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「オペレーショントモダチ」(その15)

海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)

海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)

高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)

奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)

高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)

海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)

JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)

弓削田・地元テレビ局ディレクター

橘・同カメラクルー

河村校長。

岩本警部


(プロローグ)

(なれそめ)

(東北行)

(アフガニスタン2010)

(沖縄)

(岩国)

(岩国警察署)

(浦添泰子)

(アン・フジムラ)

(震災三日目)

(奴・吉村君子)

(ジョン・シューバッハ)

(イングリッシュ)

(岩国基地)

(県立岩国高校)

(基地内の高校)

(首相)

(岩国2)

(地元放送局の動き)

(新展開)

(霞が関・中央の思惑)

(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)

(政治)

(ステディー)

(なし崩し)

(政治2)

(気づき)

(霞が関2)

(気づき2・続き)…その15

(岩国3)

(気づき3・続き)

(地元放送局3)…その15


(思惑)

(枷)

(展開)

(親しく。「テッパンヤキ」)

(イコール)

(三沢へ)

(両親)

(プラクティス)

(プロム)

(反響)

(Differences)

(プラグマティスト達)

(エフェクト)

(良い結果)

(逡巡)

(フィクサー)

(政権)

(エピローグ)

(気づき2・続き)

会議室を覆う暫しの沈黙を破ったのは、岩本の言葉だった。

「センセイ、三権が分立していないとはどういう意味じゃ?」

この件は、近頃、中央から下々の警察に回ってきた、取り調べ時の可視化と、自白の強要に繋がる行為の注意の問題にも絡み岩本は、ついに反応した。

浦添は意外だったし、逐次訳をしていた婦警には難しい言い回しを使い過ぎたのかとも考えたが、岩本の本意を図りかねたので、一般事例を挙げて説明をすることにした。

しかも日本語で、エリックは、その間暫し考える余裕が持てた。

「立法、司法、行政の三権は、お互い、チェックアンドバランスの関係になければならないというのが民主主義の根幹です」

「ですが、沖縄やココ岩国の御殿山に於ける、住民の反基地の闘争や様々な問題は、外交当局である“国”霞が関の行政府、そのボスである立法府“国会や県議会、市議会”、の構成員である議員の結託により住民の意思は反故にされ続けていることは、既にご存知だと思います。私達も図らず、も、その素晴らしい設備を体験させて頂きました。」

「その手の(たぐい)の(米軍絡みの)司法判断は、あくまで立法府、いや政府の判断を追認する結果しか、今までは出てきては“いません”。そこに司法府の独自の判断や、住民や弱者の側にたった公平で公正な判断ジャッジメントは一例もなされていません。そう。それは司法、最高裁までもが、行政に忖度して、何時も、判断(態度)を明確にする拒否してきた。と考える他、有りません」

「そして、政府、いや行政は、私達に、僅かなお金や、恩恵をばら撒く事で、安易な解決に。私達は、晒され続けていると思います。」

此の岩国署の豪華設備がまさにそうであった。

「地方自治、自治警察と、建前上はなっていても、実態は、中央の立法府や国家行政権力の側に必ず立ち、いや中央の権力自身であって、弱者や地元の側に立つ事を一切して来ませんでした。それが、近代日本の歴史です。行政が、公正な手順で選ばれた、立法委員の考えによる法律で制御され、司法機関が、公平な立場で、王権や、行政の権力行使に制限を求めて行ったイギリス、フランス、アメリカの様に或種、権力に立ち向い、制限をかけてきた、歴史がない。行政と立法機関が、王様や独裁者と同様に権力の代理人で有り、権威権力の執行機関であり続け、司法はその横暴を法的に追認する為だけの機関に成り下がっているのが、日本の歴史的伝統であり、今も、現実なんです」

