「オペレーショントモダチ」(その8)
登場人物
海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)
海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)
高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)
奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)
高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)
海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)
JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)
弓削田・地元テレビ局ディレクター
橘・同カメラクルー
河村校長。
岩本警部
(プロローグ)
(なれそめ)
(東北行)
(アフガニスタン2010)
(沖縄)
(岩国)
(岩国警察署)
(浦添泰子)
(アン・フジムラ)
(震災三日目)
(奴・吉村君子)
(ジョン・シューバッハ)
(イングリッシュ)
(岩国基地)
(県立岩国高校)
(基地内の高校)…その8
(首相)
(岩国2)
(地元放送局の動き)
(新展開)
(霞が関・中央の思惑)
(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)
(政治)
(ステディー)
(なし崩し)
(政治2)
(気づき)
(霞が関2)
(気づき2・続き)
(岩国3)
(気づき3・続き)
(地元放送局3)
(思惑)
(枷)
(展開)
(親しく。「テッパンヤキ」)
(イコール)
(三沢へ)
(両親)
(プラクティス)
(プロム)
(反響)
(Differences)
(プラグマティスト達)
(エフェクト)
(良い結果)
(逡巡)
(フィクサー)
(政権)
(エピローグ)
(基地内の高校/MCペリーハイスクール)
MCペリーハイスクールは、この学校の生徒数から勘案してわが校より、かなり頑丈で且つユッタリとした造りをしていた。中にはインドアの体育施設、スタジオ、食堂が完備され、屋外には競技別のグランドすら完備されていた。そこには5歳から十七歳までの子供たちが段階に応じて母国と同じかそれ以上の教育を受けられる環境があり、大学の教養課程も受講できる設備とカリキュラムも完備されていた(専門課程は、さすがに母国の本校に通う事にはなる)。そして生徒には、勿論ここに勤務する海兵隊員の子弟以外にも、地元、遠くは広島から本格的英語教育と米国式の教育を受けさせる為に通わされている、軍や自衛隊とは全く無関係の日本人子弟も若干含まれており、今回我々をアテンドする学生もその中の一人であった。
「思いやり予算って奴か、羨ましいが“忌々しいな!”」正直な実感であった。我が高は、県内では有数の進学率。それに伴い予算配分も、県内の他の公立高校よりは優遇されている。
が、ここまでの設備は無い。芝生の野球グラウンドの“緑”しかも内野にまでは、この季節の日本では考えられない程、緑色に輝き。唯一勝っているのは、グランドの活動で飛行機の爆音に悩まされる事がない事くらいだろう。
ここは基本、海自と海兵の航空隊基地であるので、格闘競技場は無いが、基地に現れた、この、ちょっとマリーン内部では有名人になっている日本人教師は、血気盛んな地上部隊員には、格好のエクササイズの標的であった。また、アフガンやイラクではなく、日本人に対する気持ちは、先の震災時に行った行為に対する感謝の表し方から、非常によい印象を彼等は今も保ち続けていた。
何せあのアフガンの生き残りを一発で、それもやわらかい木片を使って気絶させた「奴(GUY)」
には皆興味津々であった。
