「オペレーショントモダチ」(その7)
登場人物
海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)
海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)
高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)
奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)
高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)
海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)
JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)
弓削田・地元テレビ局ディレクター
橘・同カメラクルー
河村校長。
岩本警部
(プロローグ)
(なれそめ)
(東北行)
(アフガニスタン2010)
(沖縄)
(岩国)
(岩国警察署)
(浦添泰子)
(アン・フジムラ)
(震災三日目)
(奴・吉村君子)
(ジョン・シューバッハ)
(イングリッシュ)
(岩国基地)
(県立岩国高校)…その7
(基地内の高校)
(首相)
(岩国2)
(地元放送局の動き)
(新展開)
(霞が関・中央の思惑)
(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)
(政治)
(ステディー)
(なし崩し)
(政治2)
(気づき)
(霞が関2)
(気づき2・続き)
(岩国3)
(気づき3・続き)
(地元放送局3)
(思惑)
(枷)
(展開)
(親しく。「テッパンヤキ」)
(イコール)
(三沢へ)
(両親)
(プラクティス)
(プロム)
(反響)
(Differences)
(プラグマティスト達)
(エフェクト)
(良い結果)
(逡巡)
(フィクサー)
(政権)
(エピローグ)
(県立岩国高校)
今年二〇一一年(平成二十二年度)の卒業生は、全てに於いて自粛ムードが日本中を覆うなか、通常なら式直後に、必ずある、謝恩会や、その後の=話しの判る先生のクラスならば=子供たちが弾けられるお楽しみ。打ち上げも、有無を言わさぬプレッシャーの下、完全自粛が周知させられていた。勿論、友人同士での卒業旅行、よい大学に入学できた裕福な家庭のお約束。ハワイなどの御褒美旅行に行くなどと言った“噂”すら、全く立たなかった。と言う意味で今までの先輩達とは大きく春の過ごし方が異なった。あるモノは需要が大きい被災地支援のボランティアに自主参加。又運動部OBとなる者は、後輩のサポート。家業が農業の場合は特に家業の手伝いを積極的にするように。と言うのが卒業式で最後に担任から示唆されたホームルームのテーマであった。勿論、橋本先生の卒業式における特別公演がその火付け役であった事は言うまでも無かった。
免許取得のための教習所だけが、例年通りの賑わいを見せていたが、此れは免許を取って、今後数年間は需要が絶えないだろうボランティア参加の自由度を担保するという大義名分が立つからであった。
その様な中、浦添のクラスのみが、異なったホームルームで、高校最後の時間を過ごした。浦添は英語教師。それも学校の教師の中ではかなり優秀な経歴を持ち、自身を完璧に律する事の出来るスーパーウーマンと周囲から認識されていて、父兄の中でも浦添先生のクラスがナンバーワンクラスと認識されていた。事実、彼女のクラスからは東大や九大、広大と言った国立有名校。彼らの多くは早慶上智といった都心の超難関私学に重複して合格しているし、運動部でも自身が顧問を務める、拳法部の生徒は女子を中心に筑波、日体大と言ったスポーツエリート校に、AO(推薦)で入学させている。彼女は自身が沖縄拳法(琉球古武術)の中では珍しい、女子の師範としての技量維持と言う理由で県警の岩本警部宅に下宿をし、基地の町の女子生徒へ、護身術が指導できる教師と言う実力の持ち主でもあるので、教科的に全く接点のない先輩教師、しかし実践的武術の達人でもある橋本に対し、比較的、生徒の生活指導も含め、同僚異教科の教師として、接点を多く保っていた。しかし今日の彼の公演には、納得がいかない。
当然ホームルームでの最後の「説教(と生徒は呼んでいる)」は他のクラスのそれとは、唯一真逆のものとなった。
橋本の公演趣旨では、基地を抱える地域の教師として米軍特に今回は海兵隊の柔軟で迅速な活動を賞賛した。