もうこうなると、左翼学生のアジテーターの様になってきている、岩本は感じた。

そして自分の懸念は、的外れであることを確信した。

「では先生は、その中で反旗を翻していると云う訳かい?」

浦添は、思わず熱く語った言葉を反省していた。

恩師である河村にいつも戒められている。

「すみませんいつも校長先生に言われている悪い癖がつい……。」

「そうじゃね」

岩本は優しい口調で諭す様に言い始めた。

「忖度せい!とは言わんが、お互いの立場っちぃうものがあるじゃろう。そこは考えんと。」

「まずは、立場を考えて、受け入れられる点を探す努力をせにゃあかんよ」

岩本は、敢えて、浦添の政治的なスタンスを完全に無視した応えをした。

「せっかく知り合ってお互いの良いところを理解しあった仲なんだから、自ら壊す様な態度は、あかんだろう」

そう。彼女の立場を絶対に壊してはいけない。

岩本も、大学時代に其の様な思想に共鳴した時期をうっすらと思い起こしていた。

「ジャンヌダルクの話は、ここでは的外れじゃ」

浦添は、岩本のジョークの意味が暫し理解できなかった。

が、場の雰囲気だけは、緩やかなものに変わって行った。

「で問題は基地の高校生と岩高の生徒のダンスパーティーをどうするかってことなのか?」

「いやそれだけではないんですが」

「軍曹に、このやりとりを説明させてください」

しかし、既に、気の利いている婦警が、浦添の政治的スタンスを全て省略して、かいつまんで説明を終えていた。

「イワモトさん。そうなんです。」

エリックは『我が意を得たり』と感じた。

勿論、米軍の存在が抱える問題点はあるが、今は、橋本の授業を推進し、生徒達に、体育授業の中のダンスのカリキュラムに興味を抱くために、此の様(日本と、米国の普通の生活が、身近にある)な、環境にある高校生達に、ダンスパーティーという形で(内気な日本人高校生に)受験には、何の関係もない、ダンスという授業に興味を持ってもらおう。

その具体的なタクティクスを決めるために我々が指名された。と云う事を浦添に理解し、協力してもらう事が、ミッションの根幹なのだ。

「ほしたら、地域警察として青少年の健全な育成の為に、協力出来る事もあろうってもんじゃ」

ギャラリーの警察職員は次々と頷き、何かを話したい衝動に駆られて行った。

「まずは、お互いの三年生同士をどう云った形で会わせるのが、良いか?なんです。そこはキミオも苦慮しています」

「というと?」

此の言葉の意味は、訳される前にエリックは、意味が取れた。

「はい、あざとい形や、授業だから強制的に会って、一緒に無理やり授業をするという形は取りたくない。と言うのが私達の考え方です。プロムとは、本来そう言うものです」

「ですから最終的にプロムという形にいかなくても、まずは時間をかけてお互いの高校生が友人関係になってくれる様に材料や環境を与える。その材料に此のダンスの授業をしたいと言うのが、私達の考え方です」

「ほう、先生、此の軍曹の考え方のどこに?あんたが疑っている様な懸念があるんじゃ?」

「ワシャ分からんぞ?」

岩本が話した先々にギャラリーの警察職員も肯き同意を示した。

その様な中、橋本はアンを伴って、やって来た。

誰かが、此の事を彼〈達)に教えたに違いない…でなければ、アンも、ここに同伴されている事は、なかった。とエリックは思った。

そこは、ぱっと見、浦添対エリックと警察官という構図になっていた。

顔見知りの巡査は、ひとしきり今までの経緯を橋本とアンに話していた。

頷きながら言葉を発したのは、アンであった。彼女は、空いている浦添の隣に座った。

「先生」

流暢な日本語であった。

「私は、先生から心からご納得を得るまで、此の話を進めようとは思いません」

明らかに周囲の予想を裏切る発言であった。

「公生とも二人でよく此の事は話し合ったんです。ですから、公生も私と同じ意見です」

「おいおい橋本くん。そうなんか?」

岩本は周囲を代表して尋ねた。橋本は軽くうなずいた。

一部の婦警や感の良い署員も、“ハァン”とニヤつく顔をアンは見逃さなかった。

少し恥ずかしさが、こみ上げていた。

「ただ、先生にはエイリアンをエイリアンの儘で放置する事には、反対だという信念があると思いました」

エイリアンの発音はネイティブ(英語)であった。

「同じ街で、同じ年頃の、アメリカ人と、日本人の青少年が簡単に知り合い、もしかして、友人関係になれるチャンスのある地方は、此の場所と三沢そして沖縄に位の、極僅かの場所にしか、日本にはありません」

