雪の溶けることのない都市
魔法都市メルスノウ
一年中雪が溶けることなく、常に冬景色であるそこにルキはいた。
メルスノウに限らず、魔法族の住む領土一帯は常に冬。
行き交う多くの人々は長いコートやマフラー等で寒さ対策をする中、ルキは朝着たドレスのみで歩く。
見るからに寒そうな格好だが、彼女は寒さを感じていない。
降り積もった雪の中にブーツを埋めては引き抜き、目的の市場へと足を運ぶ。
ー魔法国家議会の方々が来るなら、東洋の魔法使いの方々も来るはず………
ーそういえば、前回来られた鵺鳥様がこちらでも東洋の食事を食したいと仰っておられたはず………
参加者の意見も思い出しながら献立を考える。
メインを東洋のスシというメニューに決めると、新鮮な魚を求めて足を動かした。
「あらぁ………ツェル様の所の使い魔、ルキじゃあありませんの」
「ルイエ、こんにちは」
「はい、ごきげんよう。相も変わらず見ているだけで寒そうですわね」
白色ゴテゴテとしたコートを着こなし、間延びした言葉使いの少女ルイエはルキと同じ使い魔の一人だ。
ただし、ルイエの使えている主はツェルではない。同じ魔法国家議会のメンバーである魔法使いだ。ルキはその人物の名前を知らないが、ツェルによると『顔は良いが恐ろしく少女趣味な男』だそうだ。その為かは知らないがルイエの着ている衣装は恐ろしくフリルやリボンが多い。ルキのドレスもフリルが目立つが彼女のような下品さはない。
高飛車な挨拶から始まり、長い間彼女の主の自慢話を続けるとふと何かを思い出したようにある話題を提示した。
「そういえばぁ、ルキはご存知でして?使い魔殺しの殺人鬼のお話」
「はい。その事件ならツェル様から伺っております」
「やっぱり、もうそちらへも話が届いておりますのねぇ?」
使い魔殺しの殺人鬼。
ここ数ヵ月で有名になった謎の人物だった。
始めは一般市民の使い魔から始まり、今では貴族・王族などの使い魔も被害に遭っていた。
市民階級の使い魔だけなら大きな事件にはならなかった。
問題が起こったのは三件目。貴族階級の使い魔が襲われた事件だ。彼等に多いのは魔力のない人間の使い魔ではなく、由緒正しき悪魔の使い魔だ。並大抵の事では死ぬことのない彼等がその殺人鬼に呆気なく殺されてしまった。
その一件を境に殺人鬼の噂は瞬く間に広がり始めた。
「うちでも一人、悪魔の方が殺られてしまったのですがマスターったら彼には目もくれないで私たちのことばかり心配してらしたのよ」
「まぁ、人間の貴女とは違い、悪魔のほとんどは数年もしないうちに復活しますからね」
「どうぞ、お気をつけ下さい」と社交辞令を口にすれば「ルキもそうでしょう?」と言い返される。
「羨ましいことに、私はルイエとは似て異なるモノですから」
そろそろ先に進まないと魚が無くなってしまう。無くならなくても、鮮度が落ちてしまう。落ち着いているのか焦っているのか解らないが、とにかく今はルイエの前から逃げたかった。
軽く頭を下げるような動作を最後に、ルキは強制的に会話を終了させた。