「オペレーショントモダチ」(その3)
登場人物
海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)
海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)
高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)
奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)
高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)
海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)
JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)
弓削田・地元テレビ局ディレクター
橘・同カメラクルー
河村校長。
岩本警部
(プロローグ)
(なれそめ)
(東北行)
(アフガニスタン2010)
(沖縄)
(岩国)
(岩国警察署)…その3
(浦添泰子)
(アン・フジムラ)…その3
(震災三日目)
(奴・吉村君子)
(ジョン・シューバッハ)
(イングリッシュ)
(岩国基地)
(県立岩国高校)
(基地内の高校)
(首相)
(岩国2)
(地元放送局の動き)
(新展開)
(霞が関・中央の思惑)
(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)
(政治)
(ステディー)
(なし崩し)
(政治2)
(気づき)
(霞が関2)
(気づき2・続き)
(岩国3)
(気づき3・続き)
(地元放送局3)
(思惑)
(枷)
(展開)
(親しく。「テッパンヤキ」)
(イコール)
(三沢へ)
(両親)
(プラクティス)
(プロム)
(反響)
(Differences)
(プラグマティスト達)
(エフェクト)
(良い結果)
(逡巡)
(フィクサー)
(政権)
(エピローグ)
(岩国警察署)
「先生。先生は猛者なんじゃけ、あかんよ素人相手に本気を出したら」
「でも岩本さん、相手は十中八九、米兵だよ、MPがすっ飛んできたくらいだから」
「それに体格や“こなし”から見てありゃ間違いなく、その道の“プロ”だよ、んで、マジ酔っては見えんかったんよ。じゃからマジで構えんと、生徒を守る処か、こっちがやばかったんよ」
「かも知れんが、先生はココでは一番強いんじゃけ、言い訳は効かんよ!」
「岩本さんがいるじゃない(笑)」
「なにユウトるんよ、去年負けたろうが、それにわしはもうアラフィフの受験生を持っちょるパパなんじゃから、今年もあんたが勝つよ」
「センセと世間話、言うとったら、調書が出来んから、適当に作文するからちょこっと待っといてね。」
方言がもろな、岩本警部は、剣道部顧問として、学校の生徒たちの指導をする際に、たまたま知り合った。年齢は十以上、上だが、私が、東京からこちらに赴任してきてから、最初に出来た職場以外の“友”と呼べる人物であった。
「どう?これで構わんか?」
そこには、たまたま自分と花見に来ていた同僚や生徒が、土手から落ちてきた、酔っ払っている外人に踏み倒されたこと、その中の一人はどう見ても現役の軍人であり、彼が生徒や自分達に対峙して来たので、危険から彼等を守るための正当防衛であったことが、巧い脚色をつけて書かれてあった。
「いわもっさん!相変わらず美しい字!内容!国語の教師としてやっていけるよ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。OKならココにサインと母印な。」
明らかに岩本警部は、私を、MPから守ったことと、この『作文』の出来の良さに、気分が良いことが判った。
「班長!」
岩本の部下が、呼びに来た。
「何だ?」
「米軍関係者が先生にお話を伺いたいと、来ておりますが?」
「通訳が、おらんといって、出直すように言え!」
岩本の脳裏には、この件にはアメ公は噛ませないという信念があった。
「班長それが・・・日本語が話せるようです。」
「なに!」
岩本は出来たての調書を片手に取調室を出ざるを得なかった。
「先生。腹減ってないか?コーヒーで構わん?」
「お気遣い有難うございますコーヒーをいただけるなら・・・」
「おい先生に美味い(おいしい)“ブラック”をお出しして」
「先生、悪いが、もうちょっとおってね」
岩本は生活安全課の方へ小走りで向かった。勿論、取調室の扉は、半開き状態のままで。
橋本は先ほどの”彼女“が、私に会いに来た事を確信した。正確には事情聴取だろうか?
