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「オペレーショントモダチ」(その17)

海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)

海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)

高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)

奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)

高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)

海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)

JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)

弓削田・地元テレビ局ディレクター

橘・同カメラクルー

河村校長。

岩本警部


(プロローグ)

(なれそめ)

(東北行)

(アフガニスタン2010)

(沖縄)

(岩国)

(岩国警察署)

(浦添泰子)

(アン・フジムラ)

(震災三日目)

(奴・吉村君子)

(ジョン・シューバッハ)

(イングリッシュ)

(岩国基地)

(県立岩国高校)

(基地内の高校)

(首相)

(岩国2)

(地元放送局の動き)

(新展開)

(霞が関・中央の思惑)

(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)

(政治)

(ステディー)

(なし崩し)

(政治2)

(気づき)

(霞が関2)

(気づき2・続き)…その15

(岩国3)

(気づき3・続き)

(地元放送局3)

(思惑)

(枷)

(展開)…その17

(親しく。「テッパンヤキ」)

(イコール)…その17


(三沢へ)

(両親)

(プラクティス)

(プロム)

(反響)

(Differences)

(プラグマティスト達)

(エフェクト)

(良い結果)

(逡巡)

(フィクサー)

(政権)

(エピローグ)

(展開)

「おお!それは良い!」

エリックは大きく頷いた。

「それはこちらとしても高校生を引き込みやすい。君子さん!貴方は天才だ。さすが公生が魅かれるだけの事はある。」

弓削田と本人の吉野には、吉野を褒めているのだろう、と言う想像以外、ちんぷんかんぷん。でも、アンと橋本の関係が関係者内では公になっている現状、浦添は、箸を止めざるをえず、アンをチラッと覗き込んだ。

しかしアンは全く表情を変えず、心酔する料理上手な浦添の、お勧めの味、橋本との待ち合わせで、何度も食べているハンバーグに、むしゃぶりついて、味を楽しんでいる様だった。正直ほっとした。

しかしエリックは、デリカシーが、ないなぁ、言葉の伝え方には、注意しよう。浦添は心に決めた。

「エリック!」

いつからか、浦添も、プライベートでは、軍曹をエリック、大尉はアンと呼んでいた。

勿論、彼らは浦添には、敬意を込めて、「センセイ」と呼んでいた。

「何、センセイ」

エリックは振り返り様に答えた。

「あ!ちょっといいかしら?」

勿論、お互いに丁寧な英語が飛び交った。

しかし、吉野はそんな様を見て、この人たちの関係は相当深いと感じた。

アンは、車でこのまま帰るのが残念だった。その様な後ろ姿を見透かすかの様に、弓削田は、ニヤニヤしながら、アンに近づいて来た。

「大尉、今晩とかお時間を取って頂く訳には行かないでしょうか」

「はい?なぜ?」

「よろしければ、今後のスケジュールの打ち合わせなどを兼ねて、夕食などをご馳走させていただければ?と考えていまして。勿論、吉村先生も同席の上でなんですが、今晩が彼女の山口滞在最終の夜で、明日朝には、松山の方へ戻られる事もありますので。」

「あ!そう言うことなら構いませんよ。なんとか時間の都合を付けてみます。軍曹も一緒がいいですね?」

「はい。ありがとうございます。」

「OKでは何時?」

「そうですね、この後、何時までかかるかわかりませんので、後から連絡をさせて頂く訳にはいかないでしょうか?」

「OK、じゃぁ橋本先生か浦添先生に時間を伝えて下さい。あの人達は、私の連絡先を知っていますから。私の個人携帯番号は、残念ですが、弓削田さんにお教えする事はできませんので。急用でなければ、基地の代表でお願いします。」

