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「オペレーショントモダチ」(その4)

登場人物

海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)

海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)

高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)

奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)

高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)

海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)

JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)

弓削田・地元テレビ局ディレクター

橘・同カメラクルー

河村校長。

岩本警部


(プロローグ)

(なれそめ)

(東北行)

(アフガニスタン2010)

(沖縄)

(岩国)

(岩国警察署)

(浦添泰子)

(アン・フジムラ)

(震災三日目)…その4

(奴・吉村君子)

(ジョン・シューバッハ)

(イングリッシュ)

(岩国基地)

(県立岩国高校)

(基地内の高校)

(首相)

(岩国2)

(地元放送局の動き)

(新展開)

(霞が関・中央の思惑)

(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)

(政治)

(ステディー)

(なし崩し)

(政治2)

(気づき)

(霞が関2)

(気づき2・続き)

(岩国3)

(気づき3・続き)

(地元放送局3)

(思惑)

(枷)

(展開)

(親しく。「テッパンヤキ」)

(イコール)

(三沢へ)

(両親)

(プラクティス)

(プロム)

(反響)

(Differences)

(プラグマティスト達)

(エフェクト)

(良い結果)

(逡巡)

(フィクサー)

(政権)

(エピローグ)

(震災三日目)

大島に行く前にこの海峡をどう越えるかが、最大の難関に思えた。大島、気仙沼から離島への海路は、当たり前だが、既に全て欠航になっている。東京を出て、ほとんど寝ずの四十二時間、大容量バッテリーとヘッドライト横についている2つの幅灯で何とか宮城県に侵入することが出来た。千葉の市街地を越えてからの道路は、漆黒の世界であった。その上、星も月明かりの届かない山間部の谷あいの国道と県道を主たるルートとして選んだ。唯一の救いは簡易GPSとバイクのオルタネータが正常に働いてくれる事で、自分の位置を見失うことは避けられた。しかしココは全ての民間通信が失われている。持ち込んだ食料は、まだ十分に余裕がある。ただ、高速を使えない事で、帰りの燃料がそろそろ厳しくなってきている。被災地域内に入ってからは、勿論、まともに走れる状況ではなかったが、出来るだけバイクを押して進み、無駄な燃料の消費を防いだ。もしココに「奴」がいたなら、逢える可能性は、ほとんど無いように感じられた。ただ、彼女のツイートは、地震発生直後のものではなく半日経ってのものだった。「奴」はココ以外で生きている確信が、彼の、この難行を堪えさせる、唯一の原動力であった。災害伝言ダイヤルの使い方を途中の被災キャンプで覚えた。それを何度か試している。

少しだけ、己の思慮の無さに、後悔が頭の中をよぎった。

最後の夜「奴と携帯番号の交換をしておいた事は本当にラッキーだった。


「シューバッハ大佐」長い付き合いの上官は、基地司令官昇格と共に昇任していた。

「なんだね?アン」MVの沖縄本格配備を控え、同機の機長資格取得訓練前のアンは、その搬入業務担当責任者として大佐と共に沖縄からここ、岩国に(たぶん自分は短期?)数ヶ月振りに再配属が決まり赴任した矢先の出来事であった。

「と言うことは現地通訳としての任務がメインで、パイロットとしていく訳ではないと。考えて宜しいのですね?」

「いやシーホークは、できるんだろう?だったら向こうの艦長の指示に基本従ってくれ。私は君の別の能力も、伝達してあるから、ケースバイケースと言うことでよろしく」

「それと、例の海兵も76(空母ロナルドレーガン)には、連絡担当下士官として同行するのでヨロシク」

「え!?」「大丈夫ですか?」モーザー軍曹は、ほぼ一年前に起こした例の事件で、早々に本国帰還したものと思っていたので、ここで彼の名前を聞くことは、アンにとっては、意外な事実であった。

大佐はファイルを覗きながら、

「本人が希望も出ているし、沖縄からの帰国前にたまたま、ここに居たのでね!いいリハビリだよ。昨年の件は、特にお咎め無し。もう指示は出してあるからスタンバッているハズだ。よろしく頼むよ」中尉の心は読めているぞ、とばかりに聞かれてもいない事に答えをくれた。

