4:交錯するデスティニー
金色の髪にヒスイの瞳をもつ人形のような外見の少女の名前を、李 蓮苺という。
「レン、学園生活はなれましたか?」
思いやりにあふれた優しい声色で、青年はレンに質問する。
青年がレンを見る目は、慈愛に満ちたものだった。
「フェイちゃん、わたしは、うまくやれる自信ないよぉ。どうして、わたしなんかが適合者になっちゃったの? ばれちゃうかもしれないっていつも気にしているせいか、なかなかみんなに心開けないの」
適合者―――特殊な物語に選ばれたもののことをこう呼びこのものたちは、「騎士」と呼ばれることが多い。だれが何の物語に適合するのか、どういう原理なのかいまだ解明されていないことが多く、研究もあまりはかどってはいない。なぜならば、騎士はいつも最前線で戦い人々を守るからだ。研究に従事するよりも、戦う方が人を救えると目先の考えの実で動かされるため研究は進まない。また、自ら研究の実験体になることを望むものはそうそう現れないだろう。
李 蓮苺 は、自らが騎士であることを隣の青年 雷 緋王にしか教えていない。彼しか信用していないからだ。この学園に入ったのは、学園は外からの介入が難しい場所だからだ。
雷 緋王は、いつまでも彼女が騎士である事実を隠し通せるものでないものを知っている。だから、せめて数年だけでも彼女に普通の生活をさせてあげたかった。いつか本人の意思に関係なく心も体もボロボロになるまでたたかわされるであろうことは容易に想像がついたからだ。
「それは、ぼくにはわからないよ。でも、きっと選ばれたからにはその理由がありますよ。レンにしかできないことがあるはずです。それがわかるまでは、いつも通り、レンらしくあればいいんです。心を無理に開く必要もありません。ゆっくりでいいのです」
「うん、フェイちゃんがわたしを守ってくれるものね。わたしはわたしらしく生きるね。もう少し頑張って友達を作る」
蓮苺は、守るという単語にほっとしたのか、急に元気になった。緋王は、こんな言葉でいいのならば何度でもいう。彼女の笑顔が戻るのなら、何度でもいおう。そして、その言葉通りに彼女を守ることをすでに心に決めていたのであった。
「あれ、何の騒ぎかな?」
3つ隣の教室で、人だかりができていた。
人だかりのほとんどが男性なのは、どういう理由だろうか? この階では普段は、あまり見かけない光景だった。
「さぁ、ぼくにもわかりかねますが……、たしか、あのクラスには、本日編入生が来たらしいですよ」
「編入生?」
「はい、たしかクォルツ家の養女らしいです」
クォルツ家―――ホアカリ帝国の名門貴族の一つで、最近、急に力を増している貴族の一つでもある。そこに養女として認めら、この学園に入学したということは、貴族の名誉のために戦う人形として迎えられた可能性が高い。
「へぇ、たしか次期頭首に溺愛されている義妹だよね?」
「えっ、そうなのですか。それよりいったいどこでそんな話を?」
「お手洗いに行ったとき、誰かが話していたのをたまたま耳にはさんだの」
「そうでしたか……」
恥ずかしそうに、蓮苺が口にした時ちょうど廊下の騒ぎが耳に入ってきた。
「ねぇ、クォルツさんは、だれと組みたい?」
「わたくしは、兄様が認めてくれるくらい強い人とパートナーを組みますわ」
クォルツ家、次期党首 クロード・クォルツは、王宮第七皇子月近衛隊長。
その実力は高いことは周知に事実である。自分に対しての評価が厳しく、また他人に対しての評価も厳しいと評判だ。彼をそこまで厳しく判断する性格にさせたのは、間違いなくあのバカだろうとひそかに思っていた。
放っておくとすぐ自惚れるから、いつ足元を掬われてしまうんじゃないかとひやひやさせられている。
「それって無理だろ」
「兄様って、あの第七王子のお気に入りだろ。じきじきにスカウトしに来たっていう」
「あの」
まぁ、こう出しとけば少しはこのアホ騒ぎが収まるだろう。
これからリコリスがどこに行くにもこういうのがぞろぞろついてきては困るのだ。こっちには、どこぞの皇子との協定のこととか体質のこととかいろいろと隠さなければならないことが多すぎるのだ。人間秘密箱といってもいいくらいだ。