完璧な日本語での受け答えであった。

「了解しました。では先生方経由で場所や時間をお伝えさせて頂きますが、大体夜の六時から八時くらいの予定で二時間位、お時間を頂きたくお考えください。」

弓削田は、校門に向かう吉村と浦添に小走りに駆け寄っていった。

エリックはニヤニヤしながら。訳知り顔に車に乗り込んできた。

「なに?」

「いやなんでもない」

そう、彼らの関係は未だ、コンフィデンシャル。なのだ。

エリックは心の中で呟きながら、車は駐車場を離れた。


昼食後は、午前中の話の流れで、吉野と橋本の間で指しの話し合いを撮影することになった。

勿論、台本はないので、きっかけを、プロデューサーである弓削田が作らなければならなかった。

その場には副校長が監視役として同席し、浦添は補修授業に、校長は校長室に戻っていた。

「橋本先生は、JAZZダンス系で現代ダンスの授業は進めていかれるのですか?」

軽い雑談口調で弓削田が先鞭を切った。

「ジャズダンス、と言うかヒップホップ系のダンスでも好きにやらせて見る。そして創作ダンスというかダンスで何かを表現できればと最初は考えていたのですが、基地のペリー高校とのプロムという課題がありますので、そのゴールを示して、選択肢を与え、それを観察させてもらい評価する。と言う感じで漠然と考えて降りました」

吉野は、眉が動いた。それを弓削田は、見逃さず、ディレクターに撮影開始の合図を送った。もちろん二人には判らない形で。カメラは静かに遠くから、しかし望遠レンズで、そして、2つの超指向性マイクが、しっかりと、二人の表情と口元を捉えていた。

「そうですね、先生。私も生徒たちが何に興味を持ち、食らいつくか?が分からないので、先生のお話を参考にさせて戴こうと考えておりました。」

吉野は素直に同意した。しかし、

「ただ、単に受験勉強の期間の息抜き、の様な時間には、させたくは、なかったんです。実際、有酸素運動としての、現代ダンスは、ヨガやウォーキングなどに比べて、相当きつい部類に入りますから。そして、怪我が、結構ついて回ります」

弓削田の思惑とは、異なる真面目つまらないな方向に話が進み始めた。

「処で、先程、先生がご説明されていた “隣の高校とのプロム”とは具体的に何なのですか?」

食いついた。やはりそこだろう。

「市内には公立私立合わせて五校それと、いくつかの分校があるんだが、それとは別に基地内に、アメリカの高校がある。うちは、他校と違って、余り、と言うか全く、基地内の高校とは、交流が・・・全く無かったんだが、今回の件で交流する様になったんだ。プロムっていうのは、アメリカの高校の卒業式の時にある卒業生が正装してダンスパーティーをすることなんだ。」

遠くで、モニター越しに観察している副校長は、表情を変えていないが、橋本は彼の顔を少し伺った。

「その学校との交流で、ダンスの授業を?」

吉野の表情に驚きはなかった。

「そうだ。ただ、どうも我々の思惑とは違う処の力学も働いているみたいなんだけどね?」

「違うところの力学?」

「う〜ん。言いにくいなぁ。僕は、別に感じないんだけれど、何人かの先生は、反対している」

「よく、分かりません?」

「うちには、校長をはじめ、沖縄出身の先生がいるし、教職員組合とかも二種類あって基地の問題は、微妙なんだよ。この街では。」

「そうなんですか?でも、先程ランチを一緒に取った(アメリカの)方々は、そこの人でしょう?」

「うんそうだ。彼らと私の関係が、そもそも(この話の)のきっかけになった。そして彼等と私達が、この企画の中心なんだ」

「で、先生は、この流れに乗る事に躊躇いがあるのですか?私なんか、そんな流れがあれば直ぐにサーフィンしてしまいますけど」

吉野の顔に少し悪戯っぽい、あの当時の顔が蘇った。

「サーフィン?」

「そうですね。躊躇なく乗りますね。乗ってからどうなるか考えても構わないと思います。先ずは乗って見ないと、分からない事ですし、どうなるかは?」

「で君は、乗って、ここの反対側の土地にある高校に赴任して来たって訳か?」

少し軽蔑の意思が橋本の、言葉にあった。

「先生。馬鹿にしていません?先生には厳しさが、ないんです。」

吉野は鋭く感じ、突き返してきた。

「そうか」

橋本は深々と息をしてから続けた。

「先程は、副校長先生等も居て、話さなかったんだが、」

橋本はボソッと小声で話し始めた。

「大尉や軍曹がアフリカ系アメリカ人であることはわかると思うけど、今のダンスは、そう云った方達の、創作されたダンスが、元にある事は分かるよね?」

一呼吸おいて続けた。

「僕も気がつかなかったし普段は気にもしないことだけれど、彼等は、母国に帰ると、そのアフリカ系とか、要は黒人であることで、様々な、事が在るんだ、ざっくり言うと人種差別だよね」

