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プロローグ

この小説には未成年が喫煙をする表現がありますが、実際の未成年の喫煙は法律で禁止されています。

また、それによる責任も負いかねますので絶対に真似をしないでください。

六月二十日。今日も雨。


『はぁ…。何しよ…。』


そう言うと、鞄をベットへ放り投げ、机に向かってだらしなく座る。



 僕の名前は、『阿部蒼太』。

特に取り柄のない面倒臭がり屋の高校生。


好きな事は、日がな一日ボケーッ、と過ごす事。

嫌いな事は、面倒臭い事。



『こう言うときに限って宿題も無いし。それに…。』


チラッ。と、部屋を見回す。


本は一巻からキッチリと、本棚に収まっている。

洋服も、シワ一つ無く綺麗にハンガーにかかっている。


『まぁ、宿題なんてあったとしてもやらないか。それにしても暇と言うのは恐ろしいな。』


 ここ2、3日の雨のせいで蒼太はこの期間、全精力を注いで部屋の掃除をした。

しかし、なれない掃除のせいか、まるでショールームの様に生活感までなくなってしまっていた。


『やりすぎたな…。全然落ち着かない。ってか、リモコン類はどこ行ったんだか。』


 普段やりなれてない掃除のせいか、蒼太の部屋のテレビ、エアコン、CDコンポのリモコンが掃除後行方不明になっている。


少し間を置いてから、大きな溜め息をつく。


『はぁ…。それにしてもショックだよなぁ…。』


そう言うと蒼太はそのまま机に突っ伏した。


トットット。

 

 軽快なステップで、階段を駆け上がる音が聞こえてくる。

ガラッ!


『蒼太?アンタ、帰ったならただいまぐらい言いなさい。』


そこにはエプロンをして、お玉を持ったままの母がいた。


蒼太はヘーヘー、と言わんばかりに右手をヒラッと上げた。


『茜ちゃんが来てるよ。』


そう聞くと蒼太は顔だけ起こし『ヘッ?』、と言う顔をした。


『七井 茜。』


 彼女とは小学校からの付き合いで、かれこれ9〜10年の縁になるだろうか?

