1 前書き
人間は何のために生き、死んだらどこへ行くのでしょうか。争いを繰り返し、地球環境を破壊する人類は悪い存在なのでしょうか。あなたはこれらの問いに対して、自分なりの答えを持っていますか?
文明の発達により、私たちは物質的に豊かになり、便利で快適な生活を送れるようになりました。食事に困ることもなくなり、映画やスポーツなど多くの娯楽が楽しめる社会になりました。しかし、それにも関わらず、ストレスや生きづらさを感じて、うつ病や神経症などに苦しむ人が増えています。これは、物質的な面ばかりに目を向け、精神的な面をおろそかにした結果です。昔は物質的に貧しかった分、精神的な面に注意が向けられており、今よりも心が丈夫だったのです。
明治から昭和の時代の日本には、今では考えられないほど偉大な人物がいました。東洋の古典や哲学を学び、日本のために優れた人材を育てた安岡正篤。心を強くする方法を求めて世界中を旅し、ヨガからヒントを得て独自の理論を作り上げた中村天風。中村天風の師であり、欧米列強のアジア植民地化を防ぐために活動した頭山満。私はこれらの偉人たちの書物を通じて、学校では教わらなかった多くのことを学びました。そして、冒頭の問いに対して自分なりの答えを見つけることができたのです。
目的もなく漠然と生きていると、人は怠けて、自分勝手に生きるようになります。しかし、自分のためではなく、他の何かのために生きるほうが、人生は豊かになります。自分勝手に生きて、物質的に豊かになったとしても、心は満たされません。現代の学校教育では、社会に出てお金を稼ぐ方法は学べますが、人間性を育む本質的な学びは得られません。
本書は、中村天風と安岡正篤の二人の教えを中心に進めますが、特に二つの点を意識して書きました。まず一つ目は、二人が伝えたかったことの核となる部分を、簡単に理解できるようにすることです。古い書物は言葉遣いが現代と違い、難しい言葉も多いため、読みづらいことが多いです。本書がそのような書物との架け橋になれればと思います。もちろん、本書には二人とは関係のない部分も多くあります。また、二人の考えを自分なりに解釈し、発展させた部分や、自分の考えを加えた部分もありますので、興味を持ったら、ぜひ二人の書物を読んでみてください。
二つ目は、若い人が手に取りやすい本にすることです。中村天風や安岡正篤の書籍は、読者の年齢層が高く、若い人があまり読んでいない印象があります。これからの時代を作るのは若い人たちなので、日本の良いところを受け継いでほしいと思います。もちろん、年齢を問わず多くの人に読んでほしいです。
二人の書物には誰もが学ぶべきことが多く書かれていますが、自己啓発や宗教のカテゴリーに入っているため、敬遠されがちです。しかし、昔はキリスト教の人が聖書を読むように、日本人は儒教の経典「論語」を読んでいました。当時は、自分の精神面を成長させる書物を読むことが当然だったのです。失われかけているかつての日本の精神を、現代の日本が取り戻し、それが未来へ繋がることを願います。そして、そのために本書が少しでも役立てばと思います。