曰く、(地域の一二を争う進学校の卒業生である)君たちに今後求められるのは、彼らのような柔軟で果断な判断と、それが可能になる(日頃の鍛錬に基づく)確実な動きであり、そのために基礎鍛錬が今までの勉強であって、今後はその基礎に基づく応用が効く力を養うのがこれからの生活である。とか何とか・・・事実、後日この大島に於ける米軍の活躍は、日本における在日米軍の印象を好転させたのだが、沖縄出身であり中学時代の彼女に強いインパクトを残し、今の彼女を形成したアノ事件の記憶は、この程度の善行や、橋本程度の陳腐な演説では、却って真逆の海兵隊員の真実を生徒達に、しみこませる為の授業の必要性を浦添には強く持たる結果となった。。
「橋本先生のお話を聞いた後ではありますが、皆さんに、最後に伝えておきたい事実があります。皆さんは、私と同じ基地の街で生まれました。ただ、皆さんの生まれ故郷である岩国は、米軍基地があっても、最初から日本であり皆さんは日本人でした。しかし、先生の生まれ故郷は、戦後から二十七年間アメリカの、正確には米軍の支配下にありました。その影響もあって、アメリカ軍の本質。もっと突き詰めれば、軍隊と言うモノの本質を実体験として強く感じ、認識する事が、ままありましたし、実際今もあります。今回の震災で、新聞を始めとする報道で、自衛隊やアメリカ軍の強さを自己完結能力。って言われていたのを聞いた人はいますか?そう自己完結力。誰にも頼らずに、そこに居続け活動を出来る力を軍事組織は持っています。」
「先生は、それ自体を否定的に捉える事はしません。」
「実際、それは役に立ったのですから。しかし軍隊は人が集まって出来ている組織です。」
「ただ人の集まりですから、何かのきっかけで方向を間違え暴走する事もあります。」
「そして、軍を構成する人“兵隊“それも実践を多く経験しているアメリカ海兵隊は、人命や人権と言うことに関して、その本質的な能力を発揮する際に、暴走行為、平時では“間違っている事!”“軽視する事”こそが、求められる能力なのです。」
「多分その能力を発揮しなければならない時に、彼らは、自身が持つ本能的な“良心”の呵責にさいなまれる事態に直面し、何らかの、どこかの“部分”が壊される事が多々あると思います」
「そして平時に、それが引き金になって・・・」彼女は自分が経験したあの忌まわしい事件に再び飲み込まれそうになっている自身の意識を必死に押さえつけていた。
「その能力が間違った方に働き罪を犯した時、それは例外なく、人の尊厳・基本的な部分を傷つける行為になってしまうのですけれど、そう言った組織は、能力維持と言う本能の為に、独善や強権とも思える実力を発揮し、それを持って組織防衛に走り、人の、基本的な部分に対する罪を覆い隠し、結果的に、被害を受けた側を肉体的以外に精神的にも深く傷つけてしまいます。」
「軍隊はそういった意味で、諸刃の剣である事を忘れないでください。」
「日本の警察が地方自治体毎に分割されていたり、軍事組織を軍隊と呼ばず自衛隊と呼んで区別し分割しているのは、そう言った暴力という能力を専門的に持つ組織を好き勝手、自由に放任させない。悲惨な結果しか生み出さない。本来の力。武力を伴う実力(行使と言う間違い)を誰に対しても、二度と犯させない為の、安全装置、過去の経験に基づいた日本人の英知です。」
「橋本先生が先ほど、海兵隊の柔軟で迅速な活動に比べ日本の根回しや手続きの遅さを批判していましたが、確かに一刻を争う時、その様な迅速な判断は必要だと思います。ですが、それはあくまで“例外的”な措置に留めて置くべきであると、結果それが善行であった時は、感謝し感謝の念は忘れずにいようと思いますが、無邪気に賞賛し、皆かく在るべきと、無条件に受け容れる事は、皆さんの旅立ちの時に際して適切な内容でも指導でも無いと、先生は思います。」
教室は一瞬、浦添の言葉の気迫で、静まり返った。
「暴力装置に対しては特に、この一見非効率的な使用を認めるまでの手続きの時間。手順を踏む時間こそ、検証をして、再考・正しいのかを再確認する。間違いを二度と犯させない。暴走防止の為の人々が考え出した知恵であり、我々は、その権利を、彼らに認めさせるために、筆舌に尽くしがたい被害を出し、多大なる努力と根気を持って説得に当たり、やっと手痛い敗戦によって得られたと言う事も忘れないでいて下さい。」
橋本の行為は、地域のテレビニュースでも“肯定的”に取り上げられていただけに、教室内は少しざわめいた。
「やっぱり、少し意見を押し付けちゃったみたいね、実は、先生には、先生が幼かった時に米軍に関する、とても嫌な記憶があるの、だから、やっぱり、今回の事で米軍、特に海兵隊を、無条件に認める事は出来ないので、このような話をしてしまいました。ごめんなさいね。でも。巣立つ貴方達へ、最後にこの事だけは知っておいてほしかったの。」
ある生徒は困惑したように浦添に尋ねた、「結局の処、先生はナニを最後に伝えたいの?」この地区独特の素のイントネーションだった。
教務主任、校長などの事前指導で、言いたい事をかなり押さえ込んでいた。結果、本旨が判り難くなった、流石、我が教え子、痛いところを付く。まぁ最後だから良いか!
