第9話 聖なるボタンを捧げよ!
『突撃ーっ!!!!』
老人の猛々しい声とは裏腹に、二人だけのちょろちょろとした心細い進軍が、窓際をこそこそと登る形で実現した。
ボタンが押された瞬間、彼はいきなり立ち上がると、バンと机をたたき、上司のところまで歩き、下を向いたまま止まった。
「な、何かね山本君…。」
まさか、と俺は会社の壁を登りかけた老人を見つめた。
これから何かが起ころうとしているのは間違いない。
しばらく沈黙が続いたが、彼はそのままじつにさわやかな顔になって、老人から渡された『今にも長年にわたって風雨にさらされて表面についたカビが少しばかりめくれ上がった、それ』をかざした。
―『あなただけの素敵なトイレに、ぜひ当番組オリジナルの消臭スプレー…神への断罪!!! なんと今ならたったの四万八千九百円でのご提供です!』 ―
「…」
上司は言葉もなく黙っていた。
―『すげーじゃねえか! 消臭スプレーが一本たったの五万円だってよてめえら!』―
理解不能なテレビコマーシャルを流したのは紛れもない、この壁を登っている二人の阿呆だった。
というか、そこはもう一人、女の司会者でしょうふつう。
「なんなのよーっ!」
「案ずるなラズリよ!」
そう言うと老人は再び拡声器らしきものを手に取った。
―『見よ、我が同志ヤマモトの神々しいばかりのオーラを。』―
今度はゼノムスも負け時と加わった。
―『すごい! まるでグスタフ・リュンツァードルフ提督の乗る戦艦プリンツ・レーヴァーガルテンから出てきた副官ヘルムート・ホッフェンブルナー少将が猛烈な幾億ものミカンのとび汁を受けて、ひしゃげて大破した大砲の中にいぶかしげに銃剣を突き刺し、ざわつきだした部下の尻を十二回ずつぶっ叩いたあげく、中華あんかけの冷め切った残り汁を毒づきながらサメどもの跋扈する海に投棄したように輝いてますねー!!!!』―
『どんな輝き方だよ!』
一斉に周囲にいた社員全員が聞き返した。
その後、彼は首になった。
だが、なぜかその顔には笑みがあった。
早くも俺の後輩ができたことに対する戸惑いを、俺はかくさずにはいられないだろうが…。
どうしたわけか、今だにこの小説は続いています。世界一終了を望まれながら、更新され続けたタフな小説とか、ある意味すごいかもしれません…。いや、むしろそれに耐え抜いて全て読んだ方がいたらそれこそタフだと思います。今後の人間関係でまずお困りにはならないでしょう…たぶん。これを読んでくださっている読者の皆様、ぜひご一緒にフレクシス・ワールドを形成しましょう。ちなみにフレクシス・ワールドは世のはみだし者の人たちを受け入れてくれるような、そんな温かいイメージを持っています。本編ではむちゃくちゃやってくれちゃってますが、この物語を読むときほっとするような、そんな世界を目指しているので、何度でも…では。
「この小説はたとえみじん切りにされても…