「オペレーショントモダチ」(その9)
登場人物
海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)
海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)
高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)
奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)
高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)
海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)
JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)
弓削田・地元テレビ局ディレクター
橘・同カメラクルー
河村校長。
岩本警部
(プロローグ)
(なれそめ)
(東北行)
(アフガニスタン2010)
(沖縄)
(岩国)
(岩国警察署)
(浦添泰子)
(アン・フジムラ)
(震災三日目)
(奴・吉村君子)
(ジョン・シューバッハ)
(イングリッシュ)
(岩国基地)
(県立岩国高校)
(基地内の高校)
(首相)…その9
(岩国2)
(地元放送局の動き)…その9
(新展開)
(霞が関・中央の思惑)
(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)
(政治)
(ステディー)
(なし崩し)
(政治2)
(気づき)
(霞が関2)
(気づき2・続き)
(岩国3)
(気づき3・続き)
(地元放送局3)
(思惑)
(枷)
(展開)
(親しく。「テッパンヤキ」)
(イコール)
(三沢へ)
(両親)
(プラクティス)
(プロム)
(反響)
(Differences)
(プラグマティスト達)
(エフェクト)
(良い結果)
(逡巡)
(フィクサー)
(政権)
(エピローグ)
(首相)
久々の墓参名目でのお国入りは、彼にとっては日ごろの付き合いを離れてゆっくり物事を考える事が出来る数少ない機会であった。
テレビに映る事はあっても、ゆっくりテレビを見る、ましてや地元のテレビは一年のほとんどを東京で過ごす彼にとって年に数時間も無い。明日の予定を秘書官からレクチャーされ今晩だけは、一人。オヤジが残したこの家の書斎で、普段は飲む事を止められているビールを一人でゆっくり楽しめる時間である。自分の政治的師匠に当たる前の自党総裁(首相)は、離婚後独身を貫いていたので、このような時間を楽しめ、自身の文化的な権威を高める事ができたが、子供こそいないが健康体をもち、酒も好きに楽しめる“妻”の目を離れ、心置きなく好きな映画をビール片手にテレビで楽しもうと、今晩は決めていた。DVDプレーヤーに若いときに好きだった映画を放り込むとテレビは、スイッチを押す必要も無く、いちいちリモコンで設定も変える必要も無く自動的に映る。
「便利な物だ、今は」
映画が始まるしばしの時間、地元ローカル局の地元ニュースが流れたとき、彼は思わずリモコンを捜し、映画を止め、チューナーに設定を換えた、映画どころでは無い、“今”やっているローカルニュースの映像は、彼を釘付けた。
時間はちょうど夕方の6時半“地元ニュースの時間か!”
彼は、それから数少ない地元局のニュースをザッピングし始めた。
しかしやっていたのはあの局だけ。
そこで彼は地元秘書をインターホンで自室に呼び、このニュースを配信した局の関係者から詳しく事実を確認するように指示を出した。
敵失といっていい形で今の政権を手に入れ、国会でも過半数を得ている今、彼を悩ませている“数多くある”イシューには、沖縄の基地移転問題が難敵の一つとして挙げられる。
経済は優秀な先輩が財務大臣として、日銀総裁と共に、そうしてくれる理由は他にあるにせよ『かなり』の部分で自分の荷を軽くしてくれている。
本来自分の得意分野にすべき北朝鮮の拉致問題も、北の頭が代替わりをしたとたん、日本はおろか世界中がコントロール不能な状態、そこに隣国。韓国政府も自国民の人気取り政策にあくせくする余り、大局を見失っている事態で、保守的な右翼は勿論、進歩的と称する左翼、リベラル両方の世論を『逆撫でる状態』を変更する気も無い事は明白な状態になっている原状では、個人の努力では、拉致問題の進捗は、もう、どう仕様もなくなっている。
『国際経済がこの件に関しては“解”を出してくれるだろうから、それまでは、下手を打つ事は無い』