「そうなんです先生!」

橋本が割って入った。彼はエリックの横の席にちゃっかり座っていた。

「留学もせず、お互いを学ぶチャンスは、しかも、かなり上の方の方も認めて、むしろ、協力してくれる環境で、(この機会は)逃すべきではないと思うのです。チャンスの神様には後ろ髪がないって諺もありますし。」

浦添は暫し、黙り込んだ。

「違うの!公生」

アンの声は、恥ずかしさもあり、か弱くしか、橋本の言葉を遮る事は出来なかった。

「先生が体験した沖縄での出来事、それを風化させない意味でも、社会科の授業の一環として、お互いの生徒が、此の沖縄の事件を話し合う処から始めるのが、ベストだとアンとも話し合っていたのです。」

「当然向こうは英語、こちらは、日本語が母国語ですから、英語の授業の一環にもなります」

「先ずは、顔を合わせて話をする、知り合いから、友人になれる環境を私たち教師、大人が彼らの前に用意するって処から始めませんか?」

突如アンは、意を決した様に、浦添の耳元でポツポツと話しを始めた。

「先生には前話したことがあると思いますが、私は三歳位から中学を卒業するまでの十二年間くらい…日本で暮らしていました。そう幼友達は皆、三沢の地元の通っていた小学生、日本人だけ、でした」

「母が地元で、英語のボランティア教師だった、関係もありますが、私は幼い時、私のアイディンディティー、そうアメリカ人で、色も浅黒く、毛質が少し、皆と違ったことで、差別を受けた経験がありません。」

「私がそれを強く感じ始めたのは、帰国してから、その学校には、私の様な黒人だけではなく、白人、しかもプロテスタントとカトリック、ユダヤ、そして同じ白人でもイラン系のイスラムもアラブ系のイスラムやキリスト教徒の人も居ました。幼い時に、そのような環境にいなかった私は、そこで自分のアイデンティティーは何か、旗幟を明確にする事を求められました。そう、アフリカ系アメリカンでプロテスタントであるという事です」

「時として、それは、其の様な態度を求められるのが、ネガティブな感じもしました」

「だから、必ず、ことある毎に、ポジティブにidentityを自己主張しなければ、ならない社会がアメリカです。少なくとも、私が知る限りにおいて」

「大変です。大変でした。」

アンはしみじみ話した。

「こっちに戻ってくると、そして公生や三沢の友達、基地の職員の日本人といると、実は、とても楽なんです、其の様な事を全く考えなくて、感じなくて、良いから」

「私は私でいられる、同じ人として、説明なしで」

「公生が、それを気づかせてくれました本当に感謝しています」

周囲(岩本をはじめとする警察職員)は皆、流石に、ここに至って“浦添”も、アンと橋本の関係がステディーな関係にあることは理解した。

「あ!私何を言いたいんだろう?」

アンは、まさに年頃のシャイな日本女性と同じ感覚で恥ずかしさを覚えた。

「良いよ、アンそれで」

橋本は、手を差し伸べて、そっと呟いた。

周囲はニヤついているのをアンは見落とさなかった『少し恥ずかしい』という気持ちも湧いてきたが、促される様に話を続けた。

「そう?私は公生…ハシモト先生と、先生が来なくなってからは、いつも其の様な話をしていました、彼は、私が其の様な話をすると、其の様なことはない。日本にも、韓国系日本人や中国系の人を差別する団体があって、教師仲間でも教科書の記述内容が、其の様な、選別を明確化する方向に進んでいる事が、話題になる。私は知らなかった。ここでは、教師が、テキストブックを自由に選べない事を!だから、厳として“差別”は、“ある”と彼は、言いますが、私は、余り、それを肌で感じたことは、幼い時には、ありませんでした、三沢の様な、田舎では、そしてここ岩国でも」

