幼馴染と私、どうして差がついた。いや、差がつき過ぎた。
私、コレットと幼馴染のアリアナは同じ伯爵令嬢で小さな頃からいつも一緒だった。
「あら可愛いわね。きっと将来は美人になるわ」
私は、アリアナが褒められると嬉しかった。
「あなたも、可愛い幼馴染がいていいわね」
「うん!」
私は満面の笑みでそう答える。
本当にそう思っていた。
大きくなると、美人の方が得だと分かった。
でも、アリアナと私は違うから、私は私で自分の人生を生きるの。
——そう思っていたのに。
◆◇◆
「その男はコレット——君を本当に好きなわけじゃない。ただ君が、今、そいつが婚約破棄されたアリアナ嬢の幼馴染だから、次の相手にちょうどいいと思われているだけだ」
王太子ライオネルが私に向かって言う。
夜会の最中に、私の幼馴染のアリアナに婚約破棄された侯爵子息ダミアンが、その足で私にプロポーズした。
その直後の出来事だった。
「ラ、ライオネル様……ちょっと来てください……」
私はライオネル様を人のいない場所に誘い込んで、話をする。
「ダミアン様がアリアナに婚約破棄されたから、私にプロポーズしたのは知ってます。でも、みんなの前で婚約破棄されるなんて可哀想です。私がプロポーズを喜べば、ダミアン様も少しは元気になってくれると思うので、これ以上本当のことを言って追い詰めないであげてください」
ライオネル様は驚いている。
「知っていて、プロポーズを受けるつもりなのか!?」
「プロポーズを受けるんじゃなくて、喜ぶだけです。後日、婚約していなければ、みんな、私がダミアン様に振られたと思うだけでしょう」
ライオネル様はさらに驚いている。
「君はいいのかそれで!? 君の評判が落ちるだけだぞ」
「私の評判なんて落ちませんよ。地味な伯爵令嬢なだけで私個人の事など気にする人がいないんですから」
ライオネルがハッとする。
「まさか……君が、アリアナに振り回された後のデートで、俺に声をかけてくれていたのって……」
私はカァッと赤くなる。
「私なんかに慰められても嫌だと思ったけど、下には下がいると思ったら元気になれるかと思ったんです。アリアナはすごくモテるから、素敵な男性たちが落ち込んで帰っていくのが可哀想で……」
「全員に同じ事をしていたのか……!」
「アリアナの門限の時間に散歩から帰るようにしていただけで、毎回会えるわけじゃありませんでしたけど……」
アリアナは、デートから帰ってくる時に外を歩いている私を見かけると必ず挨拶してくれた。
『コレット、いいわね一人で散歩出来るなんて。私はライオネル様に付き合って一日無駄にしたわ』
『素敵な男性と過ごせる方が羨ましいわ。今日もお目にかかれて光栄です、ライオネル様』
美しいアリアナに好かれたくて頑張っている男性を私なんかが元気づけられるなんて傲慢だったわ。
でも、ライオネル様にお目にかかれた日はとっても充実した日になったし、私は本当にアリアナと幼馴染で良かった。
「……じゃあ、戻ります……」
私はダミアン様のところに行く。
「ダミアン様、とても嬉しいです」
「じゃあ、婚約成立だね、コレット」
ダミアン様が変な事をおっしゃる。
「それは、両親にも相談しませんと……」
婚約が成立して後々困るのはダミアン様なのに……それだけ、婚約破棄がショックだったのね。
「俺は、アリアナと会って疲れている時に見る君の笑顔がいつの間にか一番になっていたんだ」
後で断られるだろうから、この場はお受けして……。
「はい、よろ……」
「待った! コレット!!」
私がダミアン様のプロポーズを一旦受けようと思ったら、ライオネル様にまた止められてしまう。
「君の笑顔に癒されていたのは俺も同じだ! コレット、俺と結婚してくれ!!」
「……え?」
さっきから注目されていた私たちだけど、さらに注目度が増した気がする……。
って、どうすればいいの!?
「俺の方が。ずっと前からコレットの事が好きだったんだ」
「……ライオネル様は、この間もアリアナとデートしていましたよね?」
「アリアナと一緒だった事はあるが、お陰で君に会えたんだ、コレット! 俺を君に引き合わせるためにアリアナがいたんだ!」
「王太子、違うな、俺とコレットを引き合わせるためにアリアナがいたんだ」
「アリアナと婚約までして何言ってるんだ?ダミアン」
「コレットと出会う前だったんだ」
二人は私の目の前で喧嘩を始める。
「……わ、私なんかのために喧嘩してはいけません! お二人とも、私にはもったいなくて……もっと綺麗で身分の高い方にプロポーズなさってください」
「なら、俺と結婚してください、コレット」
私たちを見ていた人垣の輪の中から、男性が現れた。
たしか、伯爵子息でアリアナと出かけていた人だ。
「それなら俺と!」
「いや、俺と!」
やっぱりアリアナと出かけていた子爵子息や男爵子息が飛び出してくる。
——何人も……。
「あの……え……?」
「俺は男爵で身分は下だけど、あなたを愛する気持ちは本物です」
そ、それでも、私が選んで私に相応しい方だなんて言えば、彼を侮辱することになってしまうわ——!