来る目的も解っている。少し踊りやリズム感に自信のある隊員は、彼の来訪に合わせて休暇申請をし、このベース内にあるホテルで「奴」を待っていた。
通訳もいる。何も問題はなかった。
「(星条旗)新聞に広告を載せ、橋本先生のお役に立ちたいという希望者を集めております。今回は先生にカリキュラムの趣旨などを彼らにお話いただき、誰が、どの程度まで、お手伝いできるかをご判断ください」
アンの日本語は完璧であった。
「この様な機会を設けて頂き有難うございます」
完璧な事務的受け答えである。
しかし橋本は、少々気分が悪かった。
「まるで見世物じゃないか…」
プレゼンテーション設備も市役所以上の装備が整い、集まった隊員の評価も選択すら、アンの見事な!通訳の甲斐もあって、想像以上にスムーズ且つ短時間で終わってしまったので、仕方なく、質疑応答にはいった。
しかし、質問される事は本筋ではなく、彼の剣道に関するものばかりである。中には、訓練用の銃剣を使って竹刀とマッチした場合、先生の勝ち目は?とかその可能性は?というものがほとんどで、実は、それは、見世物として憤慨していた橋本自身にとっては、気楽な且つ興味深い質疑応答になっていった。最後に、希望者を集って実際に県警の道場で剣道の稽古を見学、(彼らの本音は実地体験)しようと言う事になり、アンは、
「先生構わないのですか?」
と言う具合に、止めに入らざるを得ない(本来の目的とは全く異なった)事になっていた。この前の事は、ビギナーズラックくらいにしか捕らえておらず、こいつらの実力の程を知りたい。と考えていた、本来は武道家の橋本にとっては、非常に面白い展開になってきた。
星条旗新聞、地元メディアはこの光景を好意的に報道すするだろう。
「イワモッさん?」橋本は携帯で岩国署の岩本警部に連絡を取り始めた。
「もしもしフジムラ中尉殿ですか?」
橋本の声は、やはり若い女性の個人携帯に初めて掛ける電話は、緊張感がみなぎっていた。
「ハイ橋本先生」
アンは全くそれとは間逆のトーンであったが、ウザイ(・・・近頃仕入れた便利な日本語)と言うのが正直な気持ちであった。彼女にとって、ここは、キャリア・アップのための一時待機場所に過ぎないからである。
「道場の段取りが付きましたので、日程に関して参加可能な人数を恐縮ですが出来れば今晩、遅くとも明日の午前中までにお教え頂けますでしょうか?」
「了解です」
実際三日以内の休暇をとってプレゼンに参加してきている隊員がほとんどである。
今は特にマリーンがルーティーンシフト以外で外に出て行く事案(戦争)は無いので、こちらの参加者にとっても、この三日以内に全てが片付けられれば好都合だろう。
この日は件の道場が一般に開放され、柔道や剣道それに合気道や空手までが護身術という形で市民に手解きされる日であった。そこに、少しはまともな身なり(海兵のエクササイズウエアー)を纏った大柄な外国人がぞろぞろと見学に来たのだから、いつもとは少々勝手が違う。しかも地元、下手をすると全国放送のカメラや新聞、しかもアメリカのメディアまでがこの狭い道場に押しかけていた。彼らの見学開始とともに、岩本(警部)館主の号令の下、演舞を披露する手はずになっていたが、浦添は、そのような事は全く聞いてはいなかった。岩本が、単に優秀な教え子でもある、下宿人に伝え忘れただけ。なのであるが、もしこの下宿人がそのような事情を知っていたら、今日の稽古には、色々な用事を作って参加をしなかったであろう。しかし彼女は警部の相手が出来る唯一の女性の使い手である。ガイジンを驚かす為には、外す訳には行かなかった。
まずは、柔道の段取り、一通りの形を見せ、逮捕術に応用した実践的な段取りに披露が始まった。が、反応は「ふぅ~ん」と言う感じであった。空手の演舞に至っては単なるカンフーダンス位にしか見えなかったのだろう。そして岩本と浦添の合気道(少し琉球拳法がアレンジされてはいたが)の段取りが始まった。この頃になるとあくびをする見学者も現れた、余りに優雅に、浦添に投げ飛ばされる岩本は、単なるパフォーマンスにしか見なかったのだろう。
