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万念筆で人生の書き換え  作者: うにぼの
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第一章*出会い

2020年新型コロナウイルスの感染拡大で職場と家の往復を繰り返す中、気が付けば29歳。

彼女なしの独り身人生。


そして2020年12月の終わり。

東京での感染者が1,000人を超えるのではと世間で騒がれている中で祖父が亡くなった。




俺は小学3年生の時に両親を事故で亡くした。

そんな俺を母方の祖父母が引き取ってくれてから約21年。


祖母が亡くなり、そして祖父も亡くなったことで俺は最後の家族を失い独りになってしまった。




風の噂では俺の父は天涯孤独の人で、母の父親である祖父からはそんな父との結婚を反対されていたらしく、俺の両親は駆け落ちで結婚したと聞いた。


結婚を反対していた祖父にとっての俺は恨みの対象だったのだろう。祖父と話すことはほぼなかった。




ただ、言葉を交わすことはなくても高校・大学と進学させてくれたことを俺は心から感謝している。


祖父は俺にとっては最後の家族だった。




コロナの影響で病院での面会も出来ず、お通夜・お葬式も誰も呼べず祖父にとって寂しい最期を迎えさせてしまった。


そんな申し訳なさを抱えながら荷物の整理のため都会の一人暮らしの家から田舎の実家へと帰る。




大学を卒業してから年末年始ぐらいでしか帰ってきていなかった。田舎の実家。


祖父の入院期間が短かったため生活感がまだ残る実家はしんと静まり返っていた。


これからこの家をどうしようか。そんなことを考えながら祖父の書斎へと入る。




祖父の書斎へと入るのは初めてだった。


本好きだったのか本が高く積みあがっている。ふと、使い古された机の上に茶封筒を見つけた。




『一へ。』




茶封筒には俺の名前が書いてあった。俺宛の手紙か…?


しっかりと糊付けされている茶封筒を机の上にあったハサミで封を切って中身を取り出す。




封筒の中には手紙と小さな鍵が入っていた。


小さな鍵に疑問を持ちつつ俺は手紙を読んだ。




『一へ。この手紙を読んでいるということは俺は死んでいるだろう。お前には本当に申し訳ないことをした。俺が〇〇にとらわれずにお前の両親の結婚を認めていれば…お前の両親は事故にあうことはなく、孫であるお前を独りにすることもなかったかもしれない。』




〇〇の部分が涙の跡か、文字がにじんで読むことが出来なかった。ただ、手紙には祖父の俺への謝罪の気持ちがぎっしりと書かれていた。祖父は何かを思って俺の両親の結婚を反対し、その後ろめたさから俺と直接向き合うことが出来なかったようだ。




俺のことを恨んでいると思っていたが、違っていたことをこの手紙を読んで知った。


俺ともっとたくさん話がしたいと思っていたとも手紙には綴られていた。




もっと早く祖父の気持ちを知っていれば、もっとたくさん恩返しすることが出来たのに


≪孝行したい時分に親はなし≫まさしくこの諺の通り、十分な孝行することもなく祖父は逝ってしまった。




「くそ…過去に戻ってやり直せれば…」




―ガタンッ




祖父への後悔の念に駆られている中、机から音がした。


引き出しを恐る恐る開ける。




長方形の鍵のかかった木箱が出てきた。先ほどの封筒に入っていた鍵のことを思い出す。


手紙には『その鍵は処分するように』とだけ書いてあり、何の鍵のことは書いていなかった。




先ほどの鍵を箱の鍵穴に差してみる。どうやらこの箱の鍵のようだ。




箱を開いてみると中には持ち手から全てが赤黒く錆びたペンが入っていた。




「なんだこりゃ…。万年筆か…?」




どれだけの年季が入っているのかボロボロになった万年筆。


鍵のかかった箱に入っているぐらいだから祖父にとって大切な物だったのだろう。




「磨いたりしたら錆びも取れて使えるようになるか?インクがないけど、ちょっと試し書き。」




せっかくだから祖父の形見として使いたい。


万年筆はインクを入れないと使えないが、とりあえず俺は机の上にあるメモを手に取り、試し書きの定番である「あ」を書こうと一画目の横線を引く。







するとどうだろう。線を書いた文字がキラキラと銀色に輝いている。


書くことが出来ない。もしくは書けたとしてもかすれた黒いインクだろうと思っていた俺は驚きのあまりメモを手に取り銀色に輝く文字を近くで見る。




「す、すげぇ。なんだこの万年筆。」




「契約成立やな。」




「…タヌキ!?」




メモの向こう机の上の辺りから声がしてメモをどけてみると机の上にはタヌキが着物を着てあぐらをかいて座っていた。




「ふっ…反応が正と一緒やな。さすが孫と言うたところか?」




「タヌキが日本語話してる…。え?正?」




正は祖父の名前だ。


しかも俺を孫だと知っている?




ふと手にしていた万年筆を見ると赤黒い錆は消え失せ、ガラスのように透き通っていた。


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