シナリオ1-コイツ、(慎重に)動くぞ!
武藤は運が悪い。ジョー先輩とボードゲームをするようになってから自覚した事だが、運が絡むとゲームでは勝てない。
だから、自分のダイス目を一切信じていない。
一番都合の悪い出目が出ても勝てるように動く。そんなプレイヤーなのだ。
「敵ユニットの移動の順がキモだな。城に向かう歩兵の行動後に、インパクトドラゴンに攻撃してくる騎士の行動だからな。間に歩兵を挟んでしまえば騎士を無力化できる。
攻撃。森に侵入しようとする歩兵を撃破。ボードの上から取り除く。
「ただ、森に挟まれた隘路で騎士の移動は防げるけれど、歩兵は森に入るから……騎士は放置して歩兵を削る」
攻撃。最短距離で城に向かう歩兵の二体目を撃破。ボードの上から取り除く。
「残り二体なら後ろから追っても追いつけるから、ここで騎士も削る。お、運よく一撃で騎士が落とせた。時間に余裕ができたな」
歩兵が移動した隙間から侵入した騎士を攻撃し撃破。ボードから取り除く。
「要は騎士に囲まれなければ死なない。攻城兵器は破壊したし、歩兵の移動速度をちゃんと見ておけば、敗北条件は満たさないでいけそうだ」
詰将棋の様に、堅実に騎士を除外し、複数の騎士と戦わないように距離を取りながら城へ先回りする。森を抜けてきた歩兵を出迎える為だ。
数ターン後、騎士をすべて返り討ちにすると、悠々と歩兵を仕留めて、最初のミッションをクリアするのだった。
ボードを広げたまま本棚の空いているところにしまうと、ジョー先輩たちと行った『バロン』に思いをはせる。
「そうか、あの時に騎士を侵略の為に出すんじゃなくて砦を作らせて移動経路を塞いでいたら……もうちょい良い立ち回りができたかな」
スマートホンを取り出すと、ジョー先輩宛のメールを書き始める。ジョー先輩は未だにガラケーなので、ラインなどの通信アプリは使えないのだ。
『今週、またバロンやりませんか。あれ面白かったです』
『いや、今週は新しい人が来る。加藩の開拓者というゲームをやる』
「リクエストきいてくれねー!」
スマホをベッドに投げつけるとゴロリと転がった。
【NO WHERE】
「幻術じゃ……無いのかっ!」
帝国の百鬼軍団を率い、いくつもの戦場を勝利に導いてきた将軍がまず恐慌から立ち直った。
「皇子はお下がりください!」
目の前に歪な巨人が突如現れ、攻城兵器として用意した投石機を一撃で破壊した。巨人はその巨大な足を叩きつけるようにして野営地を踏みにじり、右手に持った回転する槍を兵士に向かって振るい始めた。
まるで悪夢のような光景だが、人的被害が出て初めて理解した。これは、敵なのだと。
「敵襲だ! 降魔鎧を着用した騎士は巨人を牽制しろ! それ以外の者たちは班ごとに……」
軍を率いている以上、そこには戦闘員以外の者たちも数多くいる。彼らを守らねばならない。軍を戦闘集団として成り立たせるためには支援部隊の力が必要だ。しかし、野営地を奇襲された今、いったいどこへ避難させようというのか。
「班ごとに纏まって城を目指せ! 宿営地まで戻るよりも進んだ方が安全だ! あの巨体なら城の中には入れまい、進め!」
将軍は思う。あの瞬時に現れた疾風のような速さで追われたら逃げきれないと。だからこそ、攻略目標である敵城に活路を見出した。
あのインパクトドラゴンの動きがボードゲームのシナリオ1で一度だけ使える特殊行動の結果なのだとはわかるはずもないのだから。
「戦わなくて良い! 全力で城を目指せ!」
「将軍、降魔騎士が暴走、制御を離れました!」
「くそっ!」
降魔騎士は、悪魔を呼び出し鎧に憑依させることで驚異的な膂力と魔力への抵抗力を得る技術の産物だったが、血の匂いに酔い正気を失う事があるという欠点があった。その降魔騎士が四体とも暴走した。巨大な回転ドライバーでまき散らされた兵士の血によるものか、それとも大いなる魔術の影響か。
この局面で扱える最大の手駒が制御を離れるという最悪の事態にあって、なお将軍は冷静さを保っていた。
彼は戦場を観察し、一体の降魔騎士の振り下ろした剣が巨人の脚に傷をつけた事を目撃していた。
「コイツはデカいだけなのか。鋼鉄の塊のように見えて、普通の騎士の鎧と同じように傷がつく。戦い方によっては勝てるぞ!」
将軍の見守る中、四体の降魔騎士は果敢に巨人に立ち向かおうとしている。しかし、巨人が後ろに下がり、城に向かう歩兵集団を間に挟むように動いた事で降魔騎士は思うように攻撃ができない。
「あの巨体で後ろに下がるだと? 臆病な動き……」
巨人は正確無比な一撃で歩兵集団の中の指揮官を肉塊に変えつつ、降魔騎士の動きを牽制していた。
「いや、臆病なのではない、こいつ、慎重に動くぞ! あの巨人は! あれだけの巨体と破壊力を持ちながら!」
歩兵は半数の指揮官を刈り取られ森へ逃げ込む。すると巨人は降魔騎士を徐々に削りながら、城に向かって動きを誘導していく。
ただ猪突猛進に突撃を繰り返す降魔騎士をあしらいながら、一体また一体と巨大な回転槍に屠られていく。
そうして全ての降魔騎士を下した巨人は森を迂回し、城を目指す歩兵部隊を正面から出迎えた。
真紅の身体をさらに返り血で染め、轟音を立てる回転槍を構えて立ちふさがる巨人に立ち向かうことができる者はいなかった。
命乞いをし、必死で城へ向けて逃げ惑う歩兵たちの悲鳴を、まるで聞こえていないかのように意に介さずに蹂躙する。立っている歩兵部隊がいなくなるまで、たったの二分(2ターン)にも満たなかった。
言葉を失い立ち尽くす将軍の背後で、皇子が悲鳴をあげていた。
「真紅の巨人。鱗のごとき鋼をまとい、轟音をあげて、破壊を振りまく。帝国の虎の子の降魔騎士がまるで子供扱いだ。なんなのだあれは! あれこそ悪魔か!それとも龍なのか!」
「確かに、姿は違えど龍の如きものでしょう。恐るべき破壊の権化です。あのようなものを王国が隠し持っていたとは」
将軍は真っ青になって震える皇子に向かって笑みを浮かべてこう言った。
「ご安心ください、龍とは英雄の勲の為に狩られる為にあるのです。人の手が届かぬものではありません」
狩る気まんまんの将軍には悪いですが、次回は『加藩の開拓者』
素材を集めて道を作ったりするゲームをします。