表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

“恋の果実”の短編集

雪の果実 ~いつの日かの約束~

作者: 桐谷涼乃

 ぱちんって、何かがはじけた。


 それは、わたしが心の奥底にとどめておいた、決して誰かに晒してはいけないもの。

 それは、もう、手の届かぬところに行ってしまった、彼への想い。

 それは、この国にとって重要な人へ向けた、哀しい想い。

 それは、見つかったらこの首が飛ぶかもしれないほどの、持ってはいけない感情。

 はじけたからには――――もうほっとくことはできない。


 

 この手で消し去るまで。



 

 彼との出会いは、村外れの広場だった。

 わたしは、その姿を見たときに、天使だと思った。それほどに、彼は美しかった。

 金髪、容姿端麗。20代前半とみられる彼は、木の根元で眠っていた。

 まわりには、たくさんの従者たちと馬がいて、彼が貴族か何かの子で、わたしみたいな庶民の小娘には手の届かない、偉いひとなんだな、と思った。

 わたしは思わず見惚れた。

 たぶん、じーっと見てしまったんだろう。

 彼が、眠そうに片目だけを開いてわたしを見た。

 わたしは、急に眼を開いた彼に驚いたのと、眠そうな動作でさえ美しい彼に見とれてしまいそうになって、慌てて目をそらして逃げた。

 彼の、広い海のような深い蒼の瞳が頭に焼き付いて離れなかった。

 心臓がどきどきする。

 恋をしてしまったと気づくのはそう遠いことではなかった。



 その後、わたしは木の実を採りに森にいた。この村のこの森は木の種類も実の種類も豊富で、わたしはいろいろ新しいものを見つけるのが楽しくてしょうがなかった。

 そうやって、当分のわたしのおやつとしての木の実と、お母さんに料理で使ってもらう木の実を採っていると、不意に後ろから足音がした。

 驚いて振り返ると、わたしは唖然とした。

 さっきの、美しい青年が、そこにいた。

「なにを、しているんだ?」

「・・・!」

 わたしは、驚いて声も出なかった。

 どうしてこんなところにいて、どうしてわたしに話しかけているのか。サッパリわからなかった。

 彼は、わたしを見てもう一度言った。

「なにを、しているんだ?」

 な、なになになに!

 なぜなぜなぜ!

 えっと、答えたほうがいいの?

「木、木の実を、採っていま、した・・・」

 彼は、興味深そうにわたしが持っていた籠を見て、にっこり笑った。

 ドキッとした。

 そして、急に言った。


「君、可愛いね」


 えー、と?

 今なに言った?

 かわ、可愛い?


「名前は?」


 名前?

 どうしてそんなことに興味があるの?

「あわ、わたしは、*****と言います・・・」

 彼は、綺麗に笑った。

「僕は、○○○○。よろしく」

 そう言ってわたしに手を伸ばして、わたしの赤い髪に触れた。

 わたしをそうやって慈しむように触れてくれたひとは初めてで、またドキドキしてしまった。


 彼は、それからもちょくちょくこの村に来ては、わたしと話したり、わたしの採った木の実を食べてみたりして、仲良くしてくれた。

 彼は、遠い国の、雪のように白い果実をくれた。あまぁいその果実を齧りながら、異国の話をしてくれた。

 

 わたしは、取り返しのつかないくらい、彼のことを好きになってしまっていた。



 彼は、ある日雪の果実をいっぱい持ってきた。そして、わたしが採っておいた木の実を全部、持って帰った。

 なんだか、彼は急いでいた。

 これから、大変なことが起こるから。

 だから、当分此処には来れない・・・。

 だけど、必ずまた此処に来るから。

 この雪の果実を、3日に一個食べて。これが無くなるまでには、此処に来るから。

 それまで待ってて。

 木の実を持って、待ってて。僕も、この果実と異国の話を持ってくるから。

 約束だよ。


 だけど・・・・・。


 彼は、雪の果実が無くなっても、此処には来なかった。

 約束は、守られなかった。

 いくら、待っても・・・・・。

 



 わたしは知った。

 彼が、この国の王の娘と結婚したことを。

 わたしが好きになってはいけないひとだった。

 わたしなんかのところに来るわけがなかったんだ。

 希望だけ持たせて。

 もう想いは届かないのに。

 もう来れないならそう言ってくれれば良かったのに。

 そのほうが、苦しくなかったのに。


 わたしの足は、彼と出会ったあの森の中へ向かっていた。

 震える右手に、ナイフを握って。



 彼と出会った場所。その近くのちいさな泉。

 わたしは、手首を切った。

 その手を泉に浸す。

 痛くなかった。

 もう苦しまなくていいんだって思って、わたしの心は逆に穏やかだった。

 体から魂が抜けていくような気がする。

 泉がわたしの血で紅く染まっていく。

 ごめんね、汚しちゃって。わたしなんかの血で汚しちゃって。

 ああそうだ、○○○○くん。

 わたしに関わらせてしまってごめんね。

 わたしがいなくなっても何も思わないかもしれないけど。

 それでもいいよ。

 

 お幸せに――――――


 

 首ががくんと折れた。

 赤い髪が、紅く染まった泉に浸かって濡れる。

 彼女の息は絶えていた。

 ナイフを持っていたはずの右手に、彼が大好きだった木の実を握って。

自分で書いていて、哀しい結末になってしまいました。ハッピーエンドが好きなのに・・・・・。

でも、評価とか感想とか頂けると嬉しいですっ!


後書きに書くものなのかわかりませんが、

本当は、彼は彼女を迎えに来たかったかもしれません。

だけど、身分上・・・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。ふらりと見つけて最後まで読んでしまいました。 面白いかどうかと聞かれれば、うーんと悩みますが、悪くない話でした。 個人的にこの手の話は好きですね。 変な感想すみませんw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