どうも、悪役令嬢転生もののヒロイン(自称悪役令嬢)に転生したjkですが、婚約者が馬に乗って婚約破棄を突き付けてきました。
だいぶぶっ飛んでますので、覚悟して読んで下さい。
感想大歓迎です!
「エレナ!君との婚約を破棄する!」
夜会の最中、キラキラと舞うガラスの破片をバックに婚約者である通称阿呆王子から告げられたのは、予想通り、又はテンプレ通りの婚約破棄宣言である。
短く切り揃えられた髪は眩い金髪で、シャンデリアの光を反射してキラキラと輝いている。切れ長のアイスブルーの瞳は、それだけで宝石のように美しく、髪と同じ色をした睫毛も長い。
それに、陶器のようにシミ一つなく、真っ白な肌。
それらが、まるでよくできた彫刻のような美貌を誇る我が元婚約者こと、阿呆王子の外見だ。
テノールのなかなか良い声で高らかに告げられたその宣言は――
「きゃああああああああああああああ」
「どわあああああああああああああああ」
「ぎゃああああああああああああああああ」
「衛生兵ーーーーーーーーー!!!!!!!」
等々、つい数秒前まで笑顔の仮面を貼り付けていた、夜会の参加者である貴族及び衛兵や侍女、侍従のような人物たち――具体的には、たまたま、阿呆王子が登場した窓の近くにいた不運な人々の悲鳴によってかき消された。
そんな中、唯一彼の声を聞き取ることができた私――エレナは、馬上の元婚約者に向かって声の限りに叫ぶ。
「阿呆と馬鹿にもほどがあるわーーーーー!!!!!」
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どうもこんにちは。前世で愛読していた悪役令嬢転生もののヒロイン(自称悪役令嬢)、エレナに転生したjkです。前世の名前で言うと、優菜になりますが、あくまで今の私はエレナです。そこのところ、お間違えの無いよう。
あ、ちなみに、あくまで“転生”ですからね?“憑依”じゃないです。
だって私の頭の中、三人分の意識が混ざり合ってますし。
いやー、私の頭、よくパンクしなかったなあ、と、自分でも思ってますよ。
んで、お話のあらすじとしてはテンプレ通り、
① エレナ、阿呆王子から婚約破棄される。
② 断罪パーティーに招待されていた隣国の王子が颯爽と登場し、エレナを自国へ連れ去る。
③ 阿呆王子&負けヒロインのざまあ。
④ ハッピーエンド。
というわけで、私、原作に忠実に頑張りました。いや、楽でしたけどね。
だって、原作のエレナさんの前世の性格、優菜だった私とそっくりだったので。
後はシナリオの強制力の問題ですね。現に私、原作を読んでいたころ、阿保王子のことは全然好きじゃなかったけど、今現在、何故か好きになってしまっているのですから。
前置きが長くなりましたが――冒頭へ戻りましょうか。
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さて、その一言に、彼――阿呆王子兼私の元婚約者は、満面の笑みで応答する。
「阿呆と馬鹿?それは光栄だよ!だって僕は今日のために、精一杯阿呆と馬鹿を研究してきたのだからね!」
そう言って、阿呆王子兼私の元婚約者は、バチンっと、絶妙に人の神経を逆なでするウインクを飛ばした。
負傷者を含めた、会場にいる全ての貴族たちが、彼に向けて苛立ちと憐憫の混ざった視線を送る。
私ももちろん、そのうちの一人だ。
これまで、原作にエレナの回想として出てきていた昔のエピソードは制覇できていたというのに、何故冒頭がこんなに滅茶苦茶なのだろう。
そして同時に、原作の阿呆王子兼私の元婚約者に対して謝りたくなった。
大勢の貴族が集まるパーティーという席で婚約破棄を言い渡すという、精神が不安定なのかと心配になってくるレベルで阿呆な王子だと思っていたが、室内で登場しただけ常識はある。
――馬に乗ってガラスを突き破り、粉々に割れたガラスの破片をバックに登場する我が婚約者よりは何倍もマシだ。
そんな脳内逃避行もほどほどに、私は声を荒げ、もう一度叫ぶ。
「貴方が阿呆なのはまだ良いです。馬鹿なのもかまいません」
いや良くないだろ、というボソッとした呟きが貴族の誰か――仮にモブ貴族Aとでもしておくか。から聞こえた。
それを聞き漏らすことのなかった私は、瞬時に反論する。
「いえ、大丈夫です。殿下の取り巻き――すなわち、次代の権力者となることが内定している者たちには、皆優秀な者を集めております。身分がそこまで高くない者が数名いるのは、そのためです」
数年前、宮廷の重役数名が一度に下級貴族から優秀な人材を引き抜き、養子として、自分らの跡取りに迎え入れたというこの国の歴史上初の一件の真相を、サラッと暴露する。
実を言うと、この展開は原作には存在しない。だが、原作のエレナが隣国へ行った後、王子&負けヒロインのざまあはあっても国が傾いたという描写はなかったため、実はこんな感じじゃなかったのかな、という私の憶測から、公爵である父にそうさり気なく進言しただけだ。
原作の回想通りのエピソードは百発百中で発生していたため、本当にそうだったのかも!と思っていたが…もしかすると、私が優秀なことに嫉妬するだけでは飽き足らず、自分の取り巻きにも嫉妬して病んでこんな奇行かつ愚行に走ってしまったのでは!?
