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7話 フォルシシアと決戦

ミオと夢の中で会ってから三日後、俺はやや緊張しながらも、フォルシシアさんの前に立っていた。


この三日間、毎日ミオと魔法の訓練をしたおかげで、見違えるほど上手く魔法を使えるようになったと思う。

……使い方を思い出した、と言い直す必要があるかもしれないけど。


ともかく、俺はこれまでフォルシシアさんや、アイリスにも新しい魔法を見せていない。

理由は勿論、模擬戦で対応されては困るからだ。


課題が始まってから11日目、俺はこの課題を終わらせて、ヒュアを探しに行く。

そのためには何でもやる気持ちでここにいるのだ。


「準備はいいかしら? いつでも来なさい」


フォルシシアさんはいつもと変わらない。

変わらないのはどうやら意図してそうしているようで、俺が前と同じ動きをすれば前と同じように対応してくる。

つまり、今日までの俺の動きは全て想定の範囲内で、取るに足らなかったということだ。


だから、前までと同じ行動はしない。


「『速度強化(スピードエンハンス)』『筋力強化(パワーエンハンス)』『精神集中(コンセントレーション)』『魔力感受(マジックセンス)』」


強化魔法を発動し終え、剣を軽く構えて前に歩く。


走らないのは、そうする意味がないから。

三歩目の足を地面に置いたとき、フォルシシアさんがたったの一歩で間合いに近付き、刀を構える。


今の俺にはその姿がなんとか見えた。

魔力感受(マジックセンス)』」をミオと鍛えたおかげだ。


ガキン、と甲高い音が響いてフォルシシアさんが横薙ぎに振るおうとした刀が止まる。


俺は『砂の壁(サンドウォール)』を正面ではなくフォルシシアさんの横、刀を構えた位置に置き、刀が威力を持つ前に動きを止めた。

その間に足元に発動した新たな壁で足を蹴って、フォルシシアさん並みの急加速で剣を払う。


剣は当たらない。

刀を止めた『砂の壁(サンドウォール)』を利用し、腕と足で後ろに避けられる。


だけどフォルシシアさんの体勢は崩れた。


もう一度生成した壁を蹴って急加速、フォルシシアさんに肉薄して剣を振り下ろすが、刀に止められた。


「これでも、勝てないのか……!」

「その魔法は知らないわね。まさか、自分で作ったのかしら」


フォルシシアさんの視線は俺が蹴った黄色く透けた壁に向いている。


俺のオリジナル魔法、名付けて『加速壁アクセラレートウォール』。

その壁に触れると、一定の方向に力が加えられる。ただそれだけの魔法だ。

単純だけど、故に応用が効く。


フォルシシアさん並みの急加速ができたのはこの加速壁を蹴ったからだ。


「ええ、正直ここで決めたかったですけどね」

「でしょう、ねっ!」


フォルシシアさんが勢いよく向かってきた。

剣と壁でなんとかいなすが、真正面では部が悪すぎる。

加速壁アクセラレートウォール』を発動して後ろに飛び、『砂の壁(サンドウォール)』で追撃を妨害して逃げ切った。


フォルシシアさんが壁の前で一太刀して、バリン、とガラスのように砕け離散する。


「うっそだろ。範囲広めにはしたけどそんな簡単に割れるのかよ!」

「結構力を込めたわ。その辺の輩になら十分な耐久よ」


本当に魔法を使ってないんだろうな!?


今まで一度も割られたことなかったのに……、まだ手加減されていたのか。


「あなたの手札は切れたみたいだけど、まだ続ける? 魔法を作ったことは認めてあげるし、この課題を合格にしてあげてもいいわよ」

「冗談じゃない。今の俺の目標は課題の合格だけじゃありませんよ」


足元に加速壁を置いて、低姿勢で剣を構えた。


ああ、なんていうか、この人は、

人をその気にさせるのが上手いんだ。


そうだ。この戦いは外の世界に出るためだけじゃない。

俺のプライドがかかっている。


フォルシシアさんに、アイリスに、カナデに、ミオに格好つけたい。そして、



「俺の大切な友達に、カッコ悪いみやげ話をしたくないんでね」


互いに走り出し、距離が詰まる。


勝機は一瞬。

間合いに入った瞬間、フォルシシアさんの手元ギリギリに壁を置く。


壁の設置場所がフォルシシアさんから遠すぎると対応されてしまうし、逆に壁の設置場所が近すぎると魔法が発動しない。


だけど今の俺なら、できる。


ガキン、と壁に当たった刀が大きく弾かれた。


フォルシシアさんが目を見開く。

刀を弾いた壁は透明な黄色。俺が設置したのは加速壁だ。


加速壁が刀を持つ手に無理に力を加え、動きを妨害する。


そのまま俺の振るった剣はフォルシシアさんのベールに届いて……、


……?

斬った感触がない?


妙に軽くなった俺の剣を見ると、根本から先が無くなっていた。


「悪いわね。師匠として、カッコ悪いところを見せられないのよ」


フォルシシアさんの赤い髪がなびく。

その手には2mほどの異常に長く細い、黒紅の刀が握られていた。


フォルシシアさんから(さか)る赤と緑の魔力が見える。

今まで見えなかった魔力が見えたということは、フォルシシアさんが魔法を使ったことに他ならない。


この模擬戦のルールはフォルシシアさんのみ魔法禁止。

つまりフォルシシアさんは俺を認め、課題をクリアしたということだ。


衝撃すら感じずに斬られてしまった剣の断面を見て、俺は苦笑いするしかなかった。


「……フォルシシアさんもなかなかプライド高いですね」

「強くなるには必要なことよ。大人げないと言われるけどね」


模擬戦は終わりだ。


フォルシシアさんは空間に『異空間生成《メイクディメンション》』で穴を開け、刀を投げ入れた。


そうやって仕舞うんだ……。


あの異常に長い刀は有名なフォルシシアさんの愛刀、穿折せんせつだろう。


どんな攻撃も折り、どんな防御も穿つと言われる穿折を持った本気のフォルシシアさんだ。


なんというか、伝説的で絵になるというか、夢を見てる気分というか……。

ちょっと興奮しちゃった。


「やったー! おめでとう!!」

「もう疲れたよ……」


アイリスが駆け寄って褒めてくれた。


アイリスは用事があってもなくても俺のところに度々来てくれたし、この模擬戦もずっと欠かさず見ていてくれた。


この異空間にいる間、アイリスは一番の心の支えだった。

アイリスがいなかったら俺はこの課題を諦めていたかもしれない。


ちょっと挫折したりミオと会ったり、色々あったけど全力を出しきったし、結果も出せた。これで念願の外の世界だ。


俺はこれからヒュアを探して、助け出す。


ヒュアを助けたらいつかベルも連れて、外の世界を観光してみるのもいいかもしれない。


ベルは……今ごろ何をしているだろうか。


フリージアさんに任せたとはいえ、フリージアさんは多忙の身だ。

ベルを一人にしてしまったことが少し、心残りだった。

これにてプロローグ終了!

次話、幕間を挟んで1章開始です。


☆★☆


お読みいただきありがとうございます。


もし少しでも続きが読みたいと思っていただけたら、

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