「オペレーショントモダチ」(その14)
海兵隊員(女性黒人・アン・フジムラ中尉)
海兵隊員(白人男性・エリック・モーザー軍曹)
高校体育教師(30代後半・東京出身・橋本公生)
奴・吉村君子(28・気仙沼出身・スポーツジムインストラクターのバイト)
高校英語科三年生担当教務主任教師(女性三十代・沖縄出身・浦添泰子)
海兵隊将校(白人・フィル・シューバッハ中佐)
JSG・Japanese security guard(仲宗根(日本人警備隊長・男性・四十代後半・沖縄出身・)
弓削田・地元テレビ局ディレクター
橘・同カメラクルー
河村校長。
岩本警部
(プロローグ)
(なれそめ)
(東北行)
(アフガニスタン2010)
(沖縄)
(岩国)
(岩国警察署)
(浦添泰子)
(アン・フジムラ)
(震災三日目)
(奴・吉村君子)
(ジョン・シューバッハ)
(イングリッシュ)
(岩国基地)
(県立岩国高校)
(基地内の高校)
(首相)
(岩国2)
(地元放送局の動き)
(新展開)
(霞が関・中央の思惑)
(岩国基地にて2・愛宕ヒルズ)
(政治)
(ステディー)
(なし崩し)
(政治2)
(気づき)…その14
(霞が関2)…その14
(気づき2・続き)
(岩国3)
(気づき3・続き)
(地元放送局3)
(思惑)
(枷)
(展開)
(親しく。「テッパンヤキ」)
(イコール)
(三沢へ)
(両親)
(プラクティス)
(プロム)
(反響)
(Differences)
(プラグマティスト達)
(エフェクト)
(良い結果)
(逡巡)
(フィクサー)
(政権)
(エピローグ)
(気づき)
岩国署内、既に何人かの職員とは顔見知りになっていて、道場に、エリックは自由に入れるようになっていた。
しかも岩本警部や橋本のおかげで専用のロッカーと少し短めだが、真新しい道着が用意されていた。どれくらいの期間ここで稽古を積めるかは、軍次第だが、少なくとも基地司令官の許可を得て定期的いや定期ではない、時間と暇さえ見つければ、昼夜を問わず、ほぼ毎日通っていた。
稽古相手は、時に橋本であり時に、県警機動隊や署内の猛者の教えをお互いが片言の英語、片言の日本語を通して請うていた。
署内の警察官にとっては、実践的な英語と逮捕術の向上の為の稽古の時間であり、エリックには剣道の本質を探究する唯一無二の機会であった。
また夕方の時間帯に出会える地元の少年たちと、わだかまりなく交流できるようになっていくプロセスは、まさにこれからのダンスレッスンのためのプラクティス以外の何者でもなく思えた。
最初は、子どもや少年たちと共にする短調に見えた素振りや足捌きの稽古が、徐々に、いかに考えられた所作であったかを体感できる事は、非常な喜びであった。軽く警棒サイズの竹刀で叩かれた小手で本身サイズの竹刀が手元から落ち、それに気をとられている時に致命的ではないが、決定的な打撃が与えられる。
主に機動隊員だが、警察官同士の稽古は、まさに実践的であった。
また彼のマーシャルアーツに基づく締め技は、警官にとって、浦添のグループから習得している合気道とは違った“気づき”を−決定的打撃を与えた後に必要となる―彼らの逮捕術に与えていた。
ただ此の事に、ここの処、夢中になり、本来のダンス授業に関しては、全くの『おざなり』いや、放置状態であり。
大尉に連絡し、される場合も、道場に来ている橋本経由という有様であった。
ただ、その事で橋本とアンの関係が安定していることは分かったが、浦添を見かける事は此の道場ではできなかった。
彼女は、あれ以来、意識的に自分や橋本を避けているのかもしれないと考えていた。その様な中、あの蟠り(わだかまり)から以来十日ぶりに浦添の顔を道場で見ることができた。
「おはようございます先生」
覚えた手の日本語での挨拶だ。