内心そんなことを考えて冷や汗を流すも、まだ説明は終わっていないので、とりあえず言葉を続ける。
「それに加え、私という存在です。私は自分のことを、下手な官吏よりはずっと優秀だと思っています。自画自賛と思われてもよろしいですが、私はあと2年は続く筈の王妃教育を2年前に終わらせているということを頭に留めて置いて下さりますよう」
私の言葉を否定する者はいない。
阿呆王子兼私の元婚約者は、さぞや悔しがっているだろうと思い、ちらりと彼の方を見てみれば――馬上で、首がちぎれんばかりにコクコク頷いていた。
え?
待って、原作では負けヒロインと一緒に地団駄踏みながら悔しがってる筈よね?というか、馬で登場したから負けヒロインいないし。
――というかこれ、何をどう考えても、完全にストーリー崩壊してるよね?
今更感が半端ないが、場も私の脳内も色々と混乱しているからしょうがない。それより、私の主張を言い切るのが先だ。
そう頭を切り替えた私は、さっさと残りの言葉を口にする。
「だ・か・ら!殿下には傀儡になってもらえれば、後は周りの重役で十分国が回せたのです!ですが、こんな場で周りの人に迷惑をかける阿呆と馬鹿は何がどうなっても王になれるはずがないじゃないですか!」
「いや僕、そもそも王になるつもりないし」
突如として投下されたのは、そんな爆弾発言。
一拍後。
「「「「「「「「「「はあ!?」」」」」」」」」」
会場中の声がシンクロした。
その中には、入室したばかりの両陛下の声も混ざっている。
これには流石の私も絶句し、何も言えずに固まってしまった。
会場が水を打ったように静まり返っていることを良いことに、阿呆王子兼私の元婚約者は、至って普通の表情で、事情を語り始める。
「いや僕、実は転生者なんだよ」
まさかの阿呆王子も転生者!
「最近よく聞く、二ホンとかいう異世界から転生してきたとかそういうのではないんだけどさ」
あ、違うのね。ということは、阿呆王子の前世はこの世界ということか。
「何回も色々な場所に生まれたんだけど、何故か全部今と全く同じ身分で同じ容姿で同じ声で同じ性格で」
うん?何だかきな臭くなってきたぞ?
「そんで毎回生まれてきたとき、自分の未来が見える」
ど、どういう…?
「何故か毎回毎回、王命で決められた婚約者との婚約を破棄するんだよね、下位貴族のご令嬢か平民出身の聖女さまかその他の女性に骨抜きにされて」
――は?
「んで、婚約を破棄するって高らかに宣言した直後に、父上と母上がやってきて、僕の行いの愚かさを凄い声量でまくしたてられて王位継承権を弟に譲らされて廃摘されて市井に放り出されるか、婚約破棄した元婚約者が隣国とか宗主国の皇子とか皇帝とか皇弟とかに見初められてうちの国が滅ぼされるか乗っ取られるか、僕と僕が入れあげた子が捕まるかするんだよね」
……この阿呆王子兼私の元婚約者は、どうやら典型的なざまあされる元婚約者の阿呆王子のパターンを網羅しているらしい。
しかし、少し――否、かなり大きな疑問がある。
「何故、それを回避しようとなさらなかったのですか?何回も経験しているならば、パターンも分かっていらっしゃるでしょうに」
単純な質問のはずだった。
しかし、そんな質問に対して、答えはひどく難解なものだった。
「そんな、もったいない!こんなに楽しいのに!」
そんな、難解な答えが返ってきた数秒後。
「「「「「「「「「「はあ!?」」」」」」」」」」
またもや、会場中の声がシンクロした。
そんな私たちを心底不思議そうに見下ろした阿呆王子兼私の元婚約者は、よいしょっと、という掛け声とともに白馬から降りて、その解き方を口にする。
「確かに、僕が婚約者を断罪する前の数年間は大変だよ?でも、断罪直後に父上と母上怒鳴られるのも、罰されるのも。たまに元婚約者から正論で論破された挙句に向こうから捨てられるのも、凄くぞくぞくするじゃないか!」
恍惚とした表情で、うっとりとそんな言葉を口にする彼は――
こいつ、ドMだ。
そう思ったのは、たぶん私だけじゃない。
呆れて二の句が継げないでいると、彼は声を荒げて、だが!と、苦悶の表情で、その続きを語りだす。まだあるのかよ。
「だが最近、僕の登場が一瞬なんだ!僕に対する“ざまあ”も、貴族用の牢へ衛兵に連れていかれる一瞬のみ!何なら、僕の浮気相手に対する“ざまあ”の方が極限までじらされる分、爽快なんだよ!」
嗚呼、完璧にドMだ。ここまでくると逆に凄い。
「だから僕は考えた!」
何を?