アメリカの目が中東からアジアにシフトした今、この基地移転問題は、自らにとって最も面倒で、慎重に扱わねばならない問題の“ひとつ”である事は、官房長官との間でのコンセンサスになっている。そこへ飛び込んできたのが、このニュースである。これは、全国に配信されているニュースなのか否か?もしそうでなければ火をつける必要がある。ただ問題は、この局は、キー局の中で、二つある目障りなリベラル系のうちの一つに挙げている放送局の系列である。ただ、この地元局の社長とは、ゴルフができる中である事は幸いであった。
妻もこの手の話題ならば、私を支持してくれるだろう。
「もしもし。あ!官房長官?」
彼は携帯電話から彼の腹心と思っている年上の部下に考えを伝えた。
(岩国2)
校長室に呼び出されたのは自分ひとりではなかった。
三度目の新三年生の担任である自分とは異なり、今年担任としては初めて三年生を受け持つ橋本も、てっきり五月の全国模試の話を校長と共に橋本にレクチャーするものと思っていた。
しかし浦添は、校長の話しの内容を聞き進むうちに、不機嫌なオーラーを橋本や同席している副校長にもはっきりわかる形で表している。
「河村先生、先生がいらっしゃるので、私は本校に赴任したような物です」
河村校長は、もともと海兵隊ヘリが墜落しロータ部に塗布されていた凍結防止剤に放射性物質が含まれ、その拡散の被害を及ぼす事実の(政府及び米側による)隠蔽に対し、調査及び追及運動における沖縄国際大学の学校側当事者として有名だった。
其の時の毅然とした対応の結果の顛末が、沖縄出身者の浦添が、河村校長の転任に付き合うきっかけでもあった。
その河村校長自身、岩国基地拡張計画反対の市長の引きによる学校長就任が“そもそも”であったので、今日、校長の口からこのような言葉を聞かされる事態は、浦添にとっては、全くの心外であったようだ。
「市長と教育長からのご依頼ですので、君の心情は理解できるが、ここは、違った観点を学ぶという意味でも、ご同行頂けないでしょうか?」
この“違う観点”は、計画反対の市長が選挙に敗れ交代後、岩国基地の拡張が進む中で、校長が、浦添を説き伏せる際に使う、常套句となっていた。
勿論、橋本には、何の疑問も無かった。
ただ、彼女の事を突っ込まれる事だけは、避けたい。その思いだけであった。
(地元放送局の動き)
通常夕方六時のニュースは、前半は、東京のキー局から送られてくる全国と国際ニュースの後、地元密着型のローカル情報というのが定番であるのだが、今回の仕切りは自然災害と犯罪以外では久々、東京のキー局のキャスターと衛星回線で結ばれた状態で、全国配信がなされる。そして、テーマの性質上『仕切り』は地元局の製作素材が基になる。
それだけに、今回は地元局のディレクターにも、いつもの地元情報とは比べ物にならない、下準備=取材の時間が(3日間も)与えられた。しかも上(報道局長)からは、久々に
「何の“括りなし”」
と言う得点、言い換えれば
“失敗すれば”全責任は、自分に帰結するのだが。と云う入社以来二度目の機会を与えられ、彼と、彼のチームとしてはアドレナリンが湧き出る事を抑える事が難しかった。しかも、この番組は、一応同時間帯の同じような夕方のワイドニュースの中で全国視聴率も1・2を争う。即ち、視聴者数は決して少なくないし、地元エリアでは、当然、絶えず、トップを維持していた。
「おーい橘!ハンディ2の3カメ体制だぞ!」
「了解っす!」
インタビュアーは当然自分がこなす事になっていた。
今日が、基地で、明日が学校、放映前に全ての素材を編集して東京に送らなければならない。
「アポは何時だ!?」
「1時からです」
通常十一時、局入りなのに今日は皆、九時には、顔を揃えている。それだけ皆やる気になっている証拠だ、約束は、一時間の取材だが、三時間分以上のテープを2セット用意させている。
「湊は?」
「洗車っす!」
解っているな!ドライバー役のADにもアドレナリンはみなぎっている様だった。
このスポットは、地元がらみ、自分が作ったローカル情報が、事の発端。
それに上の方からのご意向が絡み、このような話に至っている事は、言わずもがな。であったが、上からのご意向にも拘らず“括りなし”と言う報道局長ラインの意向も十分忖度できていた。
要は
「中立にやればよい」
のである。そのことを念じているうちに、車は基地のゲートを無事通過した。何度か基地祭などの取材で訪れた事のある場所だが、民間空港としても活用されるようになってからは、米軍エリア内の取材は始めてである。
そこは巧く、名目上の地主である海上自衛隊基地の陰に隠されてはいたが、本州西日本最大の米軍基地が、事実上『ここ』であることを十分に理解させられるだけの威容を誇っていた。
