第2話 方向指示器なる者らよ、主神フレクシスを崇めよ!
きっとこのじじいは二日酔いに違いない。
俺はそう思って、話しかけるのをやめようとしたが、甘すぎた。
「お主、名は?」
無視ししようと本能が告げていた。
いや、そんなに顔を度アップで近づけてこられたら、じじいの長き年月が経過して薄汚れた、しみだらけの奥歯から異臭が漂ってきて、とてもではないがやめてくれと言わざるを得ない。
「な、なんなんですかあんたは。 人がせっかくストレス発散をしているというのに!」
「わしか。 わしはこの町の無様な有権者どもを立派にするべく、主神フレクシスより遣わされた、誇り高き使徒なのだぞ? そのような口のきき方は…。」
即刻俺は話の途中で、このじじいと別れるべくゲームセンターを後にした。
だが、しつこい。
どこまでもついてくる。
しかも歩き方が軍隊式のザッザっという歩調で異様に気持ち悪い。
深夜帯なら、まだ単なる変質者で許される…べきだ。
まだ警察にしょっ引かれるだけで、住民の皆様のご迷惑をこうむることはない。
このまま後をつけさせて交番の前を通る道を選ぶことにしよう。
うん、それが懸命だし、このじじいのためにもなるだろう。
なにせ老い先が短いだろうから、残りの人生をせめてまともに暮らせるように取り計らうなんて、さぞかし俺は社会の役にたったのだと、ひっそりと自慢できるわけだ。
だが、俺が交番の道に差し掛かった時、悪夢が訪れた。
「まてーーーーーーいっ!」
待たないし、待ちたくない。
「お主、このまま無様な有権者のままで人生を終えるつもりか?」
「いいですか。 俺はあんたとは何の関係もない他人なんですよ? これ以上ついてきたら、目の前にある交番に言いつけますよ。」
「ふふふ。 ならばこちらは主神の援軍を呼ぶまで…。」
このじじいには世間体という言葉が頭の中にあるのかと俺は疑った。
「いでよ、偉大なる神のしもべ、ゼノムス!!!」
ぴかっと前方からまばゆい発光があたりを包んだ。
工事中のチカチカ光る赤い方向指示器を無理やりもぎ取って、急ごしらえの槍の先端に付けたバカヤロウの男が歩いてくる。
「な、なんだ?」
なんだか知りませんが、読んでくださる決して無様でない有権者の方々がいらっしゃいました。とても嬉しいです…たぶん。そして、たぶんまだ連載は終わらないと、思う。