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6:必殺のショット

 なんか妙に男子が盛り上がっている気がする。廊下での騒ぎの時、日向が余計の口出しをしたのが原因だろうなぁ。面白そうだからいいけどさ。

 編入してきた女の子が可愛かったし、それに名門貴族の養女だから、将来的に考えて近付きたい気持ちは陽香にもわかる。あんなかわいい子と友達になれたらいいけど話しかけるのはなかなか難しそう。


 だけど、遠距離攻撃なのか近距離攻撃なのか……あの編入生の戦い方何一つわかっていないのにパートナーになってほしいとアピールをかけるなんて無謀だと思うのよね。それに彼女が提示した条件は厳しすぎるから、条件をクリアできる人間はアピールした人間の中にいるのだろうか?

 少しうらやましい気持ちがあるのは否定できないけどね。やっぱ、異性からあんなふうにアピールされるのはいいなって思うよ。まぁ、陽香には陽香のパートナーがいるし、パートナーの日向との仲は良好だ。今のパートナーを変える気はないもんね。それに、日向はかっこいいしね。


 陽香は、遠距離タイプ、日向は、近接戦タイプって学校に提出してあるけど陽香に実は距離なんて関係なったりする。まぁ、できる限り隠しなさいっていうのが親方の言だから守るけどね。


「今日のメニューは、はじめに《とランク》の鬼の幻影と戦う。これを一人いったい倒すこと。パートナーを組んでいる者は、二人で2対倒せば戦い方は何でもいい。まだ、パートナーを組んでいないものは、組んでいない者同士組んでもいい。なるべく力が釣り合うものと組むように。また、ソロで戦うことも《とランク》のため許す。各自自分に合った戦い方で、鬼を倒すこと。終わったものは、フィールドから速出ること。戦っている者の邪魔になる。わからないことがあるものは挙手しろ」


 挙手するものは誰もいなかった。みんな毎度のことだから別に説明をうけなくても分かっていた。たぶんこの説明は、転校生ちゃんのためなんだろうな。そう思いながら、愛用のチャクラムをいつでも投擲できるように取り出しておく。



「よし、各自準備しろ。3分後に目の前に鬼の幻影を出現させる。あ、リコリス・クォルツは、俺のところにこい」


 ぴ――――――――


 ホイッスルが鳴り、各自適度な距離を保ちながら距離を開け始める。

 武器を構えたり、魔法の詠唱準備に入ったりし始め、緊張感がただよ居始めている。

 廊下で、見かけた女の子が一人、教師に呼び出されていた。なんかみんな、殺気立っているっていうか無駄にやる気がありそうだな……。


「赤城先生」 


  特別大きな声を出しているわけでもないのに、彼女の声が私の耳にも届いた。


「あぁ、お前がリコリス・クォルツだな。この実技授業の概要は分かっているか?」

「はい。先ほど先生が詳しく説明してくださいましたから……」

「そうか、お前はこれをもらっているか?」


 そういって赤城が編入生に差し出したものは、白いブレスレット。同じものを私も身に着けている。彼女は、もらっていなかったようで、首を振っているのが見えた。


「これは、幻影を倒した時間を計ったり、倒した鬼の総合数を記録したりする実習用の記録装置だ。これをつけておけ。お前のタイムがわかる」


 彼女は強いのかな?もし、一度でいいからチームがくめたらいいのになぁ……。でも、難しいかな。


 赤城から手渡されたブレスレットを身に着けながら、彼女は、言いにくそうに、発言する。


「ありがとうございます。あの、先生……言いにくいのですけど、この授業もしかしたら荒れるかもしれません」


「荒れる?何かあったのか?」


 怪訝に眉を上げる教師に困ったように彼女は口にする。


「そのわたくしのパートナーになりたいという方々が張り切りすぎてしまうかもしれないということです。申し訳ございません」


 編入生が、申し訳なさそうに頭を下げている姿を見て、ラディくんの言うとおりこの学園に、非常識な人ばかりいる気がして申し訳なく思う。彼女がどういう経緯でこの学園に入学することになったか知らないけれど、せっかく入学したのだから、楽しい学園生活をおくってもらいたいな。不思議と彼女のことを自意識過剰な女って思わなかった。


「あぁ~、権力がある程度あるやつが来るとなんどかおきることだ。気にするな。俺たち教師は慣れてるよ。一種の学園名物だな。まぁ、あんまり勧誘がひどいようだったら相談しなさい」


