使い魔ルキ
日が上るのと同時に起床し、決められた服を着る事から使い魔ルキの一日は始まる。
人間にしては完成され過ぎた容姿・姿に合うように作られた彼女専用の服は西洋の人形が来ているようなフワフワとしたドレス。白い肌と同化してしまいそうな白髪に乗せられるのはドレスと同じ色のヘッドドレス。
「常に美しく、上品に在りなさい」
と言った、主に忠実に従う。
ドレスの肩口まで届くほど長さのある手袋と、これまたスカートの裾まであるほどのロングブーツを履き終えるとルキは自室を出て使い魔の仕事を始めた。
「おはようございます、主様。そろそろ起床のお時間です」
主の許可無く無断で部屋に入る事は決してない。本人がルキのノックと声で起きるまで、ルキは扉の前で待ち続ける。
待ち続けること数分、少女と言うには大人びており女性と言うにはまだ幼い、なんとも言いがたい声と共に人型をした影が扉を開けて出てきた。
シルエットからでも伝わる神々しさの持ち主は、ルキの主であるツェル=クロディウムである。
「おはようございます、ルキ。今日の服も可愛らしく着こなしていて、私はとても嬉しいです」
機械のように淡々と話すツェルの感情は表情が解らないこともあり、ルキに伝わることはない。
朝食を作ってきた他の使い魔を戻すと、ツェルはルキを部屋に招き仕事を言い渡す。
「今夜は『魔法狩り』の対策を魔法国家議会のメンバーで決めます。その為のディナーの用意をよろしくお願いします」
金貨の入った皮袋を押し付けると、ヘッドドレス越しにルキの頭を撫でるツェル。本人としては影に撫でられているのも同然だが、あるはずも無いツェルの温もりを感じていた。
「御意です」
恭しく影に一礼すると、まだカーテンの開けられていないほの暗い廊下を歩いていった。
「まだ、カーテンも開けていないのですか。まったく、貴女たちはルキの指示なしには、私の指示なしには動けないのですか」
手厳しい言葉を他の使い魔たちに投げつけるツェルの声を聞きながら、ディナーの献立を考えるルキは外の寒さを感じることなく出掛けていった。