第一話
まだR15、百合、残酷描写は出てきません。
主人公もまだ出て来ません。
5/2…改良
「倭の国」→「倭の國」
月夜side
雲一つ無い青空の下、一艘の船が倭の國最大の港を出航しようとしている。
艦橋の港側では家族や友人との別れを惜しむ大勢のヒトで賑わっている反面、反対の海側には月夜を始め3、4人しか居ない。暫くすると海を眺めるのに飽きたのか、その内の一人が話しかけてきた。
「ねぇ、少し話さないかい?」
「かまいませんよ。何でしょうか」
「君はあちらに行かなくて良いの?」
「はい、別れを告げるようなヒトはいませんから」
「…そう、それはその、悪いことお聞いた。すまない」
「…!いえ、居ないと言ったのは死んだということではなく、ここまで見送りにくるようなヒトがいないという意味です!」
「そうか、それなら良かった」
どうも相手に要らぬ心配をかけてしまうところだったようだ。
それから暫く話を続けて、相手は名前をパトリシアといい、チャイヌ皇国からの旅行の帰りであること、月夜と同い年であることがわかった。
パトリシアは学生らしく、学校の長期休暇を利用して趣味の伝説収集に訪れていたそうだ。
「ねぇ、月夜は皇国に何の用なの?」
「私は留学です。クローヌ学園というところなのですが知っていますか?」
「へぇー、留学ねぇ。クローヌ学園なら知ってるよ、なんせ皇国で一番有名な学校だからね。倭の國だけじゃなくて帝国からも留学生がいるんだよ」
「そうなのですか、それほど有名な学校だったとは知りませんでした」
「学園に通うのならひとまず皇都に住むんだよね?」
「はい、学園の方で寮に部屋を準備してくれるとのことでしたので、そこで暮らそうと思ってます」
「それはそれは、至れり尽くせりだねぇ。でも、そういうことならこれだけは話しておかなくちゃあね」
「?」
話しておかなくてはならないということなら、皇都に住むうえで気を付けることか何かなのだろうかと思い、姿勢を正す。
「あのね、皇都の地下には巨大な迷宮があるらしくてね。その再奥には巨大な壁のような宮魔がいて 、そのまた巨大な魔力核には創世記以来行方知れずの創世神の手掛かりがあるんだってさ」
「………それは噂か何かですか?」
「いいや、噂じゃなくて伝説だよ」
「………」
それは噂とどう違うのだろうと呆れてしまったのもしょうがないことだろう。
「わかってないなぁ、伝説は噂のような不確かなものとは違うんだよ」
「人の心を読まないで下さい」
「ごめんごめん、でも別に心を読んでいるわけじゃないんだよ?」
「わかっています。親からはよくお前は顔に出すぎだと言われてきましたから」
しかし、いつまでもこんなではいけない。私は変わるのだと決意を新たにしていると、パトリシアはこれには触れない方が良さそうだと思ったのか、べつの話題を振ってきた。
「そういえばさ、月夜は魔術師なの?」
「何故そう思ったのですか?」
「いやあ、主に武器を使うにしては筋肉とかついてないなと思ってね」
脳筋のくせに中々鋭い。
「今、何か失礼なことを考えなかった?」
「何のことですか?」
「はあ、まあいいか。それで? 魔術師なの?」
「まあそのようなモノです。使うのは陰陽魔術ですが」
「えっ? じゃあ陰陽師なの!?」
「はい、やはりこちらでも陰陽師は珍しいのですか?」
天賦の才や特殊な知識を必要としない簡単な元素魔術が広まった今、陰陽魔術発祥の地である倭の国でも陰陽師は珍しくなってしまったのだ。
「うん、皇国の外に出なければ陰陽師なんて生きてる間に会えるかどうかってくらいだよ」
「そうなのですか…。実は私の留学の理由は陰陽魔術を多くの人に広めることなんですよ」
「へえ、そうだったんだ。でもそれは難しいと思うよ? ぶっちゃけ元素魔術の方がよっぽど簡単だし…」
それはそうだろう。陰陽魔術は特殊な知識と瞬時の判断力が必要になる。それに対し元素魔術は簡単な術ならば式や陣、呪文といった回路となる媒体と魔力さえあれば発動出来てしまう。たいして魔術を必要としない人であれば難しいモノと簡単なモノなら簡単なモノを選ぶに決まっている。
「まあ、一般人相手では無理でしょう。ですが専門家、つまり魔術師なら可能性はあります。陰陽魔術は元素魔術に劣るところは多々ありますが、防御魔術や召喚魔術などの一部であればはるかに優れていますから」
「なるほどね、まあ頑張りなよ。応援してるからさ」
「はい!」
この船旅が始まってから一週間がたった。
パトリシアとはこの一週間でかなり仲良くなった。噂とどう違うのかよくわからない伝説もいろいろ聞かされ、時々うんざりすることもあったがそれも今日で終わりになることを思うと少し寂しくなるほどだ。まあパトリシアも皇都に行くことがあったら会いに行くと言っていたし、また会えるだろうと寂しさを振り払う。
「それではパトリシアさん、私はこれで」
「うん、皇都に着いたら会いに行くからね!」
港に着くとパトリシアに別れを告げ、彼女に教えてもらった宿を探しに行く。明日はこの港町から皇都へ行くために乗合馬車に乗らなくてはならず、そこで眠ったりすれば荷物を盗られたりするし、何よりも町の外には魔獣や宮魔が出るため、今日のうちに長い船旅で溜まった疲れをとっておかなくてはならない。