「ですから、先生の沖縄の話を聞かされた時とてもショックでした」

「みんな其の様な気持ちを隠して生きているのかと思うと」

訳を聞きながらエリックは驚き、再び感心していたが、訳をしている婦警の目には涙が溜まっていた。

ギャラリーの中には騒ぎを嗅ぎつけてこのやりとりを拝聴しているメディア関係者がいた。彼は、この遣り取りの、ほぼ全てをICレコーダーに納めていた。


(地元放送局2)

弓削田は、ノイズリダクションシステムにかけた、其の音源をニヤニヤしながら聞いていた。

ただ、ウチ主導でやると、あまりにもヤラセっぽく。かと言って、彼らに任せていたのでは、この夏に収録する事は無理な様に感じていた。

「ここは一丁、“上”にお出まし願うか」

あくまで彼の考えでは、上は、使うモノ。

其の為に高い給料を働かずに貰っている。と云う信念があった。

使い倒してなんぼの存在なのである。美味い飯を食らわせてやるのも、根回しで、火の粉が、こちらにかからない為の投資。である。

『使える権限や指揮権は使い倒してやる。』

早速、考えを平板に纏め、わかり易く簡単にレジュメを作る。これが肝である。

自分ならこの様な文章を持ってきた下のモンがいたなら、怒鳴り散らして、何度でも書き直しを命じるが、彼には、これが良いのである。

一を聞いて百を知る(知った気にさせる)お方。

それが我が上司である。知らぬが仏とも言うが、結果が、全て良ければOK、やばい時は、シラを切り通せる報告を『可』としているのは、彼の最大の美徳であった。

彼ら種族にとって、我々は、何かあれば、切れる“蜥蜴の尻尾”であれば、彼ら種族は安心なのだ。役員室の秘書課へアポをとった。


対岸とは言え船で松山から柳生(やない)経由で四時間弱も掛かるので、行くこともないだろうと公子は考えていた。ただ4月からの赴任を前に、其の高校が県内では有数の私立進学校であった。自分も宮城県の公立から東京の名の通った私立大学に進学した。とは言え、所詮フィジカルエリート校である。まして、教育実習以来、久々。

インストラクターはしていたが、大人相手、中途半端な歳頃の生徒を相手に“教壇”に立つ。不安がないと言えば嘘になる。

しかし、瀬戸内の魚は東北の魚にはない、旨さとバリエーションがあり、引っ越してまだ数週間だと言うのに、しっかりこちらの味が好きになっていた。

さらに待遇も天の一声のおかげもあって、悪くはない。この切っ掛けを作ってくれた人には感謝の念があった。

そんな中の一人、弓削田からの電話依頼に、断る理由などはなかった。

正直、彼は山口の公立エリート高校の教師を既に十年近く経験している。

同科目の先輩…話を聞くことが自分のマイナスになる事はない…という確信もあった。近所の警察で、事が大きく変わる話し合いが進んでいることなど、全く気づかないまま、君子の乗った電車は、岩国駅に到着した。


(岩国3)

