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1話 平穏の終わり

当方設定厨ですが、できるだけ分かりやすく説明できるように努力、します……!

ここはセフィロト世界群と呼ばれる世界の一つ、第六世界ティファレト。

その中心部には巨大な世界樹があり、周りは『楽園』という花園に囲まれている。


世界樹や『楽園』には数多くの精霊が住んでおり、精霊以外の生物の侵入を拒む結界が、世界樹を、そして精霊を守っているのだという。


「ほら見て! 今日はこんな変なものを見つけてきたんだよ!」


変なもの、といって機械仕掛けの謎の物体を見せるのはヒュアキントス、風の精霊である。

少年のような装いに幼い顔立ち、蒼翠の瞳、上にピンと二つ伸びたアホ毛が特徴的な短い緑色の髪をした、少女。


「ここの所よく見つけるね。どこかから流れてくるのかなぁ?」


彼女の名前はブルーベル、水の精霊だ。

可憐な明るい青色の瞳に、長いリボンで結んだ淡い青のツインテール。白いワンピースには彼女の無垢な性格が表れている。


「ねぇ、ユッカはこれ何だと思う?」

「……魔道具なのは間違いないだろうけど、なんだろうな。よくわかんないな」


最後にユッカこと、俺。

地の精霊であり、一見してヒュアキントスと同じように少年のような装いをしている少女のようだが、正真正銘の少年である。

睫毛が長く、つり目で鮮やかなライムグリーンの瞳に、鳶色の髪。髪の片側には三つ編みの小さなおさげをしている。


ヒュアキントスは最近何かと物を拾っては自慢げに見せてくる。

俺はそれらが何なのか当てたことが全くないのだが、「なにかの魔道具じゃないか?」と言うだけで何故か満足されるのだ。


「きっとこの魔道具も外の世界からきたんだよ! ベル、よく見ておいたら?」

「うーん、見ても何も分かんないよ。やっぱり外の世界に行ってみないとなぁ。行ってみたいなぁ」


ブルーベルはまだ見ぬ未知の領域に思いを馳せている。


魔道具、とは魔力を込めた石を使ってなにかをする機械、器具の総称だ。

精霊は基本的に魔道具といった人工物に疎く、そういった物は花園の結界の向こうの、他の種族が暮らす大地、つまり外の世界で作られる。


たまに外の世界から魔道具が流れついて花園に漂着すると、精霊達は興味津々に食い付くのだ。

それにしては最近は漂着物が多い気がするが。


「ベル、色んな偉い精霊がよく言ってるんだけど、やっぱり外の世界は危険らしいよ。俺も外の世界に行きたいって言う精霊はベルしか知らないし」

「わかってる。でも私は、私達の世界の先にずーっと広い世界があるのを知っちゃったから。危険かもしれないけど見てみたいんだ。

このまま三人でずっと遊んでいるのも楽しいけど、外の世界はもっと面白いことがあるかもしれないでしょう?」

「それいいかも! ボク達三人なら外の世界も怖くないよ!」

「ヒュアまで言うのか……」


ブルーベルとヒュアキントスは、外の世界の恐ろしさを分かっていないだけだ。

俺は二人よりも力の強い精霊と会う機会が多いから、外の世界について少しだけ知っている。


曰く、外の世界の種族は自分のために他人を騙したり、蹴落としたりする。

曰く、外の世界では弱肉強食という言葉があり、弱いものは強いものの餌になってしまう。

曰く、外の世界では戦うことが日常であり、平穏な生活を送ることが難しい。


そんなことを言われて外の世界に行こうという気には、俺はなれなかった。


この花園の結界の中、精霊達の世界は平和だ。

誰かを蹴落としたりしないし、俺達みたいな弱いものでも生きていけるし、戦いなんてない。

この平穏な世界でずっと生きていけるのなら、それが一番幸せなんだと思う。


一部の精霊は外の世界の種族と『契約』をして外の世界でも生きているらしいけど……。


突然、バリィインとガラスが割れるような巨大な音が鳴る。


「きゃっ、なに、なんの音?」

「この方向は……まさか!?」


音の鳴った方向、それは世界樹の反対側、花園の結界がある方向だ。


「逃げるぞ、二人とも!!」

「ええっ、なんで!?」


俺は結界方面から大きな割れる音がしたらすぐに逃げるように、と偉い精霊からきつく言われている。

理由は明白。もし花園の結界が破られたのだとしたら……。


「花園の結界が壊れる音だったら、敵の侵入かもしれない……!!」

「敵?敵ってなんのこと!?」

「わかんないけど、俺達を狙う存在だ!!」


二人は訳が分からないまま俺の手に引かれて走っている。

その後ろから、花園をかき分ける足音が聞こえる。

間違いなく、追ってきている。

狙いはきっと俺達だ。


「二手に分かれよう。二人はこのまま世界樹に向かって走って、助けを呼ぶんだ!」

「ユッカはどうするの!?」

「このままじゃ追い付かれる。俺は囮だ、さあ行って!」


二人の背中を押して誘導し、俺は側面へ走り出す。

外の世界に戻るための距離を考えると、二人よりも俺を狙ってくるはず……。


しかし後ろを気にしながら走るが、追手が来ない。

そんなバカな!?


急いで二人の元へ走ると、そこには座ったまま震えて動かないブルーベルと、二人の男がいた。


「うわぁぁ、ヒュアちゃんが、ヒュアちゃんがあぁぁっ!!」


ヒュアキントスがいない。

一人の男の手には、ヒュアキントスの持っていた謎の魔道具と緑色の鮮やかな石が握られていた。


「わざわざ発信器を付けて逃げるとは、愚かな奴らだ」

「上手くいきましたねぇ! まぁ人族の知恵を使えばこんなもんですよ!」


発信器、という言葉にハッとする。

ヒュアキントスが最近よく持っていた魔道具は発信器だったのか!!