取材はその士官用食堂で始まった。
基本相手が用意してくれた通訳を介してと言う事になってはいた。
最初の挨拶段階で、今回撮影する、本インタビューの為の今回のまでのいきさつや、話の方向性などの説明を弓削田はした。
しかし、中尉の口から、そして通訳(も、よく知っているくらい“ここ”では有名な話)を通して、そして、もう一人の取材対象である。軍曹の話を聞いて、取材方向の変更もありうることが、弓削田をはじめとするクルー全員には、はっきり判った。それ程、ここに至る話は面白かった。しかし、この事前レクは、当初十分程度を用意していたが時計を見れば既に一時間以上が経過している。
「弓削田さんの英語と私の日本語で十分番組ができますね!」
と言うチャーミングなヘリコプターパイロットと紹介されていた、今回のヒロインであるフジムラ中尉の言葉で、米軍の通訳は
「単なる、米側の記録掛」
になってしまった。
確かに彼女は、海兵隊員の概念を覆すほど、の、言葉の力と、そして同席する男性海兵隊員とのコントラスト・写真写りが、抜群であった。
「すみません。お約束は一時間でしたが、既にその一時間が過ぎてしまったのですが」AD兼運転手の湊が弓削田を呼びに来た時
「OK」
「では、もう少し時間が取れるように調整してみましょう」
単なる記録係だが、下手なプロデューサーより、この通訳は(事実が、基地内では有名で面白い話なだけに)機敏且つフレキシブルに動いてくれる。
そして何より、テープを三時間分用意した判断は、『正解』だった。
しかし、逆に我々も基地内の新聞に逆取材を受ける羽目に陥った。
今日、夕方の放送の為に製作する予告編を準備できる時間が少なくなる、カメラマンの橘は、徐々に帰社後の自分に降りかかる災難に思いをめぐらさざるを得なくなった。
地元放送局の社長からの、今日取材した内容の概要を聞いた瞬間、官房長官は、即座に放送時間の変更に関して異議は無いことを伝え、それとなくキー局の上の方にも、側面支援を与える旨、協力を約束した。
そのような事情を忖度できる訳もないが、弓削田は、局長の放送時間変更許可、それも、最も視聴率が期待できる、水曜日への放送日程変更許可が瞬く間に出た事に驚いた。
「有難うございます。これで先生方への取材を平日から土曜日に変更が出来ますので、話の内容が“ぐっと”濃く出来ます」
「そうか、厚みが増せば料理のし甲斐も増すな!」
「ハイ、カメラのほうも編集に、しっかり時間が頂ける事は大変ありがたいです」
「わかったいいモノを頼むよ!もしかすると、オレ初の全国特番も組める位のインパクトのある奴をな!」
「了解しました。では失礼します」
学校への取材はこのような訳で木曜から土曜日に時間も昼からと言うスケジュールに変更され、その残りの二日を掛けて宮城出張の許可、それもカメラクルーをつけて!と言う特別な許可も獲ることができた。さて橘は編集に専念させるとすると。同行カメラはADの湊か?違った意味での悩みが沸いてきた。
「校長先生、土曜日の午後は新三年生のゴールデンウィーク明け前の最初の全国模試前にできる唯一の補習授業ですが?」
まだ受験への危機感が薄い元二年生を、新三年生として根性を叩き直す重要な時期がスケジュールとして予め組み込まれていた。
県内の進学校とは言っても、県内のベスト3に食い込むには、無駄な時間を取る余裕など、進学科目を担当する教諭には無い。
まだ三度目の新三年生の担任。
自負はあったし、PTAの親御さん達からの絶大な信頼をこの二年間で得ていた浦添ではあったが、中国地方で、いや全国レベルで見ると、生徒達は自身が、どの程度か?それを彼等(新三年生)に植え付けるためには大切な週末から連休の補修授業、それを元々乗り気では無いテレビの取材などで潰される事は、大いに不本意であった。
「ア!その日は、そのような訳で先生の手を煩わせたくは無いので、全国統一も、市がスケジュールを組み換えましたのでご心配なく」
横にいた、教育委員会の手先である副校長は、予め反論を予期していたかのように応えた。
相手も相当用意周到である。
「もし県外から試験問題が」
・・・間髪をおかず
「それにも対策は採っておりますからご安心ください」
副校長は質問の余地すら与えてはくれなかった。
「本日はお忙しい所、お時間をとっていただき感謝します」
この言葉をサインにインタビューは始まった。
自分の手前には大型モニターが置かれ時折、あの日の道場での模様が再生されていた。
「先生方は?」
「私は、担当が体育で、こちらの浦添先生は英語が担当です」
「え?でこの?」
「浦添先生は受験指導以外に、拳法部の顧問もされていて、当校女子の護身術の指導もされて・・・」
「橋本先生・・・」
