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3話 外の世界へ?

初めての外の世界。

それはそれは感動的なものになると思っていたのだが、まだおあずけらしい。


奏が手をかざすと空間に長方形の大きな輪郭が引かれ、やがてその輪郭の中の景色が変わる。


その中に足を踏み入れると、広い草原が一面に広がっていた。

ここが外の世界なのか……?

見渡す限り草と空と土しか見えない。地平線がどこを向いても一直線である。


「これは俺が作った異空間だ。俺は今第8世界ホドに住んでいるが、君が本格的にホドに入界(にゅうかい)するのはまだ先だ。君にはまず、外の世界で突然命を狙われても撃退できるくらい強くなってもらわなきゃいけないから、この異空間にしばらくいてもらうことになる」

「こんなところに、一人で?」


何かのいじめかな?


「一人……になることが多いかもしれないな、すまない。その間は俺の契約精霊が様子をみてくれるから、とりあえず会いにいこうか。ちょっと止まって」


そう言った奏は俺の側面に立ち、俺は言われるがままに奏の首元あたりに手を回す。


奏は両手を俺の背中と太ももに手をやって持ち上げた。


……これお姫様だっこだよね?


「うひゃあ!ちょっと待って、何する気だ!!」

「しっかり掴まっててねー。飛んで行くよ」


奏は足を蹴って高く飛び上がると、謎の推進力で前に進む。


「あばばばばば!??」


速すぎるーー!!

変な叫び声を上げながら目を瞑っていると、数十秒して地面に足を付く音がした。


ゆっくりと目を開けると、見えたのは二人の精霊。


赤髪の女性と白髪の少女がこちらを見て驚き、笑っていた。


「くすくすっ、お姫様抱っこって、可愛い男の子なのね」

「ずるいです!私だってお姫様抱っこされたことないのに!!」


ああ……第一印象は大事なのに失敗したな。と、俺は思った。


☆★☆


「初めまして、奏さんの元でお世話になることになったユッカです。よろしくお願いします」


定型文を言いながら周りの様子を伺う。


見える景色は変わらず草原だが、周辺は草が不自然に無くなっていたり、土が抉れている。これは多分、戦闘をした後だろう。


そして目の前の二人の人物。


「私はアイリスです。ここにいる間は外の世界のことを私が教えるので、仲良くしてください」


アイリスは一部を二つのお団子にまとめた白く輝く長髪と、明るい黄金色のパッチリとした目をした少女だ。

露出の低い服の隙間に見える白磁の肌は一見しただけでは人形のように見える。


「フォルシシアよ。大体は奏とアイリスの身の回りの世話をしてるのだけれど、あなたについても私が世話することになるわね。よろしく。別に敬語じゃなくてもいいのよ?」


フォルシシアは桃色のかかった赤い髪に深紅の凛々しい瞳をした女性だ。ウェーブのある髪はサイドで結ばれており、服装や花の髪留めを見るとオシャレに気を遣っていることがわかる。


……フォルシシアという名前には聞いたことがある。

精霊の中で最強格と言われ、物語にも英雄として称えられるほどの存在。確か『稗史(はいし)』の精霊、だったか。

なぜそんな精霊がこんなところに……。


二人とも長剣を側に置いている。どうやら稽古の邪魔をしてしまったらしい。


「あー……うん、わかった。二人は剣の稽古をしてたの?」

「はい!師匠に剣を教わっていました。ユッカもどうですか?」

「そうだな、外の世界でも生きていける体を作らなくちゃいけないみたいだし。でも剣なんて久しぶりだな……」

「大丈夫ですよ!師匠は教えるのもとっても上手なんです。って、あれ?まだ奏と精霊契約してないんですか?」


アイリスが俺の手に紋章がないことに気付たみたいだ。

そういえば奏と仮契約もしてないんだったな……。


「どうしてもできなかったんだ」

「え、ええっ!?そんなことあるんですか!?」

「そうそう、だからユッカとは仮契約を継続させることにしたんだ。今は仮契約の紋章を描いてないけど、ユッカが外の世界に出ても大丈夫だって認めたら描くつもりだよ」


奏が代わりに話してくれた。


「なるほど……まあ奏がそれでいいならいいですけど」

「ああ。それじゃあ俺はもう戻るから、後は三人でゆっくり話してね」


奏がさっさと飛んで消えてしまった。あれどうやって飛んでるんだろう……。


「はえーな、もういなくなっちゃった」

「奏はいつも忙しいんですよ。それでその、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「ああ、うん。なに?」