ガサツだけど真面目。成績は中の上。

何かと突っかかって来ては、僕を面倒に巻き込む、『爆破テロ』見たいな奴である。


『なんで?』


『知らないわよ。アンタ何かしたんじゃないの?』


良く考えて見たのの、蒼太には全く見当がつかない。


『うーん…。面倒臭そうだから帰ってもらってよ。』


『居るって言ってるのに、帰れなんて言えるわけないでしょ!』


『じゃあ…。人生で3回あるビッグチャンスのうちの、一回目が来たから手が放せない。って、言っておいて。』


『はぁ?』


そう言うと、母は肩を落とし、部屋の戸を閉めて一階に下りていった。


『すぐ降りてくると思うから上がって待ってて。今お茶出してあげるから居間に行ってなさい。』


『わーい。お邪魔しまーす。』


一階から母と茜の話す声が微かに聞こえてくる。


『…グレてやる。』


そう言うと、蒼太は重い腰を上げ、一階へ降りて行った。



居間の戸を開ける。そこには幸せそうに大福を頬張ってる茜が居た。


『オッフ!』


茜は大福を口に含んだまま手を上げ、蒼太に軽く挨拶をする。


『お前、仮にも年頃の女の子だろ?もうちょっと何とかならんのかい?』


茜はムッ!と、しながらトントンと胸を叩いて、口の中の大福をお茶で流し込む。


『ぷはぁ!仮に、は余計でしょ?こう見えても意外と繊細な所だってあるんだから。』


『繊細ねぇ…。いつかそう言う所が見れる時は教えておくれよ。たとえ親の死に目に立ち会えなくても、後世に語り継がないといかんからのぅ。』


年寄りクサく蒼太が言うとフンッ!と、した表情で、もう一つの大福に手を伸ばす。


『んで、何?俺何かした?先週の小火騒ぎは、俺じゃないぞ?』


先週、学校で小火騒ぎがあった。


 原因は不明らしい。が、男子の間でその場所は、いわゆる喫煙所になっていた。

茜は、生徒会に属しているので、この事件以来、連日生徒会の会議に呼び出されて、

ブーブー言っていた。


『違うってば!それに、あれはもう犯人見つかったし。』


蒼太はあっそう、と言わんばかりに頷き、茜の飲みかけのお茶をすする。


『じゃあ何?どうせしょーもない事なんだろ?』


そう言うと、茜は目をキラキラさせて言った。


『プール行こう!』

『断固拒否させて頂く!』


蒼太は少し食い気味に言い放った。


『えー!何でー?まだちゃんと話してもないのに,そんな断りかたしなくたっていいじゃない。』


『何でもクソも。俺にだって拒否権ぐらいあるだろうに…。それに…。』


呆れた感じでそう言うと蒼太は窓の外を親指で指す。


『馬鹿じゃないの?誰が今日行くっていったのよ?』


『どうせ、明日も明後日も明々後日も雨なんじゃない?』


『だから!話をちゃんと聞けって言ってるの!』


茜は、最後のお茶っ葉交じりのお茶を、一気に飲み干した。


『明日でも明後日でも明々後日でもなく夏休みの話をしてるの!』


『夏休みぃ?まだ全然先の話じゃんか。あんまり先の話をすると、鬼に笑われますよ?』


蒼太はからかい気味に茜に返した。


『だって。あんまり直前に決めると、家族旅行とか行っちゃうでしょ?』


茜は、お返しに、と言わんばかりに、含み笑いを浮かべながら言った。


『なんだ?それは阿部家に対しての嫌味か?』


我が阿部家は、お恥ずかしながら、家族旅行に行ったことがない。


 と、言うのも父、母。揃って乗り物酔いが激しいせいもあるのだが。

一番の問題は、弟の洋助である。

アイツの乗り物酔い…。いや、乗り物アレルギーは、半端ではない。

小さいときに、二人でおじいちゃんの家に行く時の事だった。



洋介は電車に乗ってるのを想像しただけで、駅で吐き出してしまった。

 しかも、お行儀の良い事に、蒼太の背負っていたバッグのジッパーを開け、そこに全て吐き出した。

駅のホームは汚れる事無く済んだ…。


 が、タプタプと溜まったその物を幼い蒼太達が処理できる訳もなく、

ワンワン泣きながら、お爺ちゃんの家まで背負い続けた。

ちなみに、その日の阿部家の朝ご飯は、前日のカレーだった…。



『とにかく、俺は行かないぞ!それに、俺は今金欠で、百円のガム一個買うのも渋ってるんだぞ?。』


そう言うと蒼太は財布の中身をテーブルに並べた。


茜は呆れながらその数を数えている。


『はぁー…。相変わらず、貯蓄って事を知らないみたいね。』


『これで分かったろ?俺だって、本当は行きたいさ。

だけどこれじゃあ行きようがないだろ?茜の水着姿だって…。見たかったなぁ…。』


蒼太はわざとらしくため息を吐く。


ゴソゴソ…。


『ジャーン!』


茜の鞄から二枚の紙が出てきた。


『パパの会社がやってる、キャンペーンの余り券もらっちゃった。』


そこには、シーランドペアご招待券。と書かれていた。


 茜のお父さんは車の代理店に勤めている。車を購入してくれたお客に、テーマパークやレストラン。他にも、色んな割引券などを、プレゼントするキャンペーンを、良くやっているらしい。


蒼太はチケットを手に取り、マジマジと見る。


『アハハハ…。』


蒼太の顔が引きつる。


『へへへー。』


茜は満面の笑みで蒼太の顔を覗き込む。


『本当は行きたいって言ったよねぇ?』


『さて?そんな事、言いましたっけ?』


『旅行は行かないんだもんねぇ?』


『いやー…。今年こそはもしかしたら…。』


『私の水着姿見たいって?』


蒼太は顔をブンブン、と横に振る。


茜はパンッ、と手を叩いた。


『決まりね。んじゃ、日にちと、他に行く人が決まったら連絡するから。』


そう言うと、茜は立ち上がり、玄関に向かった。


靴を履きながら、台所の母に声をかける。


『おばさんありがとー、また来まーす。』


『はーい、またいつでもいらっしゃい。蒼太の事よろしくねー。』


と、母の声が台所から返ってきた。


『んじゃ、また明日学校でね。』


『おい!』


何かを言いかけた蒼太の言葉を聞かずに、茜はドアをバタン!と、閉めて帰っていった。


『…。面倒くせー!』


蒼太の声が虚しく家に響く。


そして、茜の言葉を思い出してみる。


『他に行く人が決まったら?』


そう言うと、蒼太はトボトボと階段を上がり、部屋に帰っていった。


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