「オペレーショントモダチ」(その5)
登場人物
海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)
海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)
高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)
奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)
高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)
海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)
JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)
弓削田・地元テレビ局ディレクター
橘・同カメラクルー
河村校長。
岩本警部
(プロローグ)
(なれそめ)
(東北行)
(アフガニスタン2010)
(沖縄)
(岩国)
(岩国警察署)
(浦添泰子)
(アン・フジムラ)
(震災三日目)
(奴・吉村君子)…その5
(ジョン・シューバッハ)…その5
(イングリッシュ)
(岩国基地)
(県立岩国高校)
(基地内の高校)
(首相)
(岩国2)
(地元放送局の動き)
(新展開)
(霞が関・中央の思惑)
(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)
(政治)
(ステディー)
(なし崩し)
(政治2)
(気づき)
(霞が関2)
(気づき2・続き)
(岩国3)
(気づき3・続き)
(地元放送局3)
(思惑)
(枷)
(展開)
(親しく。「テッパンヤキ」)
(イコール)
(三沢へ)
(両親)
(プラクティス)
(プロム)
(反響)
(Differences)
(プラグマティスト達)
(エフェクト)
(良い結果)
(逡巡)
(フィクサー)
(政権)
(エピローグ)
(奴・吉村君子)
軍曹と共に米軍の前線基地?のグラウンドに戻るとヘリは何回か往復をしたのだろう、新しい運搬専用のヘリが代わって留まっていた。前線基地の連絡手段用の電源装置がまさに設置されようとしていた。「プロは早いな」率直な感想が口をついた時、まさに奴と五日ぶりに対面する事になった。
「大丈夫か?」
「何でここにいるの?」
「いや、あの」
「馬鹿じゃないの!」
「そりゃないだろう!?」彼女の目には嬉しいのか?怒りなのか理解不能な涙が見えた。
何も考えず、感情のままに抱きしめた。
「チョットよしてヨこんな所で!」
「構いやしないさ」奴の顔が、頬が当たった。煙に巻かれたのか髪の毛からは汗と煙の匂いがした。唇も相当荒れている、水分の補給は出来ているのだろうか?洗顔や歯磨きといった基本的な生活もこの二日間は、十分出来ていない事が判った。
ただ、明らかに痩せている。と言う感じでは無い、あの肉付きのよい肩から二の腕、自分の胸に当たる奴の胸の感触は、ダウンを羽織っていても十分に感じられた。
「私が構うの!やめてっうの!!」
奴は腕を伸ばして私から離れた。東京であった時と変わらない蓮っ葉な口調が戻りつつあった。それは彼女の恥じらいから来る物なのだろうか?
「あ。これ」行きのヘリから下ろされていた、荷物は米軍物資とは離れた場所に置いてあった。万が一の事を考え真っ赤なCマーク付の野球選手が使う荷物用の大型バックと背負っていたリュックは雪が掛からないよう配慮されていた。
「ナニぃ!こんな物届ける為に、わざわざ」
「ああ!必要かな?って思って」
バックの中は彼女の物。リュックの中は、自分用に三日分の食料を詰め込んである。
「こっちは、自分のナンだけど、これ全部、何か役に立つかもしれないと思って」
赤いバックを奴に押し付けるようにして渡したとたん、奴はジッパーを空けて中身を確認し始めた。
「ふ~ん」
感心とも嘲りとも、認識付かない声の後、
「有難う先生!」
「結構助かるよ、暖房が無いから、これだけカイロを持ってきてもらえるとマジ助かる。それにこの銀色のシートもね。トイレットペーパーはこれだけ・・・ラジオはいらないな。でもこの中身の電池は頂くね!」