浦添がいきなり英語で、「そこのあくびの彼!」と一人の大柄なサージ(軍曹)に声をかけた。
この女性は英語が話せるのか?見学者の中でざわめきが広がった。「警部少しよろしいでしょうか?」
岩本は察しが付いた「構わないよ」
仲宗根隊長は、アメリカ人見学者に混ざって同じエクササイズウエアーを着ていた。
「ご不快な感情をもたれたのならば、ご容赦ください。彼には貴女の凄さがわかっておりません」
「隊長、どうした?俺は構わないよ?」
軍曹は仲宗根に言い放った。
「軍曹、君は合気道を知らないだろう?それに彼女は拳法もやるようだ。気軽に扱うと君が怪我をする」
「私に投げ飛ばされない自身はおアリ?」
かなり挑発的な英語である。しかし彼はこのときを待っていた。
「Sure!」
「ではこちらにどうぞ、何時もの貴方達らしく弱い者いじめをしてみてください」
これはかなり無礼な言い方だ。アンは驚き、仲宗根はすぐ
「これは挑発だ!」
と、気が付いた。が、それより早く、この軍曹は
「では」
と、彼女に手を掛けた瞬間、190cmはあろうかと思える刺青だらけの体は、道場のフローリングの床の段差部分目掛けてもんどりうって飛ばされていた。
「Oh!」
どよめきが起こり。喝采も起こった。
「合気道はダンスではありませんので」
と言い放つと浦添はさっさと出口に向かった。
多分この軍曹は、手首と大腿骨を骨折しているかもしれなかった。
「わざとだな!」
仲宗根はつぶやいた。
「おーい担架!誰か医務室に連絡を!いや救急車だ」
岩本警部の声が、浦添を追いかけた。周囲のけいこ中の警官が掛けより、応急処置をしつつ救急車を待つ間に、周囲は、かなり気まずい雰囲気が漂い始めた。
その様な経緯が、彼が胴着を着て道場に入る前に在った事等、橋本は、全く知り様も無かった。
彼は、急いで道着を身にまとい、同じように、見学者の中から希望者を数人集い、実際の剣道の力を実感してもらう事にしていた。
この様な事があっても、海兵隊員の士気は全く衰えず、むしろ、この救急車が来る僅か10分足らずの間で、ますます挑発的になっていくのが判った。
「これはどこかで止めなければならない」
アン、エリック、仲宗根、そして岩本警部の共通した認識であった。
救急隊員は基地差し回しのアンビであった。
彼はそそくさと添え木を添えられ基地の病院に収容された。
しかしその様な事に、関心を持つ米国側の参加者は誰もいなかった。この様な怪我は、日常なのである。
事情を知らない橋本は、海兵隊員の様子に変化が無いので、淡々と、まずは小手を手につけてもらい、持参してもらった普段使いのヘルメットにフェースガードをつけてもらい着用してもらった。
本来なら胴着一式を貸与したいところなのだが、剣道の胴着は汗臭いのが当たり前で、これを貸す事は、憚られた。またサイズも、彼らの体格に会うような大型の物はなかった。
彼らには、訓練用の銃剣と警察用のバトン(警棒)を持参してもらっていた。
それを構えてもらい、上段から打ち下ろす際の衝撃を実感してもらう事。
これで実力がわかれば、米兵たちの気も落ち着くだろう。というのが、岩本の計算であった。
しかし最も米兵が興奮したのは、実際に橋本は、攻撃しないが、銃剣を持った相手は攻撃して構わない。そして橋本に、制限時間内で剣先が触れる事が出来るか?と言うかなり実践益な段取りを提案したときであった。
実は浦添の演舞が残した空気は、橋下をも確実に刺激していた。
見学者の一人は、フルコンタクト用のボディアーマーとプロテクター一式を持参していた。
橋本同様、救急車が来る僅か10分間の間にそれに着替えていた、その相手こそモーザー軍曹であった。
先ほどの一瞬の出来事を撮り損ねた(メディア)者たちにとって、正規のリベンジマッチ、これは星条旗新聞の記者にとっても格好の特ダネで会った。
カメラは高速シャッターモードに切り替え、この世紀の一瞬を見逃すまいとした。
地元テレビは二台のハンディーカメラでこの様子を特に一台はスポーツ中継用の高速撮影機能があった。