言ってしまった。と思った。

「軍隊には、そういった事は、基本的にないし、一般的なアメリカの市民生活では、表向きには無い。そう言った事を表に出す事は、恥ずべき事として、忌避されている」

「でもね、実際、あるらしいんだ。実感した事は、ないけれど。」

「ただ考えてみれば日本でも、在日の人や、出身地で、目に見えない差別が、日本でも、ある事を薄々は、気がついていない?」

「特に、君の場合、性差別や、生まれた年が数年違うだけで、就職に関しても“差別”があった事は、実感しているだろう?だから、ハングリーに、今回の事も飛びついたと思うんだ、それ自体、決して非難される事ではないけれど、心から」

少し言いながら、躊躇いの気持ちが湧いてきていた。

「誤解して欲しくは、ないんだけれど、だから、こそ、そういった多様性や違い。と言うことを少しでも考える時間を…このダンスの授業で生徒達に感じ、考えて欲しい。っと僕たちは教師なりに考え今、周囲にも(具体的には警察だが)理解されつつあるんだ」

「だから本末転倒になりは、しないか?って、君の提案のまま行くと、僕は感じてしまうんだ」

「本末転倒?と言う事は、先生はダンスの授業ではなく、その差別のことを考える時間にしたいと考えているのですか?」

弓削田が、思わず口にしそうになった質問が、吉野の口から漏れた。

「はい。迷っています。差別を顕在化するのではなくて、どう、お互いの違いを理解し合い差別を無くすか?って事を(生徒達に)考えて理解して貰う為に、もう少し内容を詰めたい、ね。でも、我々四人は、この内容を盛り込みたいと言う意思で、統一は、されている…と思う。」

思わず

「ふうーん」

と言う、溜息とも、同意とも、つかない言葉が吉野の口から漏れた。

「でもそれでは、おおやけには通りませんよね?」

吉野は質問した。

「そうなんだ」

力なく橋本も答えた。

「レコード止めて!」

弓削田の指図が飛んだ。

遠くで見ている副校長は、今までの話を聞いていたのか、聞こえなかったのか?は、判らないが、少なともネガティブな表情を作ってはいなかった。

「先生方は、そのような事をお考えになってお話をされていたんですか?」

弓削田は既に警察署でのやりとりを聞いていた事は噯気にも出さず、尋ねた。そして続けた。

「利用されてみては、如何ですか?吉野先生がおっしゃるように、この環境を。私達も、少しはお役に立てると思いますよ?」

弓削田の提案は漠然すぎて、橋本には、すぐにはピンと響かなかったようだ。

「我々ができる事ならば、何でもお手伝い致します。但し、出来る範囲で、ですが」

“ずるい“と、思い、吉野は、弓削田を見た。

「単なる体育の授業では無く、社会をいや、俯瞰して世界を考える時間を生徒達に、与えたいんだ。ただでさえ“プロム“と言うと、聞きかじった、父兄や、大人達は、異性交友なんて、短絡的に結び付けられるからね」

だが、弓削田の言葉が、橋本の耳には入っていなかった様だ。

「でも、なんでそう言う話(結論方向付け)に至ったんですか?」

吉野も弓削田の提案を無視するかの如く続けた。

唯、それは弓削田にも興味のある事でもあった。

そこで橋本は、アンの宿舎での話をかいつまんで説明し出した。

「浦添先生や、校長、先生達の間では、そう言った事があったのですか」

「でも先生、それじゃぁ上には通らないよ。実感として」

口の利き方からして、吉野は昔の『奴』に戻っていた。二人の間の垣根は取れた。

「私は、(おいしい)教師の話が舞い込んできた時に、勿論、疑念はあったわ。『何故?』でも、チャンスは逃してはいけない事を肌身で知っていたから、言うが儘に、流れて来たの」

「そんな連中は、自分が、都合が良い駒だと。私を捉えているはずだし、そんな力があるのだから…意にそぐわない行動を採れば、たちどころに今のポジションは、無くなる。だから、彼らが望む方向が全てよ」

「で、ここまでは建前。本音を言えば、先生たちの御考えは素晴らしいと思うわ。でも、そのままでは、必ず潰される。間違いなく」

吉野は、ここまでを一気にまくし立てた。お酒抜きで。

「あとは、ここにいる弓削田さん次第だと思うのよね?この人は、どんなポジションから、ものを言っているか?そこが知りたいわ」

弓削田は、吉野君子が就職氷河期のロスジェネ世代である事をしっかり思い出していた。この娘は、したたかだ。

「ドキュメンタリー番組タッチで、少し、脚色(やらせの要素)を入れさせて頂いて構いませんか?」

正直言って数字は欲しかった。そして橋本の様な、ノホホンと就職を決める事が出来た、最後の、バブルの恩恵を(かじ)れた世代の(けつ)は、巧くぶっ叩けば、あわよくば賞も取れる面白い絵が、できると言う予感もあった。

