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憧れの異世界だが死神が憑いてくる  作者: くすのき はじめ
第一章「王都を目指して~楽しい異世界~」
4/10

第4話ー始まるー

家電が全部ダイソンって憧れますよね。

ーーー

真っ暗な草原に松明の明かりが揺らめいている。

ー暗いなぁ。とにかく暗い。松明ってこんな程度かよ明るさ。持っている奴のところぐらいじゃん明るいのー

青年は文句をたらたら、心の中で言う。

しばらく歩くと遠くの方に松明とは別の明かりが見えた。村の明かりだ。

村の入り口には申し訳程度の塀と大きい木製の門があった。

ギュレンが門を叩き中に呼びかける

「数刻ほど前に出発した傭兵12名とギュレン、アムルダ、エリ、あと遭難者1名、開けてくれ」

木と木が重くぶつかる音と共に門の覗き窓が開く。浅くフードを被った痩せた男がこちらに顔を覗かせた。

「遭難者?ちと胡散臭いでさぁ。村長に確認取ってくだせえ」

当たり前である。村の治安のためにも身元のわからないやつを不用意に入れるわけにはいかない。

「じゃあとりあえず俺らだけでも入れてくれ血まみれだし、水浴びもしたい。」

閂が外れる音がした。門がゆっくり開く。

「ちょっとまっててくれ」

ーなにそれそういうリアリティはいいからー

青年は焦り思わず声をかける。

「え、あのギュレンさん朝まで入れないなんてことはないですy」

シオンの言葉を遮るように門が閉まり閂がかけられた。

「悪いがそういうことでさぁ。俺の一存でどうこうできる話でもねぇからな」

門番はぶっきらぼうに覗き窓を閉めてしまった。

「え?は?マジで?」

青年は外に1人取り残された。青年はその場にヘタレこむ。長い徒歩での移動、戦闘と死傷の衝撃、転移での混乱とストレス。

青年の精神と肉体はおおよそ限界である。

「一生このままってことはないよなまさか」

弱音。青年は塀にもたれかかり、空を見上げて、体育座り。

しかし、ふと目に入った澄んだ夜空に目を奪われる。

こんなにも綺麗な星空は見たことがない。天空からの光を邪魔する機械的で人工的な輝きはこの世界には存在しない。

「…月…デカ…銀色だ…」

頭上で門の閂が外れる音がした。

疲労とストレスと物思いで頭が留守になっているた青年は現実に引き戻される。門がゆっくりと開いていく。

「待たせたな。なんとか村長を説得できた。領主が留守で助かったぜ。」

ギュレンが顔を出した。青年は自分が一番信頼する人が出てきて心からほっとした。相変わらず門番は青年を疑いの目でじろじろ見てくるが、村長が良いといったならしょうがない。

「お前には色々聞きたいことがあったな。酒場で飯でも食おう。」

青年は服についた泥や草をほろい、汚れた体をガッサガサの布とちょっと臭い水で拭いた後ギュレンに言われるまま皆の集まる酒場に連れて行かれた。青年としてはーこのまま別れて一人ぼっちになるよりギュレン達について行きたいし、エリさん可愛いし、なんかマジで『異世界の酒場』っていう言葉に感動さえするーとかいう楽観的な考えで行動をしていた。

門から村の中央まで畑と家畜小屋の間を縫うように粗末な道が続いている。

すっかり日も落ち、夜も深いので道行く人はいない。村の中央には明かりのついた宿屋と酒場が数件見られるだけで、特に賑わっている様子はなかった。ギュレンと青年はその中のこじんまりした一軒の酒場に入っていく。

酒と汗の匂いが充満した香り。

正直この香りだけなら別に異世界でなくても現代の居酒屋で嗅ぐことができるだろう。ただ、なにが一番違うかといえば、拭えない獣臭と少しの血の匂いだこれは青年にとってとても心地の良いものではないが、どんなにキツイ臭いだろうと数分も空間に居れば慣れてしまうのが人間というものである。