「Good evening sergeant」
毎度淀みのないクイーンズイングリッシュ、しかしながらそこには笑みはなく、少しばかり距離を置くための礼儀正しさが見て取れた。
「今日は、橋本先生は、ご一緒じゃないの?」
それでも彼女は、挨拶に付け加えてくれた。
「はい今日は私、時間が取れたので」
此の時間―通常は夕方から夜、そしてその後、非番の警官と飲みに行く=時間よりは二時間は早く来ていた。
「あ、そう」
確かに学校に彼は未だ残っていて剣道部の指導中であったことを思い出した。あれ以来、そうもう一週間以上経つが、そう言えば橋本とダンスの件で話をした事はなかった。と思いつつ、何時もの様に生活安全課を中心とする婦警たちを相手に稽古が始まった。ここには流石のエリックも混じる事はできない。
小一時間もすると、汗が全身を濡らし、道場の開放された窓から吹き込む風が心地よくなっていた。
あの一件以来、腕の刺青が日本人お目に晒されない様シャワーには注意している。
道場の子供達や、職員のシャワーが終わってからエリックは、シャワーを浴びる様にしているが、それでも、すでにシャワーを浴び、道場階下の長椅子に腰を下ろしていた、いや橋本を無意識で、いや確実に浦添を待っていたのかもしれない。
この階は、刑事課生活安全課を始めとする主要各課の部屋と取調室そして給湯室の横が、交通課と署長室のある一階まで降りられるエレベーター室になっていた。
二階は建物全体で全ての窓に鉄格子のはまっている部分。即ち留置場と食堂というのが岩国署の作り。だからこの長椅子で待っていれば必ず道場から降りてくる人間に出会えた。
「あら?」
「何か御用?」
浦添の声は、その後にかかる言葉を想像しているかのごとく空々しかった。
「センセイ」
カタコトの日本語から英語に変わって行った。
「センセイが沖縄で経験した事、しかも、それが幼い少女時代だった時から何度も繰り返されていることを、自分も、みんなと付き合うまでは、よく知らなかったし、知ろうとも思わなかった。“ゴメンナサイ”ただこうやって先生や、キミオとの付き合いが深まるに連れて、それでは、いけないと、心から思いました。私は、だから、個人的に岩本さんや、キミオそしてライブラリーにも行って海兵隊と沖縄の関係を一から勉強しました。でも最後は先生の口から当事者の声を冷静に聞き、受け止めなければならいと考えました。その機会をくださいませんか?」
意外であった。その切り口は、浦添の想像を離れていた。
そしてその依頼を断る理由が見つからなかった。
「Why?」
第一声はこれしか浮かばなく口から漏れた。
「私達は、殺人をすることを訓練で学びます。これは悲しいですが、事実です。この過程を経た人間が実践の場でそれを、悲しい事実ですが、繰り返し、経験し、身につけ、息抜きをしに、ここに戻って来ても、電気のスイッチの様に、都合よく効率的に(我々は)気持ちを切り替える事が出来ません」
「休息を取る為に来た場所の文化や、習慣の違いが、その切り替えを遅らせる事もあります。でもこれは言い訳です。人によっては、本国の基地や自宅と言う環境でも、狂う人間もいます。」
「私が初めてキミオに会ったとき、彼は、私の体の自由を奪う事で一時的に時間を作り、若い生徒達が、逃げる時間を作りました」
「殺しはしなかった」
「その様な技術を持ち、鍛錬を積んだ、彼との付き合い、そして、この道場での警察官との付き合いの中で、日本の武道が、殺す手段ではなく、逃げる為に時間を稼ぐ手段である事に驚いています。」
「ここで学ぶ武術は、本質的に我々の技術とは違います」
「相手をとことん追い詰めては、いけないんです。そして技術の前に精神、何があっても動じない、心を鍛える事が必要なことを」
「私は学びました」
それが、沖縄の海兵隊と、なんの関係があるのか?
