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5話 課題と挫折

「俺、もう一生ここでクラシマス、ムリデス」

「諦めないで下さいーー!!」


俺はアイリスに両肩を捕まれてぐいぐい揺らされながら、ついさっきフォルシシアさんから言われた最後の課題を反芻していた。


「最後の課題は私と模擬戦をして、私のシェルを僅かでも削ること。模擬戦は一日一回だけ。これをクリアすればホドへの入界を許可するわ。私は魔法を使わないけど、ユッカは魔法でも何でもありでいいから、とにかく私を認めさせなさい」


『稗史』の精霊、フォルシシア。


精霊族に伝わる最も有名な物語、『精霊華燭』に登場する有名人。

500年前に起こった精霊族陣営と人族陣営の精霊戦争において、単独で神の一柱を倒したと謳われる精霊族のヒーロー。


そして全戦全勝、記録に残る全ての戦いで勝利し、生ける伝説の一人と言われているのがフォルシシアさんである。


魔法使用不可というハンデがあるとはいえ、とてもフォルシシアさんに傷を付けられるとは思えない。


この異世界に来て1週間、フォルシシアさんから毎日指導を受けていたが、隙を作ることさえできたことがないのだ。


「アイリスもこの課題受けたんだっけ?」

「はい、この課題だけで1カ月くらいかかりました……。てっきり私のときだけの課題だと思っていたんですけど、ユッカにも出されちゃいましたね……」


アイリスはこの課題をクリアしてるのか……。

最初こそ模擬戦でアイリスに勝ったが、そのときはかなり手加減をしていたらしく、今は全く勝てていない。


なんというか、剣術そのものはアイリスよりも俺の方ができるのだが、アイリスは魔法の手数が本当に多い。

強化魔法で剣術の差を強引に埋めて、その後は手札の数で押されて負けてしまう。


アイリスができたからといって、俺がこの課題をクリアできる気は全くしなかった。


「どうやってクリアしたの?」

「それは……詳しくは秘密ですけど、私の決め技でなんとかしたというか……」

「あー、必殺技ってやつか」


確かに俺は(ウォール)型防御魔法で意表をつくくらいで、俺自身の強みがあまりない。

今のスタイルでフォルシシアさんに歯が立たないのであれば、他の、俺にしかできない必殺技のようなものを新しく考える必要があるのかもしれない。


といっても俺に何ができるのだろうか。俺が使えるのは地属性と、誰でも使える無属性の魔法だけだ。


地属性の特徴は防御魔法が得意なこと、物理的な力が強いこと、後は地面を操れることくらいだろうか。


それらでどうやったらフォルシシアさんを出し抜けるんだろうか。

うーん、何をやっても駄目な気がする……。


「えーっと、とりあえず深く考えないで一度課題を受けてみるといいと思いますよ。どんな感じか分かりますから」

「そうだな。今出せる全力でやってみるよ」


考えても思い付かなかったので、翌日の稽古が始まる直前に課題を受けることにした。


「それじゃあ始めるけど、始めるまでに一番いい強化魔法を使っておきなさい」

「はい! 『速度強化(スピードエンハンス)』『筋力強化(パワーエンハンス)』『精神集中(コンセントレーション)』『魔力察知(マジックフィール)』」

「それ、アイリスの劣化じゃない。最低限だけど、まあいいわ」


フォルシシアさんの『練魔の殻(ハイマジックシェル)』で互いにシェルが貼られ、模擬戦が始まる。


俺の強化魔法は魔法名こそアイリスと同じだが、アイリスより効果がかなり低い。

それは単純に魔法の練度が低いのもあるが、何より俺は無属性で強化魔法を使っていることが原因だ。


属性にはそれぞれ特徴があり、同じ魔法に見えても属性が違うことで威力や効果に大きな差がある。

俺が使う強化魔法は全て無属性の魔法なのだが、これは俺の使える地属性が強化魔法に向いていないのが原因だ。

そして無属性は、誰にでも扱えて基本的な魔法の多くを使える属性である代わりに、それらの魔法の効果が低いのだ。


これは全ての属性を扱える故に魔法を最大効率で使えるアイリスがおかしいのであって決して俺の落ち度ではないのだが、これでアイリスと比べられるのは理不尽だと思う。


「ユッカが動いてから私も動くから。自由に攻めていいのよ」

「わかりました」


フォルシシアさんはいつものように頭から足まで真っ直ぐと立ち、桃色のかかった赤いサイドテールは微動だにしない。

腰には練習用の刀が鞘に納められており、腕を軽く組んでいる。

俺はフォルシシアさんの刀に注目して、いつでも壁を展開できるように集中しながら大地を蹴った。


一歩、二歩、三歩。


そこまで走ったとき、フォルシシアさんが鞘に入った刀に手を置いた。


「あっ」


アイリスの声が一瞬聞こえた刹那、フォルシシアさんの体がブレて――――


ドンっと大きな湿った音が鳴る。


シェルが大きな衝撃を受けた音。

視界が青い空に移る。


……俺はフォルシシアさんの刀に斬られ、3mほど吹っ飛ばされていた。


「はい、これで今日は終わりね。じゃあ稽古に移るわ。」


……ほんとにアイリスこれクリアしたのか??