(浦添泰子)
河村校長は不在であった、浦添は、自分が行かざるを得ない事は、ハナから判っていたが、一応手順を踏んだ、出来れば米兵がらみのことには一切関わりたくないのが彼女の信条であり、まして自分とともに、校内で、同僚とは言え、数少ない独身者の後始末に借り出される事は、狭い、田舎町では、全く持って不本意な事態であった。
命に別状は全く無かった。ただ喉仏を打たれたせいで、人間は反射的に動けなくなることを始めて、知識ではなく身を持って知った。ココの医師は英語が話せたが、要領は掴めなかった。ただ、どこも骨折もしておらず、後遺障害も残らないことだけは理解できた。
「エリック・モーザー軍曹」
背後から日本人=多分現地警察のユニフォームオフィサーが話しかけてきた。
彼の英語も、医師同様、タドタドしいものであったが、要は、私はこれから米軍のMPに身柄を預けられるが、その前に今日ココまでの出来事を聞かせてほしいと言うことだ。
エリックは、彼に対し協力的に振舞った。その代わり自分を打ち据えた人物の素性を彼から聞きだすために、出来るだけシンプルにゆっくりと話しを進めた。
「What!」
「School teacher?」
信じられなかった、あの赤いシャツを着た人物は、高校教師である。そして、オフィサーを叩きのめしたのは、日本の高校生らしい。エリックは、
「なんと言うことだ」
と言う呟きを残して、迎えの車に乗り込んだ。
(アン・フジムラ)
岩本は、少しリラックスした、軍(海兵隊)から派遣されてきたMPは女性、それも海兵隊の割にチャーミングな感じを受けた。多分それは彼女が何か香水(体臭隠し)を身に纏っていたからかも知れない。マリーンも粋な事をしてくれる。と言うのが、彼女が帰った後の率直な感想だった。
その上、彼女は、まともな日本語で岩本に話しかけてきた。そして、今回の件の処理は全て日本側の指揮下で日本の国内法に基づいて処理して構わない、即ち日米地位協定は今回全く関与しない事件である事を基地司令官から託されて来ていた。従って、本件での協力を米軍側は全く惜しまないこと。単に今回は怪我をした米兵の引取りの可否。もしOKならば連れて帰りたい旨の申し出。一〇〇%岩国署。即ち岩本の意のままに事を処理して欲しいという申し出を伝える為に、来ていたのだった。
そのせいもあり、彼の友人でもある「剣精」に関して、かなり余計な情報=とは言っても勿論、事件には全く関係の無い=も与えてしまった。
いわく“彼”は、高校の体育教師であり、かつクラブ活動では剣道部の顧問である事。
県下で、自分と共に一二を争う剣の使い手であること。
彼の剣は、居合いをはじめとする「かなり実践的」な剣術であり、体育授業向きでは無いので、この道場(県警の道場)にも通っていること(そのせいで岩本と仲良くなったこと)
そして出身はココではなく『東京』であることなどである。
その上、彼女より、かなり年上であること。見た目にはどう見ても、そうは見えないが。
岩本は、彼女が、日本語が読めることも知ったので、このような条件下では、お互いのアフターファイブを有効にするために、要は、彼はこの様な些事で、呼び出されたり、残業などする事は、真っ平と思っていた。ので、あるバーターを持ちかけてきた。彼に直接会うより、自分が作成した調書の閲覧を認めるというものである。
しかしこれは、双方にとって規則違反であり、何よりも岩本の話を聞いて、“彼”に直接会って言葉を交わしてみたい衝動に駆られた。それほどアンにとって、目の前で見た光景は強烈なインパクトを残していた。
「では時間は五分間だけですよ。その後“彼”は、事件当事者ですが、正当防衛が認められていますので、即時開放します。」
「なお閲覧を拒否しましたので、彼の個人情報に関して、当職から直接提供することは、以後、公式な依頼文書がない限り一切出来ませんので、その点もご了承ください。」
要は、閲覧等の必要な場合は沢山の公的な書類を製作して申請しなければダメだ。と言うことらしい。
アンは『そうか』と思ったが、後の祭りであった。
こちら側でレポートを作成するのに必要で、十分な内容の事件報告書以上のペーパー=特に被害者や日本人の個人情報は掲載されていない文章=は、もう、ここにいる間には入手できないのだ。
しかし直接聞き取りの通訳をした結果、彼の名前、彼の言葉から彼はココの人間ではなく、東京の出身であること。
終始うつむき加減で話をする彼は、非常にシャイな人物で、見た目は若いが自分より七歳以上も年上で、しかも独身であることは、正しい情報であった。そして、私の言葉に障壁が無いことから来る気安さと、肌の色から、彼の悩みが「踊り」である事は理解した。彼は、比較的フランクな日本人だ。という事だけは裏が取れた。
要は、彼と花見を楽しんでいた生徒たちの下へ白人と黒人の外人二名が降ってきて、弁当や飲み物をめちゃめちゃにした。そこで怒った生徒が、その内の上にいて意識が有った白人の外人をボコボコにした、しかし下敷きにされた「黒人のガイジン」は巨躯であり、いきなり立ち上がり、その外観から、逆に生徒がやられることを察知した、彼が、生徒の逃げる(警察へ通報する)時間を稼ぐために、筋骨隆々のガイジンの前に立ちはだかった、だけに過ぎず。彼には、若干腕に覚えはあった。それだけである。
しかしこの時、彼は、話をしに来たアメリカ兵が、ガイジン独特の妙に香水臭い黒人女性という印象しか持たなかった。目を合わせ、顔をまともに見て話す習慣を生徒に説く割に、自身が全く苦手にしている事の自覚がなかった。