 赤城が言うように、似たようないざこざはあっちこっちでおきている。それを知っているから、日向は、午後の授業で決めれば? と無責任に提案したのだろう。


「はい。そろそろ時間ですね。失礼します」


 彼女の姿が、見えなくなってから数秒後

 ピ―――――――――

 甲高い音が響き渡った。

 相棒が、くくりナイフを構えるを目にしてあわてて武器を構え、戦闘準備に入る。


 この笛の音が響いてから十秒後それは現れるように教師たちが準備している。

 陽香と日向の目の前に現れた鬼の幻影は、カブトムシが巨大化して凶暴になったような鬼と毒もちの蜂型の鬼の2体。トランクの鬼の中では、真ん中くらいの強さだった。


 昆虫が、動物園にいる大型動物のように大きくなって、目の前立ちはだかっているという表現が合うのかな? なんどか見ているけど、何度見てもやっぱちょっと怖いよ!! わぁわぁ心の中で、騒ぎながら準備はちゃっかりとして置くことは忘れない。


 先制攻撃をしようと、私が武器を投擲しようとしたその時―――すさまじい音が轟いた。











 人間の二倍ほどの高さを誇るトランクのダンゴ虫型の鬼が、ホイッスルが鳴った一〇秒後に出現した。リコリスは、突如現れた巨体を持つ鬼を一瞥し、魔術銃に魔力を送り込む。この形の鬼は防御力が強いせいで、攻撃がなかなか通りにくい。丸まられてしまったらなかなか攻撃が通らないから、丸まられる前に攻撃する必要がある。


氷弾(アイスシェル)


 リコリスは、構えていた銃の引き金を引いた。引き金を引いた後の轟音が、周囲の生徒の視線をかき集めてしまったけど、鬼を前にしてよそ見するなんて何を考えているのかしら? これが、幻影だからいいものの……これが本物の鬼だったら今頃あなたたち鬼に食われているかもしれないわよ?


 突き出した右手に握られた銀色の銃からすさまじい冷気とともに鋭くとがった氷の弾丸が迸り、生成された氷弾は、鬼の急所へと飛ぶ。氷の弾丸は吸い込まれるように目標へ。



 迫りくる氷弾に鬼は、気がつかない。いや、気が付いた時には、すでに手遅れ、装甲のうすい大きな胴体にある急所を貫かれていた。急所を氷の弾丸で貫かれた鬼は、体をのけぞらせ、耳障りな悲鳴を上げる。本物の鬼ならばここで地を赤く汚すだろう。幻影の鬼は、風にその姿をかき消されるように姿を消す。




 リコリスは、銃をくるりと回しホルスターにしまう。

 物足りないな。あまりにもあっけなさすぎる。何か裏があるのではないかと思ってしまうほどのあっけなさに、不安になる。でも、教師から渡されたブレスレットには、《clear》の文字が並んでいるのだから終わったのは確定なのだろう。


 鬼の急所の位置は属性によって異なる。リコリスの目の前に現れた鬼は、トのダンゴ虫型の鬼。体を丸められると攻撃が通りにくいため、体を丸めていないときが攻撃のチャンスとなる。体を丸めていないときのダンゴ虫型の鬼の内側の防御力は低いから、氷弾の一発でも十分倒せる。


 でも、今のはさすがに弱すぎる。鬼側の反応速度は遅く、耐久力も本物より格段に下がっている。なにより幻影だからなのか、相手側の生への執着が感じられない。こんなお粗末な鬼との模擬戦で勝ったって面白くもなんともない。幻影魔術を使っている教師は、実際の鬼と一対一で戦ったがないのではないかと勘繰ってしまいたくなるほどだ。それに、鬼の生態について書かれている研究所をもう少し頭に入れておくことを進めるわ。この程度の戦闘経験で、生徒に自信をつけさせているのならやめた方がいいに決まっている。退鬼学園のあまりの惨状に、頭を抱えたくなった。

 あのサボり魔に、後でこのありさまを伝えておこう。こういう形で、鬼との戦闘を経験させるのなら本物の鬼より強い幻影と戦い勝利を納められるようにしなさいって。実物の鬼を前にしたら、実力のすべてを出せるわけがないのだから本物より弱いものと戦った経験しかないのなら、死人を増やす一方だ。



 リコリスは、フィールドを出る途中、アイツの姿を見つけ囁いた。


「アナタには期待しているのよ。ラディ・アスタン」





 ラディ・アスタンが、振り向いたときにはすでに、リコリスの姿は手の届かない遠くにあった。リコリスの颯爽とフィールドを後にするその姿は、何物も近づけさせない孤高の戦士のように感じた。








 陽香は、あまりの轟音に音源の方を見てしまった。戦闘中でのよそ見は、命取りだというのに見ずにはいられなかった。

 転入してきた少女は、鬼が出現するのとほとんど同時に魔術を放った。魔術銃から放たれたのは氷の弾丸。

 氷弾の魔術術式は中級のもので、かなり一般的な術式。生成された氷弾も特別な魔力が込められているわけでも、魔術師気に手を加えられものでもないごく普通のものだった。陽香は、氷系統の魔術は使えないが雷系統は使える。彼女と同じように氷弾を生成できるものがまねても一撃で核を破壊することは難しいだろう。彼女のすごいところはその銃の腕と急所を短時間で発見できるところだ。陽香にはとてもではないが真似することはできなかった。


