第6話ー大土竜蜥蜴ー
大監獄からの脱獄って憧れますよね
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5日。いや6日は歩いたか。
2日くらい雨にあたったけどアムルダさんの奇跡が便利すぎてもう。
スマホもなければカレンダーもないから今が何月何日かもわからん。
あぁそもそもこの世界に来た時間も季節ももともと知らないんだった。
ははは。
正直足手まといにしかなってないと思う。
でもみんな優しいし、初めて仲間と呼べる人たちに出会えた、
そんな大げさな言葉を使いたくなるくらい気持ちが高揚している。
正直ベッドで寝たいし、お風呂に入りたいし、味の濃いものも食べたいけど
ギュレンが獲ってきてくれる草原兎?とかエリさんが摘んできてくれるブルーベリー的な何かでも十分美味しいし
アムルダさんの 奇跡ー浄化ー で体はある程度綺麗に保てる。
なんかももっと街道的なのを通って楽に行けるかと思ったけど
かなりサバイバルに近いなこの旅。
草がかゆい。腕になんかへんな赤いぶつぶつできてる。うわかゆ。
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「よしよしバサト村が見えてきたな」
ギュレンからの報告。
シオン達はすでに5日間連続で野宿をしている。
すっかり太陽も沈み、遠くの方にバサト村の明かりがよく見える。もう歩いて数十分のところに村がある。
「あ~ようやくね、バサト村では何事もなくゆっくり休みたいわ」
さすがのエリもドニ村では過酷な任務があったので次の村では体を休めたいようだ。
「エリ、まるで、”何かが起こってゆっくり休めなくなる”ようなことをいうもんじゃありません…よ…」
アムルダがエリをからかっていつもの和む雰囲気になりそうなところでアムルダは話すのを止めた。
シオン達は後方から轟音を鳴り響かせながら大きな何かが迫ってきているのに気付く。それは地を抉りながら地中を突き進み、地面の隆起と共に近づいてくる。
「動くな!!」
ギュレンが叫んだ。
そいつはもう後方20m付近のまで迫ってきている。
息を殺してその轟音が通り過ぎるのを待つしかない。
「来るぞ。」
怪物は足元を揺らしながら通りすぎていく。耳を塞ぎたくなるような轟音。
シオンは地面にへばりついて揺れに耐えるのに精一杯だった。
怪物はバサト村の方へ一直線に進んでいった。
ギュレンが大丈夫のサインをしたのでシオンは思わず聞いた。
「い、今のは、何だったんですか…!!」
「土竜蜥蜴だ。」
「モグラトカゲ?」
シオンは聞き馴染みのない言葉の羅列に聞き返した。
「おかしいです。普段は山奥の地中深くにいて目の前の土を食うだけのなんら無害な魔物のはず。小型の土竜蜥蜴が畑を荒らすことは稀にありますが、あそこまで巨大な個体はまず平野に出てこない…。あぁ、まずい。向かった先は」
アムルダが指をさした先ではすでに村の家屋が燃えている光が遠くからでもよく見えた。焼ける炎がシオン達の頬を赤く照らす。
「どうするギュレン。このままアイツが進んでいけば騎士団や傭兵団が対応するまでに村がいくつあっても足りないですよ。」
ギュレンは一呼吸考えてから言った。
「アムルダ、
ー歌姫の嘆きー
出力最大で頼む。」
エリはすでに剣を抜き臨戦態勢に入っている
「ふかふか羽毛ベッドの恨みは大きいわよ」
シオンはエリが剣を抜いたの見てあわてて最近買ったばかりの剣を引き抜く。突然の初陣。嫌なべたついた汗が体中からぶわっとでるのがわかる。
ウジャーラーカハ聖典 第参章
壱節 陽光の翳り
弐節 聖女の感嘆
参節 聖女の怨恨
奇跡ー歌姫の嘆きー
アムルダの頭上に白い光を放つ歌姫が現れ、さっきの轟音とは似ても似つかぬほど美しい歌声で歌い始めた。その歌声はどこか悲しく聞こえたが
それと同時に心に寄り添ってくれるような優しさを感じた。
遠方で燃える村の中に大きなうごめく何かが首をもたげてこちらをにらみつけるのが見える。土竜蜥蜴の目は退化しておおよそ何も見えてはいないが、こちらに敵意を向けているのは遠くからでも明らかだった。
「構えろ」シオンがそうつぶやくと、そいつは再び地面へ潜り轟音を響かせてこちらへ猛スピードで向かってきた。
「さっきよりも速い!!」
シオンは小さな災害とも呼ぶべき土竜蜥蜴にすっかりおびえていた。
