイロットを育てねばならない事を思うと、尚更ベテランが良い。だから選抜はこちらが慎重にやりたい。それに人員ばかりで無く、機体も揃っていない。……だから、こればかりは難しい。貴殿はついこの前、そう言ったと思いますが。」


「いいや。人員は崇ノ国から上手く集め、それでいて機体も揃える方法があるのさ。」


「ですから、どのような?」


部屋に飾られた世界地図。レーバは東大陸、その南東地域を指さした。


そこに広がる砂漠帯。広大なその地域は、「瑯郷連邦ろうきょうれんぽう」という国名だった。












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