教えられた通り港から街の外まで伸びている大通りを歩いていると、右手の方に宿を発見した。看板には“猫の尻尾亭”と書かれている。
「宿の名前は“猫の尻尾亭”って言っていましたし、ココのようですね」
宿の扉を開けると上にかかっているベルが鳴り、客が来たことを知らせる。
ベルの音を聞きつけた宿の女将さんと思しき人が出てくる。
「いらっしゃいませ、お泊まりですか?」
「はい、一泊したいのですが、 お部屋は空いていますか?」
「ええ、空いていますよ。お一人様ですか?」
「はい、一人です」
「それでは、ご案内致します。どうぞこちらへ」
今は誰も居ないが一階は酒場になっているようで、椅子や机が並ぶ中を女将さんのあとについて階段へ向かう。二階に上がると月夜は階段を昇って右の奥から2番目の部屋に案内された。
「ココがお客様のお部屋となります。鍵は中と外からかけられるようになっています。お食事に関しては夜は17時から23時まで、朝は5時から10時まででしたら一階の酒場がご利用できますが、宿泊料金とは別料金になっています。他に何かご質問はありますか?」
「いえ、ありません」
「そうですか。では、ごゆるりとお寛ぎ下さい」
女将さんから部屋の鍵を受け取り部屋に入る。部屋には机と椅子、ベッド、衣装箪笥、ゴミ箱、トイレ、浴室があり、中々良い部屋であることがわかる。
現在の時刻は14時、一階の酒場が開く17時までかなり時間があるので一眠りすることにする。
こんな時間に寝てしまうと夜眠れるのか心配になるが、船旅で疲れているから大丈夫だろうと思いベッドに横になるとあっという間に眠ってしまった。
ふと気づくと窓から差し込む日差しが街灯の灯りになっていた。どうやら思ったより眠ってしまったようだと思い、部屋を出て酒場に降りて行くと何やら騒がしくなっていた。
すぐそばに居た宿の客らしき男に聞いてみると、この宿の娘が森に茸を採りに行ったきり帰って来ないらしい。
そんな話をしている間に町の住人や宿の客による捜索隊が結成されていた。それならば私もと思い、女将さんに話しかける。
「あのう、女将さん…」
「あら、お客様。只今料理を作れる状況ではないので、申し訳ありませんが…」
「あっ、いえ、違うんです。食事の話ではなくて…、娘さんを捜すのでしたら私にもお手伝いします」
「お気持ちは嬉しいのですが夜の森は危険ですので、お客様では…」
「大丈夫です。私は陰陽師ですから」
「そうなのですか!? それでしたら…」
「おい雪、何かあったのか?」
月夜が女将さんに手伝わせて欲しいと申し出ていると、熊のような男が女将さんに話しかけて来た。
「あなた、実はこちらのお客様が捜索隊に加わりたいと言って下さってね」
どうやら熊のような男はこの宿の主人だったようだ。
「ああん? 女子供の出る幕じゃねえだろうが」
それにしても、丁寧な女将さんの主人にしては柄が悪い。
「私もそう思ってお断りしたのですけれどね、この方、陰陽師なんですって」
「何!? それが本当なら願ってもない話だが…」
「私のことなら心配は入りません。自分の身は自分で守れますから」
「そうかい、それなら頼むぜ。正直な話、今のところ魔術を使えるやつが一人しか居なくてな、助かったぜ。でも、魔術を使えたとしても夜の森は危険なんだ。だから、くれぐれも気をつけろよ」
「はい」
柄は悪いが思いやりのある主人だった。
作者「当作品「月無き夜の幻想譚」を読んで下さった皆様、ありがとうございます。作者の夜刀朔夜です。 後書きですが、当作品では最近よくある(と作者は思っている)作者と登場人物による対話形式を採用することにしました。
そんなわけで、ゲストの黒金月夜さんとパトリシアさんです!」
月夜「黒金月夜です。よろしくお願いします」
パトリシア(パティ)「出ました来ましたパトリちゃ〜ん」
月夜「パトリシアさん、古いですよ」
パティ「ううっ、月夜がきついよ〜」
作者「そうなんだよね。月夜がいつの間にか毒舌キャラになってたんだよ」
パティ「最初は違ったの?」
作者「ヒロインNo.1だからさ、もっとおしとやかな性格にしようと思ってたんだけどな。何でこうなった」orz
パティ「えっ!? 月夜って主人公じゃなかったの?」
月夜「えっ!? 知らなかったんですか?」
パティ「いや、だってあらすじでは月夜メインで書かれてるし、本編も月夜視点だし…」
作者「ふっふっふっ、そうなのだよパトリシア君! 実はこのお話の主人公はプロロー「なにネタバレしてる(んですか)(のさ)!」ごめんなさい」orz
月夜「項垂れている作者はほおっておくとして、後書きはそろそろ終わりです」
パティ「てゆうかさ、後書き長くない?」
月夜「しょうがないですよ。作者に文才が無いのが悪いんです」
作者「ぐはっ」ドサッ
月夜「それでは読者の皆様、これからも当作品「月無き夜の幻想譚」をよろしくお願いします」
パティ「なお、誤字脱字を見つけた方は感想またはメッセージでお知らせ下さい」
作者「┏┛墓┗┓」