酒場には一緒に戦った傭兵たちとエリがいた。エリは奥の四角いテーブルに座っている。青年はギュレンに連れられ、一緒に座った。

エリは青年に皆と同じメニューをオーダーしてくれた。青年はお金もないし強めに遠慮したが、結局エリが強引に頼んでしまった。

「それで?君名前はなんての?」

「そういや聞いてなかったな。」

2人は自分の名前を名乗る。

「私は、エリス・マグワイア。エリでいいわ。」

「ギュレン・ユルダルク。名前のほうはもう何回も聞いてるか。」

青年も自己紹介をする。

「井上志穏…えっあ…シオン・イノウエ。シオンって言います。」

「シオン?ふーん、変な名前ね。」

シオンはー聞いといて変なとか言うなよ、初対面だしー

と思ったが、そんなことよりも酒場に入る前からずっと気になっていることが一つだけある。

ーギュレンさんの顔が鳥類のものから人間のものに変わっているんだが?ー

ただ、シオンは出会った時のように何か言えば何某かの失礼に当たるのではないかと思い必死に気にしないようにしていた。

肝心の顔といえば、完全にイケメン(シオンの主観)。多少日本人に比べれば濃いか。こめかみやうなじは多少毛量が多い気がするが、それがまたワイルドでかっこいい。

「いやぁ、最初あんなこと言われた時はびっくりしたけどなんか大丈夫そうだなお前は」

ギュレンが機嫌よさそうにそう言うと

「普通差別主義者だったら今も絶対ギュレンの横には座りたがらないし、バードエルフが人間の姿になってることにも結構とんでもない罵倒が出てくるものよ」

エリもシオンが差別主義ではないとわかり、安心している様子だ。

「いえ!!本当にイケメンだと思います!!僕もその、多少ギュレンさんくらい顔立ちが良ければなぁと思ったり…」

シオンはここぞとばかりに必死にフォローをする。

「はっはっはッ!!いやぁお前面白いな!バードエルフだとわかっててここまで俺に好感を持ってくれるヤツも多くないぜ」

この世界でバードエルフは人間からあまり良く思われていないらしい。

「あ、そうだこれ、お前の分」

ギュレンはお酒をグビグビ飲みながらシオンの前に小さな袋を出した。シャララと音がしたそれはお金が入っているようだ。

「なんですかこれ」

「ほらお前も一応任務にいたから、報酬だな。」

シオンは驚いた。あんな醜態を晒しておいて報酬を受け取る資格があるのか。とてもじゃ無いが受け取れない。そもそも最初の契約の時にシオンはいなかったのにどこからこのお金は湧いてきたのだろうか。