「なにこれ正露丸!」
「ああ、水が・・・水道がどうかなって思って、こう言った時に腹下すと、結構辛いだろう・・・って思って。それと怪我なんかした時取り敢えず磨り潰すと消毒薬にもなると思って」
「それと、寒いと思って風邪予防のビタミン剤やサプリメントを適当に持ってきているから」
「そうか。色々考えてくれたんだ・・・」
少し嬉しそうな表情に変わったと思った。
「で、先生、これからどうするの?」
「え!」
バイクは気仙沼の港に置いてきてしまっていた。
「取り敢えず三日分は誰にも頼らないでいい、用意はして来たんだけれど」
「ジャぁ今から三日かけて帰るの?どうやって?又アノ人たちの世話になるの?」
「あっ!」
先ほど目撃した火事の事が思い出された、あのまま火の手が港に近づけば、止めてあるバイクはやられるだろう事は十分想像できた。
「あっ、じゃないよ。先生。すっ飛んできてくれた事は嬉しいし、有難いよ。でもその後のこと考えてないでしょ!」
彼女の怒りは、ここにあったことが解るだけに、恥ずかしさがこみ上げてきた。
「相変わらずシッカリしているな」
正直な感想だった。
「私はもう戻らないよ、東京には・・・本当に考えなし、その時の気分のままなんだから」
「ご両親とか友人親戚は大丈夫なの?」
「おかげさまでね、家はチョットやられちゃったけれど、怪我人はいないし、祖母ちゃんも薬は、四十日分くらいは・・・未だ持っているから、病院とかに、すぐ行く必要も無い」
「そうか、それは良かった」
「で・・・」
と言いかけた言葉を遮るように奴は畳み掛けてきた。
「よかぁ、ないよ!」
「うちは、泊める訳に行かないよ」
「東京から戻ってきた娘の所に東京から男が追いかけてきたなんて知られたら・・・」
返す言葉は見つからなかった。
「とにかく東京でサ・ヨウ・ナ・ラ・したんだ。」
「これは有難く頂いておくけれど、これからは私に構わないで下さい」
奴の目には先ほどと同じ、嬉しいのか?怒りなのか理解不能な表情が広がった。
「違う!」
「先ほど彼(と離れた場所にいる軍曹を指差し)と周囲の状況を確認してほしい(軍に)と頼まれて見てきたんだがここから北側の山裾の森が火事に見舞われる危険がある。君の家はその方向にあるのか?」
エリックは、ハシモトと、その彼女?友達のやり取りは、さっぱり分からないが、距離を置いて観察を決めていた。
「軍曹!」
アンの呼ぶ声が聞こえた。
「我々(海兵隊)は、これからエセックスに一旦戻ります。迎えは、あと一時間位したら来ると思うので、それまでココから余り離れないように」
「それとこれを飲んで」
「なんですか?」
「ヨー素剤よ」
「ココは海軍に任せるんですね中尉」
「取り敢えずは、そういう事になるわね」
「ん、ハシモトは、友達に合えたようね?友達ではなくてステディーな人なのかしら?」
「いえ、どうもそんな簡単なことでは無い様に思えます。何を話しているのか、さっぱり理解不能なので、あくまで想像でしかないのですが。」
「そう、では、余り関わらないほうが良いかも知れませんね」
「はい、でもここにいるとなると、見たくなくても、ゆっくり、この状況を観察できる事になります」
「まぁ。パパラッチね」
中尉には少し余裕が見て取れた、多分後任の通訳官か何かが、ココに来るからだろう。
橋本は、中尉と軍曹がこちらを見ている事に気が付いた。それは、奴が離れる良いタイミングでもあった。
「お願いしてみたら?」
この非常時にも未だ、いたずらっぽい口調が利ける。それだけで奴はもう大丈夫と言う確信が持てる。
「そうだな」
この言葉を聞いて、奴は赤いバックを器用に背負い、一次避難所になっている学校の方へと歩み始めた。
「んじゃ!」
「おい!家はどっちの方向なんだ!?」
「大丈夫、亀山のほうじゃないから」
あの山は亀山と言うのか。
「中尉すみません。用事は済みました。厚かましいお願いなのですが、バイクを置いてある場所に戻りたいのですが・・・」
「はい?チョット待ってください。我々も、間もなく迎えが来て、部隊へ帰るのですが、それに便乗できるかどうかは、お答えできません。」
「ア!やはり、そうですか・・・自衛隊のほうは?」