ただ、彼が本質的に悪い人間ではないことだけは理解できるが。
「私が日本に配属される前、私の親友のジャニスが死んだ時のことを話させてください」
一度聞いている。
「彼女は、可愛かった。いや美しかった。普段アフガンの若い女性は、米兵の前で顔を見せることは滅多にないので、そう感じたのかもしれません。微笑みかけている様にも見えた。」
「しかし、その時に、あの襲撃は、起こったのです。ジャニスは、木っ端微塵に吹き飛ばされました、あの可愛かった少女も、米兵達により同じ運命を辿りました。何故なのだろう?と言う自問自答と共に、同じような顔をした、同じ様な年頃の少女に、沖縄で逢った時の、若い米兵の気持ちも理解できます。私は。」
浦添の表情が怪訝に変わった。
「でも、本当は、そのような状況を生み出す事が、最も悪いのです。」
「その程度の精神力しか若者、兵隊に身につけさせず、送り出す側も悪い」
「其のような憎しみ合いを生まない為に、武力はどうあるべきか、其の前に派遣先に人々との関係性は、どうあるべきか、よく下調べをし、学ばせた上で、派遣先の人、特に、保護が必要な弱い人々に納得してもらう努力を絶やさない様に、我々も、其の意義を十分に認識した上でアメリカは軍隊を派遣しなければなりません。」
『まるで自分は当事者ではない様な言い方だと浦添は感じた』
これは同じ基地にいる日本人JMSDF(海上自衛官)の隊員と話した時に教えてもらったことです。昔WW2の時の米軍は、その様な教育を少なからず受けた者が、士官や、下士官として配属されていました。その様な事実も、私は教えてもらいました」
「何かおかしなことを(私は)言っていませんか?」
「でも、私も含め、海兵隊に入ってくる若者は、其の様な事を考え、学ぶ環境にいない、注意する直属の上官すらおらず。環境も用意されていない。そして知らぬまま、殺すためと、生き残るための訓練だけを受けたらすぐに、前線へ放り込まれているのです、其の様な事実も知って欲しいのです」
「ただ、わたしは知った、そして先生と出会えた、だから」
彼は、少し言葉を詰まらせた
「私はもっと学ばなければなりません。せっかくの機会ですから」
「浦添先生、わたしに教えてください。其の機会をください」
そこに岩本が通りかかった。
「どうしたんじゃ?先生。軍曹と何かあったんか?」
「軍曹。あなたと二人きりで、どこかで話し込む、その様な場所もここにはないわ、それに私は貴方と二人っきりになって話すつもりはないわ」
「why?」
「この様な狭い街で、私の立場で、一見してアメリカ兵、しかも、貴方はもう相当ここでは顔が知れているの」
「何かまずいことや、誤解が、あるのですか?」
「そうね、岩本さん、少し会議室か応接をお借りできませんか?」
「なんじゃ?」
岩本は、いきなり声が掛かり怪訝な表情を見せた
「軍曹が、私と話をしたい。と言うのですが、二人きりと言うのは困りますので、皆さんの見える中でお話をさせて欲しいのです」
浦添は思わずエリックの言葉に肯定的になっている自分の言葉に驚いた。
「話しとな、何じゃ?」
そこで浦添は、かいつまんで十日前のことから、今エリックに言われた言葉を説明した。そこには、岩本以外にも、稽古を終えて着替えてきた婦警が何人かが、聞き耳を立てていた。
途端に、婦警、そして通りかかった警邏や非番で帰り支度の職員達がヒソヒソ話をし始めて、(そうハッキリこの話に)加わってきた。
「そうか、そう言うこったら、わしも参観して構わんかな?エリック?」
婦警の内、ある程度英語ができる一人がエリックに、岩本の提案を通訳した。
ただ、そこには岩本だけを意味する“I”ではなく“we”即ち、私達も、と言う言葉に変換がなされていた。
この問題は、地域課や生活安全課、刑事課や警備課にも関わる、しかも、その前線に立つ婦警達や、警邏の制服署員にとっても、有意義な内容の様に感じられた。
非番の者ならば、意識がある警察官ならば、全員が学び、聴きたい話でもあった。
一階の署長室の上、道場の真下にある、本来は、捜査会議等に使われる講堂は、重大犯罪など、起こりようもない、岩国署にとっては、年末年始の催事以外は、通年で、使われる事の無い、無用の長物でもあった。
しかし、ここは、新設された警察署特有の、階下から伸びる頑丈な業務用エレベーターの前にあり、給湯室や、全署員が座れるほどの椅子テーブルも(横の倉庫に)用意されている。