「兄様が言っておりましたの、わたくしと同等かそれ以上の剣術や魔術を持っているものを選びなさいって。それに、わたくしどなたをパートナーに選ぶかが兄様からの試験の一つなのですわ。貴族の令嬢になるのだから人を見る目を極めなさいって。もし、ただの足手まといを連れてきたらお仕置が待っておりますの。それはさすがに、こまりまして…」
そんな風に悪乗りをして楽しんでいると……
「なら、午後に授業の実践科目Dで、決めればいいじゃん」
騒ぎをたまたま聞きつけてやってきた野次馬の一人―――陽に焼けた健康的な褐色の肌少年が、提案した案はなかなかいいもののように思えた。
実技科目なら口だけのやつと本当に実力のあるやつがはっきりする。リコリスは、実力もある程度周囲にわからせる必要もあるみたいだとひしひしと感じていた。
「実践科目Dは、上級幻影でつくられた鬼を倒すという科目だよ」
提案してくれた少年の隣にいた、小麦色の髪に土色の瞳を持つ活発なイメージを与える少女は、編入生への配慮として教えてくれた。
こういう心遣いはうれしく感じる。
この二人は、パートナーのようだった。少年の方が右耳に少女の方が左耳に同じ装飾のイヤリング型の通話デバイスをつけている。
「素敵ですわ。ぜひそうしましょう」
その言葉を、合図として周囲にいた男たちが、蜘蛛の子を散らすように去って行った。
たぶん午後の授業の準備でしょうね。
残ったのは、数人でもうすんなりと廊下に出られるようだ
「さっきは、助かりましたわ」
隣の席の少年にお礼を言う。
「いえいえ、でも君なら僕の助けなしに何とか出来ていただろうから余計なお世話かなって思っていたよ」
「確かに、不可能ではないのですが少々乱暴な手段でしたので、助かりましたわ」
まぁ、これは本音だ。リコリスは、クォルツ家のイメージを守りたいわけではないけれど悪くしたくもなかった。一応お世話になっているしね。リコリスの復讐相手を見つけるための大切な情報網をみすみす逃す気はなかった。
すぅっと一瞬だけリコリスの瞳が猫のようになっていたの青い目の青年だけが気が付いた。
―――――ククッ……乱暴ねェ~、そっちの方が本性だろうよ!すげぇ、ネコかぶりだな。
眉をわずかにあげる。
(兄さん、失礼だって!)
―――どうせ、聞こえていないんだ!俺が何を言ったってな!
(確かにそうだけどさ。)
―――こいつは、あのプレッシャーを放出させた奴だぞ!そんな奴がただの貴族の令嬢なわけないだろうしな!それにこいつ、養子だろ?
(うん、らしいよ。)
―――戦闘人形だろ?
(ちがうと思う。なんていうのかな、オーリア先輩とかと違う気がするんだ。)
戦闘人形と呼ばれる人間が存在する。それは貴族たちが自分の家が倒して鬼の数や戦っていることを外に宣伝するための道具として育てられる人間のことだ。孤児などを貴族が引き取り鬼に対抗できるような無茶な戦闘訓練をさせ、その子に自分の家名を名乗らせ戦闘をさせる。自分の実の子を安全地帯にいさせるために貴族どもが考えた策だ。
―――なぁ、あの女、俺らのパートナーにしちゃおうぜ!
(兄さんが、誰かと組むことを考えるなんて珍しいね。)
―――あの女、何か隠しているな。それに、強い女は嫌いじゃないしな、オマエもアイツのことちょっといいなとか思ってただろう。
(まぁね。あの子が、何か隠しているっていうのには賛成だね付き人を連れてこない時点で怪しいしね。隠しているっていうより、何かほかの生徒とは違う目的があるように感じたけど)
―――まぁ、どっちみち午後の授業でほかのやつらをケチらして、オレが強いことを見せればいいんだろ。あの女に、どうやら俺たち目を付けられているみたいだしな
青い目の少年が、姿の見えないダレカと音のない会話をしていたことには、だれも気が付かなかった。
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★☆★次回予告★☆★
ばか騒ぎはとりあえず落ち着きを見せる。休み時間の屋上リコリスは、とある人と連絡を取る。そこで明らかにされる気になるアイツの過去。
そんな中、リコリスは何かの視線を感じる。視線の主はいったい誰?
次回、ダレカの視線