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9/11

シナリオ3ー風が呼んでる

 武藤が部屋の窓をあけると、ムッとするアスファルトの匂いと共に、部屋にドロリと熱気が流れ込む。

 

『こんな暑い日は早くジョー先輩の家に行ってボードゲームをしながら涼しく過ごそう』


 そう考えて差し入れ用のコーヒーを買いに家をでる。

 なにしろ、ジョー先輩の家では真冬以外はいつもクーラーが掛かっているのだ。

 本人が体温が高く暑がりだという事もあるが、複数のゲーム機が常に放熱しているのも関係あるのだろう。電気代は酷い事になっているがゲーム機を長持ちさせるための必要な費用だと考えているらしい。


 武藤が近所の安売りスーパーに入ると、コンコンコンコン♪と、スマホからバキュラ音が響く。256発ザッパーを打ち込んでも壊せないレトロゲーでお馴染みの音だ。これはジョー先輩からのメールで鳴るように設定されている。


『今日はフグ君と蔵場君が来れないらしい。6人で操り任侠やる予定だったけど、4人で良ければ予定と違うゲームやろう。11時で。あとコーヒー買ってきてくれ』


 今日はフグさんドタキャンらしい。そして、良ければといいつつも俺が行く前提のメール。相変わらずだ。暑いのは諦めて、あるいて行くことにする。到着するころにはちょうどいい時間になっているだろう。


 ジョー先輩の家に着くと武藤はキッチンに向かい、安売りスーパーで買った鶏ムネ肉を保温バッグから取り出す。

 自宅で、塩と砂糖とコンソメに、少量のオリーブオイルを塗して置いた。それをジップロックに入れて大きめの別のジップロックに熱湯と一緒に放り込んであるのだ。保温バッグのおかげで中のお湯はまだ熱く、時間を掛けて熱を通した形になっている。

 あまり熱を通しすぎるとパサパサになってしまうのだが、鶏肉を生で食べてしまう事に比べれば安全を取るべきだろう。


 鶏肉の塊を二つ、今度はジップロックごと水につけて冷ます。こっちは冷蔵庫にしまう用。

 もう一つの塊を小さなまな板の上で薄くスライスしていく。焼肉のタレを少しかけてご飯の上にのせれば鳥ハム丼のできあがりだ。珍しく冷蔵庫に冷凍ご飯が入っていたので、今日はウドンではなくご飯に乗せて食べる。


「ちわー。瀬戸です」

「こんにちは、あ! 美味しそうなもの食べてる! 珍しい~」

「武藤君がうどん以外の物も食べろってうるさいんだ」


 武藤とジョー先輩が食べ始めたタイミングで、今日のゲーム参加者である瀬戸と暮石が早めに到着する。


「それでも野菜は食べてくれないんですよ」

「たまに食べてるよ。外食して蕎麦とか食べるときに」

「それ、薬味のネギでしょ?」


 瀬戸と暮石も各々自分の昼食を取り出して食べつつ、瀬戸は差し入れにビタミンキャンディを置く。ボードゲームやカードゲームをやる時には、指先が汚れたり粉がでるタイプの菓子を広げるのは敬遠されるので、そこに配慮した差し入れが持ち込まれる。


 暮石はというと、一口サイズのキャロットケーキをテーブルに置いた。断固として野菜を食べようとしないジョー先輩に、何らかの形で栄養を取らせようとしているのだ。

 この傍若無人なゲームキチガイは、なぜか周囲の皆に寄ってたかって世話を焼かれる特性があった。


「今日は操り任侠、人数足りないですよね? 何やるんですか?」

「あふぇは人数少なくてもできなくふぁないが」

「食べ終わってから話しましょうか」


 操り任侠はターン毎に、鉄砲玉・盗賊・社長などの職業カードを選択し、職業カードに則ったボーナスを駆使して建築物を建てる地上げゲームだ。

 面白いのは、スタートプレイヤーから順に職業カードを選んで回していく点。つまり、二番目のプレイヤーには先頭プレイヤーの選んだ職業が予想できる。

 そして一部の職業で行える妨害行動は、プレイヤー個人を指定するのではなく職を指定して実行される。つまり、手持ちの資金が多いプレイヤーから金を盗もうと思ったら、そのプレイヤーの選んだ職を予想する必要がある。

 商人や盗賊で資金を増やし、詐欺師で建築物カードを集め、建築家で建物を建てる。この流れをいかに妨害する、もしくは予想させないかの読み合いが面白いゲームなのだ。

 だから、人数が少ないとあまり盛り上がらない。


「今日はみんな建物建てたい気分だろうからな。こっちをやろう」


 そう言ってジョー先輩が取り出したのは『ファビュラス』だった。


「建物建てたい気分ってわけじゃないだろうけど……」

「これはな、霧に覆われた森を開拓して、素晴らしい建築物を五個建てたら勝ちだ」


 話を遮る事すら許されない。


「やる事は簡単だ。森の開拓・素材採取・建築現場の場所取り・素材の運搬だ。必要な素材が溜まったら建築は一瞬で終わる。ターンは掛からない。

「すげぇな、一夜城だ」


 コーヒーを入れながら、ジョー先輩の説明が続く。建てたい建物に必要な素材を現場まで運ぶのがゲームの主な動きだが、その為には採取場所と建築現場の間の経路がつながっている必要がある。


「その為の『開拓』だ。開拓した土地は他のプレイヤーも使えるので、協力プレイになる」

「あ、いいですね協力プレイ」

「でも、素材の数は有限だ。奪い合え!」

「この人が協力だけのゲームをやるはずがないんだ」


 わいわいと騒ぎながらゲームを開始する。

 勝敗としては、ジョー先輩の建てた『開拓済みの地形に霧を移動する』という効果を持つ建築物が猛威を振るった。武藤の建築現場の手前の土地が封鎖され、武藤は大量の素材を抱えたまま敗北する事となったのだ。


操り任侠は「操り人形」

ファビュラスは「ネビュラ」です。


これは両方とも凄く読み合いが熱い!大好き!

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― 新着の感想 ―
[一言] 武藤の建築現場の手前の土地が封鎖され、武藤は大量の素材を抱えたまま敗北する事となったのだ。 ↑ この雪辱は帝国軍で雪がせてもらおう(ノ´∀`*)理不尽 操り任侠は「操り人形」 ↑ 現代ヤク…
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