浦添は確実に自分が話題の中心になることを避けたい気持ちで一杯であった。しかし弓削田は、この橋本の態度を見逃す事はなかった。
「先生は、ここに写っている海兵隊員の一人を投げ飛ばされたとお伺いしているのですが?」
「イヤそのような事は。ただ」
「ただ?」
「イエなんでもありません。日ごろ生徒たちに教えている(合気道の)護身術を少し使えるかな?と考えていてそれが、たまたま(相手が知らなかったので)上手くいっただけの事です」
「イヤでも凄いですよ、先生より数倍もガタイの大きな相手を投げ飛ばして、其の上、病院送りにできるなんて」
浦添は、あえて返事をせず俯いた。
「ところで橋本先生は震災の時に、東北にバイクで行かれたのがきっかけで、彼ら(米兵)と知り合いになられたというのは本当の話ですか?」
浦添は、ほっとした。
「え!」
「イヤ、我々の情報ソースから得た情報なので、確認させていただきたくて」
「まぁ」
「その情報ソースによると何か女性の方との事なのですが?」
「え!」
「間違っていましたか?」
「今日のインタビューは、そのような事を聞かれる為に呼ばれたのですか?」
「いいえ、実はその情報ソースによると、決してゴシップのような話ではなく、その方は先生がお世話になった方だとか?」
「ハイ、私のダンスのインストラクターの方です。」
「ご存知のように近々現代ダンスと言うのが体育の必須カリキュラムに組み込まれるので、その為のレッスンをして頂いた方です。」
「しかし、ただ若い女性ともお伺いしていますが?」
「現代ダンス、ヒップホップとかですから・・・」
「そうですか。」
「ただ、その方とは何も無かったようではないと?も聞いております」
「あ!もしかして我々より先に米軍にインタビューをしています?」
「はい」
「情報ソースって、海兵隊のモーザー軍曹とフジムラ中尉ですか?」
「はい。それ以外にも何人か。」
『ああ。そうですか』
やっと話が見えてきた。
「で、実際の処、何が聞きたいのですか?」
「では、お言葉に甘えて本題に移らせて頂きます。先生は、その東北に行った際に、先生を助けて?くれた、お二人とは、それ以前にも面識があって、今は非常に仲がよい、というかプライベートでも連絡が取れる仲ともお聞きしているのですが、事実でしょうか?」
「ハイそれは事実です。その授業のために(ダンスの)レッスンを彼らに個人的に相談し始めています。」
「実は、どうせ先生のダンスの特訓を引き受けるのなら、それだけでは無く・・・ちょっとこのVTRをご覧頂けますか・・・このように・・・そのお二人や基地の司令官や基地内の高校の校長先生から提案がありまして、県内、いや中国地方でも随一の進学校でもある御高と、岩国基地の高校生と・・・先生方の教え子とで何か出来ないか?と言う話があります。」
「先生方の率直なご意見をお聞きしたくて」
「勿論、正式な回答は、学校長や教育委員会の方々と相談されなければ出来ない事は存じ上げておりますが、今回はお二人の率直な感想をお聞きしたく、このような場をセッティングさせて頂きました。ただ事前に、市の教育委員会と校長先生には、内容はご報告させて頂いておりますので、ご自由に発言されて頂いてもお咎めはございませんので、どうかご安心ください」
「それは、あの・・・どの筋から、最初に出てきた話なのですか?」
浦添の表情に少しばかりの険しさが走ったのを弓削田は見落とさなかった。
『そういう質問は来ると思ったので、このようなVTRを用意させていただきました。』
「これは、一昨日、実はその”橋本先生“の言われる情報ソースとのインタビューの模様なのですが、どうかご覧になってみてください」
弓削田に如才は無かった。
そこにはインタビュアーの弓削田以外は、アンとモーザーしか映ってはおらず、その二人からの提案をアンの流暢な日本語で
「橋本先生が特訓するだけではなく、期間を決めて、目的を持って希望者を集い、(日米)両校でダンスを練習してはいかがでしょうか?」
と言う提案がなされていた。モーザーの英語には、“このようなプラクティスは非常に実践的な訓練で他国の同盟関係にある米軍基地にはない日米同盟の良い面でもある。”と言う字幕がかぶせられていた。
そしてそれだけではなく、二人の英語でのやり取りに被せられている字幕では、“近所同士の学校なのだからこのようなダンスだけではなく、スポーツや文化など全般で交流が、もっと促進できれば、素晴らしい”とか“震災以降日本の一般の国民の在日米軍に対する視線の変化”とかの言葉も散りばめられていた。