「生徒さん。特に、御高の生徒さんは、なんらかの動機がなければ、計算をされるでしょう。それこそ忖度を」

「ですから地域ナンバーワンの放送局で有る弊社の名前を有意義に使って、ドキュメンタリータッチの学園モノに導入部だけは、設え(しつらえ)させて頂ければと考えております」

「具体的には?」

橋下は尋ねた。

「向こうとの調整の労はお願いしなければなりませんが、そこから、カメラを入れさせていただきたいと考えています。」

「で?」

二人はハモった。前のめりだった。

「はい。まずはガイダンスという形で両校の該当生徒さんを一堂に集め、英語と日本語で、授業を受けていただく。シーンはいかがでしょう?もちろんガイダンスでお話しされる内容方向、カリキュラムは日米双方話し合って決めます。」

「そこにはカメラは入れませんがご報告だけ入れていただければ有り難いと存じます」

「懸念点は、そこで合意に至らなかった場合だけですが、橋本先生と浦添先生、そして先方担当者の人間関係を考えれば、大丈夫ではないかと感じています」

言葉をオブラートで包んだが、弓削田は、大丈夫だと確信を持っていた。

橋本も、弓削田の考えは、我々の話し合いを聞いていたのか?と、錯覚する位、腑に落ちていた。

「弓削田さん、実は、私達も、そう云った形で進めようと考えていた処です。ですから急に」

橋本は吉野を振り返らずに話した。

「この会談がセッティングされて、実は、計画のロスタイムって、考えていたんです。」

「ごめん」

橋本は吉野を向いて謝った。

吉野は軽く『ムッと』した顔を向けながら口元が緩んでいた。

「先生の考えなんて、とうに弓削田さんたちは見越していたのよ。私は単なる“きっかけ”でしょ?弓削田さん?」

弓削田は、この()は、大人だと、惚れ直していた。

「いやぁ。吉野先生そんな事はありませんよ」

と云いながら、弓削田は、この娘をもっと絡ませたいと、頭の中の脚本を練り直し始めていた。



(親しく。「テッパンヤキ」)

岩国駅から商店街を吉野が宿泊するホテルに向かい少し行って右折し数百メートルのところにその店はあった。

『テッパンヤキ』エリックはお好み焼きも好きだが、この店の鉄板で焼かれるありとあらゆる物が好みであった。既に彼はここの常連であった。

今日は彼が、PXで仕入れてきたグラスフェッドのアンガスビーフをその店の大将に渡し、焼いてもらう手筈になっていた。勿論、分量は自分達だけでなく、店の大将をはじめ、従業員に行き渡る程度の量を渡してある。

「エリック!サンキュー」

若い板前の店員と彼は、ブロークンな英語でコミュニケートできていた。

「はい生一丁」

着くや否や、彼の目の前には大ジョッキでキリンが置かれていた。

少し離れたテーブルには“予約席”の札があったが、皆が来るまで彼は、鉄板前の彼の指定席で、いつものカープ戦を眺めていた。

アンと橋本も遅れてやってきた。今日は二人とも徒歩できている。という事は橋本のアパートから来たことを意味していた。

「エリック例のモノは大将に渡した?いくらだ?」

「Ohイイよ、今日は私の奢り」

「大将すみません、ワガママ言って」

「いいってことよ、で今日はなんなんだい?」

橋本ではなくアンに向かって大将は尋ねた。大将もアンが、日本語がネイティブな事は既に先刻ご承知である。

「なんだよ大将!」

橋本はムッとした顔を作ったが、意図は、判っていた。

「あたりめえだろぅ、なんでむさいお前達なんかと話をする必要があるんだ!」

周囲の若いモノは、ニヤニヤしていた。

しかし、此処は岩国なのに、この大将は、“江戸っ子“以上にべらんメェである。

彼らも、連れが来るまでエリックと共にテレビが見える、鉄板の前に陣取っていた。

遅れて弓削田、吉野、そして浦添が来た。エリックの大ジョッキは、お通しと共に、既に、空になっていた。

橋本は、アンの呑み掛けのジョッキと自身のを持って、アンは、彼のお通しを持って席に着いた。このことだけで、吉野は、二人の関係性を理解した。

弓削田が、おもむろに

「本日はお忙しい中。取材にご協力いただき有難うございます。」

口火を切った。

「今晩は、吉野先生が岩国を離れる最後の夜なので、懇親会という名で、皆様にお礼をさせて頂き、今後のご協力もお願いしたく、お集まりいただきました。勿論、カメラは入っておりませんので、ざっくばらんに、お話し下さい」