彼ら署員の動きは、まるでパワーローダーの様に早かった、椅子とテーブル、お茶等の飲み物。そして何故か?茶菓子まで僅か十分足らずの時間で用意された。
「先生。ここでどうじゃ」
「わしらは、そこで座って見学させてもらう」
非番になって私服に着替え終わった、エリックと、仲良くなっていた署員の手には、缶ビールも握られていた。
「これでは、見せ物じゃぁありません?」
浦添の声は、少しひっくり返っていた。
「じゃぁ二人で、そこいらの喫茶店にでも行って、話すんかぁ?」
岩本の声は、完全に浦添の心根を読んでいた『其れはできないし、したくはない』
エリックは、満更でもない様子であり、さっさと(ギャラリーを背にした側)下手の席について手には、紙コップに注がれたコーラーを手にしていた。
勢い、浦添は日の丸と大きなホワイトボードを背にして腰掛けるしかない状態になっていた。彼女には、煎茶が注がれていた。
一口お茶に口をつけ、浦添は、覚悟を決めた様に英語で話を始めた。
「そうね、まずこの、ダンス授業に協力をする、それに、貴方達が関わる事に対して、そもそも、私は気に入らないことをハッキリさせておきたいの」
岩本の横には、英語ができる婦警が、しっかり座って、浦添の英語を要約していた。エリックは、表情を変えず聞いていたが、それを聞いた署員は、その様な話にザワつき、特に岩本は『河村の話とは違う』驚いていた。これは大ごとである。
「そもそも、あなた方のやり方は既成事実を作り、それを前提に、なし崩しに私達に是認させる。そう云ったやり方には、私は経験上断固として反対します」
岩本も訳している婦警も、それが何を意味するか理解できなかった。
「私たち沖縄の人間は古くは薩摩、今の鹿児島、そして日本に、今は米軍、そう基地の提供で、同じ“轍“を踏み続けさせられてきたの。だから、この件だけは、私の判断が、許す限り、私は、個人的に反対し続け、非協力的な態度を取らざるをえないと思います」
浦添の声は確信に変わったトーンになっていた。
訳していた婦警は、暫し訳をする事ができなかった。意味が判らなかった。
「浦添さん、其の気持ちは理解できます。私たち(黒人に)も、同じ様な歴史がありました」
「しかし、貴方はミッションとして上司に、この任務の遂行の依頼を受けたのではありませんか?そして其れを許諾した」
「軍隊ね。そう公務員としては、その通り。ですから、私は、その結果に責任は持ちます。しかし、だからと言って思想信条の自由に、行政命令が優ってはいけないの」
「そうこれは私の思想信条、良心の問題、これに逆らう事を行政が強いる事を私は拒絶する」
浦添はキッパリとしかも事務的な口調で言い放った。
「先生、何か怒っていますか?」
「そうね、怒っているわ。日本では、三権が、分立している様で、していない。それは、貴方も知っている沖縄で、貴方たちの同僚が引き起こした時の、結末(司法判断)からもハッキリしている。」
浦添は少し自身に、怒りがこみ上げてくるのを感じていた。
「特に米軍絡みになると、治外法権や地位協定を盾に、公正な裁判や取り調べ等なく、昔ながらの人権を無視した、強姦と言う、しかも相手は、年端も行かぬ少女の場合は、更に!」
一呼吸を置いた。
「女性の人権いや、弱者への配慮を欠いた、強要に基づく自白のみに、事件の概要を頼り、其れが出来ないとなると、さっさと手を引くから、司法は、判断から逃げて、独立した立場を自ら捨て、行政に忖度した判断しか出来ない。立法府も、行政と立法が共に利権が得られる方向へ、都合の良い方向へ審議や議事、法制を進め。行政府は、必ず何らかの見返りを立法府に与え、自らも、そのおこぼれに預かる。三権共に、人権に基づく利権や、金にならない法整備や交渉や判断はしない。だから権力の命令に逆らうには、己の思想心情に基づいて、抵抗するしかないのよ」
「決死の覚悟でね」
浦添は一気に正確な英語で話した。
訳を聞いて、一瞬岩本の顔は引きつり、訳する婦警の顔は、怒りとも興奮とも取れぬ感情から、赤く染まっていた。
「先生それは違うのではないかな?オーダーに従うか否かは、ギブアンドテイクで、回っていると思うんだ」
「もちろん軍隊にはもっと酷いオーダーがある。まして海兵隊なんて最悪さ」