追手は魔道具を頼りにこちらを追ってきていたのだ。道理で俺の方に来ないはずだ……!


そして男の手に握られている鮮やかな緑色の石。あれはおそらくヒュアキントスの……、


「ベル、逃げろおぉ!!『砂の矢(サンドアロー)』」


俺は魔法を発動する。

地属性の簡単な魔法。魔力を矢のように放つ魔法だ。


二人の男は『砂の矢』を避けるように大きくステップし、俺の方を向く。

そうだ、それでいい。俺が引き付けて、ブルーベルを逃がす。その後は気合でなんとかすればいい。


「『砂の矢(サンドアロー)』『砂の矢(サンドアロー)』、俺は精霊族の男性体だ! 他の精霊よりずっと希少だぞ!!」


そう言って魔法を放ちながら逃げる。

二人の男が追ってくる。その一人が手をこちらにかざす。


「『雷電の矢(ハイサンダーアロー)』」


男の手から無数の雷属性の矢が放たれた。

それは時間が経つにつれ目標を捕捉し……、


「うぐっ、、」


雷電の矢(ハイサンダーアロー)』が足を貫き、転げ落ちる。

振り向いたすぐ先には、剣を抜いたもう一人の男が迫っていた。


「やばっ!!『要塞(フォートレス)』」


周囲に球状の透明な壁を展開した刹那、金属を叩いたような音が響き、剣が弾かれる。


「ちっ、面倒なことを」

「あれを使いますかい? 結界を壊したときの」

「馬鹿か、あんなの使ったら核まで消し飛ぶ。『障壁崩壊(ウォールブレイク)』」


男は『要塞(フォートレス)』に近付き、魔法を唱えて手で触れる。

すると赤い光が手から溢れ、『要塞(フォートレス)』の壁に亀裂が走った。


「結構硬ぇな……。面倒くせぇ」


男は剣に手を掛け、上段に構える。

その剣には赤い魔力が集まり、空気を鳴らしている。


この攻撃を受け止める術はユッカには……ない。


「来るなら来やがれぇぇ!!」


魔力が剣に集まっていく。

威圧感が肌に当たる。


……ブルーベルは逃げてくれただろうか。

せめて自分の行ったことに意味があったと……思いたい。


命の終わりを感じながら目を閉じたその時、上空から豪雷が落ちた。


前方、男達のいた地表が吹き飛ぶ。


「ユーくん、大丈夫かい!!!?」


金色の左右に跳ねた長髪を(なび)かせた背中が見える。

見知った背中、俺の知り合いの中で最も偉い精霊。


その名は『馨香(けいこう)』の精霊、フリージア。

この第6世界ティファレトを象徴する雷の大精霊である。


その体から雷の魔力をありったけ放出し、俺を守るように前に立っている。


侵入者達は……見えない。


「フリージアさん、俺のことはいいからあいつらを追ってください! ヒュアキントスが取られました(・・・・・・)

「だめだよユーくん、君をここで一人にできない。君を失うわけにはいかないんだ」

「そんな――――!」


俺は精霊族で非常に希少な男性体。

別に特別な能力を持っているのではないのに、それだけで俺は保護対象として優先順位が高いらしい。


フリージアさんに憤りそうになるのを、抑える。


違う。悪いのは俺だ。

俺に力が無いから、フリージアさんに心配をかけられるほど弱いのが悪いのだ。


俺が強ければ、俺に力があれば、ヒュアキントスを助けに行けるのに。


何故、俺は弱いんだ。

自問自答をする。


――――それは俺が、平穏を望むからだ。


現在の精霊族には、頂点に立つ存在がいない。

以前そうだった精霊王は、この世界を守るために犠牲になったらしい。

その影響で花園の結界が緩み、今回のような精霊が被害に遭う事件が増えてきているという。


精霊の誘拐事件。

精霊の本体は、心象核と呼ばれる宝石に似た核だ。

この心象核は、魔力の属性を変換するという唯一無二の特性を持っている。

例えば火属性の適性が全くない者でも、火属性の心象核を経由して自分の属性を火に変化させることで、火属性の魔法を使えるようになるのだ。


その特性はあまりに有用で他に替えがきかないため、心象核目当てに精霊を誘拐、封印して私用する者が後を絶えない。

現にヒュアキントスは、心象核を奪われて封印された。

肉体を自ら作らなくてはならない精霊にとって、核を封印されることは植物状態になっているようなものである。


これが精霊族の現状だ。

それでも俺達が平穏に暮らせていた理由は、フリージアさん達、上位の精霊が守ってくれているからだ。


フリージアさんは今のように、精霊を助けるために日々戦っている。

それは平穏とはほど遠いだろう。


だが戦うのは平穏と遠い場所にいたいからではない。守りたいものを守るためだ。


俺はどっちがいい。


俺達が平穏に暮らすために、平穏を捨てて戦っている者達がいる。


平穏を望んで守られるのか、平穏を捨てて守るのか。

保護されるのか、庇護するのか。


数十秒経過し、フリージアさんは警戒を緩めた。もう大丈夫らしい。


「どうやら、あいつらは逃げたみたいだね」

「フリージアさん、俺は……どうしたら皆を守れますか?」

「え、急にどうしたんだい?」

「守られるのって、こんなに辛いんだなぁって思ったので」


皆を守りたい、フリージアさんを含めて、精霊族の皆を。

過大な目的かもしれない。

でも今の俺は、なんだってやりたい気分だった。


フリージアはどこか茶化すような言い方で、しかし今の俺の心を掴むような言葉を、発した。


「そうだなぁ……、精霊王にでもなってみる?」と。


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