第三話 青春少女の午前休み
モモはグズりとすすり泣きをしながら、着替えをしていた。
朝起きた直後のハプニングと、初めて優しい女性に出会ったことにより、顔を涙で崩し、感情を綻ばせていた。
慰めてくれたお姉さんは、この宿の店員さんだそうだ。自分が意識を失っている間、色々と介抱してくれたことを説明してくれた。
お姉さんは、テーブルに朝食を置くと、宿の仕事があるといって部屋を去っていった。そしてまた、あのバーサーカーのおっちゃんはというと、私と気まずい雰囲気なのに加えて、私が服を着替えるという事で外へ散歩に出かけていった。
「うぅ・・・色々な人に迷惑、かけちゃったな。でもそれ以上に嬉しかったな。」
モモは部屋で一人、ボソリと呟く。自分が元々着ていた服は洗濯に出してくれたみたいで、お姉さんが白いワンピースを貸し出してくれた。妹さんのお古らしい。
着替えが終わり、うーんと背伸びをして、モモは手で涙を拭った。
「よし!頑張ろう!」
窓からは、太陽に照らされた街の鱗片が煌めいて見えた。
モモは椅子に腰かけて、少し遅くなった朝食を食べることにした。グランゼンの郷土料理、グライモの蒸かしと大怪鳥の燻製ソーセージ、目玉焼きのワンプレート朝食だ。モモは少し冷めたグライモを口に頬張った。
朝食を終えると、モモはお皿を持って部屋を出た。ここは二階だったらしく奥にあった階段から下へと降りた。石造りの壁は年期が入り、木の床は踏み込むごとに少し心もとない音を鳴らした。
階段を抜けて、宿のロビーに着くと、そこには誰も居なかった。共用らしきキッチンも付属しており、洗い終わった皿が何枚も水切り籠に置いてある。
モモは声を出して店員を探したが不在らしく、朝食は自分が最後に終えたのだろうという事で、自分でお皿の洗い物を済ませた。
皆外に出かけてしまったのかな、そう考えたモモはロビーの広間を暫く歩いた。ここで待った方がいいのかなと考えたが、外への好奇心から玄関の扉を開けた。
宿の外を出ると、大通りとはかけ離れた、古びた商店が並ぶ狭い路地が広がっていた。道の脇には野良犬が歩いている。
先端都市グランゼンにこんな場所があるんだと驚いていると、その犬が近づいてワンと吠えてきた。
なんだ、グランゼンの犬は生意気だな、とモモはシャーと犬に威嚇した。対して犬はどうしたの?という顔で、元気よく再びワンと吠えた。
モモは暫く犬とにらめっこをしたが、途中でモモの傍ら、宿の玄関の横に犬小屋があることに気づく。この犬は、この宿のペットだったのか。
モモが道を譲ると、犬はそこが定位置であったかのように、腹を地面につけて寝転んだ。
モモはやれやれとため息を吐く。
「ワンちゃん、ここの家の子だったのね。びっくりしたじゃない」
モモは納得するとキラリと光らせ、寝転んでいるワンちゃんを撫でた。陽だまりの中ワンちゃんをモフれるなんて、最高に素晴らしい午前休みじゃない。
モモがずっと犬を撫でていると、耐えかねたのか、クウウと鳴いて逃げていってしまった。モモは、暇を持て余しているので、ワンちゃんについていくことにした。
犬は、石畳の路地、木々の生い茂る上り坂、レンガの壁が続く裏道をグングンと進む。
付いていけば宿のお姉さんに会えるのかな。そう思いながら足を運んでいると、急に開けた高台のある場所に出た。高台の一番高い所には簡易的な柵と、大きな木があった。
モモは駆け足で頂上に上り、手すりを掴んで辺りを眺める。そこからは、往々と鋭い牙のような岩石山が伸びるグランゼン渓谷の大パノラマが一望できた。眼下には都市が広がり、それはまるで、黒々とした溶岩の海に浮いた箱舟のようだった。
モモが感嘆の声を上げていると、後ろから再びワンという元気のいい鳴き声が聞こえた。振り返ると、木の下にはワンちゃんが、そして、その隣には座禅を組んだバーサーカーのおっちゃんが居た。
挿絵↓グランゼン渓谷、俯瞰図。イラスト:さらさら様(@sara21222122)
評価・ブックマーク・挿絵の感想など宜しければお願いします!とても励みになります!