中尉からの電話が無ければ、この機会はなかっただろう。
エリックは、電話の後に襲ってくる自分の好奇心を止めることはできなかった。
事態は再び一瞬の出来事で終わった。
しかし、何が起こった結果、この様な結末に至ったかは、アンを含め、ほとんどの見学者には肉眼で確認することはできなかった。竹刀は橋本の手からこぼれていた、しかし同様に、模擬銃剣は飛ばされていた。様に見えた。
「モーザー軍曹、完敗です。」
その英語に見学者からは歓声が沸き起こった。が、エリックは自分が負けていた事を自覚できた。「いや」この「できレース」は、この場合、今の対決姿勢を維持している(海兵隊)同僚たちの気持ちを落ちつかせるためにも「甘んじる」しかなかった。そして仲宗根は、引率責任者のアンに、星条旗新聞の写真を必ずチェックするように注意し、同様に、岩本も地元テレビの映像には絶対に決定的な瞬間を放映しないように、依頼していた。勿論、お互いの国益の為にと言う配慮の元に。
自身の未熟さを落ち着かせる為にシャワーを浴び、更衣室に既にいた浦添は、そのシーンの目撃者ではなかった。彼女は米兵を投げ出してすぐに道場を後にしていた。
お互いにお互いの実力が分かり合えた時、武道家は、得てしてそれ以外の部分でも共鳴し合える。
そしてよりお互いの事を知りたくなる。何かアニメに出てくるような観念が湧き上がった事は事実であろう。
浦添の存在は必要なかった。エリックは橋本に対する興味がより一層深くなっていた。
カトコトの、そして一方は、ゆっくりと言葉を選んで、打ち上げと称する、稽古後の食事会でお互いは、意識して隣同士の席を選んだ。
そしてお互いの技をむさぼるように吸収しようと、傍目には見えていた。
一方、そのようなアフターに参加する事を拒絶する意味でも、そそくさと身支度を整え帰り支度が終わっていた浦添を呼び止めたのは、仲宗根と、まだ胴着姿のままの岩本であった。
勿論、岩本はどうせ帰る家は同じだし、奥方には夕食の支度は無用の旨、既に話して会った。
彼女の米軍に対する生理的な拒絶反応を、この夫婦は
「おせっかいにも」
少しでも正す、良い機会に、今回の米兵訪問を捉えていた。
米軍の参加を聞いた時に、この考えを岩本は、すぐに思いついた、それゆえの今日の稽古の段取りではあったし、帰してはならない為の準備は、心得ていた。
それほど例の事件の際の、浦添と同性のフジムラ中尉のキャラクターは、岩本に強い印象を残していたのであった。
しかし仲宗根は、エリックに近い感覚を浦添に持っていた。
彼女の合気道は、その形を取っていてもすぐに、自分とは異なる(琉球)拳法の素養が隠れている事に気が付いた。
そして彼女が自身も深く傷ついた事件の陰を背負っている一人の同郷人である事は、容易に、その態度から想像がついた。
「奥様にご迷惑をおかけしてはいけないので、では、外で、一人で」
と言う所から
「では食事だけ」
と言う形に落ち着くのに橋本たちがシャワーを浴びて着替え、出てくるのと同じ時間を要したが、とりあえず市内の予約してあったファミリーレストランに共に落ち着く事ができた。
今回のゲストはアメリカ人それも軍人、いつもの居酒屋では、量的にモノ足りないし、箸はポピュラーになっているとは言え、フォークナイフの方が慣れているに違いない。
そしてメニューは全て写真つきで“いちいち”説明する必要も無い。
何よりアメリカにも同じ系列のファミリーレストランがあるから違和感は無いだろう。
幹事の警察職員(公務員)の如何にも田舎者らしい配慮から来るチョイスであった。
「エ!此処ですか!?」
橋本は、米艦内の食堂や岩国基地内のレストランで彼等の食欲を見知っているだけに、これはバッドチョイス!と解った。
「岩本さん、幹事は誰?」
「伊藤(巡査部長)クンだけど?」
「やばいっすよここ!」
「なぜ?」
「奴等の食う量は半端無いっすよ!」
「え?」
「伊藤さん!」
橋本が伊藤に事情を説明し始めていくうちに、伊藤の顔は見る見る青ざめていった!