エリックは浦添の怒りが理解できた。故に冷静に話した。
浦添は困った表情になってきた、彼、軍曹は、本質的に悪い人間ではない事は、分かっている。それ故の表情であった。
「しかし貴方達に拒否権は無くって?拒否すれば、営倉に行って、罪人になり不名誉除隊になって年金や各種優遇は得られないはず。」
貴方方の考え方も、権力側からなのよ!所詮…と、言い放つ事は、堪えた。しかし、
「しかも貴方のお国は、何の権利があって、私達の土地に、勝手に基地を建設しているの?私達の穏やかな生活を無視して・・・もう戦争が終わって七〇年以上も経っているのよ!(いつまで占領軍なの?)」
少し感情的になっていた。
「もし貴方の家の裏庭に他国軍が、あなたの国との条約で、と言う理由で貴方に何の相談もなく、基地を勝手に作り、環境を汚す。そう、他国兵が我が物顔に振る舞っていたら貴方達はどう思う?其の上、貴方達には、何ら抗弁する機会すら、与えられていない。としたら、これが一般的な日本人、いいえ、沖縄の人々の感覚なの。お分かり頂ける?」
周囲の警察官のうち何人かは、うなずいていた。
「その状態をうやむやにさせる行為、その追認としての考え方を押し付けている。としか受け止められない。その様な“考え方”の延長線上にある今回の提案は」
「だからごめんなさい。軍曹。貴方がいくらいい人でも、それとは話が別なのよ」
(霞が関2)
皇居、江戸城を眼下に見える霞ヶ関、その一等地でしかも、防弾防音ガラスに守られている執務室でも、不愉快にはならい程度に低減されては、いても、大型ヘリコプターの存在は認識できた。
間も無く東京に大統領が初来日する。
その態度や姿勢から、リベラルや知識人と言われる階層を発生源とした情報で、彼には世界的な人気が絶大な事が、広く喧伝されていた。
その様な時期に、初めての国賓としての大統領来日は、彼の国、いや彼に、どの程度に、我が国が、扱われているかを思料するには、十分なタイミングであった。
以前官房に在籍していた時の上司である、首相と当時の大統領との関係から鑑みれば、自分が、如何に彼に思われているか?は、明らかであった。ここは、思い切り彼を歓待し良い気持ちで帰さねばならない。
そして少しでも彼にとって『得な』判断をしたと、内外に向けて、自画自賛できる様に仕向けねばならない。しかもこの事は、側近と言われる、同僚議員には、秘匿した形ですることが、最も効果的である。
彼は、携帯電話の操作が煩わしかったが、セキュリティーのかかっているデスク上のパソコンではなく、敢えて、このプライベートの携帯で、且つ、自身の名前が秘匿されたアカウントを使い、河村の指示を仰いでいた。
ただ、どの様な、連絡手段を使用したにせよ、米国のインテリジェンスは、チェックをしているには違いない事は、過去の政権の終わり方から、明らかであった。
ならば、大っぴらに我が意(秘密-サプライズ-にしているのだという意思を)を伝えるならば、この方が良いだろうという判断もある。
またトイレの個室や、考え事をする場に持ち運べる通信手段の便利さは、捨て難かった。
腹を向けて寝る犬を可愛がらない飼い主はいない。
腹を向けている犬は飼い主に全幅の信頼をおいている証である。
我が国は、飼い主に逆らわない事を絶えず示していなければならない。
それはそれで、忸怩たる思いがあったが、しかし現実である。
ただ犬と違い尻尾を振りながら、忍耐強く考え抜くのが人間である。
その様な思いを抱きつつ、河村の考えを引き出す為の質問を打ち続けていた。
南側の窓に見えた眼下に緑色の米国大統領紋章を腹にしたヘリコプターが西側、麻布方面に通り去った。
「皇居の傍を、しかも、こんな低空をワシントンじゃないんだぞ!」
思わず口にしそうになった。
執務室の録音装置にハッキングがかかっている事は、公然の秘密であった。
東京の空は、敗戦後八〇年近くなろうとしているのに、未だ米国の支配下にある。
此れを『由』とする一派が、霞ヶ関には、隠然としている。
日本人に任せればより一層東京の空がおかしくなり荒らされ、利権の対象となる。
まさに北方領土の領海を魚が主食ではないロスケが“実質管理“している事で、オホーツク海の資源管理ができている現状と同じであると。
しかし、その考え方は、彼には全く同意できない論旨の展開であった。