「自衛隊は、この島以外の方で手一杯らしく、ココは米軍が中心になって助けます。村の方には、もうお伝えしてありますが、ハシモトサンのことは、ごめんなさい。すっかり忘れていました。」
「中尉」
エリック・モーザー軍曹は、ハシモトと中尉が何を話しているのか聞きたかった。
「Oh、ごめん、英語で話せば良かったな」
ハシモトは、つたない英語で軍曹に語りかけた。この際、軍曹の同情も買いたい、下心が働いていた。軍曹も出来るだけ安易な言葉を選びゆっくり話した
「どうした?」
「帰りたいのだが、どうすれば良いか?」
「彼女は放って置いて構わないのか?」
「バイクはどうする?」
「バイクの所に連れて行ってもらえれば(バイクが無事なら)、それに乗って帰る」
「彼女はここの人間だからココに残る」
「マジか?」
「でもバイクのある方向は火事だからそのような場所を飛ぶ事は、難しいかもしれない」
「ああ!」
「中尉のイシューだな」
「でも、向こうはどうなっているんだ?」
「Ohそうだな」
ハシモトはポケットから携帯を取り出した。バッテリーは、未だ半分近く残っていた。
「セルフォン?」
軍曹は、ココでは電話はつながらない事は分かっていた。しかしそれは電話ではなく、ラジオにもテレビ放送も受信できる。そしてテレビは、全日時に渡って、特に被害状況の酷い場所を集中的に、各地の被害状況の空撮を伝えていた。気仙沼市街の火災は鎮火したようだ。ただ気仙沼に繋がる道路が各地で寸断され、東京に戻れるかは分からない。良く周囲を見回すと日本人のかなりが、そうやって、我々とほとんど変わらない周囲の災害情報を得ていた。ただ、福島からの放射線被害に関する情報は、そこには映し出されてはいなかった。
我々がエセックスに戻るのもその対策の為であった。
テレビを両側から覗き込まれると、余計ばつが悪かった。二人からは「Oh」だとか「My God!」と言う嘆息がもれた。しかし自分はこの映し出されている横を抜けて東京に、そして山口に戻らなければならない。そのことを考えるだけで憂鬱であった。思わず出た言葉が
「遠いな岩国!」
来た時の勢いは、物の見事に粉砕されていた。
「Iwakuni?」
アンは、
「東京ではなくて、あのバイクで岩国まで戻られるのですか?」
信じられない、と言う口調で尋ねた。
「ええ。結果的にそうなると思います。」
「そうですか。チョット待っててください」
アンは、無線の所に向かい、なにやら相談を始めた。もろもろの情報を総合すると、原状、海からのアプローチはほぼ不可能であると言う結論が、米軍の判断であり、日本政府も同様な見解に到達しつつあった。
索敵(情報収集)揚陸艦の接岸可能域と海上火災の状況、被害状況の目視・調査・確認、ハシモトの希望をかなえるための口実は幾つも思いついた。
(ジョン・シューバッハ)
シューバッハ大佐は、正直“暇”になっていた。要は、自分はココの留守番役なのだ。動ける人間・使える機材は、JMSDFを含め全て出払った。ココに残っているのは、沖縄を始めとする各基地や空母で不要な戦闘機など使えない航空機の管制業務と一時保管以外は、その保守担当と自分だけなのだ。しかも兵器のメンテナンスも基地管理も、仲宗根を始めとする日本人スタッフが、そつなくこなしている。そこへ、アンからの連絡が入った。
最初、アンたちが早くこの暇な基地に戻って来たいのかと思ったが、話を聞くうちに、自分にも「有益な」仕事が出来ることが確信できた。
要点としては、二点
アンとエリックへ何らかの理由をつけて一時帰還命令を出し、エセックスか、余裕のある海軍艦船からココまでの足を確保してあげればよい。
二点目が、但し、そこに規則外の荷物として「日本人」とバイク。しかもその日本人はこの岩国の、基地では、一時期チョット有名になっていたあの“剣精”。彼を便乗させる。
と言う依頼であった。それに付け足して自分のする事は、出来ればその“剣精”の愛馬探しに協力して少し恩も売っておき、この動きを星条旗新聞と日本のジャーナリストに軽くリークしておけば良いのである。
「OK。何とかアレンジしてみる」
予定より大分遅れて、やって来たのは観測や当座何か使えそうな機器を搭載したマリーンのCH-53これらを降ろせば、開いたスペースにバイクを載せて、横田経由で岩国までのフライトが可能だ。
「流石、中佐!」
思わずアンは、昔の階級でつぶやいた。