「了解しました」

ここから東北沖に既に到着しつつある空母までは横田経由で五時間ほどのフライトで済むはずだ。ただ、空母の到着が間に合わない場合、三沢の空軍とJASDF共用空軍基地、故郷と呼べる三沢もdamageを受けていた場合は、基本、このオペレーションはJSDFの指揮を仰ぐ事になっていた。

だからこそ、細かい(日本語の)ニュアンスまで理解でき、土地勘もある彼女のような人材は、このオペレーションでは重要(貴重)だった。とにかく自分は米軍の複眼の構成要員、岩国代表の単眼(ONE OF ASSET)である事は理解した。

JMSDFのヘリやここを代表する飛行艇は、全て現地に向かい。私を待つこの機体以外は、今は必要の無い空母艦載機のFA18(戦闘用航空機)しか基地には残っていなかった。まもなく入れ替わりに、各滑走路を持つ基地には、不要なその他の空母艦載機(主に攻撃用航空機)が到着するはずで、大佐はそのお守り役である。

「サー18:00ですので横田には20時。Gipperには23時到着を予定しています」

「了解。お待たせしてゴメン出発して」

レーガンの動きは、米空母イチの最大速度を持つだけあって、全ての懸念は杞憂であった。艦長に着任の挨拶も早々、ブラックナイツ(第4ヘリコプター海上作戦飛行隊)の指揮官からの指示は

「中尉。到着早々済まないが、気仙沼地区から付近島嶼部への海路、沿岸部の状況を見てきて欲しい旨の要請が現地から来ているので、まずはそこから手伝ってくれ」と言うものであった。

「軍曹、君も同行してくれ」

「武器の携行の要は無いが、暗視装備一式は用意してあるので必要に応じて使うように。現地の電力等はダウンしている。一応NBC装備も持参していくように」

「了解しました」

既に福島の原発に何らかの重大なトラブルが生じている事は現地のCNN報道から一般人にも知れ渡っていた。

ただここは戦地では無い。必要以上の武装は却って人々を驚かせるだろう。自分は戦闘服ではなく、このサービスユニフォームのまま向かう事にした。

「軍曹。ヘルメットは必要ない。何か食べ物と飲み物を持てるだけ持ってきて」

「これで!」彼女は、内ポケットから、預かってきたカードを取り出し、渡した。

「サー」

甲板上には、武装を全てはずした海軍のシーキングが待機していた。乗員は六名。皆海軍の青いユーティリティユニフォームにキャップと言ういでたちで、特殊装備は目に付かない部分に納めてあるらしい。そこに一人。リュックを背負った色の違うサービスユニフォームの海兵隊員が、段ボール箱を両手に掲げて飛び乗ってきた。

「狭いのになんだ!」

「いや上官命令で、スナックと水を持ってきたんだ」

「背中は?」

「途中で電源がダウンしていると聞いたから、ショッピングセンターにあったコールマンをありったけ持ってきた」

「やるな!(笑)」彼は直ぐに海軍と打ち解けた。

「Go」シーキングは小雪が舞う中。西北の空へ飛び立った。

三月十二日いや時間は十三日の午前二時をたった今回った。

上空から見える光景は、まるで夜間空襲を受けたようであった。

暗視装置は要らない。あちこちで火の手が上がっているが、朝テレビで見た津波の心配はもうなさそうだ。しかし、津波の被害が相当酷い事は、直ぐわかった。通常の装輪車輌は使えない。無限軌道(キャタピラーつき)車両以外は徒歩かバイク、それもオフロード用の物くらいしか使えないだろう。海からのアプローチも、護岸には無数の残骸が漂い、そこからも火の手が上がっていることが確認できた。市街地からのアプローチはダメだな。と言うのがアンを含み搭乗員全ての判断であった。しかし、ホバリングに近い状態で極力低空飛行を試みながら、要救助者の捜索(特定)と降下出来る場所を探した。既に島の方の捜索に向かっていた別班からは、島に降下可能な場所を確保したことが伝えられていた。