「あ、会計に関しても弊社持ちですので、どうぞご遠慮なく。とはいえこのお店、皆さんのシマの様なので……。」

弓削田のスピーチをアンはエリックに説明していた。

「Oh!そんな事とは知らずに、最高級のビーフを用意して仕舞いました。」

「え?ここお好み焼き屋さんでしょう?」

吉野は、軽くうろたえた。

「そう岩国で一番美味い、下手をすれば、広島の本場より美味いかもしれません。」橋本が付け加えた。

「ただ今回は弓削田さんや吉野先生、そして浦添先生が来るという事で、我々がいつもの使うカウンタでは、話しづらいだろうと、椅子席を選んだので、エリックが気を利かせ過ぎて、本場のステーキを!と用意してくれたみたいなんです。」

「ホウそれは凄い!」

思わず、弓削田が口走った。

「でも会計がめんどくさいなぁ」

続いて口をついた。

「あ!大丈夫、材料費(肉)を抜いた技術料はきっちり取るから!」

横から大将が叫んだ。それで全ては丸く収まった。ただ一人二百gでテンパウンド(約4.5kg)のTボーンステーキ肉を平らげると、後のものが入らなくなる。

いくらサシが少ないアメリカ産とは言え、そこが少しアンは気がかりだった。

しかし大将も人を見て、ちゃんと調理してくれる。しかもエリック達は、既に、ここの常連。と言えるくらい通い詰めていた、だからアンが、まずは野菜から食すること、エリックが、ソバダブルが、標準で、いつも三枚は平らげる事など、嗜好は、全て頭に入っていて、浦添や、吉野が女性で有ることも、ちゃんと計算されていた。

唯、こいつらは、どの程度飲むか?そこだけ、チェックしておけば構わないのである。

お通しのキャベツと共に各々オーダーした飲み物がやってきた。

唯一、烏龍茶の浦添にも、公平に、お通しが付いている。さすが!橋本はつまらないところに感心していた。そもそも、ここは、彼の行きつけだったお店である。が、いつの間にか、米軍御用達、ただし、日本語のみ!英語も、米ドルの支払いも一切拒絶、受け付けなかった。しかし味は『いかつい』米兵をも魅了していた。

まずは、アンの好きなエノキとオニオンがテーブルに、同時に、エリックが死ぬほど好きな枝豆が、通常の三倍の量で、机の上を占拠した。

アンは器用に(弓削田と吉野にはそう見えた)エノキと、オニオンをポン酢ともみじおろしで、平らげていた。

「さあ、火がついた。始めましょう」

アンが、まずは音頭を摂って会話が始まった。


楽しい会話だった、弓削田は、相当、アンや橋本に協力的なのが、言葉が所々分からなくてもエリックには伝わった。

浦添先生は、困惑の表情を浮かべていたが、彼女をポジティブな考えに変えて行ったのは、なんと吉野だった。

要は、吉野が浦添先生の、沖縄の経験に深く聞き入り、同意し、『だから?』と言う観点で、質問を繰り返し、マスコミや、公権力の利用の術や考える方向性を提案し、先生の、頑なな、気持ちを揉み解していく。

吉野と浦添は、最後は二人で、隣同士でヒソヒソと話をする様な感じになって行った。弓削田は、それを聞き漏らしていない様子だったが、一見してニコニコと眺めていた。エリックは、完全に、傍観者として、この様を眺めていた。もちろん言葉の壁もあったし、一番、カウンタに近い脚が自由に動かせる席を取ったことが理由の一番だった。カウンタの大将や若いバイトの子は、エリックと、肉の焼き方や、調味料のチョイスでも、楽しい時間を過ごしている。アンと橋本は二人の世界を、元カノだったはずの吉野やこれだけの関係者がいる中で楽しんでいた。


(イコール)