 彼女は、鬼の心の臓の位置を推測するのはベテランの対鬼師にも難しいといわれている。それを貴族の令嬢が一目で見つけそして一撃で仕留めた。鬼を目にして、仕留めるまでの速さ、適確な射撃の腕は、すでに騎士団に入団できるほどだろう。学園にいる必要はない。ならばなぜ彼女はこの学園に転入してきたのだろう。

 陽香は、唖然としてフィールド外に向かう転入生を見送っているせいで背後に迫ってきていた陽香の敵である鬼に気が付かない。


 ガキン


 鋭い金属音があまりにも近くで聞こえ我に返った。トランクのカブトムシ型の鬼と日向の曲刀が衝突して生じた音。

 背後を振り向いた陽香の視界に映るのは、頼もしいパートナーの背中だった。


「陽香!何やってるんだ!戦闘中によそ見すんなよな!風刃(ブラストエッジ)


 魔術を放ち、鬼との距離を取る日向。本当に頼りになるパートナーだと思う。


「はっ!日向、ありがとう」


 今、パートナーである日向が守ってくれなかったらあの鋭くとがった爪が陽香を切り裂いていたかもしれないと思うと冷や汗が出る。同時にこれ以上足を引っ張るわけにはいかないと強く思った。



 陽香はあわてて、円盤の中央に指をいれて回し、雷の魔力を込めたチャクラムを連続で投擲する。

 なるべく装甲が薄く柔らかくもろい場所めがけて投げる。

 こういう時に午前中の鬼の生態学が役立つ。リコリスさんのように一撃では倒せないし、いきなり急所を狙えるほどの腕も陽香にはない。陽香ができるのは、目標の動きを鈍らせて日向に攻撃を入れやすくさせること。

 チャクラムが、虫に小さな傷をつける。その傷から、チャクラムに込められていた雷の魔力が流れ込む。


 虫型の鬼は、強力なスタンガンを同時に七ヶ所あてられた状態と同じ状態になる。

 鬼の体がヒクつく。よし、これでしばらく麻痺して動けない。動けたとしても大きな攻撃はできない。


「日向!」


 陽香の声を待っていた相棒が、風の魔術を使い体を宙に浮かせ相手の間合いに入り込む。


 日向は、相手の間合い内に入り込み、体躯の回転などを利用して、パワーのある一撃を打ち込む。くくりナイフの先から鎌鼬が生じ、鬼の体を切り裂く。


 日向が鬼を倒したことを、ブレスレットの振動で感じた陽香は、さっきと同じようにもう一体の鬼にチャクラムを投擲する。今度の鬼は、蜂型の鬼だ。

 投げたときは、小さかった輪が標的に近づくにつれて大きくなる。標的の半分くらいの大きさになったチャクラムが蜂型の鬼の羽を傷つける。

 羽に傷を負い、飛行がうまくいかない蜂型の鬼に向かって、相棒は飛び込む。

 下から上へすくい上げるようにして鬼の体に傷をつけようとした相棒めがけて蜂が、抵抗をしようとする。


「させないっ」


 雷の魔術を付加したチャクラムを投擲する。さっきは、対象にあたったとき電流を流し込んだけど、今回はチャクラムのスピードを上げた。


「どんなに小さな物体だって高速で当たったら痛いのよ!」


 ぎゃあああ


 陽香の投げたチャクラムは蜂型の鬼の頭をの宙に吹き飛ばした。

 日向は、陽香の攻撃に続くように鎌鼬を胴に叩き込む。

 近距離でいれられたその一撃は、鬼の核があるとされる場所を打ち抜き、鬼の幻影はかき消えた。


 ブレスレットが、振動する。鬼を二体倒せたのだ。


 陽香と日向は笑顔で、手をたたき他の生徒の邪魔にならないようにフィールド外へ向かう。


「陽香、よそ見はダメだぞ!」

「あ、ごめん。アリガト。助かったよ」



 3分の1の生徒は、すでにノルマを終えフィールドの外にいる。残りはまだ戦っているようだ。戦っている生徒の中に、知り合いの銀髪の少年の姿を認め陽香は、眉をひそめる。


「アイツ、遊んでんの?」


 そう日向が口にするのはもっともだと思う。いつもなら、開始早々に鬼を倒してフィールド外に出ているはずのラディが、まだ鬼と戦っていたのだ。





★☆★次回予告★☆★

 一撃で鬼を仕留めたリコリス。パートナーで、協力して課題をクリアした陽香と日向。そして、幻影の鬼といまだ戦闘を続けるラディ・アスタン。リコリスが、彼に感じた違和感。その正体が次回明らかに……なるように頑張ります。

 次回 入れ替わるソウル


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