「え、いや、え、受け取れないですって!」

「お、そうかじゃあこれはもらっておくぜ」

「っえ」

「嘘だって!いいからもらっておけその感じじゃ金もそんな持ってねぇんだろ、剣運んだりなんなりしたんだから問題ねぇって!」

ギュレンはニンマリ笑って小袋を渡してくれた。

このお金にどのくらい価値があるのかはわからないが、シオンはバイトの初給料が口座に振り込まれていた時よりも今ギュレンから直接手渡された物の方が嬉しいと感じた。

そうこうしているうちに、パンとお酒が席に運ばれてきた。それと同時に5杯の酒もテーブルに置かれた。

「ギュレンさん、すごい飲むんすね。」

「あぁこれはまぁ死んでいった奴らの分だな。奢るって言っちゃった手前全員分頼まねぇと気分が落ち着かねぇ」

「自分が飲みたいだけでしょ」

エリはそう言うと運ばれてきた酒を自らのところへ引き寄せぐいっと飲んだ。

「僕18歳なんですけど、なんかお酒とかって飲んでも大丈夫ですかね」

シオンは当然お酒を飲んだことがない。もし、この世界の法律的なのに引っかかって檻にでも入れられたらそれこそ終わりだ。

「なんだ酒嫌いか?別にイヤなら飲まなくてもいいんだが、何か特別な事情があるなら置いとけ。俺が飲む!!」

「ギュレンは本当にお酒が好きねぇ」

エリは頬杖をつきながらギュレンを見つめてそう言った。

「でもあなたに頼んだのは薄めた蜂蜜酒だから規則や教条には触れないはずだけど…」

ギュレン達が談笑をしていたその時。

「…少し…暗いですね…」

聞き覚えのある声と共に優しい鈴の音が店中に響き渡った。

ー奇跡ー甘美なる木漏れ日ー

輝かしい発光体が無数に飛び出し天井付近を漂い始めた。

壁に掛けられたいくつかのロウソクの灯りと格テーブルに置かれたカンテラだけがこの店の照明だった。しかし、今はそれらとは比べものにならないほど明るい輝きがこの店を照らしている。

店にいるほぼ全員が急に明るくなったことに気づき、明かりを放った人物の方を向く。

「アムルダ!!」

最も親しい関係の2人が彼の名を呼ぶ。

「いや〜お待たせした。無事復活ですよ。」

今回の戦いで最も活躍した彼はVサインをしながら笑顔でそう言った。

「アムルダお前!もう大丈夫なのか?!朝まで休んでてもいいんだぞ」

「これでも神の恩寵を受けているのでね、祈りと聖水でこの通り。」

「何がこの通りよッ!!!」

エリが割って入る。彼女はひどく怒っているようだ。

「なんでもかんでも自分が犠牲になれば良いってもんじゃないでしょう!!」

確かに、無事復活やこの通りという割にはアムルダの右目には眼帯、右耳には当て布がしてあり、とても万全とは言い難い。エリは涙目でアムルダをじっと見ている。

「エリ、私の祈りが最善で、被害を最小限に抑える唯一の手段でした。目も耳も覚悟の上ですよ。」

「…でも…そこまで…」

エリはそれ以上何も言えなかった。助けられた上に説教をするのは流石に憚るらしい。それでも、仲間を心配する気持ちは本物だ。

「分かってます。よっぽどのことがない限りもうあんな無茶はしませんよ。あなた方2人の旅路を最後まで奇跡で祝福すると誓ったのは、他でもない私なのですから。」

アムルダの声は落ち着いていた。彼にとって目や耳を失った事よりも

自分の仲間が無事だった事の方が何よりも重要だった。

「アムルダの…バカ…」

そう言うとエリは席に戻り、アムルダもそのままエリの隣に座った。

アムルダはシオンに話しかけた。

「いやぁすまない。エリがプリプリ怒っちゃって君もびっくりしたろう」

アムルダの発言にエリはムッとした。アムルダは続ける。

「君のことが知りたい。私の名前はアムルダ・ルドラこの二人と旅をしている聖職者。どうか気軽にアムルダと呼んでくれ給え。」

シオンは全員揃ったということで改めて自己紹介をした。

母国、出身地、どうしてあんな草原に一人でいたのかなど色々聞かれたが、どうにもごまかしきれないと思ったシオンは事の発端を全部話した。

そう、自分のいた世界のことと転移してきたということを。

「ほぇええ〜!!」

「えッ!すごいじゃない!!転移の護符かなんかを使ったってこと!?」

ギュレンとエリが楽しそうに聞いてきた。

「え?いや、何を聞いていたんですか二人とも。彼はもともとこの世界の住人ではなく、自分の意思とは関係なくこのネゼル・ベゼルに召喚されたということでしょう。」

理解の薄い2人にアムルダは諭した。

「え、どう言う事?それじゃあ彼はこの世界の人じゃないの?どう言う事?わかんないんだけど」

「なるほど…ってことはお前は魔人ってことだな…?」

シオンは二人が的外れなことを言っていることだけは分かった。突拍子も無い話なのは自分も相手も同じだろうということでより詳しく話をする。

「いや、本当に違う世界から魔法とか関係なく転移させられて、魔人?とかじゃなくて、普通に人です。」

「いいですか二人とも、彼はこの世界とは別の世界からやってきて孤立無縁なんですよ。見た感じ戦闘の経験は無いみたいですから傭兵として生きていくのは難しいでしょうね。」

