Humming Heaven~来飛と斎志~
「来飛くん」
「あ!こんにちわ、斎志さん」
ふんわり、と笑うのはこの会社の跡取りの来飛くん(12)。着ているのは女物。(しかもにあう。)
ちなみに、女装趣味を確立させたのは汐弥だったりする。
「お帰りなさい」
「ただ今、斎志さん。父は?」
父親は、俺の上司のあんの馬鹿雪祢。
「社長なら社長室に」
「そっかぁ・・・・。あ、はい斎志さん。」
渡されたのはクッキー10枚入り。
「作ったの!よかったらどうぞ」
「・・・・・ありがとう」
「どういたしましてっ感想宜しくね♪」
パタパタと走ってエレベーター室へ行く12歳。
「こんにちわ、ご苦労様です」
「あ、お疲れ様ですぼっちゃん。」
「ぼっちゃん、なんてもう。僕は来飛、ですよ?」
なんて可愛らしく会話してる。誰だこの乙メンは。
「あれ、斎志さん来ないんですか?」
そして小悪魔だ。ついでに男かこいつは。
「はいはい、今行くから」
俺はこいつの保護者か。
社長室。
コンコン・・・・ガツッ
「入んぞ~」
「だから蹴破らないでってば!!」
悲鳴が聞こえたが知らん。
「もう、葛、鍵変えといて」
「いい加減オートロックに変えたらいかがですか。ついでに、俺は人事ですから。」
「パパ!」
「・・・・来飛?」
来飛くんがきたことに気づいていなかったらしい
「葛、この子が息子の来飛。かわ「桜庭来飛です!」
元気よく挨拶して作ったクッキーを差し出す。
「斑屋葛・・・ありがと。」
その場で封を開けパクリ。
「・・・旨い。」
「やったぁ!ありがとうございます」
嬉しそうに笑う来飛くん。うん、女の子(笑)
「かわいいなぁ~来飛」
「うっさい親バカ。さて、この後の予定ですが」
「葛は一緒だよね?」
「人事担当に何をさせる気ですか」
むぅ、と口を尖らす雪祢。・・・・一応、社長(4代目)
「だっていっちゃん、飛行機と海外嫌いじゃん。出張だよ?僕」
・・・・そう、この俺、潮瑞斎志は、海外と飛行機が何よりも嫌いなのだ。空を飛ぶのが人類の夢だと?気球やバラグライダーがあるじゃないか。鉄が空を飛ぶなんぞ、有り得ん理論主義だ。
「いっちゃん??」
「ん?あぁ、失礼しました。」
いかん、飛んでた。
「今回はモデルとの打ち合わせも入ってるし、撮影も見学してくから。いっちゃん行く?」
「・・・・行かせて頂きます。今回はどちらで」
斑屋はすっかり来飛くんに気に入られてる。
・・・来飛くん秘書に、決まるかもな。
「斑屋は連れていきます。あとはいつも通り、汐弥と東、由高ですね?」
「うんそう。頼んだよ。」
「畏まりました。」
「それから、来飛送っていって。碧子さんが不思議がるといけないし、来那が泣くとこまる」
碧子さんは雪祢の奥様で、大学の同級生だ。来那ちゃんは、来飛くんの妹さん。まだ5歳とかそこらだった気がする。
「畏まりました。」
「パパ、今日もお残り?」
「そうだよ、ごめんね。必ず埋め合わせはするから。」
「うん、わかった。明日のお弁当は?」
「いっちゃんが取りに行くから。」
「俺?!」
またかよ・・・・
「わかりました。では来飛くん、行きましょうか。あ、斑屋はのこって。まだ話中だったろ?」
「えぇ、まぁ。」
「じゃ後宜しく。」
来飛くんを連れて社長室を出る。
「ねぇ斎志さん?」
「ん?どうした?」
背が伸びたとはいえ、俺よりは小さい彼が俺を見上げる。
「今日はパパのお車?」
「今日は俺のお車」
「左ハンドルの?」
「そう。だから右側に座ってね。」
「うん!!」
地下駐車場まできた俺達。
「どうだ?普通の中学生やってっか?」
「うん!でも、学ランきついし、授業は簡単だし、つまんない。」
流石は次期社長・・・
「詰め襟だったな。」
「学ランきつい~」
タバコタバコ・・・あ、雪祢に没収されたまんまだ。
・・・・あ、クッキーあった。
「お煙草辞めたの?」
「あ?・・・・・あぁ、没収された。」
「パパに?」
「おう。」
それは大変だね、と苦笑い。
「お煙草買いに行く?」
「あぁ、悪いな。」
車に乗るとすぐさまエンジン掛けて発進させる。
「ご飯食べてく?ママが作ってると思うよ?」
「いや、遠慮しとく。今日は俺も残業だから。」
「なんだぁ、つまんない。じゃぁ、デートしようよ♪」
全くこのこは・・・・
「コンビニにつまみ買いに行くだけだぞ」
「わぁいありがとう!」
こうして俺は、コンビニでつまみと飲み物を買って来飛くんを送り届けた。
「斎志さんまたね」
「またな。」
車を運転しながら、いろいろ考えつつ、会社に戻る。
「社長、仕事しましょうか。」
「社長」
前を歩く人に声を掛ける。
「斎志さん!!」
24歳になった来飛くん。いつの間にやらこんなに大きくなって。
「社長って呼ばないでってば!!斎志さんの前では可愛くいたいのに!!」
・・・今では立派なオネェだ。
「やっぱりかわいいなぁ、来飛」
「煩いですよ会長。44にもなって。それより、斑屋は?」
雪祢は会長になり、俺は相変わらず秘書だ。
斑屋はなんと来飛くんの秘書になった。
「斑屋さんはお買い物です♪」
「そうか。」
「あ、はい斎志さん!クッキーです」
手渡されたのは、あの日渡されたクッキーと同じ形をしたもの。
「・・・・ん、旨い。」
くしゃ、と来飛くんの髪を撫でる。
「やったぁ♪あ、会議だ。デートしようね斎志さん!!」
今日ぐらいなら、いっか。
「いいよ。今日でいいだろ?」
「いいの?!じゃぁ、いつもの居酒屋ね!」
お前もか。
「いいよ、行こうか。」
たまには、悪くない。