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小説の魔女  作者: エリマキ
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第一話 青春少女とバーサーカー

私の名前は「モモ」、ポピーのような可憐な花の16歳よ。そんな私は、国内随一の英才学校に通って、イケメンの彼氏持ちで、素晴らしい青春を過ごしている、はずだったのに…。今は辺境の樹海で、教会のお世話になりながら働いているわ。


こんな田舎臭い時代遅れの町で日銭を稼ぐだけの毎日。私の華々しい青春がこんな所で終わるなんて…そんなの絶対にイヤ。ということで、私は決心したの。1年間なんとか貯めたお金で、先端都市グランゼンに都会デビューをするの!そして素晴らしい青春を謳歌するのよ!


「グランゼン怖いよ…、おうち帰りたいよ…」


空中魔導車が飛び交うグランゼンの中央通り。その路地裏で一人の少女が、外套に身をうずめて座り込んでいた。彼女の透き通ったショートヘアのピンク髪とは裏腹に、フードの下に隠れた猫耳はひしゃげている。


道中の景色は岩石剥き出しで荒廃した土地。街の人々は戦士みたいなゴリゴリな人ばかり。リザードマンの兵士なんてもう見るから怖い。都市部の設備は確かに最先端っぽいけど、空飛ぶ乗り物?魔導列車?箱型の巨大建築?自動人形?もう訳が変わらない。終いには、財布の入ったバックも何処かへ消えてしまった。もう最悪よ。


モモの期待通り、グランゼン中心部は賑わいを見せる近代都市であった。しかし、想像以上の発展ぶりにモモは目を奪われ、財布を入れたバッグを列車に置いてきてしまっていた。


モモはポケットに手を入れて僅かに残った小銭を数える。泊まる宿が無いと、ため息を吐いた。すると、暗い路地裏の中、モモの頭上に更に大きな影が落ちた。


「嬢ちゃん、こんな所で一体何をしているんだ?早く離れた方がいいぞ」


野太い声を聞いて、モモはハッと顔を上げる。見上げるとそこには、重々の鎧を着こんだ巨体の兵士が目の前に立っている。ヘルメットの隙間からは人間のものとは思えない赤い閃光がほとばしっている。


モモはハッとする。この風貌には見覚えがあった。幼少期にお母さんから「夜な夜な一人で出歩くと、赤い眼光をしたバーサーカーに食べられるよ」とよく聞かされていた。これはまさにそのバーサーカー・・・・・・


「いいいっ、いやああああああああああああああ」


甘い言葉で近づくような悪い奴なんてものじゃない、こいつはホントに襲ってくる狂気の怪物だ。にじりと後ずさりをしようとしたが、背後は壁、目の前にはバーサーカー、モモはとっさに羽織っていた外套を前方に放り出し、弾じけたボールのように横に飛び出した。


「おい何するんだ、待て、おーい」


後ろから男の戸惑い声が聞こえたが、モモは全力疾走で距離を離す。ネコ族のスプリング力は伊達じゃない。


変な奴に絡まれるしもうホント最悪。人を避けながら路地を駆け抜ける。行き交う人々に目をやるが、どれも強面の男たちばかりで、頼れそうにない。


路地の曲がり角にさしかかり、モモは後方を確認しようと振り返った所、何かに衝突してしまい、行く手を阻まれた。


「いてて」


モモは横から突如現れた白い障害物に弾かれてしまっていた。


尻もちをついて、目の前を見上げると、その上に同様の大きさをした爬虫類の首が伸びていた。リザードマンの腹にぶつかったのだ。


「シューーー。グランゼン軍兵に道を譲らないとはいい度胸してんなあシューーー」


舌を巻いた独得の籠った声で、リザードマンが堂々と立ち構えていた。


「ご、ごめんなさい、悪気があってぶつかったわけじゃ、、、うぐっ」


目の前にいるリザードマンの手が、モモの首に伸ばされる。モモは尻もちをついた状態で、呆気にとられながら謝罪をしていると、悠々に首根っこから掴まれて持ち上げられた。そしてそのまま路地裏に放り込まれた。



どさりとした鈍い音が辺りに響く。


仲間とみられる兵士もやってきて、後ろから顔を覗かせながら嘲笑を浮かべていた。二度目の悲劇、脱出は絶望的である。私、本当に襲われるみたいだ。


リザードマンが不快な巻き舌を鳴らして近づいてくる。モモは放り飛ばされたまま倒れているが、恐怖でもはや起き上がることすらできない。


「うっ、やめ、、うっっ!!」


リザードマンは倒れたモモの首を再び掴み上げて、顔を観察しながら舌なめずりをする。


「シュルルルーーーオレは優しいからなあ。子猫ちゃんの可愛い耳一つで我慢しようかなあシューーー」


リザードマンは主に魚を主食とするが、種族によっては小動物を丸のみにして捕食するらしい。


リザードマンの口からよだれが溢れ、モモの耳に零れ落ちる。モモは首を強く握られており、息をするのもままならない。足をバタつかせて精一杯の抵抗を見せるが、リザードマンの体が動じることはない。


ああ、誰か助け…。


「うぎゃーーー、ぐえっ」


奥で男の悲鳴と衝撃音が響いた。今にも灯が消えそうな見開いた瞳に、最後の光景が映った。大通りからこちらに走り駆ける、鎧を着た巨体。ヘルメットの隙間からは赤い閃光が放たれ、幻想的な残像を残す。


「嬢ちゃん、なにやってるんだよ。これだから離れろといったのに、よっ」


「シュル、なんだてめええよお、邪魔すんじゃ・・・ぐええええええっっ」


鎧の巨体は速度を緩めず、リザードマン目掛けて突進、猛タックルをした。リザードマンは武器を構える暇もなく、上背の倍の飛距離で虚空を舞い、そのまま地面に伏した。打ちどころが悪かったらしく起き上がる気配がない。


狭い路地は一瞬にして一人の男以外、全員が地面に崩れ、元の閑散とした世界につつまれた。モモも衝突と同時にリザードマンの手から解放され、地面に投げ出されていた。モモは頭を打ちつけたらしく、地面に倒れたまま、意識を沈めた。



オリジナル挿絵↓



挿絵(By みてみん)


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