「じゃぁ聞くけれど、海兵隊は、どのような性格の軍隊か?知っていますか?」
「真っ先に最前線に飛び込む殴りこみ部隊じゃないの?」今度は標準語のそれだ。
「流~石ミリオタ!」周囲から声が上がった。この声をきっかけに、「荒っぽいのが特徴!」この子の父親は、基地反対派だったわね。
「貧乏でろくに勉強もしてこなかった頭が悪い奴らの集まり!」
「映画で見たもの!」
やはりこの地区の総意は、基地の存続、まして能力強化や拡大には反対が少なくはなかった。
「そうね!」浦添も「荒っぽい」の声を引き金に、このエリート意識の塊のような子供たちの話を遮った。
「先生が小学生の時、先生と同い年の女の子が海兵隊の兵隊に乱暴された上に殺され、その遺体が遺棄されたって言う事件があったの。」
「その罪を犯した海兵隊員は、無罪になってアメリカに帰り、多分、今では普通のアメリカ市民でいると思うわ」
「マジィ!」「ひど〜い」一部の生徒からは強い避難の声が上がった。浦添はその避難が収まるまで、ゆっくりと次の言葉を発す事を待った。
「それと、ここの校長先生。先生をここに呼んでくださった先生は、沖縄の大学の先生だったことは知っているわね?その時にやはり海兵隊のヘリコプターが、校長先生の大学に激突して、壊れた機体の破片の中から放射性物質が、使われていた事が解ったの、もちろんそれは広く散乱してしまったけれど、それもお咎めはなかったわ」
実は、それだけではなく、日本の警察・消防が日本の学校内で起きた事件にも拘らず全く関与できなかった事に現地では大きな憤りが噴き溢れていた事は、残り時間の関係で割愛せねばならなかった。
「皆さんには、その事は知っておいて欲しいと思います」
また大きな非難の声が上がる中、
「なぜですか?それおかしくねぇ?」クラスで一番やんちゃな男子生徒の素直な発言がきっかけになった。
「今でも彼らが私たちに対して犯した罪は、私たちの手で、罰し、裁く権利がない。」
その上「非常に不平等な状態で、私たちのお金で彼らを維持している事実を知っていてください」
「愛宕山!もそうじゃ!」一人の生徒が叫んだが、敢えてこれを遮るように話を続けた。
「この事実を・・・身を持って知っているから、確かに今回は良い事をしてくれたかも知れないけれど、無条件で米軍。特に海兵隊と言う組織が、ここにいる事や、今の安保条約を無条件に礼賛し肯定し、歯止めの大切さを省くような事は、先生にはちょっと同意する事が無理なの」
東大に合格した生徒の発言は辛らつであった。
「先生。でも、海兵隊がここにいるから中国なんかの脅威に対する歯止めになっているし、先生の田舎の沖縄は、丁度、中国と日本の中間点になるから、軍事的重要性が高いので、ソコに海兵隊を常駐させておく事は、日本の安全保障上、自前の軍隊を置くより安上がりで、日本にとっては有利じゃないのですか?」
「しかも、基地がない地域の税金が、何も無い、ここや沖縄に還流する」彼としては、精一杯浦添に配慮して質問をしたつもりであった。
「そうかも知れないわね」「でも」
「例えば貴方の隣人が武器を持っていて、貴方がそこから動く・・・引っ越すことが出来なかったとしたら、貴方も、万が一に備えて武器を持ちたいと思うのでは無い?」
「先生は、その負の連鎖みたいな物は。昔琉球と呼ばれ、一応、独立国だった沖縄は・・・二股って思われるかもしれないけど、日本、具体的には薩摩と呼ばれていた鹿児島に武装解除をさせられた上で、貴方の言う地理的条件で、当時の中国と日本の緩衝材として、薩摩の海外貿易の隠れた窓口として平和に存在できていた歴史は皆さん勉強したかしら?」