岩本は此の米国海兵隊将校、いやアン.フジムラ大尉、其の奥ゆかしい態度に、今迄には無い非常な好感を持った。

“橋本には、勿体無いお嬢さんだ”其の感覚は、まさに父親のそれであった。

故に、彼女の試みを何としてもバックアップするには、どうすれば良いかという考えに至っていた。

「先生。ここは如何じゃろう。ワシの顔を立てて、両校の生徒さんたちに間違いが起こらん形で交流を促進させる方向で、事を進めんかのぅ?」

いきなりの提案で面食らったが、アンの言葉や、軍曹の姿勢は浦添の蟠り(わだかまり)を押さえつけていた。

「そうですよ」

エリックの通訳を務めていた、彼女の弟子でもある婦警は、周囲に聞こえる形で賛同の意を示した。と同時に

「先生。私達も」

「微力ながら」

という声が会議室に交差した。意味は解らないが、エリックは前向きな空気を感じない訳はなかった。

「具体的には?」

其の雰囲気に押される様に、浦添は、声を発した。

待ってました!とばかりにエリックと橋本が発言を求めた。

こうなると仕切り役は岩本になる。

「ううん。じゃ先生から」

橋本が指された。

「sorry」

とエリックにニヤッと一瞥して、今迄、アンとの間で、話していた橋本が、具体的な手順を語り始めた、勿論、アンはそれをエリックに訳していた。


周囲は暗く、予め弓削田が予約していた駅近くのホテルに、今晩は投宿した。

部屋に入ると、早速ショートメールで、弓削田に到着を知らせた。

近所のコンビニで適当な夕食を仕込んできたところで、弓削田からの連絡が入っていた。

明日十時ピックアップ昼頃岩国高校に橋本を弓削田とともに訪ねる、アポは既に校長先生を通してしてある。との短い連絡がそこには書いて合った。

あらかじめスーツケースには訪問用のダークスーツと黒い磨かれたパンプスが仕込んであった。

夕食とシャワーを済ませ姿見に着替えを身につけた自身を写して確認をした。

そこには、一見して渋谷で会っていた頃の私と見間違えるほど、学校教師然とした、吉村君子が写っていた。


橋本は、近頃は、もっぱら自分のアパートではなく、アンのレジデンスに居た。

彼女も橋本のアパートに行く事は、まだ憚られたし、実際、ヒルズのゲートの看守は、アンに連絡する事もなく、所謂、顔パスで、橋本を通すようになっていた。

それに、ここは二人には十分の広さがあった。

夕方の話し合いで、大まかな方向性と警察の全面的バックアップを取り付けたので、学校特に副校長(教頭)及び親御さんやOBや地域に対する対策は万全と思えた。

問題は生徒、特に、受験を控えた日本側の生徒を浮つかせず、話をもっていく算段だけである。

ここは、浦添とエリックと、よくよく日を改めて叩き台を作り、両校、特に岩国高校の教師をどう上手く使いこなすか?が最も重要な点になってくる。

しかし其の前に、自身のダンスのスキルが、教師たるレベルにいることが重要であった。

「アン」

「なに?」

アンは、話し合いから帰ってきて、自分がアメリカ海兵隊の将校であることを意識せず居ても良い場所が、そこで、再び戻ってきた事が嬉しかった。

同世代の婦人警官と、お茶をしながら、おしゃべりを楽しみ、帰り際にハグをして、公生と共に軽く夕食をとっての帰り道、そこには三沢の中学生時代の時と同じ自分がいた。

それが思い返されて幸せな気分であった。

だから公生。橋本に呼びかけられた時、なにと言いながら彼に飛びついている自分がいた。

次に彼女たちと会う時は、私服にしよう!買い物に行かなくては!しかも、それは基地の中ではなく。

どんな服が今の日本の流行なのだろう?其の様なことを考えられ、考えている自分がとても嬉しかった。

「土曜の午後は非番かい?よかったら広島のユニクロにでも行こうか?」

其の言葉を発した公生の口は、既にアンの唇で塞がれていた。

明後日は土曜日、学校は半ドンである。しかも体育教師の授業などは、クラブを受け持っていない限りなかった。自身が受け持つ剣道部は、岩本か警察の連中に事情を話せば、代わってくれるという算段も在った。午前中に、今日警察で話し合った経緯をまとめて、校長と副校長。新教務主任であり三年生の学年主任は浦添だから、それは必要がないだろう。其の様な考えを頭の中でまとめつつ、抱きついているアンの服を愛撫しながら一枚一枚ずつ脱がせていた。

