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そのバンギャ、2度目の推し活を満喫する  作者: 碧井ウタ


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18/27

18:世界線

 8月下旬。

 優花は仙台に向かっていた。


 今回の移動は…… 鈍行(どんこう)

 青春18きっぷを使った、電車移動である。


 青春18きっぷとは、JRが春と夏と冬に発売する一日乗り放題の乗車券だ。

 日本全国のJRの普通電車や快速電車が乗り放題になる。もちろん、乗り降りも自由だ。


「青春」とか「18」とか、なんだか若者向けの名前がついているが、何歳でも使える。

 100歳でも、10歳でも、利用OKだ。


 特急電車とか急行電車とかには乗れないので、目的地に着くまでに時間はかかるし、座りすぎて腰も痛くなる。


 それでも、景色を見ながらのんびりと移動するのは楽しい。


 畑が見えたり、川が見えたり、山が見えたり、海が見えたり。

 窓からぼんやりと外を眺めながら、電車に揺られていると「旅してるぞー」という気分になるのだ。

 

 そんな鈍行での移動が、優花は結構好きだったりする。

 何より、バスや新幹線より断然安い。


 この時代の青春18きっぷは、五回分がセットになって、11,500円。

 一回あたりの金額は、2,300円である。


 それで、東京から仙台まで行けてしまう。

 大変、お得である。


 そんなわけで、懐の寂しいバンギャは、青春18きっぷを愛用していたりする。


 スマホが無いので、ネットで乗換を調べることができない。

 そのため、分厚い時刻表を片手に持ちながらの移動だ。荷物は増えるが、電車に揺られながら時刻表をめくって、ルートを考えるのは楽しい。


 電車の本数が少ない路線では、次の電車が来るまでに1時間近く時間が空く……なんてことがザラにある。


 そんな時は、時刻表とにらめっこだ。

 乗り換えがスムーズなルートを探し出してもいいし、あえて一本電車を遅らせて、時間を作ってみてもいい。


 長い待ち時間があれば、できることはいっぱいあるのだ。


 座り疲れた体をほぐしがてら、改札を出て散歩するのも楽しいし、ご当地グルメやソフトクリームを食べたりするのもいい。

 車窓から見えた海や川を見に行ってもいいし、温泉でひとっ風呂浴びるのもいい。


 気分次第で好きなように動ける。それが、青春18きっぷの醍醐味である。




 東京から7時間以上かけて、優花は仙台に到着した。


 電車から降りるなり、彼女はある場所を目指して早足で歩いている。

 そして、目的地に着くなり、目を見開いて足を止めた。


「えっ?」


 そこには優花が大好きな、あの店がない。


 ──うっそー! ずんだシェイクのない、世界線とか……。

 

 しばらく、店のあるはずの場所を見つめ、ぼう然としていた優花。

 往生際が悪く、辺りをうろうろしてみたものの、無いものはやっぱり無い。


 こんな時、切実にスマホが欲しい。

 

 ──ずんだシェイクって、いつ誕生するの???



 優花は、ずんだシェイクが大好きである。

 ずんだシェイク飲みたさに、仙台遠征を決めるほどである。


 仙台に着いて、一杯。

 牛たんを食べてから少しウロウロして、一杯。

 朝、一杯。

 お昼ごはんに牛たんを食べて、帰る前に一杯。


 とにかく、飲めるタイミングがあれば飲む。

 多少、無理してでも飲む。

 そのくらい、好きなのだ。


 ついでに、牛たんも好きである。

 塩もいいが、味噌もいい。


 そんな優花は、お昼ごはんに塩と味噌半分ずつの牛たん定食を食べた。

 おまけに、グラスで一杯だけビールも飲んだ。


「ごちそうさまでした!」

「「「ありがとうございました!」」」


 店を出た優花の顔には、満面の笑顔が浮かんでいる。

 復活! すっかり元気である。


 その日のライブ会場は、仙台MACINA。

 満員御礼。激熱のステージであった。



 ♪ ♪ ♪



 一夜明けて、優花は仙台にいた。

 今回の仙台は2DAYSなのだ。

 もちろん、今夜も参戦である。


 この仙台公演は両日とも、前回の人生では参戦していない。

 優花が過去に戻って、また青薔薇を追うと決めた時から、この仙台だけは何があっても行くと決めていた。



 これは、とある雑誌のインタビュー。


『忘れられないライブはありますか?』


 その質問に、璃桜様はこう答えていた。


『仙台でのライブですね。

 全国ツアーの後半で喉に限界がきているところで、仙台の2DAYSがありました。


 一日目はなんとか声が出たので「これはいける!」と思っていたら、二日目のリハの途中から、全然声が出なくなって……。

 なんとかライブはスタートしたのですが、一曲歌うごとにどんどん声が出なくなっていきました。

 そして、アンコールにはほとんど声が出なくなってしまって、泣くほど悔しかったです。


 でも、声の出ない自分の代わりにメンバーやファンのみんなが一生懸命歌ってくれて、すごく嬉しかったことを覚えています。

 最後には、マイクも持たずに暴れていました(笑)。

 後にも先にも、マイクを置いてステージに立ったのは、あのライブだけです。


 あの日、ステージから見えたみんなの顔は一生忘れられません』



 似たような質問は、いくつもの雑誌で何回もされていた。

 その度に、璃桜様は決まって仙台公演の話をしていた。


 それを読むたびに、何度も思った……なんで、仙台に行かなかったんだろう、と。



 昨日のライブの時。璃桜様の声は少し(かす)れている所はあったものの、普通に出ていた。

 表情やパフォーマンスを見た感じでも、そこまで喉の調子が悪そうには見えなかった。


 インタビューに書かれていたような、二日目がやってくるとはとても信じられない。そのくらい、いつも通りに見えたのだ。


 この仙台が終われば、次のライブまで少し間が空く。


 ──なんとか、今日のライブが無事に終わりますように!


 そんなことを願いながら、優花は仙台MACINAへ向かった。

後半のインタビュー部分は長くて読みにくかったので、『』内ですが、あえて改行などを入れています。

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