「僕がもっと目立つ登場で婚約破棄すれば、それに比例してざまあも大きくなるのではないかと!」
理屈は分かった。理解不能だけど。
「だから、王子の象徴とも言える白馬に乗って婚約破棄を言い渡したんだ!さあ父上、母上、私に罰を!ざまあを!怒声を!」
一方、扉付近に立ち尽くしたまま忘れられていた両陛下は、盛大なため息をついて割れた窓の側へ歩いてきた。
そして、国王陛下がワクワクという言葉が似合う王子に対して口火を切る。
「お前の言い分はよーく分かった。…だがな?」
ん?何かあったのか?
「我が王家の子はお前だけだ。それはつまり、お前の言う、第二王子に王位継承権を奪われるパターンではないことを示す。――つまりエレナ嬢は、第二王子ではなく、本日来賓として呼ばれていた隣国の皇子殿下に見初められるパターンなのだろう」
流石は陛下。あの説明だけでここまで推測してくるとは。
「はい、その通りです、父上!」
ニヤリ。
国王陛下は、そんな笑みを浮かべて――残酷な真実を口にした。
「だが、残念だったな?エレナ嬢を見初めるはずだった隣国の皇子殿下は、お前が入室して来た窓のすぐ傍に立っていてな。幸い怪我ひとつしていないが、お前が窓ガラスを割ったことに驚きすぎて失神したため、休憩室で手当を受けている。当然、この婚約破棄騒動も知らない」
「な、な……」
「それにお前は、本来罰として与えられる筈のものが“ご褒美”だと言ったな?」
国王陛下、何を言い出すおつもりですか?真っ黒な笑みが怖いんですけど。
「そこで、だ。今回このような騒動を起こした罰は――エレナ嬢との婚約破棄宣言の撤回と、本来課される筈だった王位継承権剝奪の撤回だ!一生平和に、傀儡として操られつつ過ごすがよい!」
「「「「「「「「「「「噓だろ(でしょ)!?」」」」」」」」」」
本日三回目となる、会場中の声のシンクロだった。
その中で最も大きな声だったのはもちろん、阿保王子兼私の婚約者だった。
あれ?でも、私を救ってくれる筈で、ついでに絆される筈で、原作のヒーローだった筈の皇子は私と出会わずじまいだし、拍子抜けはしたけど、未だに阿呆王子のことは好きなままだし、よく考えたら阿保王子がピンク髪の負けヒロインと浮気したとかいう噂なんて立ってないし、一緒にいるところなんか見たことないし、何ならこの場にもいないし――
これ、私にとってかなり都合がいい展開なのでは?
そんな感じで、私はひたすら考え事をしていたのだが、周りにはどうすればいいのか分からない人が大量にいる――というか両陛下以外全員そんな感じなので、会場は結構な問題があっちこっちで勃発し、浮上しているわけで。
それを引き起こした張本人(国王陛下)は、げっそりした王妃様を引き連れて、早々に退場してしまわれたため、会場は当然、かつてない大混乱と相成った――
その後、正式に私と阿保王子とは結婚し、ほどなくして隠居生活を宣言した国王陛下に代わって新国王・王妃となった。
そして、相変わらず阿呆だが、見た目だけは抜群の夫を傀儡に、私と元阿呆王子の取り巻きと、私の子供を中心に、国は繁栄しましたとさ。
めでたしめでたし。
阿呆王子兼エレナの婚約者「ところで、僕の名前は?」
作者 「付けてない」
阿呆王子兼エレナの婚約者「ひ、ひどい…でもそんなところがイイっっ!!!」
作者 「……」