アンは橋本をソファーに押し倒し、彼のTシャツは、すっかり剥ぎ取っていた。

ガレージには、司令官の置いて行ったままの車が、未だに、ちゃっかり止まっていた。


河村は弓削田からの電話を切り、其の思惑を計りかねていた。

確かに急だが、確かに明日ならば急でも対応ができる。

ましてや、地元放送局幹部からの、上からの、ご意向である旨を聞かされた上での、電話依頼。

具体的な部分で弓削田が引き取り説明をしたが、こちらの事情は筒抜けに近い形で知られており、其の内容たるや、彼が絵を描いたに違いのない、そつのなさであった。

此の電話の前に昨日、警察の会議室であった顛末は、昨晩立ち寄った浦添と岩本から、彼女と岩本それぞれのバイアスがかかっていたとは言え、あらかたは聞いていた。

とにかく彼女が、事を進める方向で頭を位切り替えてくれたのは良い事であった。が、そこに此の話。

下手に波風を立てなければ良いが。と云う懸念は残るが、相談相手である上からのご意向を傘にきせられて、断るのは、なにかと差し障りが出よう。此の事、いや彼女がどの様な存在かを知っているのは、校内では浦添と橋本だけのはず、ただ副校長の耳に入れないわけには行かない。

とりあえず聞いた内容をそのまま、担当者達には伝えよう。河村は校長室を出て職員室を見回した。

「浦添教務主任と橋本くん、あ!それに副校長も校長室にちょっときてくれるかな?」

その他の教師は、単にペリー高校とのダンスの打ち合わせと思って、頭も持ち上げない。

勿論呼ばれた三人もそのつもりであったので、そそくさと関係資料をただ橋本は、まだレジュメを書きかけだったのでラップトップごと持って校長室へいそいそと出向いた。

「いや、お忙しいところをお呼び立てして申し訳ない」

「校長先生例のダンス授業を兼ねた基地内のアメリカの高校生との交流の件ですか?」まずは副校長が口火を切った。

「うん、まぁそんなところだが、それだけではない。」

一同は『エ』という怪訝な顔になった。副校長は

「何か別件ですか?」

「いや別件というわけではないのだが」

「と言うと?」

「うん、君は知らんと思うが、橋本先生がらみでな、インタビューと言うか取材の申し込みがあってね」

「え?」

今度は橋本が驚いた表情を見せた。

「いや、君が東京で特訓を受けたインストラクターの彼女…なんと言ったかな…名前吉村さん、そう、吉村君子さんが愛媛県の私立●●高校で体育教師として採用されたんだが、橋本先生はご存知かな?…で今度、いや具体的に言うと明日の午後、本校に挨拶を兼ねて、今度は逆に、体育教師として君に指導を仰ぎたいと言う事なんだそうだが、そこに例のテレビ局がついてくって言う話なんだ。」

「何か思い当たる事はあるかね?」

「明日ですか!?」

驚きの声を上げざるを得なかった。

「●●といえば愛媛でNo.1の進学率を県立と争うほどの名門ではないですか?」

副校長の興味は、いつも進学率なのは、世の習いである。

「早急で申し訳ない。私も急すぎると一旦は断りを入れたのだが」

校長は副校長には答えず、驚きの声を上げた橋本に答えた。

「なんでまた?彼女は宮城県の大島というところが実家ですから、日本の端と端。其の様な位置関係のところに、当然単身でしょうから。」

しかし橋本は、全く別の観点から、思い当たる節もなく驚いた表情を見せた。

特に、あの震災のゴタゴタの余波で、マスコミが嗅ぎ回り始めてからは、一切の連絡も取らず、今や、思い出す事も無い、存在だった。

「ご家族とかは…それでは、宮城在住なのかい?」

ここで副校長は、また異なる角度から、突っ込んだ質問をしてきた。

「よくは知りませんが、病気持ちは…お婆様が、宮城の島に居ると聞いています。だから、どう言った経緯で、本州の端から、四国の端の学校へ赴任することになったのか?・・・彼女は、学校教師の資格はあるのでしょうけれど?その様な事を聞いた事もありませんでしたし、実際(教員免許が)あったとしても、高校の教師をした経験は、ないと思います」

