2 心理と矛盾
「すべてのものはそれ自身において矛盾している」
ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル
文明の進歩により、私たちの生活は非常に便利になり、欲しい物を簡単に手に入れることができるようになりました。しかし、国や企業が利益を追求し、効率を重視するあまり、人々は細かく管理されるようになりました。その結果、日常的に多くのストレスを感じるようになり、現代は「ストレス社会」と呼ばれるようになっています。
そもそも、なぜ人間はストレスを感じるのでしょうか。ストレスの根源は、一体何なのでしょうか。その答えは、人間の本能から生じる恐怖です。人間は他の動物と同じで、自分の身を守るために恐怖を感じます。そして、その恐怖が怒りや不安、苦しみなどに変わり、それが積み重なって、ストレスになるのです。
人間は未知のものを恐れます。そのため、理解できないものを避けようとします。しかし、世の中には不確かなことばかりで、他人の気持ちや日本の未来、自分の将来もよくわかりません。だからこそ、人々は安心を求めて変わらない何かに頼ろうとします。例えば、家族やお金を大切にするのは、それらがいつまでも変わらない存在だと信じているからです。しかし、実際は全ての物事は常に変わり続けています。「変わり続けること」がこの世界の唯一の変わらないルールなのです。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、その矛盾を受け入れることが重要です。
喜びと苦しみは一見対立する感情ですが、実は繋がっています。喜びが続くだけでは、それが当たり前になってしまい、喜びと感じなくなります。例えば、旅行でハワイに行くと嬉しいですが、ハワイに住み続けるとそれが普通になってしまいます。喜びと苦しみはコインの表と裏のように、切り離せない関係なのです。生と死、自由と束縛、創造と破壊も同様で、対立しているように見えて実は一つの概念の異なる側面なのです。
人間は、苦しみのない喜びや束縛のない自由を求めますが、そんなものは存在しません。人は無意識に都合の悪いことから目を逸らします。誰もが嫌な思いはしたくないのです。しかし、喜びは苦しみがあるからこそ生まれ、自由は束縛があるからこそ存在します。また、死が避けられないから、私たちは生きることができるのです。喜びと苦しみの関係を理解すれば、苦しみもまた必要なものだと分かるでしょう。
一見矛盾していることを受け入れることが、真理に近づく鍵となります。矛盾を受け入れ、その対立を超えることで、人は進歩向上していけるのです。変わることと変わらないこと、生きることと死ぬこと、喜びと苦しみ、それらは実は同じことだといえます。禅問答のようですが、このような矛盾を理解することが、重要になります。
言葉は一つの表現であって、言葉になった時点で、すでに何かが失われています。表現とは、想像したものを固定することであり、その全てを表すことはできないのです。だから、言葉や文字だけでは、真実を完全に理解することはできません。真理は、言葉や矛盾を超えた先にあります。それを理解した上で、遠回りをしながらでも、真理へ少しずつ近づいていきましょう。