土竜蜥蜴はシオン達まであと30mかというところで地中を進むのを止めて、地上に体をさらけ出して
シオン達を食わんと大口を開けて突進し始めた。
「トカゲ…?!じゃない!!あ!!」
シオンは名前の通り地面を掘り進むトカゲ的な何か、ファンタジーならリザード、果てはドラゴンのような怪物だと思っていた。
しかし、目の前に現れた地を這う魔物はモグラやトカゲというよりは
大きなミミズ。
この場合正しいネーミングは
「サンドワームだ!!!」
そうシオンの脳内で思考が完了したころには怪物の4方向に開くおぞましい大口が目の前に迫っていた。
「シオン、下がってな」
ギュレンは後ろからシオンをかばうように前に乗り出して矢を3本放った。
一回の射出で3本の矢を飛ばした!すごい、どれだけ練習を重ねればあの芸当ができるのだろう。シオンはギュレンの落ち着いた対応に関心している。
「土竜蜥蜴の弱点は口だ。激昂したこいつらは自ら弱点晒して突っ込んでくるんだ。狡猾なグールよりよっぽどやりやすいぜ。」
頭にダメージを受けて土竜蜥蜴は頭が持ち上がり、もう一つの弱点であるお腹の部分が露出する。
お腹の柔らかい部分目掛けてエリは剣を突き刺す。
「こんなに巨大な土竜蜥蜴なら弱点も大きくてむしろやり易いわ!!」
シオンはここで若干違和感を覚える。エリの動きが目で追うのにギリギリだった。いくら人間が速く動こうと、目で追えなくなるほど速くなることはないはずだ。シオンは目の前のサンドワームのことなんてもうすでにどうでもよくなるくらい眉間に皺を寄せて、困惑してしまっていた。
奇跡ー陽だまりー
アムルダは怯みきった土竜蜥蜴に向かって奇跡の力で生み出した太陽の光をぶつけた。
放たれた光源はゆっくりと土竜蜥蜴を頭から焼いていく。魔物は弱点の太陽に晒されて悶え苦しみながらもなおシオン達を飲み込もうと必死に這いずり近づいてくる。しかし光が尾に到達するころにはもう土竜蜥蜴は息絶え、全身が黒く炭化し動かなくなっていた。
「所詮は土竜蜥蜴ですね。5、6メートルは超える見たことない規格外の個体でしたが、我々にとっては大した脅威ではなかったみたいですね。」
ギュレン、エリ、アムルダは3人の息のそろった連携コンボで魔物を打倒した。
おいおいなんでこんな簡単にギュレン達は退治できたのに村のほうは大炎上するくらい手に負えてないんだよ。
シオンはもう目の前で光に焼かれ燃えカスになっている魔物より、自分そっちのけで喜び合っているギュレン達のほうが関心しながらも、ある意味怖いと感じていた。
「いやぁシオン、良かったぜほかの村に被害が出る前で」
「あんたももっとほら、せっかく剣買ったんだから戦いなさいよ!」
「エリ、彼は素人なんですからいきなりは難しいですよ。」
3人で仲良く会話を続けている。
「そうだエリ、これから長い旅なんだしお前の剣術を教えてやってくれ。」
ギュレンは矢を魔物から回収しながらエリに言う。
「え、めんどくさいわよ~基本ができてるならまだしもこいつはド素人よ」
エリは剣についた魔物の血をふき取りながら言う。
「その基本から教えてやってほしい。俺は剣を振れないから
エリにしか頼めねぇ。」
「うーんいやぁギュレンにそういわれちゃあしょうがないわねぇ」
彼らは魔物討伐で若干テンションが上がっているのかペラペラしゃべる。
シオンはついに目の前で起こっている現象に我慢できなくなった。
「いやいや!剣術教えてくれるとかはめっちゃありがたいですし、
土竜蜥蜴をあっさりやっつけたとかすごいですけど!!
いやぁなんていうか、その、いっぱい質問があります!!!」
奇跡ー浄化ー
アムルダがみなに浄化の奇跡を掛けた。浄化の奇跡には体をきれいに保つだけではなく、精神を落ち着かせる効果もある。
「みなさん、まずはあの燃えている村を助けにいきましょう。被害は少ないとは思いますが急いだほうがよさそうです。ギュレン、エリ、シオン君。行きますよ」
シオンにとって、なんというかもう情報過多である。シオン達は急いで村に向かった。
シオンは流されるまま走るしかなかった。
大土竜蜥蜴とかエリさんのスーパーダッシュとか色々気になることはあるがそもそも村が燃えているのである。
頭がくらくらする。
火の消化、けが人の救助と手当て、壊れた家屋の片づけ、などなど。
一息つけるようになったのは、日が昇り始める頃だった。
第5話ー大土竜蜥蜴ー
ずんずん読んでください。