「中尉!」操縦主の声がインカムから聞こえた、

「右下にライトが見えます。こちらを照らしているようです。誰かいる!!」

アンは指示された方を見た、

「バイク!?」「近くに降りられる?」

「やってみます。」

まさか、一日半でここまで来られるのは“愛”の力か?と冗談となんとも言えない感情が湧いているのが自覚できた。しかし、奇跡・ラッキーだった。ただ、なだらかな道は無く、道らしきものは、当分使えない事は、明らかだった。十二日から十三日にかけて、持参の携帯は、ワンセグテレビとして非常に重宝に活躍してくれた。

しかし本来の使い方。電話としては全く役に立たなくなっていた。震災の全日、気仙沼付近を襲った津波を映像やライブで自分が目撃する事は「なかった」が、その爪あとの凄まじさは、想像をはるかに超えていた。ここに人が住んでいた痕跡が残る平坦な部分に近づく事は、素人目にも危険が感じられた。

しかし、彼女がその先の大島にいることはわかっていた。だから、現地の人々の静止を振り切っても、どうしても海岸方面に近づかねばならなかった。

来る事は出来た。でも戻れなくなってしまった。

「ヘリ?」彼は、ドロだらけのゴーグルを外し背後の炎に照らされる上空の機影に目を凝らした。


「星のマーク米軍機だ!」自分の位置からやや海よりに降り立ったヘリは、アメリカ軍の物と直ぐに分かった。と同時に周囲を明るく照らしてくれたおかげで、自分の立っている場所が、かなり危ないと言う事も理解できた。

「ダイジョウブデスカ?」

「え!日本語」降り立ってきた米軍兵はカーキ色の制服にフライトジャンパーを着た女性、それも日本語を話した。

「大丈夫ですが・・・戻れなくなってしまって」

「ソウデスカ、アノバイクハ貴方ノ物デスカ?」

「はい。対岸の島に友人がいるので、東京から援助物資=とは言っても、たいしたものではないが=を届けようと思ってここまで着ました」

「エ!東京カラ?」自分も岩国から今朝やってきたばかりなのだが、この青年?は東京からバイクでここまで来たと言う。

「オヒトリデスカ。」「スゴイデネ!」

「はい私だけです。有難うございます」。「厚かましいお願いなのですが、対岸まで運んで頂けませんでしょうか?」

「チョット待ッテネ」インカムを通してパイロットに簡単に説明をした。返事が返ってくるのには少し時間があったが余りココでぐずぐずしている訳にもいかない。

「中尉、ヘリボーンするには下の状況が分からないので危険だと思います」

「今の乗員を残すなら機内にバイクは積めるでしょうが、ココの状況も分かりませんし対岸のランデブーポイントも未だ“確保されている”と言うことしかわかっていませんので、率直に申し上げて彼を救出する事が限界と思います。」パイロットの少尉の判断は、すばやく的確であった。

「Roger、申し訳ないけれどバイクは諦めてください。貴方を対岸に運ぶ事は出来ます」「時間が有りませんので」

正直、こいつと別れるのは非常に辛い決断だった。ただ火がこちらの方に回ってこない事、もう津波や余震で、ココがやられない事を祈り、彼はバイクを護岸=と言う事がヘリの照明で分かった=の生き残っている「柱」のようなものへ、チェーンで固定し、中尉?に尋ねた。

「お名前と階級は?」

「ア!アンで構いません。一応中尉です」

「では中尉。このバイクに乗せている装備を持っていくことは可能でしょうか?」

アンは、一瞥して可能と言う判断が出来た、それは、多く見ても、軍曹の艦から持参した箱とリュックの半分にも満たないものでしかなかった。からである。

「All right。サア持ッテ。グズグズシナイデ、ヘリニ乗ッテ下サイ」

先遣部隊がヘリポートとして活用したのは避難民が集まっている山頂部の学校から、少し下った野球グランドであった。上空から見える明かりは、港湾近くの民家の火災と学校付近での暖を取る為の焚き火の火くらいで、電気といった人工的な明かりは、このグランドの位置を上空からでも分かるように設置された軍用のライトと住民が集めてくれた未だ稼動する車のヘッドライトのみであった。