弓削田は、これに付け加えるように、あくまで、このようなことを現場レベルで判断し、実行に移す事は出来ないかも知れませんが、(文科省の許諾の必要性とか)そこは、我々も側面から(取材)協力をさせていただきますし、既に(局以外の)上のほうの耳にもこの内容は伝えている旨、の言葉があった。
橋本は、実践的な英語に触れる機会や、この学校だから、日本の中にある(少しうるさいが)『アメリカ』の環境に生徒たちを実際に触れさせるには良い機会だし、それが継続的な活動になれば、生徒の国際的な視野の広がりや学校の評判など諸々プラス面を想像した。
しかし浦添は全く逆にネガティブな事を考えていた。
ただ、その事は、自身とこの学校、ここの市民としてのポジションを危うくする『リスク』も十分に承知できた。
内地は、日本には、それほど内向きな空気が『ある』いいや『充満している』事を十分承知していた。で、ためらった。
「浦添先生はどのようにお感じになられています?今のVTRをご覧になって?」
弓削田は、浦添が河村校長の『引き』で地元の新学校に赴任している事も、その河村校長自身の経歴も予めチェックをしている。
一般的には、嫌味な面。これは、報道に携わる人間としては必要な資質を十分に備えている。無自覚に。
「いや・・・」
「え?それは、どういった『いや』ですか?」
「いえ、特にただこの場所で申し上げることでも内容とも違うと思いますし私の立場で申し上げるべき事柄でもないので・・・」
「でしたら先生としてのお立場ではなく、一県民・市民として、個人的にはどのようにお考えをお持ちでしょうか?」
「それこそ街頭インタビューでもないので、ここに呼ばれて、教師という立場以外のお答えをする事はさし控えたいと・・・」
「そこまで深くお考えにならず、彼らの提案に対して、どうお感じになったかをお聞かせ頂けないでしょうか?」
しつこい!浦添は感じ、少し不快感が頭をもたげた。
「この前、親しくさせていただき、この方たちの提案は、善意から出たものではあると思います。」
「ホウ!?では先生も、橋本先生と同意見と言う事ですか?それは・それは」
「それは、とは、どういう意味ですか?」
橋本は横で今のやり取り聞いていてこの弓削田に対し、くどい奴と言う悪印象を持ち始めていた。
少なくとも橋本は浦添に対しては、同僚と言う以外に教師として、自分よりも考え方に『深さ』を感じ、若いながらも“敬意”を持っていた。
「すこし、失礼じゃないですか?その聞き方は」
ストレートな反感が頭を擡げた。
「いやこれは橋本先生では無く、浦添先生への質問ですから」
「だから先生への質問がこのインタビューを受けるに際して聞いていたテーマと違っていて、先生への個人攻撃の様に聞こえると言っているんだ!」
「先生不快です、義務はないのですから失礼しましょう。」
『直情径行な奴だなぁ…』ここは『煽てすかせて木に登らせるか』
弓削田のとっさの判断は、全く面には現れないで発せられた。
「先生。カメラ止めて!これは、上からの御意向です。このインタビューも校長先生や教育長といったレベルの上から、我が国や地域の在るべき姿と言う事を考えられている立場の方からの、ご指導の下セッティングされています。その辺を御考慮頂いた上で、御意見を賜りたく存じます。先生方が何故選ばれたかもご考慮頂ければと存じます」
「これは一種の脅しだ」
浦添は感じ、橋本は『感情的に怒りを覚えた』しかし…である。
「カメラ回せ」
弓削田のキューが入った
「解りました、(ならば彼らが希望する答えを差し上げよう)」
浦添は、意を決した。
「勿論、無垢な子供たち同士が、異文化に触れあい“異質”を実体験する事は、ダイバーシティ(多様性を知る)という観点から素晴らしいと感じますし、この土地だからこそ、それも可能だと思います」
「しかし一方、米軍。それも海兵隊の日本における存在をこのままの状態で肯定する事は、私個人としては賛成できません」
「その意味で、この様に海兵隊や在日米軍の有り方を曖昧にして、なし崩し的に子供達を隠れ蓑にした“違和感の除去“的活動には、素直に賛意を表す事は出来ません」
「よろしいでしょうか?」
「有難うございます」
弓削田は引き出したい答えを得た。
「そう、そこなんですよ。個人レベルでは良い人、解り合えても、組織、国と言うレベルに所属すると反目する。でも解決策はやはり個人レベルでの友情と言いますか友好関係を深めるしかないと思うのです」
「ですから先生方には、軍曹と中尉とスタジオで御話合いの機会を持って頂きより個人的に意見を闘わせ知り合って頂きたいと言う企画がございまして」
「今日のインタビューは、その為にお時間を割いて頂いたのです。少し挑発的な言葉、非礼はどうかお許しください」
上手く乗せられた…浦添は感じたが、橋本はすっかり不快感が解消していた。
「そう言う事か」




