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第8話 経理事務員よ、目覚めるがよい!


 どうして俺はこんなところにいるのだろう。


 ハルクトという名前まで勝手につけられて、わざわざ学校をさぼってまで妙な老人の相手をしているのだろうと考えている暇もないようだ。


 会社にあの事務員が入ってからというもの、ドアの近くで隠れる俺たちの前を何人もの会社員が同じように中へと入っていく。


 そして、あの窓際にいた彼も、いつの間にか俺たちにひそかに裏に回るようにと合図をしてきた。


 『これから今期の収支報告を兼ねた会議が行われます。 ですから裏口からまわってきてください。』


 『心配せずともよい。 お主の勇姿、しかと見ておる。』


 意味ありげに老人がにやにやとして彼に言って俺たちは裏口に向かった。


 『では、山本君。 今期分の決算報告を頼むよ。』


 いかにも偉そうな口ぶりの上司の声が聞こえきた。


 『は、はい…。』


 ページをめくる音が聞こえたその時だった。


 彼から急に言葉がでなくなった。


 緊張しているのだろうか、とにかく何か言葉に詰まった息は聞き取れるのだが、肝心の声が出てこない。


 『どうした山本。 またか? 緊張のあまり口のきけないような社員は、コンピューターと同じだ。 今日までにその癖が治っていなければ、どうなるかちゃんと私は警告しておいたはずだが…?」


 上司の手きびしい言葉に、その場にいた俺たちまで緊張してきてしまった。


 どうやら彼はリストラを覚悟しているようだ。


 出なければ、こんな怪しいフレクシスワールドに助けを求めるはずがない。


 がたがたと机が揺れる音が聞こえてくる。


 「君の気持ちはよくわかる。 しかしね、今のご時世、そんななんでやっていられるほど、うちの会社も甘くはないんだ。 悪いが、君には今日限りで経理課を降りてもらう。 悪く思わんでくれ…。 ということで、営業部からの報告に入る。」


 上司はそう言うと、何事もなかったかのようにさわやかな口調になって、会議を再開し始めた。


 俺はむっとした。


 よく見ると、ラズリもこぶしを握って険しい表情をしている。


 そうだよな、悔しくてしょうがないに違いない。


 なのにこの上司は、それが社会なのだという一点張りで彼の存在をもみ消そうとしているのだ。


 『わかりました、押します…。』


 かすかだったが、彼の涙声になっている響きが老人のもとまで届いてきた。


 そして、ボタンが押された。


 


 

 「まだ鼻毛は伸び始めたばかりで、皮下組織の膜をちょうど破り、空気にちょろっと触れた程度です。」まだこの小説が終わらないことを証明する事実を、成立するか疑わしい文章で飾ってみました。

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