☆★☆


「大体の雰囲気は分かりました?」


稽古が終わった後、アイリスがそう聞いてきた。


「よく分かったよ。想像以上にフォルシシアさんは強かった……」


そりゃあフォルシシアさんがとんでもなく強いことくらい分かっていたのだが、正面から斬られたのに剣筋が見えないとは思わなかった。


一回試しにやってみて分かった。

強化魔法が足りていない。剣が見えなければ話にならない。


二日目


昨日は強化魔法をとことん突き詰めた。特に『魔力察知(マジックフィール)』だ。


俺は無属性で使っているが元は風属性の魔法で、魔力を持った物体の動きを真後ろでも知覚できるようになる強化魔法だ。アイリスであれば知覚能力を向上させ、一瞬を数瞬に引き伸ばすことができるだろう。

しかし無属性ではせいぜい魔力を鋭敏に感知できるようになるだけだ。今の魔法ではフォルシシアさんの動きを追うことはできない。


そこで俺は『魔力察知(マジックフィール)』の上位魔法である『魔力感受(マジックセンス)』を覚えた。


要は無属性の魔法で知覚能力を上げるために、魔法そのものの難度を上げたのだ。

その分詠唱に時間はかかるが、模擬戦開始前に時間をくれるからこそ使うことができる魔法である。


「行きます!」


強化魔法を唱えて三歩走ると、フォルシシアさんが手に刀を添える。


フォルシシアさんが足を踏み出して一歩、刀を構えて俺の眼前に飛んでくる。


速いけど、見えた!!

間に合え、『砂の壁(サンドウォール)』!!


ガキィと鋭い音が腹の前で鳴った。

シェルの音ではない。


俺の壁にフォルシシアさんの刀が当たった! って刀が消えて、え?


……喜んだ刹那、進むままに壁をかわしたフォルシシアさんの二振り目で吹っ飛ばされた。


「最初の関門は通過したみたいね。でもまだまだ、これから長いわよ」


八日目


「あのー、ユッカ? 私そろそろ行かないといけないから、ね?」

「え? あぁ! ご、ごめん……」


アイリスの服を摘まんでいた手を離した。


なんか最近無意識にアイリスに依存してる気がする。

だってフォルシシアさんもカナデも滅多にここにこないし……。

こんなに長く一人になること今までなかったし……。


一週間経ったが、課題のクリアまでは遠い。

あれから少しはまともに戦えるようになったが、それでも5秒持てばいいほうだった。


強化魔法もこれ以上は俺の習得レベルに合わず、魔法面での強化は時間がかかる。


もはや流れ作業のようにフォルシシアさんに切り飛ばされ、今日の挑戦が終わる。

完全に手詰まりだった。


「ねぇユッカ、あなたが外の世界に行きたいのは何故だったかしら」


刀を仕舞いながらフォルシシアさんは尋ねてきた。


「封印された友達を助けるため、そして精霊王になって、精霊族を……救うためです……」


思い返して考えると無謀が過ぎる。

精霊を救うどころか自分で自分を守れるかすら分からない。

ヒュアキントスを助けるどころか、返り討ちに俺も封印されるのがオチだ。

きっとブルーベルや、フリージアさんも悲しむだろう。


それなのに精霊王になるなんて、くだらない。どうかしている。


言葉が尻すぼみになっていく俺をフォルシシアさんが見つめる。きっと俺の気持ちはお見通しなのだろう。


「友達を助けたい。精霊王になりたい。いい目標だと思うわ。精霊族が衰退していっているのに、精霊族の未来をちっとも考えようとしない輩よりずっといい。」


でも俺には目標を達成する実力が……。


「ユッカ。あなたの強さはまだまだだけど、強さは重要じゃないのよ。もちろんユッカの剣術がもっと上手くて、強い魔法を使えれば課題はクリアできるかもしれないけど、私は課題ができるかできないかを問題にしてないの」

「それは……どういうことでしょうか」


剣術や魔法が多少できるようになる程度でフォルシシアさんを出し抜ける気が全くしない。

強くなりたいのに、なれる気がしない。

目の前に高く厚い壁があり、前が見えない。


正直に言って、今はヒュアキントスを助けられる気がしない。


「簡単な話よ。私はユッカを見て、どれくらい本気で友達を助け、精霊王になりたいのかを確かめているの。私だけじゃない、奏やアイリスだって、あなたのこれまでしてきたことを見ているわ。どのくらい友達を助けたいのかはあなたしか知らないけど、あなたは周りからはどう見えて欲しいのかしら?」

「どうって……ヒュアは俺の大切な友達ですから、絶対に、絶対に助けたいと思っています。だからそれを、みんなにも分かって欲しい……」


言葉を発して初めて気付いた。


俺が助けたいと発しているのは言葉だけだ。

ついさっきの俺はヒュアを助けられる気がしないと思っていなかったか?

口から出た言葉と全然違う。

こんなのただの虚勢じゃないか。


俺は周りから頑張っていると思われたいのか?


いいや、それは断じて違う。


俺がヒュアの救出を諦めてしまったら、ヒュアはその程度の精霊だったということになる。


ヒュアは好奇心旺盛でなんでも最初にやりたがる我が儘っ子だけど、気遣いが上手くていざというときは譲ってくれる、かっこいい精霊なんだ。


俺はフォルシシアさんやアイリスに、ヒュアのかっこよさを伝えたい。


ヒュアの価値を、俺のせいで低く見られるなんてだめだ!


「ユッカの気持ちは分かったわ。それらを踏まえて聞くんだけど、この課題のクリア条件、変えてほしい? どうしてもクリアできないなら、今のユッカでもできるくらいにしてあげるけど」


フォルシシアさんが課題の易化を提案する。

最初にそれを聞かれたならば、俺は変えて欲しいと答えていた。


でも俺は意地と、そしてプライドにかけて、ヒュアの価値を守りたい。


俺は真っ直ぐとフォルシシアさんと目を合わせ、質問に答える。


「大丈夫です。こんな課題、すぐにクリアできますよ」


お読みいただきありがとうございます。


もし少しでも続きが読みたいと思っていただけたら、

ブックマークと☆☆☆☆☆の評価をしていただけると幸いです。


どんな評価でも私のモチベーションが上がります。

よろしくお願いいたします!

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