「KIMIO」

「なんだい?」

アンと橋本は、この会話の中、エリックの推察通り、全く別件で話をし始めていた。実は、こんなものが届いたの?アンの手には一枚のハガキが握られていた。“第三四期同窓会の御案内“。そこには、そう書かれていた。

「三沢の、中学校の同窓会なんだ」

アンは、嬉しそうに恥じらいながらボソッと言った。

「行くの?」

橋本の返事は事務的だった。日付が、自分は絶対に行けない日程であったからかもしれない。

「うん、行きたい?」

アンも、その辺の事情は解っていた、岩国と三沢。どう考えても、東京経由で片道だけで1日掛りの工程である。

流石に日曜日開催とはいえ、翌朝には学校があり、付き合うことは無理だった。

でも、アンが、前、話してくれた蟠り(わだかまり)が無かった、日本での子供時代。その時の、彼女の友人たち、それが、今でも変わらずその関係でいられるのか?

それは、とても興味のあることであった。アンにとってはそれが不安であった。

もう、あの頃の自分では、ない。

しかも今はアメリカの海兵隊士官である自分が、その当時のままで、小中学校時代の友達たちに、昔のママ、受け入れられるのか?それも一人で行くことに気が引けた。

しかも、日本のテレビ、それも全国放送のニュースに自分が出た事で、自分が、此処に居る事が判ったのだろう。

その事で、昔の友人達が、自身に色眼鏡をかけて見るのではないか?と言う一抹の不安材料があった。

弓削田の前には既に、二杯の大ジョッキ四〜五杯のハイボールか?焼酎のカップが、お好み焼きの数枚の皿と共に重ねられていた。

しかしその程度の量で、彼のセンサー類に狂いを生じさせる様なことは“全く“なかった。

エリックは、配膳に忙しく、気がつくのが今だった。

その時、弓削田が声をアンへ発した。

「米軍の国内便で、岩国と三沢は、確か横田経由で結ばれているのではないですか?確か自衛隊は、C1で岩国と宮城(東松島)までは、結ばれていると思ったんですが?」

橋本も浦添も、吉野にも、弓削田の言葉が、なんのことを指しているのかさっぱり意味が理解できなかった。

「大尉は、それをご利用できるのでは?」

そう。それを使えば、三時間以内に三沢に着ける事をアンは知っていた。しかし今回は、あくまでプライベート、できれば、ゆっくり一日かけて駅弁を楽しみながら電車の旅をという気持ちも、アンにはあった。ただ公生は、このスケジュールだと同行できない。

「大尉、橋本先生。宜しければ、当方で、ご準備の手配の労を取らせて頂ければ、但し、取材クルーが同行させて頂く形には、なりますが?」

エリックには、弓削田の言葉の意味は、全く解らなかったが、何か?胡散臭い提案を彼が、大尉たちカップルにしている事は分かった。

「何?どうした、彼は何を言っているの?」

その英語で、浦添も弓削田の方へ振り向いた。

「弓削田さん、エリックが弓削田さんの提案を知りたいそうなんですが、もう一度お聞かせ願えません?」

素面の浦添は、淀みが無く、かつ、あくまでも上品であった。

弓削田は、今回は、胡散臭さを微塵も匂わせず、単に、アンと橋本の小旅行のサジェスト、と云う体で、説明をした。

「Oh!そうだよ。士官なのだからそれくらいの便宜は図れるだろう?ただKIMIOが同行するとなると、ちょいと(大佐への)根回しが必要だけど。撮影クルー付きなら、名目は立つし、大佐のことだからNo Problemだよ」

エリックが酔った勢いで、只、出来るだけシンプルで、ゆっくりとした言い回しで、幕したてた。

流石に、この英語ならば、これは、橋本にも、吉野にも意味は取れた。

弓削田は、浦添にそっと囁いた

「こうやって、米軍や自衛隊の実態を世間に詳らかにすることで、視聴者や、国民の皆さんに、今の自衛隊や在日米軍のありのままの姿を見て、考える判断材料を提供する。これが、今回の隠れた主眼なんです」

浦添は、こくりとうなずき、吉野は、黙って聞き耳を立てて、その会話を把握した。

『そう今の政府は、何でも隠したがるから「忖度」無しに暴くのが“我々の使命”但し、波風は極力立てずに取材しないと。潰され、無視され、無かった事にされるからね。』弓削田は聞こえぬ様に、呟いた。

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