沈黙。

なんだなんだ、大抵のことには答えれるけどちょっとこわい。


「あの、体を触らせてくれませんか……?」

「へんたいだー!!!!」


思わず一歩引いて手で交差ガードをするも、その手を掴まれる。


「ち、違うんです!! ちょっとした探求心というか体に興味があるというか」

「それ全然違わないんだけど!? 外の世界の精霊は肉食系なのか!?」

「男の人の体がどうなってるのか知りたいだけなんです!!」

「わかった、わかったからとりあえず手を離してくれ!!」


あまり嫌な気がしないのは男の性か、結局俺は自由に触られるのを許可した。


「これが男性の……へぇー、噂に聞いた通りちょっと固いんですね」

「体はよく動かしてるからな。あんまり下は触るなよ」

「触りませんよ! 私をなんだと思ってるんですか!!」


今のところ変態だと思ってるよ……。


「でも奏は男性の割に女性らしい格好してますよね? その三つ編みとか……」

「楽園で男と知られたら珍しがられて面倒くさいから、女っぽい格好してるんだよ。別に女装趣味とかじゃないからな」

「女の子だと言っても通用しそうですね。可愛いと思います!」

「そりゃよかった」


嬉しくねぇな……別にいいけどさ。


じっくり俺の体を堪能された後は、俺の剣の腕を見られることになった。

フォルシシアさんが模擬戦の相手をしてくれるらしい。


「剣は作れる? うちのを使ってもいいけど」

「作れます。『剣製(クリエイトソード)』」


大地に手を当て、引き出すようにして剣を創造する。これは土から作っているのではない。大地に近い方が地属性の魔力を利用しやすいのだ。


フォルシシアさんの持っている剣を真似て剣身がやや長い剣を作った。

模擬戦なんて久しぶりだな……。


「別に試合じゃないし適当にやるけど、(シェル)型防御魔法は付与しておくわ。『練魔の殻(ハイマジックシェル)』」


フォルシシアさんが魔法を唱えると、俺とフォルシシアさんの体の表面にシェル状の魔力塊が付いた。


防御魔法には色んな種類があるが、(シェル)型防御魔法は全方位の攻撃から身を守ってくれる魔法である。

このシェルは衝撃に反応して一部分が硬質化するため、シェルを付与された対象の動作を阻害することがない。

さらに耐久力が低い代わりに、耐久力が自然に低下するまでの安定時間が比較的長いため、こういった模擬戦で安全面を考慮して使われる魔法だ。


「今から防御魔法が安定する30分間ね。攻撃魔法以外の魔法は使っていいから、どこからでもかかってきなさい」

「よろしくお願いします!」


剣を振りかぶる。

ただ目の前に振るわれた剣のいなし方を見るだけでも、相手の力量を測ることができるものだ。


といってもフォルシシアさんの実力が高いことはその名声だけでも明白。


ただ最強に近いといわれる精霊が、俺の剣に対してどんな反応をするのか、じっくり見てみたいだけである。


フォルシシアさんは俺の上段から振るった剣を、そのまま剣で受け止めた。

続いて足を狙い、次は突きを出して反応を見るが、全てお手本のような動きで、受け、かわす。


まるで稽古で型の練習をしているようだ。


ならばとフェイントをかけてみるも、全く引っ掛からない。


あれ、駆け引きってこんな感じだったっけ?

駆け引きがそもそも成立していない。まるで俺の心が読まれているみたいだ。


あっさりと剣筋を誘導され、体を軽く押されて体勢を崩される。


「基本はできているみたいだけど、愚直ね。強化魔法とか使わないのかしら?」

「そういう魔法は使えないんです。」

「今はいいけれど実践でそれは愚かだわ。外の世界で生きるならちゃんと自分が強くなる魔法を覚えなさい」


耳が痛い。

俺は剣術の基本しか知らない。模擬戦をしたことは何度もあるが、実際になんでもありで戦ったことはないのだ。


「せめて演劇みたいな剣の使い方はやめなさい。もっと相手を出し抜いて、相手を裏切って。今のあなたは馴れ合っているようにしか見えないわ」

「はい!」


フォルシシアさんも俺に合わせているのか、魔法を一切使っていない。


結局30分の間、フォルシシアさんに意表をつくことすらできなかった。

フォルシシアさんは一切攻撃せず、こういう攻撃にはこう対処すればいい、とお手本のような剣の捌き方を延々と見せられるだけだった。

完敗、といいたいところだが勝負にすらなってなかったな。


「どう?私はあなたの師匠として不足かしら」

「いえ、これからはフォルシシアさんの弟子になりたいと思います。よろしくお願いします」


身近に剣を教えてもらえる人がいるというのはありがたい。


「それは良かった。じゃあ稽古の続きね。次はアイリスと模擬戦をしなさい」

「休憩は?」

「なしで。あなた実践能力は低いけど、狙った場所にブレなく剣を当てられているし、反応もいい。剣の腕そのものはかなり高いわ。休憩なしは体力をみるということと、アイリスへのハンデということよ」

「魔法の使用は?」

「攻撃魔法以外なんでもありよ。ちなみにアイリスは当然だけど強化魔法を使えるわ」


模擬戦をした経験はあるが、それはただ純粋に剣の腕を高め合うものだった。故に魔法は使っていなかったし、強化魔法を覚えてもいない。


魔法ありならほとんど実践のようなものだ。フォルシシアさんは俺のことを実践能力が低いといっておきながら、なかなか酷い条件を提示する。


だからといって嫌とはいわない。稽古とはそういうものだ。


「わかりました。俺はこの剣で、今すぐでも構いません」

「アイリスはどう?」

「は、はい! 『剣製(クリエイトソード)』」


アイリスは茶色い魔力を出して剣を作る。

茶色、ということは俺と同じ、地属性の精霊か。


「私が(シェル)型防御魔法を発動したら始めて。降参するか、防御魔法の耐久値を半分削られたほうの負けよ。『練魔の殻(ハイマジックシェル)』」


フォルシシアさんの魔法が発動し互いの体にシェルがかかった。

模擬戦の始まりだ。

お読みいただきありがとうございます。


もし少しでも続きが読みたいと思っていただけたら、

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どんな評価でも私のモチベーションが上がります。

よろしくお願いいたします!

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