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ゼロ番の異端

オーリヴェインに留まったガブリエルは、奇妙な街並みに心を奪われる。

彼の手にあるのは――道化師が描かれた“ゼロ番”のカード。

そこで出会った女、イェリザヴェータとの狩りが、運命を揺り動かす始まりとなる。

オーリヴェイン。

光に満ちた異国の街。ガブリエルは、あの不可思議な集会の後、帰ることなくここに留まっていた。


「え……なんで俺はまだここにいるんだ?」

彼は周囲を見渡しながら呟いた。


あの謎めいた部屋で共にいた二十一人を探そうとしたが……

どこにも姿は見えなかった。


「気になるな……あの人たちは、どんなカードを持っているんだろう」

そう言って、ガブリエルは自分の手札を見つめる。


それは道化師の絵が描かれたカード。

一見して価値のない紙切れにしか思えなかった。

だが彼は知らない――それが“0番”のカード、規則に縛られぬ異端の存在であることを。


ガブリエルは街を歩きながら、その光景に息を呑んだ。

尖った耳を持つ人間。角の生えた人間。

物語でしか聞いたことのない種族が、当たり前のようにそこにいた。


「面白いな……ここで死ぬとしても、悪くない」


懐を探ると、金貨の詰まった袋が見つかった。

あの声なき存在から与えられた旅の資金だ。


「わぁ……これだけあれば十分だな」


そう言って彼は一軒の酒場に足を踏み入れた。

ギシ、と扉が軋む音。

次の瞬間、酒場にいた者たち全員の視線がガブリエルへと突き刺さる。


「え……なんで俺を見てるんだ……」

胸がざわつく。


逃げ出そうとしたその時、女の声が響いた。


「ねぇ……そこの君。こっちへ来なさい」


ガブリエルは振り返る。

「……は、はい」


「いいから。こっちよ」


促されるまま、彼は女の前に座った。

周囲の空気は重いが、彼女の笑みはどこか柔らかかった。


「みんな怖そうに見える? でもね、彼らは悪人じゃないのよ」

彼女は笑みを浮かべながら、グラスのビールを口にする。


「私はイェリザヴェータ・ドロフェイ。あなたは?」


「えっと……ガブリエル。ガブリエル・ドウだ」


イェリザヴェータの目がわずかに細められる。

ガブリエル……まさかアウトサイダー?


「ガブリエル。君はここで何をしているの?」


「俺も……よく分からない。ただ、どうすればいいか……」


「そう。なら――冒険は好き?」

彼女は微笑みを深め、静かに言った。

「一緒に森へ狩りに行かない?」


「狩り……? いいかもしれない」


「決まりね。じゃあ装備を整えて、すぐに出発しましょう」


思いがけず親切な人に出会えたと、ガブリエルは少し安堵した。

だが、彼はまだ知らない。イェリザヴェータ・ドロフェイが何者なのかを。


――ヴェッセルたちは互いの顔を知らない。

あの部屋で見えたのは、ただの影だけだったのだから。


二人の歩みは街道を抜け、森へ向かう。

距離は想像以上に長く、ガブリエルは息をついた。


「はぁ……なんでこんなに遠いんだ……」


「近いなんて、一度も言ってないわ」


「じゃあ……馬を借りればよかったんじゃ?」


「歩く方が楽しいでしょ? すぐ慣れるわ」


そう言って彼女は微笑む。

ガブリエルは小さく肩を竦めながら、その後に続いた。


そして森に辿り着いた時、彼の目は大きく見開かれる。

そこは静寂の森ではなかった。

人、人、人――夥しい人波で賑わっていたのだ。


「な、なんだこれ……どうしてこんなに……」


「当然でしょ。二ヶ月後には《タロット・クロニクル》が始まるんだから」


イェリザヴェータの声は冷静だった。

ガブリエルは彼女を見つめる。


【……まさか、彼女もヴェッセルなのか?】


ポケットに忍ばせた“道化師”のカードを握りしめる。

そうだ。

この世界で出会う全ての者が――敵かもしれないのだから。

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