「貴方ノお名前は?」

「はい橋本と申します」

「ハシモト?」聞き覚えのある名前だった。ただ、このハシモト氏は、非常に苦労してたどり着いたことを示す服の汚れ具合と、顔つきだった上に、ヘリ内部の暗さ、インカムを通した声もあって、アンには確信は無かった。

「軍曹、何かハンドタオルか、何かがあればハシモトさんに渡してあげて」

「サー」

「Thank you」二日ぶりに顔をぬぐい。確かウエットテッシュが持参品の中にあることを思い出した。ただ、ゴミを棄てる場所が機内には無い事に気がつき、濡れて汚れたウエットテッシュをポケットにねじ込んだ時、思わずハンドタオルをくれた黒人兵と目があった。

「アッ!」彼こそが、去年の春に、のしたアメリカ人だった。

エリックは、直ぐにのされた、この顔は裏覚えであったが、相手の反応を見て、まさかと思い中尉に英語で質問した。

「中尉。奴は私を岩国で倒した学校の先生では無いかと思うのですが?」

「エエッ!」アンはハシモト氏に尋ねようと思ったその時、

「もしかして中尉は、あの時の岩国にいらした方ですか?」彼からの質問の方が先にインカム越しに飛び込んできた。

「IWAKUNIって言葉が聞こえたものですから・・・」。

「貴方ハ、アノ時ノ、赤いシャツヲ着タ・・・ハシモトサンデスカ?」

「はい、わかりませんでしたか?」

「エエ、少シ会ッタダケデ・・・アナタノプロフィールハ、渡サレナカッタモノデスカラ」

「そうでしたか、あの時は失礼を致しました」

「中尉、インカムを訳の解らない言葉で占領しないで下さい」パイロット(少尉)はたしなめた。

「間もなくランデブーポイントに到着すると思いますので少しの間お静かに願います」

「Roger」ヘリは静かに降下した。

ヘリポートとなっている中学校の校庭には10人に満たない先遣隊が、通信を開通させていた。アンは、まず今見てきた気仙沼市街地上空の災害状況の報告と、それに伴う、(米軍が)用意できる必要装備に関しての報告を、ブラックナイツの指揮官あてに入れなければならなかった。

ヘリの周りには役場の人間とすぐ解るいでたちの日本人と、比較的若くて頑丈そうな日本人が集まっていた。

「中尉レポートが済んだら、すまんが通訳をしてくれないか」先遣隊隊長のヘンリー海軍大尉が、そばにいる村長らしき人物、にゆっくりとした口調の英語で語りかけていた。

「了解。軍曹そこの若い日本人の方々に貴方が持って来たものを渡して」

「了解」

「ハシモトサン、少シ、ココデ待ッテイテクダサイ」

彼は、一人軍服の色が異なる軍曹が、ヘリの奥から運び出す荷物の搬出を手伝おうと近づいた。

「May I help you?」

今回音も無く背後から近づいて来たら、たぶんエリックは、ハシモトを投げ飛ばすか、締めていただろう。しかし彼は非常に「ばつ」が悪そう、だが一方でやるべき事は何でもやるオーラーをにじませていた(様に感じた)。

「お前英語はわかるのか?」

「ああ、これでも一応高校教師なんだ。少しは話せる」

「Oh!そうだったな!」

「Yes,ただ体育が専門だからな!」彼は軍曹が降ろす荷物を見て、自分が持参して来た物が、チンケに思えた。流石アメリカ軍。率直な感想だった。アンが通訳として村長らしき責任者と、大尉との通訳をしているので、軍曹は、この荷物をどう渡すか、彼に尋ねた。

「OK!多分それくらいゆっくり話してくれれば、皆解ると思うよ!」彼は答え、そしてヘリを遠巻きに見ている地元の若者に声をかけた。

「米軍が、取り敢えずの差し入れを持ってきたので皆さんで分けてください!」ヘリから出てきた一見すると日本人らしい、軍服では無いが、かなり汚い格好で、一人ヘルメットを被っている人物の声は、周囲の人を安心させた。コールマンランプとホワイトガソリンのセットを渡された地元の若者は、それでどうやって明かりを灯すのか、知らなかった。見かねたエリックが、使い方を教えようとした時、ハシモトが器用にランプに明かりを灯した。その明るさは、ろうそくと焚き火の炎しか明かりの無い、避難場所にとっては奇跡のような明るさであった。エリックの持参したモノは、ミネラルウォーターのペットボトル四ケース。あとは、チョコレートなどカロリーの高い菓子類が殆どだった。他の海軍部隊は、やはり飲み物と携帯電灯を配り始めた。しかし、全ての食べ物が冷たいままであることには変わりがなかった。