「先生はその様な場所で生まれ育ってきたから、多分、そのような環境から離れて暮らしている人とは感覚が異なるのかも知れないけれど、でもこれも生き方だと思います。」
「威嚇のための武器は持たない。だから威嚇されない。でも最低限の自衛手段として、徒手の拳法“空手”発達した沖縄の歴史的生き方を」
「先生は、そのような選択肢があることもあなた方に知っていてほしいと思うの」
「難しいとは思うけれど」生徒の騒めきが、起こったが、其の様な声を無視した強い言葉が飛んできた。
「先生、沖縄に基地がある、ここ(岩国)にも殴り込み部隊の足になる航空基地がある。でも今の戦争はボタン一発で、沖縄にもここにもミサイルが飛ばせ、確実に命中させる技術を、米軍の仮想敵国は既に完備している。だから、ここに基地を置いたり、沖縄に置くことは米軍にとっては日本に、人質を置いてくれている。一種の保険を掛けてやっているという感覚もあるんだよ!」ミリオタと呼ばれた生徒の一人が、したり顔で“アジ”った。
「んで其の仮想敵国って?」ミリオタを増長させる質問が舞う。
「んなもん中国に決まっとるやろ!」
「中国がそんな精度の高いミサイル持ってるんか?」
「東風16って中距離弾は通常爆弾も核も乗せられて、多弾頭で、最新の、PAC3でも迎撃が無理!な高速で飛んで来て、命中精度は10mの範囲っていう噂だから…基地だけを正確に叩くことが可能だそうだけど、まぁとばっちりは食らうわな」
「マジぃ、ロシアか北朝鮮じゃねぇのかよ!」という怒声が飛び交う中、ミリオタは浦添の意見に真っ向反対する形で、
「先生の意見やお気持ちは理解するけど、日本は一人では生きていけない事は先の大戦が実証している…周囲と仲良く…そうなんだけれど周囲は…先のソ連の採った行為を見るまでもなく、北朝鮮、いや韓国や中国も先生が考えている程お人好しではない。だから、ある程度舐められない武装は必要悪。でもそれを全て自前で揃えたら、どうなるか?肩代わりしてくれているのが在日米軍、それもマリーンでしょ?これ常識だよ」
彼、ミリオタも東大現役合格しかも、学校でも一二の成績を収めていた。彼は、止め(とどめ)の台詞を用意していた。
「話せば分かる…って言って、昔、日本でも首相の犬養毅は、ズドンと殺されたけど、武装し、武器の使い勝手を知った軍隊に、言葉で理解させるのは歴史が無茶だと証明している。そんな中、まともに話ができる国はアメリカくらい…ダカラの日米同盟でしょう。御人好しに、根本が異なる外国に、期待を持って信用した阿呆な戦前の日本人。ソビエトロシアの仲介を期待して樺太や北方領土を一方的な理由で占領されて、未だに返還の目処すら立っていない現実。あとは皆、未だに日本の過去の行為がという台詞を錦の御旗にして、己の愚かさの帰結から”植民地化“されたという現実を謙虚に受け入れない…全て周囲が強欲だったからって論法を押し通して、仕舞いには、日本海をトンヘ(東海)東シナ海を西海とか歴史的にあり得ない名前で呼ぶことを無理強いしたり、大陸棚は中国の地続きだから中国領と言う地政学的に、訳の解らん理屈で感情を押し通す連中、逆恨みの権化みたいな連中が周辺国なのだから、何時、後ろから、暗闇から、ズドンと隙を窺っている事は、常識。奴らの仮想敵国はアメリカで有り日本…それを忘れてはいけない」
一部の、韓国アイドル好きや、三国志マニアの生徒からの批判をものともせず、彼は一気に捲し立てた。彼の家は老舗の造り酒屋跡取りではあるが、彼は官僚志望であり、彼は浦添を慕って尊敬していた。
故か?浦添は、彼の言葉をあえて無視した。




