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6話 過去の喪失

フォルシシアさんの出した最終課題。

フォルシシアさんの不意を突くためには純粋な剣術や魔法ではだめだ。


俺はその方法を探すためにアイリスからある魔法を教えてもらった。


その魔法の名は『魔法全集・一(ソーサリーブック)』。


この魔法を発動すると指定した場所に画面が現れ、セフィロト世界群の情報ネットワークである【アカシックレコード】に繋がる。


【アカシックレコード】にはこの世の全ての情報が集まると言われているが、『魔法全集・一(ソーサリーブック)』では詠唱難度の低い魔法の詳細、特に発動方法について知ることができる。


試しに『砂の壁(サンドウォール)』を調べて見ると、以下のように画面に現れた。


□■□■□


砂の壁(サンドウォール)


【属性】地

【詠唱難度】14

【系統】防御((ウォール)型)

【説明】

位置、範囲を指定し、攻撃を防ぐ壁を作る。(ウォール)型の耐久力は防御魔法の中でもっとも高く、範囲が狭いほど高くなりやすい。

(以下詳細)


【詠唱】

ーーーーーー

(詠唱の具体的な方法)


□■□■□


 この【詠唱】の項目に、魔法の発動に必要な詠唱式や詳しい詠唱方法が書かれている。

詠唱を頭の中で解くパズルだとするなら、詠唱式はそのパズルのピースだ。

理論上は、詠唱式と解法を見ればその魔法を発動させることができるということになる。


俺はこの『魔法全集・一(ソーサリーブック)』を使ってひたすら課題を突破するための魔法を探した。


闇雲ではない。俺の、俺にしかできない戦い方はもう決めた。

後はそれに合う魔法を探せばいい。


俺はしばらく探してとある魔法を見つけ、やがて眠りについた。


☆★☆


目を開ける。

真っ白な、何もない空間。

仰向けになった体を起こす。


全ての感覚がなんとなく鈍い。意識をはっきりさせなければ……これは、なんだ?