「な・何かのコネがあるわけでもないでしょうし」

橋本の言葉尻に多少の不安が気取られた。

「そうか?ただテレビの取材が絡むという事は何か上の方の力学がかかっている結果かもしれんな」

河村は、話が見えたとばかりに、一旦会話を引き取った。

「何か上の方の力学とは具体的に?」

副校長はツッコミ専門である。

「まぁ政治だろうな」

河村には思い当たる節はあった。

「左様ですか、ではこちらも構えておかねばなりませんね!で具体的には?」

「うん、明日午後、対談という形で番組にしたいそうだが、番組の主旨が今一歩分からなくてね。彼らは、若い女性の震災被害者でもある教師が、一本立ちするプロセスのドキュメント。とは言っているんだが」

「相当、胡散臭いですね!」

副校長の声のトーンは確実に落ちた。

「我が校と基地の学校とが仕掛けている合同授業、に関係はありそうな気は十分しますが。確か同じ人間でしょう?前の橋本先生の件と?」

「あ!此の放送局は確かリベラル系の局だったから何かあるのでしょうか?」

「うんインタビューが始まる前に、ディレクターには其の部分、取材主旨に関しては、はっきりさせておこうと思うんだ」

「そうですね、其のよしなんとかさんが、橋本先生にご挨拶というか教科の質問なりで先輩を尋ねてくるだけ、なら話は、また別ですが」

橋本以外の気持ちは、ここにあった、だが橋本は、昨晩アンと買い物に行く約束をした日程と“被る”ことに嫌な思いがあった。彼の中では、吉村君子は、既に過去の女(知人の一人)だった。

会議後アンに連絡を取ろうと考えていたが、携帯がつながらない。仕方がないのでショートメッセージを送っておいた『見ておいてくれよ!』夜、彼女の家に念を押しに行こうと決意した。


アンは基地司令官室に呼ばれていた。基地に入れば“私物”である携帯の電源はOFFにし、クロークに預けなければならない。一応ここは全てがコンフィデンシャルな場所なのだ。

大佐は、軍曹から色々既に情報を得ているらしく、彼女の両親とも面識があり、其の事から、父親代わりも“自認”している。

だから、インタビューをしておこうと、彼女を呼び出したのであった。

君の訓練に関してなんだがね。一応今年後半の希望が出ていたが、それに関して君の方は問題がないかな?そう、彼女はMV(新機種)の資格訓練を申し込んでいる事は、彼女自身、忘れた事はなかった。其の為の、岩国転属であった。ただ、軍曹や、公生との件があり、ステップアッププログラムは、夏休み以降のスケジュールに自動的になっていた。

「もし、もう少し先に伸ばしたい希望があるのならば、(私がここの司令官でいる間に)調整をしなければならない」

そう。シューバッハ大佐は、ネクストキャリアが既に決まっていて、次の会計年度には退官し、自身の出身州の大学で、教授として教鞭を取ることになっていた。それは、此の基地にある学校の、直上の大学でもあったので、何かと便宜が図られ、すべての情報が大佐の元に聚斂されていたのである。

「次にここに赴任してくる司令官(候補)は、元、私の部下だった優秀な奴だから申し送りをしておくし、同様の便宜を図る事も出来る。唯、君とは確か面識は無かった様に思うので。しっかり希望はまとめて近日中にあげておいてくれ」

「以上だ」

大佐も例外なく、質問は受け付けないが、しっかりと短時間で仕事を片たせるタイプの典型的なマリーンである。

だから返答も簡潔に済ませ、さっさと退出しなければならない。

「御高配有難うございます」

帰り際後ろから声が飛んできた

「ああ!車は、当分自由に使ってかまわんぞ!」

最高の上司である。

エリック・モーザー軍曹も、同じ様に次の赴任先、北訓練基地付き訓練下士官としての着任時期に関して9月まで猶予期間が予定されていた。

あと半年で、どこまで橋本から学べるか。

一刻も無駄にはできないが、此のホームワーク=高校生達の交換プログラムを自分なりに練り直す作業は、想像以上に時間を浪費していた。

しかも、橋本以下日本人に理解してもらうためには、翻訳を依頼し、それが出来上がる期間を逆算しなければならない。

沖縄に帰任前にJSGの仲宗根が間を取り持って知り合った英語ができるJMSDFの日本人将校にも相談したい。頭に混乱の嵐が吹き始めた。

此のコンフュージョンをクールに冷やすのは、フィジカルトレーニングが一番である、腕時計を見ればお昼を回った時間帯、今から行けば、橋本が来る前に何人かの機動隊員を相手に一汗が、かけるはずである。エリックは、自転車に跨ってゲートを目指した。