「ちょっと!」
伊藤はウエイトレスを呼び止めると、そそくさと、奥に入っていった。
それと同時に
「3倍くらいで大丈夫?」
橋本の携帯に伊藤からのショートメールが入った。
「ちょっと!」
橋本も奥へ入っていった。アメリカ人のオーダーは全て三倍にして出す事でオーダーを統一したが、日本食のリクエストの場合は全て大盛対応しか、器の関係でできない。
「仕方が無い」
店のマネージャー・橋本・伊藤の間で話しは付いた。が総勢二十名以上、半分はアメリカ人で有る。
ホールスタッフは、マネージャーを頭数に入れても、僅か4名、キッチンは2名。ここから違った意味でこのレストランは戦場と化していくことになる。
橋本と伊藤が、消えてしまったのでエリックは途方にくれていた、
「俺はあいつと話したいんだ!」
他の参加者はおおむね、アメリカ人と日本人に別れて席を選んでいったが、仲宗根とフジムラ中尉そして、幹事の伊藤が消えた関係で岩本は、その交通整理にあたらねばならなかった。
両サイドの4人がけのボックスシートに、各々アメリカ人グループと日本人グループに別れさせたのは、ホール担当にとっては有難い形となった。その壁側(日本人側)の四人がけシートを2つ繋げた席に結果的に、フジムラ中尉、モーザー軍曹、そして岩本と橋本と伊藤に浦添が、座る事になったが、伊藤は最もキッチンに近い通路側の席を幹事と言う職席上選ばざるを得ない。
橋本も意識的に軍曹の前に通路側の席を選択した結果、浦添は一番アメリカ人達に近い通路側の席。
即ちアンの前に座ることとなった。
最初に口火を切ったのはモーザー軍曹であった。
「橋本先生。あの竹のカタナで私のナイフを吹き飛ばすのは・・・」
「ああ!手首を使おうとして緩みが見えたので」
「分かったのか?」
「YES」
「普通は、そこで手首を落とすという形になるのだけど、小手をつけていないからとっさに竹刀を離したんだ」
「ナルホド」
「それ以外にも、短剣術の場合、コンバットでは比較的前のめりで構えるだろう?テレビの番組で見たのだけれど」
「Yes」
「しかし、対刀の戦いの場合、それは余り良い構えとは思っていないんだ」
「WHY?」
「多分、日本刀の本身の場合、君達が使うボディアーマーやプロテクターは、ほとんど役に立たない。」
「ホウ?」
「君たちがよく見る映画や、日本の時代劇でもよく日本刀同士の戦いの場合、刃先をあわせて“カキーン”と金属がぶつかる効果音を入れるだろう?」
「ソウデハ、ナイノカ?」
「アレは嘘だよ。」
「日本刀の切っ先は、サーベルや西洋のソードとは異なって、もっと繊細で良く切れる、だから刃先を合わせてしまった場合は、もう日本刀は切る道具ではなく突き刺す道具になるんだ。」
「だから、切る場合は、切っ先は合わせない、あえてあわせるなら、棟(みね)部分だね」
「今回はそのバック部分を使って返したんだ」
エリックはその言葉を受けると同時に、スエーするしぐさを見せたが背中には壁があった。
「だから、なまじ体の部分、例えば手首や肩を前に出すと、まずそこを断って、止めを刺す。と言う方法を多分、採るんじゃないかなぁ?」
「なんじゃい!英語で話しとったらわからんじゃろうが!それよ(り)か、先生英語、話せるんかい!」岩本は横で話しが進むのに加われない、それもどうも、自分の得意分野の話なのが気に食わない。
それよりも驚いていたのは、浦添だった。あのフィジカル馬鹿、と内心軽蔑していた橋本が、ブロークンとは言え、アメリカ人の、軍曹レベルと英語で会話ができていることが、驚きであった。
しかもこの軍曹が、話す速度や発音に対して、ネイティブでは無い人に出来るだけ判るように“気を使って”言葉を選んで話している。
初めて会ったのでは無いの、この二人は?
