未来予知!?
もう9月だというのに嘘みたいに暑いある日。甲高い悲鳴を上げている時計を黙らせて俺は起きた。服が寝汗でびっしょり濡れていて気持ち悪い。目覚めてもなお睡眠を要求し続けている目蓋を開け、ベッドの棚に置いてある時計に目をやる。時計が指しているのは午前11時。しまった、日曜日とはいえ寝過ぎてしまったか。急いでベッドから出るも、強い目眩を覚えよろめいてしまう。身体がまだ寝ていろと意思表示しているのかね。そういえば、俺はさっき何の夢を見ていたんだ?思い出せない。
睡魔や目眩と戦いながら俺は一階へと降りリビングへ向かう。リビングでは、猫を抱きかかえた妹がテレビを見ていた。
「お兄ちゃん、やっと起きたの?」
半分馬鹿にしたように妹は話しかけてくる。
うるさいぞ。毎日10時に寝て朝5時に起きるババアみたいな生活してるくせに。
「そりゃどーも」
相変わらず賢しいやつだ。これで学年成績一位というのだから腹立たしい。こいつの弱点は猫の肉球とゴキブリくらい。よし、今度部屋にゴキちゃんのオモチャを飾っておこう。きっと喜んでくれるだろう。
妹の罵倒を軽くあしらいつつ、俺は用意された朝食兼昼食を喉へ流し込んだ。今日は図書館に行くつもりだ。妹の玩具にされたくない、というのもあるが、好きな推理小説の新作が入荷される日なのだ。
さっさと借りに行こうと思い、席を立つと奇妙な既視感に襲われた。以前にも同じような事があった気がする....。気分悪く朝目覚め、妹にイジられ、図書館に行こうと急ぐ。まぁイジられるのも、図書館に行くのも日常茶飯事だし対して気にはならなかった。よくあることだ、デジャヴなんて。そんなことより早く図書館に行こう。
俺の家から図書館まではバスで10分ほどかかる。それくらいなら自転車でいいだろと思うだろうが、残念ながら俺の自転車は金色の針地雷を踏みパンクしてしまった。この暑さで歩いて行くのも気が引け、止むを得ずバスを利用する。
バス停で待っていると同じ講義を受けている友人に出会い、軽く挨拶を交わす。
この時、どういうわけか知らないが、彼が何を言うのか予想出来てしまった。
昨日の政治学の講義さ、先生が突然倒れて救急車で運ばれたんだよ。
「昨日の政治学の講義さ、先生が突然倒れて救急車で運ばれたんだよ」
「本当かよ。来週の講義どうなるんだろう」
再来週の講義まで休みだってよ。儲けやな。
「再来週の講義まで休みだってよ。儲けやな」
何だ?なぜ俺は一字一句間違えずにこいつの言うことが予測できているんだ?
ここでまた強烈な既視感が俺を襲う。家で感じたのと同じだ。そうだ、確かこの後友達と別れてすぐにバスが来るんだ。
その通り、友人と別れて10秒もしない内に図書館行きのバスが来た。
また予測通りだ、どうなってやがる?
バスに乗るとすぐに既視感を覚える。
女子高生の他愛のない会話、携帯電話とにらめっこしている会社員の青年、うたた寝をしている老人、とか!とか!とか!
ここまで来ればいくら鈍感な俺でも不信に思う。未来予知?まさか、宝くじで当たり券を買えたこともない俺が未来予知なんてできるわけがない。これは、予知というより....過去にあったことを思い出している?
そうだ!夢だ!朝見た夢の光景が今までの出来事と同じなんだ!しかし、断片的な映像ばかりで、全体像が見えてこない。何か結末があったはずなんだ。何か...。
ここで、またデジャヴ。乗り込んだバスに向かって大型トラックが突っ込んでくる。悲鳴を上げる乗客。呆然と立ち尽くす自分。うそだろ。
次の瞬間、尋常じゃない速度と共に、トラックが突っ込んでくる。
近づいてくるトラックに気付いた乗客の一人が騒ぎ出す。それにつられて他の乗客もパニックに陥る。トラックを避けようと運転手が回避を試みる。しかしこの距離だ。とても間に合わない。そういうことか。
悲鳴を上げている乗客を他所に、俺は冷静だった。というのも、一つの疑問が解決したからだ。
そうだ、俺は今日、自分が死ぬ夢を見たんだ。