何人かの若者は、ハシモトと同程度か、少し劣る程度で英語を理解した。この事実は非常にアンにとってはありがたい事実であった。

「ハシモトサン何人カノ兵隊ヲ連レテ、今何ガ取り敢エズ必要カ、ヲ聞キ取リ調査ヲシタイノデスガ、手伝ッテ頂ケマスか?」

正直一刻も早く「奴」の安否を知りたかったが、乗せてもらった手前、無碍に断ることが出来ないのは常識だ。

「はい、いいですよ」「でも中尉は?」

「私ハ役場ノ方ヲ担当シマス」

「解りました、ココにも何人かは私程度に英語を理解出来る人間はいると思いますので、チョット声をかけてみても構いませんか?」

「ソレハ有難イ」

「OK軍曹、まんざら知らない仲でもないから、橋本さんに付いていって聞き取りをして頂戴」

「内容は、今何がエマージェンシーで必要か?運ばなければならない急病・怪我人の有無。まずはそれだけで構わない。それ以上のことは現時点で私の範囲では何も出来ないから。判った?」

「了解、中尉」

「それとヘリから見えた水没箇所には近づかない事、今はセーフティファーストよ!」中尉は大尉のほうへ向かいながら大声で話した。

こうして長く寒い現地一日目は始まった。時刻は夜中の三時に掛かろうとしていた。

「HUNGRY?」思わず腹が鳴った、考えてみれば昨晩、火に囲まれ途方にくれて以来、水も殆ど口にはしていなかった。

「Yes, Maybe」彼、軍曹がポケットから取り出した棒状のモノは、まさにハイカロリーなアメリカ兵の燃料とも言える物であった。ただこの空腹を感じないが、確実に何かで腹を満たすことを体が求めている時に、こういった猛烈に甘いモノは有難かった。

「Thanks」素直に出た礼の言葉が、お互いの距離感を縮めた気がした。自分たちが見回った範囲では、幸いな事に搬送を要する急患と出会うことは無かったが、光源を置いて回る日本語が通じる者を連れた、明らかに見て援助者と分かる米兵の組み合わせは、傷ついた人々にとって、確実な安心感を与えているように思えた。その空気が、又、二人の距離を縮めている気がした。小雪が舞う寒空にうっすらと日が差してきた。一段と寒さが身に染みる震災三日目の朝を迎えた。

「火事だ!」ベースである中学校から歩き出して30分も立たないうちに、聞こえてきた。

気仙沼港に向かい、津波で壊された港のタンクの油に何かで引火したのだろう、まさに火の海が気仙沼の方向に伸びていくのが、火事を知らせる怒声とともに、声の方向の山の稜線が赤く逆光に照らし出されるのが視認で来た。海に浮かぶ、かなりの数の瓦礫は、この火事を一方では防ぎ、もう一方では燃料にでもなっているのだろう。ただ問題は風向きが、今我々が視認している(いただき)方向からこちらに向かい吹いている事、この北風は、寒いだけではなく刺すような痛みを持つと言う事は意外に乾燥しているので、このままでは、この尾根に類焼する危険性を軍曹は直感的に把握した。

「hot」

「ホットって、暑いのか?」橋本は寒かった。

「NO・NO/ Dangerous」「Look at!」軍曹は橋本に、炎の方向を指差した。

「アイガッディット」多分これでいいんだよな?と思いつつ映画で見知った言葉を使い同意を示し

「ゴーバック・ベース・ナウ」たたみかけてみた。話すと同時か?少し早く軍曹も早足でヘリのとどまるグラウンド方面へ引返し始めた。水没している島の国道を目の前にして、このすばやい決断は彼らの命を救った。ただこの山火事は米軍の本格的な(救援)活動を2週間以上遅らせる事となった。


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