シナリオ2-伸びる炎が
【NOW HERE】
明け方、1DKの自宅に戻った武藤が一眠りすると外は再び雨だった。
「雨降るとする事ないな。洗濯物乾かないし、本屋にも行けない」
武藤が足繁く通っている古本屋は、雨の日に行くと叱られるのだ。それなら店を開けるなと言いたい。
日差しとならんで湿気が天敵である本屋にとって、雨の日にやってくる客というのはありがたくもあり、迷惑でもある。そんな存在なのだろう。
やる事がなくて暇を持て余した武藤が、ふと本棚に目を止める。
そこには、『アーグルフェルトの救世主』と『九龍攻具DIY』のドライバー変形ロボットであるインパクトドラゴンがあった。
「たしか、次のミッションあったっけ。やってみるか」
シナリオブックのページをめくり、指示に従い敵歩兵の配置を行い、前回と同じマップの隣に海岸と島のマップを繋げた。
シナリオ2
【勝利条件】
・敵歩兵ユニットの全滅
【敗北条件】
・自ユニットの敗北
・姫ユニットの敗北
【シナリオ2での追加要素】
・裏返しのマップタイル
・魔力の源泉の追加
・マップタイルの配置
「第二のミッションは森に潜みゲリラと化した敵兵の掃討。なんだ地味だな。前回より敵少ないじゃん。黒騎士いないし」
歩兵は攻撃すれば一撃で仕留める事ができる。さらに数も少ないのならほぼ負ける要素が無い。
首をひねりながらシナリオを確認していくと、六角形の地形タイルと姫ユニットを配置するよう指示があった。
「六角形のタイルは伏せて裏を見えないようにしてからシャッフル。そして歩兵一体に対して一枚を周囲に配置?」
このタイルはユニットが接近した場合にめくられて、めくって見るまでそこに何があるかはわからない仕組み。
「そしてめくった中に伏兵か爆弾の場合があるわけか」
伏兵ならば歩兵扱い。そして爆弾は一つしかない代わりに、かなりの広範囲を次ターン開始時に消滅させる。
「なんだろね、城が爆弾の範囲に入らない場合もあるのか。何のための爆弾なんだか」
何も無い地形タイルだった場合はそのまま取得して、他の地形を上書きするのに使う事ができる。
「地形を上書きしちゃっていい……便利なようなそれほどでもないような」
事前に情報が公開されていない伏せカード。それは極端に運が悪い武藤にとって鬼門とも言えた。
しかし、シナリオの指示を読みながら武藤は笑みを浮かべていく。
「敗北条件は自ユニットの破壊、もしくは姫ユニットが攻撃を受ける事。なるほど、くそったれなNPC護衛ミッションなのか。姫死んだな!」
ゲームのボックスから取り出した金髪ツインテールの姫ユニットをアーグルフェルト城に配置する。
「なんだこれ、『姫ユニットの外見については髪型差分パーツをつけてお好みの外見に変更してください。髪色は別売りの……』そこは塗らせるのかよ」
姫ユニットも手持ちの萌えフィギュアでも使おうかと手を伸ばしたが、イメージに合うものがなかったのでそのまま使う。髪型はデフォルトのままでいい。
この姫ユニットは最初に城正面の森を目指して移動を行う。しかしその森の中には敵歩兵ユニットが存在しているのだ。
「何しに移動するのよこの姫さん。ジッとしててよね。あ~、姫さんが爆弾の範囲に入るのか。
倒されないためにはこの森の歩兵を最速で排除して、タイルをめくって敵か爆弾なら次のターンに処理……かな?」
しばし、考え込む。
「あ、これは、姫が近寄っても伏せタイルはめくられちゃうのか。それで爆弾か伏兵なら終わる。最初のターンにここを処理しないと即詰む」
手に持ったボールペンのキャップ側で、最も近い森をトントンと叩く。
「でも、そこをクリアして安心していると、遠くの歩兵が寄ってきて、敵歩兵によってタイルがめくられる。そして爆弾だった場合は姫が死ぬと。真っ当に対処していると……こっちのボーナスは取れない」
武藤の確認した限り、前回との違いは姫ユニットの参戦と地形タイルの他にもう一つあった。
「姫も何とかしないとだけど、今回の肝はこれだよな『自分の掌握している魔力の源泉の数だけ、特殊行動をとれます』」
アーグルフェルト城の東に追加されたマップである『島』には妖魔の集落となり果てた魔力の源泉が印されていた。
「魔力の源泉開放で二回に特殊行動がとれるから……よし、姫の移動速度は遅いから追い抜いて先に安全確保。そしてタイルをめくりながら島に移動して、源泉を開放したら即特殊行動で移動。爆弾だった場合はもう二回行動使って即破壊。これで行ってみよう!」
武藤は勢いよくMAP上のアーグルフェルト城の姫ユニットの一歩前に、貰ったばかりの九龍攻具DIY第二の機体、バーナードラゴンを置いた。