君子は弓削田とロビーで待ち合わせ、今日は、明日の、会談の為の打ち合わせで、岩国の宿から徳山にある支社の入るビルの会議室に向かった。

「ここらか車で三〇分ほどですから」

運転手は橘である。

「〝先生〝と。もう、お呼びした方が良いかな」

弓削田は親しみを込めて茶化すような口ぶりで君子に相対した。

君子にとって、弓削田は、叔父位の年齢である。

彼の言い方は、君子の猜疑心を払拭するには十分の効果はあった。

「あ!そうなんですね」

はにかみながら君子は、自分が教師になる事、生まれて初めての定職、しかも人に誇れる職種を得た嬉しさを噛み締めていた。

「実は、先生の教え子でもある、橋本先生が、ダンスの授業の進め方で、なんて言うかなぁ、そうスタックしている様なんです」

「スタック?」

「あ、すみません、こう車輪は前にグルグル回っているんですが、車は前に進まないスリップ状態と言いますか、」

「ああ」

そう言う事か。

「実は、私どもとしましても、地元の県立進学校が、やはり、地元の基地内の高校と合同で授業を、しかも、文科省肝煎の新しいカリキュラムであるダンスを通しての交流を深める。と言う線で先生が教えた成果を確認しに行く、そして先生は、先輩の同教科の教師にアドバイスをもらう、って〝てい“で取材できれば、おいしいんです。」

「先生もご存知だとは思いますが九五年の沖縄の少女暴行事件や、ヘリコプターの墜落事故、そして今や政権転覆のきっかけにもなった、普天間の移設問題など、駐留米軍を取り巻く環境は、“いい”とは言えませんでした。ただ先生も経験された先の震災での米軍特に海兵隊の作戦は、其の様なアメリカ海兵隊や日本の自衛隊に対する見方を180度変えた、少なくとも本土では、と思います。そこにきて、其の流れで、此のダンスによる高校生同士の、しかも基地内との交流というのは、正直“上”のお覚えもよく、また我々にとっても非常に面白いオブジェクトなんです」

「しかも先生は、震災の被害者でもあられたし、(此のカリキュラムの)当事者とも関係がお有りであった。もう絵に描いた様なディティールをお持ちになられています」

「先生には、橋本先生に、お話を伺う中で、彼の背中をもう一歩押し出して頂ける様な話ができれば更に良いと考えているんです」

弓削田は、車内ということも忘れて、気が急いた様に、一気に主旨を捲し立てた。

「ご理解頂けますでしょうか?」

君子にとって、それは想定外だが、充分受け入れ可能な提案で、あった。もっと、素っ頓狂で、テレビ的な(遠距離恋愛やメロドラマの様な筋書き)事を依頼されるのでは無いか?自身を面白おかしく捉えられた絵が出来るのでは無いかと、着いてから急に恐ろしくなって、宿の中で、時には落ち込み、深い反省をしていたのが実情であった。それは杞憂に終わった。全く常識的な依頼であった。彼女の中で、橋本は、すでにワンノブゼムになっていた。

ただそうなると自身の頭で、どう持っていくべきか構想が湧かない。

その思案と不安を弓削田は、十分彼女の表情から“キャッチ”していた。こちらのリードさえ間違えなければ面白い絵が撮れる、彼女は、もう弓削田の中では、女優マリオネットなのだ。

1日ある。此の間にしっかり、此方の用意した台本を大筋で覚えて貰えば良い。そのための拉致でもあった。

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