「ご、ごめんなさいっ!!」
私はどうする事も出来なくて、その場を逃げ出した。
人垣をかき分けて、夜会会場の入り口に着くと、アリアナがいた。
「アリアナ!? 帰るの? 私も帰りたいの!」
一緒に来て、一緒に帰る約束だった。
アリアナがふっと笑った。
「私が振った男たちの相手をしてくれたのね、コレット。大変だったでしょう? しつこくって私も手を焼いているのよ。出かけた先では別行動でもいいから、行き帰りは馬車で送らせてくれって。そこまでして私に会いたいなんて、困るわぁ」
そう言うとアリアナは近くにいた男性に声を掛けた。
「というわけで、私はこの子と帰るわ。会いたかったら、屋敷に来てください」
やっぱり素敵な男性だけど、ライオネル様とも見劣りしない服装で、高貴な雰囲気をまとっている。
「申し訳ありません……!」
私は男性に深々と頭を下げた。
邪魔してしまったのは分かったけど、私も緊急事態で家に急いで帰りたかった。
何度も男性に頭を下げて、アリアナの馬車まで移動した。
なんだか大変な事になってしまった。
私が頭を抱えている横で、アリアナは上機嫌だった。
「隣国に行くのも悪くないかも……ふふ」
◆◇◆
アリアナが隣国へ行くと私に挨拶にきて、すぐに出発してしまう。
夜会会場で最後に会った男性が、隣国の次期皇帝だったらしく驚いた。
アリアナは次期皇帝のお妃さま——皇后陛下になってしまうのかしら……。
幼馴染でずっと一緒だったアリアナに気軽に会えなくなってしまうのが寂しい。
——でも、そんな感傷に浸っている場合じゃなかった。
アリアナに振られた男性たちが、毎日、私に求婚に来るのだった。
私はアリアナじゃないのに——。
私とアリアナは、成長するにつれて差がどんどん広がっていった。
御伽話に出てくる王子様が何十人もアリアナの前で列を作っていて、
(アリアナ、本物のお姫様みたい……!)
と思っていたわ。
私も、御伽話のお姫様になりたいと思った事もあったけど、本物が横にいるんだもの。
私は私だから、自分の人生を生きて、私を好きになってくれる人とずっと幸せに暮らせるほうがいいもの。
——そんな夢も、アリアナの幼馴染というだけで、誰からもアリアナの代わりに見られてしまうのね。
ライオネル様が訪ねて来た。
「コレット、俺と結婚してください」
「ごめんなさい。ライオネル様にプロポーズしていただけるなんて嬉しいけど、私にはもったいなくて……」
また同じ断り文句になってしまう。
「他の者たちを傷つけたくない君の考えはわかるけど、引き伸ばすほど全員を長く傷つける事になる」
「……でも、私に選ばれた人は後で後悔するもの……」
ライオネル様が呆れてる。
「何年も、ただ君に会いたいがためにアリアナのところに通っていたんだ……後悔するわけないよ」
「……直接誘ってくだされば良かったんです……誰からも相手にされなかったんだもの、声をかけて頂いた方を好きになったのに……」
「絶対にそれはない!」
何故かライオネル様が強く否定する。
「王太子という身分に、言い訳して俺と付き合うなんて考えは持たなかっただろ。君の話を聞いて確信してる!」
…………そうかも……。
「君にプロポーズ出来て、君が迷ってくれているだけで、一歩前進だ!」
……断り続けているのにライオネル様は嬉しそうだった。
私のこと本当によく見ていてくれたみたいだわ……。
「お話中に申し訳ございません! お嬢様宛に、隣国から急な書簡が届いています!!」
慌てて執事が入ってくる。
「書簡……? え……私に!?」
隣国の次期皇帝からの私への招待状だった。
同時にアリアナから、もっと素敵な方に誘われたから、海を渡るという手紙も来た。
——海を渡るって、神獣の住む伝説の島のことじゃ……まさか、アリアナって人外にも見染められてる!?
って、それより、次期皇帝のあの方が私に会いたいって……。
「アリアナに振り回されて、癒してくれると評判の君に会いたくなったんだな……」
ライオネル様が呆れている。
「アリアナの美しさの評判と一緒に君も伝説級の癒しの存在になっているから、ずっと誘われ続けるな」
「……えっ!?」
って、現に次期皇帝から招待状を貰って……アリアナは伝説の神獣の国へ……。
神獣からも誘いが来たら、どうしよう——。
いや、目の前の次期皇帝からの招待状が既に私の処理できる範疇じゃない!!
ど、どうしよう……。
私が青くなっていると、ライオネル様がにこっと笑う。
「俺と、婚約して一緒に隣国に行けば解決だ!」
「そ、それはそうですけど……」
隣国の次期皇帝と同じくらいの身分で対抗出来る方は、王太子のライオネル様だけで……。
「よ、よろしくお願いします! ライオネル様!!」
ライオネル様の顔がさらに明るくなって、私に抱きつく。
「コレット……愛してるっ!!」
どうしてこうなったのか……私は真っ赤になっているだけ。
でも、夢が叶いました。
◆◇◆
隣国へ旅立つ日。
アリアナからまた手紙が届く。
『神獣の国の王子にプロポーズされたの! でも、ここには精霊王とか魔界の王子とか、知らない国の方がたくさんいるのよ』
アリアナが幸せそうで良かったけど……サッと血の気が引く。
精霊王に魔界の王子……。
ライオネル様が少し遅れてやって来る。
「あ、肩章がよれています」
私は、ライオネル様に近づいて肩章を整える。
「ありがとう、コレット」
「大好きなライオネル様の為ですから」
ライオネル様が真っ赤になってる。
「俺の方がずっとコレットを好きだと思ってたのに……」
私はにこりと微笑む。
「私を本気にさせたんですから、一生一途にライオネル様の事だけを想い続けますよ」
私は私を好きになってくれた人とずっと幸せに暮らすの。
私とライオネル様は手をつないで、馬車に乗り込んだ。




