二話~理事長室前~
コンコンッ。と二回、ドアをノックする。
「入りなさい」
「───失礼致します」
ドアの向こうから、了承の声を聞き、サキカはドアを開ける。部屋に入ってすぐ、理事長と思われる男性が立っているのを目をする。
「君がサキカ・アレジメント君だね?私は第一魔法学校アルカナ学園理事長、ジーク・ラストーンだ」
「理事長様、サキカ・アレジメントです」
目上の人に様付けするのは、サキカの癖と言うか当たり前のことである。それを知らない理事長───ジーク・ラストーンからすれば、無理と言っているような感じに見えるのだろう。
「様付けするのはやめてくれるかい?無理とそんなこと言わなくても良いんだよ」
と言った。しかし、癖なモノは癖。十年以上も続けてきたことを今更直すことなど不可能に近い。否、サキカにとっては不可能である。
「これは癖なのですが……」
「あぁそう。なら大丈夫。私が悪かったね」
「いえ、お気になさらず。…──して、何用でしょうか?」
頭を下げたジークに、小さく手を振ることで無くし、サキカは本題へ入れることにした。何故入学式当日に呼び出す必要があったのか、わからなかったのだ。
「君に、新入生代表で登壇して欲しいんだ」
「………僕が、ですか?」
眉をひそめたサキカ。
「君の入試は実技はともかく筆記は前代未聞の満点。特等生なのは主にこれが理由だ。特等生は後四人いるが、四人共拒否されてしまってね。君しか居ないんだ」
「理由はわかりました。ですが、何故それを今、当日に仰るのですか?アドリブで出来るだろうと判断したのですか?流石に新入生代表と言うモノにアドリブなど無理です」
なら他についてはアドリブでも平気なのか、と思わなくもない。
ジークは、机の引き出しから、あるモノを取り出した。
「これを読んでくれれば良い。もう時間がないから、君しか居ないんだ」
サキカはその新入生代表の論文を手に取る。そして、封を開けずに確認した。
「……わかりました。これを読めばよろしいのですね?」
「そうだよ。引き受けてくれるかい?」
「ええ。受けさせて戴きます。これで宜しければ、式場へ言っても宜しいですか?」
サキカは、理事長室を出て行った。