「ごめん。アン!いや中尉」
ファーストネームで呼ぶ仲なのか?これも浦添を驚かせた。
「岩本警部殿が、お冠なんで通訳に入って頂けませんか」
「OK良いわよ」
中尉の方も岩本との関係は、少なくとも(英語教師である)私よりは近いようだ。
(ここから日本語になる)
「岩本さん、この二人は私を帰りにずーっと苛めていたんですよ!(笑)」
「なに?」
「この前の大島からの帰り、岩国まで私を連れて帰ってくれたのがこの、ミス中尉とガニーなんです」
「彼は、エリック・モーザーさんじゃけ、何でガニーなんだ?」
「そこからですか?いや皆Gunnery(Sergeant)と呼んでいたんで」
「あ、日本語で言うと“一等軍曹”と言います」
アンが説明を加えた。
「ドウ呼ンデモラッテモ、構ワナイヨ、ト伝エテクダサイ」
軍曹も後から付け加えた。エリックは戦地からの帰還後、昇進していた。
「で、彼等はその帰りのヘリで私に英語の特訓をしてくれたんで、まぁその名残かも知れません」
「例ノSteadyニ振ラレタ話カ?」
「違う!」
と言って橋本は人差し指を口に当てて見せた。
「Miss.Urazoeは、She speaks much better than I!」
「 Shoot-up! だから余計な事を言うな!」
思わず橋本は片言の英語で叫んだ事で場の空気は少しずつ和み始めたのを、岩本は感じた。
浦添は、いきなり話し始めたそれも、普通の話し言葉のスピード、且つ完璧な英国式の英語で
「中尉、橋本先生は、東北にボランティアで駆けつけたのではないのですか?」
「浦添先生、基本そうなりますが、ただ、その行き先には、彼のガールフレンドがいました。しかし、彼は、そこで、彼女にどうも?追い返されたようです」
「ただ、あの状況であの装備で、あそこまでたどり着く事は、我々のような訓練をしてきている人間にとっても非常に驚くべきこと、非常に勇気が必要だった事であり、決して賞賛に値しないことでは無いと考えております」
「ふーん、先生事実はそう言う事だったんですか!」
「東京で何をしていらしたのですか?」
「中尉、なんて説明したんだ!?」
「橋本先生の行為は立派で、我々プロの目から見ても賞賛に値する事だってお伝えしましたが?」
「Really?」
「ソウダヨ、中尉ハ、君ノ事ヲ褒メテイタンダ」
エリックも続いた。
「おい先生、お前さん、ステディーいって事は、女の事で、わざわざあんな危ない事をしたのか?」
岩本もなんとなく話していることを理解したようだ。
「違います、けど、そうです。でも警部さん、先生の執った行為は、我々から見ても大変凄い事だと思いますし、そのことで彼は、ちょっとした(海兵隊では)有名人になっています」
アンは、まずい事を話したかもしれない、突っ込まれないようにしないと、と、咄嗟に言葉を濁したが、後の祭りでった。
「どのような」
岩本の突っ込みは刑事のそれに変わって行った。
「いやそれは、この場では・・・」
アンが答えに窮しているところに、ちょうどオーダーしていた食事が運ばれてきた、その時、仲宗根の声が加わり、今までの話の流れが、全く異なる方向に導かれる事となる。
「浦添先生は、お名前からっさっするに、沖縄の方ですか?」
「ええ、那覇です」
思いもかけない質問であった。
「失礼しました、自分は仲宗根と申しまして、北谷の出です」
「あ、そうなんですか」
場の雰囲気が一気に変わる序章となった
“やり取り”が始まった。
「先生の合気道はどちらで、いつごろから学ばれたのですか?」
「合気道を本格的に始めたのはこちらに赴任して、岩本さんのお世話になり始めてからですから、6年くらいになるかしら」
「え!」
「それ以前は武道のほうは?・全く?」
「いいえ、小学校から拳法を護身術として親に勧められるままに、やっておりましたが?それが?」
「やはりそうでしたか!(納得)」
「おーいお前ら、飲む奴は、車は置いていけよ!中尉、申し訳ないが彼らにもそれは徹底して頂けますか?」
「OK!」
岩本は、もう飲む気でいた。このような面白い展開は酒抜きでするものではない。
アンもお酒に関しては、今日は非番のボランティアなので構わない。
「すみません!ビールジョッキで!中尉はどうされます?」
「では私も」
「2つな(ま)!」
そこに軍曹が割り込み、結局このテーブルは全て、公共交通機関、又は徒歩で帰ることになった。
橋本は、もっとハードな物を飲んでこの場の雰囲気から逃げたい気分になっていた。
しかしここはファミリーレストランである。




