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朝はシリアルと決めている

結婚相談所

 あるところに、成功率ほぼ百パーセントという結婚相談所が有った。ほぼと言うのは、たった一人成功していない男性客がいるからである。所長は、今までたくさんの女性を男性に紹介してきたが、ことごとく失敗した。

 それは、女性側ではなく、男性側が原因であった。男は、類まれに見るほど理想が高かった。

「ではこの人は如何でしょうか」

「少し目が小さくないか」

「ではこの人は」

「待て待て、身長が高すぎる」

「この人なら文句はないでしょう」

「年上は好かん」

 いつもこのような感じで突っぱねる。顔は女優並みの美貌を、スタイルはモデル並を、かといって自分よりも身長が高いのはいけない、年齢も若ければ若いほど良い。バカもいけない、運動神経が悪過ぎる愚図もいけない。男の好みを挙げるとキリがなかった。

 ごく稀にデートまで行くこともある。しかし、一度目のデートを終えた後、男は決まって女性の悪い部分を次々と挙げ、やはり厭だと言うのだ。

 ちなみに、この男に突っぱねられた女性はみな美人で教養もある、魅力的な女性である。男に拒絶されて、一度は落ち込むものの、みな無事に他の男性と幸せな結婚をしていった。


 ある日のこと。また男が現れた。

「そろそろ次の人を紹介してもらいたいのだが」

 所長は言った。

「もう貴方のお眼鏡に適うような方はおりません」

 男は言った。

「まだいるだろう。ここは大勢登録しているのだから」

 所長は少し語気を強めていった。

「貴方は理想が高い男性だという噂が広まっている。女性たちも貴方を敬遠している」

 男は、所長より更に語気を強めていった。

「そんなことで敬遠する女性など要らない。早く紹介してくれ」

 話は平行線に入った。両者譲らず、にらみ合う。

 そこへ、所長の娘が帰ってきた。

「ただいま、お父さん」

「ああ、お帰り」

「接客中なのね。二階へあがっているわ」

「そうしてくれ」

 男は、娘を見ると一目で気に入った。

「じゃあ所長の娘を紹介してくれないか」

「娘を君に? 冗談じゃない」

 勘弁してくれというように所長は、男の要求を突っぱねた。

「じゃあ一度だけでもデートを」

「娘にも聞いてみないことには分からない」

「今すぐ聞いてくれ」

 男が必死なので、所長は渋々了承し、二階に上がったばかりの娘を呼んだ。

「なあに? お父さん」

「この人が、お前と一度デートしてみたいそうだ」

「やだわ、私は登録してるお客さんじゃないのよ? でもいいわ。一度なら」

「本当かい?」

 信じられないというような目で所長は自分の娘を見た。

 男は小さくガッツポーズをして喜んだ。


 デート当日。心配になった所長は、相談所を休業にして娘と男のデートを、後ろから付けていった。

 二人は仲睦まじく街を歩き、食事をし、そして最後にはキスを交わして別れた。

 所長はもう少しで卒倒する勢いであった。

 それからも度々デートを重ね、男と娘は結婚することになった。所長は何度も反対したが、娘の意志は固かった。

 

 しかし、数年後。娘が泣きながら所長の元へ帰ってきた。

「どうしたんだ」

「年をとって少し劣化したから、あの人に捨てられたのよ」

 娘は、所長のひざに頭を乗せてわんわん泣いた。所長は、娘の頭を撫でながら男に対する復讐を考えた。

「返品しただけだ。代替を用意してもらおうか」

 次の日、悪びれる様子もなく、男が現れた。幸い娘は留守であった。

 所長はぶん殴りたい衝動をかろうじて抑え、男にディスクを手渡した。

「これはなんだ」

「今日から紹介方法を変えた。データを載せているからそこから気に入った人を選んで、あとは勝手に連絡してくれ」

 男はディスクを受け取ると、嬉しそうに笑った。

「家でじっくり吟味したほうが、いい人を探せるだろうな」

「ああ、決まったら連絡をくれればいい。じゃあな」

 男は大事そうにディスクをカバンにしまい、相談所を後にした。

 数週間後、男から電話があった。

「決まったのか」

「ああ。選り取りみどりだったからな」

「そうか」

「世話になったな。じゃあ」

 それが、男からの最後の連絡になった。


 数週間後、男は死んだ。交通事故だった。

 男の遺体のちょうど腕辺りに、ノートパソコンがあった。男は、ノートパソコンをかばう様にして死んでいた。

 幸い、男の巨体に守られていたためか、ノートパソコンは外見に傷がついただけで、故障はしていなかった。警察が調査のためにパソコンを開く。

「ねえ、今日の晩御飯は何がいいかなあ?」

 

 その晩、所長はネット上の掲示板に書き込みをした。

『エロゲに夢中になりすぎてわき見運転していた男性(55)死亡ww』

 結婚相談所は今度こそ成功率百パーセントになった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 起承転結がわかりやすく内容も短いですが充実していたのでサクサク読めました。完璧なショートショートだと思います。 [気になる点] 特にないです。 [一言] 楽しいひと時を過ごせました。ありが…
[一言] ええ歳のおっさんだったんですね(笑)確かにエロゲの登場キャラは文字通り絵にかいたような子ばっかりですものね
2015/06/11 14:47 退会済み
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