「気がついたかい? ボクの名前、分かる?」

「ミオ……いや、ミオって、あれ、何で名前がわかるんだ」


フォルシシアさんより少し幼い雰囲気の女性に話しかけられた。

青藍の色がかかった空色の髪は首元で二つに束ねられており、薔薇色の瞳が印象的に映る。

青色の上に白を重ねたワンピースが幼く見せているのか、俺には計れないくらい力のある精霊であることが、その魔力を感じてようやく分かった。


俺はこの女性に覚えがない。

でも俺はさっき確かに『ミオ』と言ったし、今見ても確かに『ミオ』だ。

もっと言うとこれはあだ名で、彼女の名前は『ミオソティス』、のはずだ。


「よっし、記憶は多分戻ってきた感じだね。ゆっくり思い出して。過去を遡って。君はボクを知っている。前にも、ここで会って、たくさん話をしたよ。

えーっと、今から50年くらい前の、君が自分で閉じこもる前の話さ。」


閉じこもる前、つまりベルとヒュアが救ってくれるより前の記憶を遡る。

俺はあの時ただ何も考えたくなくて、でも死ぬこともできなくて、夢も見ずにずっと眠っていた。

どうしてそんなことになったのか。

閉じこもる直前、俺は何かを頼んだ気がする。そう、空色の髪と薔薇色の目をした女性に。


「俺は……何かに、耐えきれなくなって、ミオに頼んで、あぁ、嫌なことを忘れさせてくれたんだ。俺の心が無くなってしまうのを知ってて、それでも」

「そう、それより前の、嫌なことは思い出そうとしなくていいよ。思い出した君の姿を見るのはボクも辛いんだ」


悲しそうな目をしてミオは俺を見つめる。


「それじゃあ自己紹介をしよう。ボクはミオソティス。『忘却』を司り、君の記憶をこの能力で奪った。君の心を失わせた張本人さ。ボクが許可する。存分に恨みたまえ」


そう自嘲するように言ったミオは、それでも嬉しそうだった。


「いや、ミオがなんと言おうと、俺は感謝してるよ。俺の望み通りにしてくれてありがとう。

あのままだったら俺は眠ることさえできずに、死ぬことを選んでいたかもしれない。でも今は、生きてて良かったって思ってるから。

俺の我が儘に付き合ってくれて、本当に、ありがとう」


俺はミオに記憶を奪われる前、完全に心が壊れていた。

どうして壊れていたのかは覚えていないけど、多分、前の師匠のことだろう。

俺はミオに自分の辛い記憶を消すように頼んで、最初は渋っていたけどずっとずっと頼み続けて、最後は俺の頼みを叶えてくれたんだ。


そして記憶の大部分を無くした俺は生きる理由をも無くして、眠りについた。


今の俺があるのは偶然だ。

偶然ベルとヒュアが俺を見つけて、俺を連れ出してくれなかったら、俺は今でも眠ったままだっただろう。


でもそれは俺が決めてミオに頼んだことだ。感謝こそすれ、恨むなんてとんでもない。


ミオが俺の手に触れる。

俺の存在を感じるように。


「……ありがとう。ボクも、元気な君がまた見れて嬉しいよ。

本題に移ろうか。ここが夢の中なのはわかるかい?」

「分かるよ。なんでミオがここにいるのかは知らないけど、ここが俺の夢の中なのは、分かる」


なんで俺の夢の中にミオがいるのか、どうやって俺とミオは知り合ったのか、すごく気になる。


ミオが記憶を消してくれた時も、そのずっと前から会っていた時も、俺の夢の中だったことは覚えている。

それでもミオが夢の中にいる理由、そしてどうやって知り合ったかも忘れている理由は、きっと『嫌な記憶』に繋がっているからだろう。


『嫌な記憶』に深く関わること全てを忘れることで、俺の心は保たれているらしい。

そんな状態なので、迂闊に質問して『嫌な記憶』を思い出すのは良くない。

なので俺はミオについて質問をすることを躊躇していた。


質問は慎重に、できるだけ過去に触れなくていいように。

でも、せめて俺とミオがどんな関係だったのかは気になるなぁ。


「俺は多分、ミオに呼ばれてここにいるんだよな?」

「うん。正直、君の記憶を思い出させないために、ボクはずっと出てこなくてもいいって思ってたんだけどね。今の君にはボクが必要なんじゃないかと思って勝手に呼んじゃった。

それに、君が将来精霊王を目指すというのなら、君の過去は絶対に乗り越えなければならない障害になる。

だから別にこのまま隠れる必要もないかなって思ったのさ」

「ミオが、必要?」


何のことだろうか。


「君のこれまでのことはよく知ってるよ。フォルの課題をなんとかするために、新しい魔法を覚えようとしている。

でもその魔法はアイリスも知らない魔法だから、独学で学ぶしかない。そう思ってるでしょ?

だから教えてあげるよ。なんてったって、ボクは君の魔法の師匠、『砂の壁(サンドウォール)』とか『砂の矢(サンドアロー)』を教えたのもボクなんだからね!」

「あぁ、そうだったのか。それで教えに来てくれた、と」


俺が魔法を覚えたときの記憶がないのは師匠がミオだったから、ということらしい。


「でも俺のやろうとしてること、多分相当難しいことだと思うけど、大丈夫なのか?」

「にひひっ、まっかせなさーい!

ボクはこれでも上位精霊なんだ。オリジナルの魔法を開発するくらい簡単だよ!」


自信たっぷりに胸を張ってミオは言った。


ミオには俺のやろうとしていることがお見通しだったらしい。

自分だけのオリジナルの魔法で戦う。フォルシシアさんの意表を突くいい案だと思うが、そう簡単に作れるようなものではない。


その点でミオの存在はすごく心強い。

けどなんというか、俺は昔からずっと誰かに助けられ続けてきている気がする。


フリージアさんに、ベルとヒュア、そしてミオと、今ではアイリス、フォルシシアさんにカナデ。


助けて貰ってばかりだけど、俺は何もできていない。

何か、できることがあれば恩を返したい。


ミオはどんなことを望んでいるんだろうか。

というか、ミオは普段何をやっているんだろうか。


「ありがとう。でもミオは忙しくないのか? わざわざ俺の夢の中にまで来てくれるのは嬉しいけど、ミオほどの強い精霊だったら他にやるべきことがいくらでも……」

「こらこら、謙虚すぎるのは君の悪い癖だぞ! 前の君だったらむしろ強引に教えさせるくらいだったのに。

ボクはね、ある出来事がきっかけで君の夢の中から出られないんだ。それでめーっちゃ暇だから、ボクに教えさせて欲しいんだよ。

君もそのほうがいいでしょ? 我慢してるみたいだけど、君ってすっごく寂しがりやだもんねー?」

「はぁ!? 寂しくなんてないし!」


ミオの顔を見るとどうも調子が狂う。

いつもの俺じゃなくて、なんかこう、幼い自分に戻っているような……。


ミオソティスはにひひっ、と口角を上げて悪戯っぽい笑みを浮かべる。


ミオは何らかの理由で俺の夢の中から出られないらしい。

聞くことはできないが、そうなったのはやはり俺のせいなのだろう。


また、やらなくちゃいけないことが増えたな。


「……ミオ、俺は今やらなきゃいけないことが沢山あるけど、いつか絶対ミオをここから連れ出すよ」


そう言うと、ミオは俺のことを、まるで赤子をあやす母親のような慈愛の目で見て、抱き締めた。


「君は昔から色んなことを背負いすぎだね。あんまり無理しないで。心が壊れそうなときは私が抱き締めてあげるよ。

私は別にこのままでもいいと思ってるけど、ありがとう。

君の記憶にいるだけで、ボクは幸せ者だよ」


『記憶にいるだけで』とはどういう意味だろうか。

それだけで幸せ者なんて、そんなわけないじゃないか。


一体俺は……記憶を失くす前の俺はミオにとってどんな存在だったのだろうか。

俺はミオに抱き締められて、なんとなく過去の自分を感じた気がしていた。

お読みいただきありがとうございます。


もし少しでも続きが読みたいと思っていただけたら、

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どんな評価でも私のモチベーションが上がります。

よろしくお願いいたします!

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