この先の不安から来たものなのか、先の戦いでの無力感から来たものなのか、アムルダの分析を聞いてシオンは彼らから少し目を逸らした。

「なるほど…シオンとアムルダの言うことが本当なら大変なことが起きてるんだな。」

ギュレンも全ては理解できずともシオンが非常に困った状況だということは伝わっているようだ。そして彼は少し考えてから言った。

「シオン、お前俺らと一緒に来るか?」

「え…?いやそ、それは嬉しいですけど…そのいいんですか?」

シオンは急な打診に驚いた。

「なんでそうなるのよ!!この前だってギュレンの親切心で変な依頼受けて10日くらい森を彷徨ったばかりじゃない!!」

エリも驚いている。

「エリ、人数が増えて旅費が増えたり足取りが遅くなることが嫌なのはよく分かる。ただ、俺はこの出会いが単なる偶然には思えねぇ。」

「だからって別に一緒に旅まですることないじゃ無いのよ」

「そうかもな。でも俺には、エリやアムルダに会った時に感じたものが今も感じる。特別な、何か良いことが起こりそうな予感。今俺らがシオンを助けねぇとこいつはきっとそこら辺でのたれ死んでおしまいだろ。それは後味が悪い。エリとアムルダには申し訳ねぇがシオンを連れて行きたい。」

ギュレンはゆっくりとエリを説得する。優しさの中に確かな覚悟を感じる声色だ。

「……ギュレンがそこまで言うならしょうがない!!あーしょうがないー!!」

エリはほっぺを膨らませて言った。

「私はギュレンの言うことに従いますよ」

アムルダ腕を組みゆっくりと頷く。。

「ってことだな。シオン、俺らと一緒に来てくれ。細かいことはまた明日話そうぜ。」

「あ、ありがとうございます!!よろしくお願いします!!!」

シオンは立って頭を下げた。

ギュレンが急に話を進めるのでシオンは少しだけ理解が追いついていなかった。

ーなんでギュレンさんはこんな俺を仲間に入れてくれるんだ?なんだ詐欺か?エリさんめっちゃ嫌がってるやんほっぺめちゃめちゃ膨らませて可愛いけど。わかんない。めっちゃ嬉しいけど。いや嬉しいけどなんだこの気持ち。胸がぐるぐるして少し怖いな。ー

シオンは座って蜂蜜酒をグイッと飲み固くてパサパサのパンを食べて残りの蜂蜜酒を飲み干した。その後エリが人数分の水を頼んでくれたのでそれを飲み終えた後、ギュレンに連れられ酒場の2階にある寝室に案内された。

寝室の扉が開くと木の香りと押入れの中や田舎のおばあちゃんの家のようなほこり臭さがふわりと香った。

「狭い部屋だが寝るだけなら問題ねぇだろ。

今日はゆっくり寝ろ。村から出りゃベッドで寝れることは多くねぇからな。朝日が登ったら迎えに来る。良い夜を。」

ギュレンが行こうとしたのでシオンは急いで声をかける。

「あのっ!ギュレンさん!今日はありがとうございます。最初は本当にすみませんでした。それに足手纏いになったり色々迷惑をかけたのに、その、いろいろありがとうございm

「いいから、寝ろ。」

シオンが頭を下げて感謝を伝えようとするがギュレンが遮った。

「そんな改まって感謝を述べられるのは小っ恥ずかしい。今日のことは、まぁ気にすんな。生きてりゃ色々あるだろ、きっと。」

そう言うとギュレンは部屋を出て行った。

シオンは裸足になり、来ていた上着を脱ぐとすぐにベッドに横になった。

下の硬さとか布団のほつれとか羽毛100%とか考える間も無く眠りについた。

ゆっくりベッドで寝る。

そんな些細な幸せにすら感謝をしたくなるような旅が、明日から始まる。

さらに読み進めよう。

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